10年ぶりのノグライナ王国。
茜達が腐敗のノーチェを撃破する時間より少し時を遡る。
菊流達を残したまま出発した事で後ろ髪を引かれる想いで、ドワーフ達の集落を出発した共也達。
その後、グラッラール坑道を無事に抜ける事には成功した彼等の前に、見上げる程高く、そして太く育った木々が目の前に現れたのだった。
そう言えば、前回ノグライナ王国の上空を飛んでいた時にジュリアさんが言ってたな。 私ならこの森を案内出来るって……。
そう、この地に住むエルフ達が、この森の事を確かに【迷いの森】と呼んでいた事を思い出した。
「前回は竜騎士隊の人達と一緒に飛竜に乗ってノグライナ王国に向かったから、迷う事は無かったけど。 今回は、この迷いの森を歩いて踏破しないといけないのか……」
「そう言う事だね。 それに見て。 遥か遠くに神樹ユグドラシルが見えるけど、迷いの森の幻惑効果があるのに、本当にあそこにあると思う?」
「柚ちゃんの言う通りだね……。 共也ちゃん、どうする?」
「ヴォーパリアの連中が攻めて来てるって話しだし、このまま突っ切るしか無いと思う……。 せめて迷いの森を抜ける手段を、ケントニス帝国の冒険者ギルドで聞いて来るんだった……」
今更後悔してしまうが、ここまで来てしまった以上もうどう足掻いた所で取り返しようがない。
「私が森を抜ける為の手段を用意しておくべきでした……。 こうなると予想出来た事なのに……ごめんなさい……」
「謝らないでくれ、カトレア。 皆迷いの森の存在を忘れていたんだから、決して君一人の責任じゃ無いんだから。 な、ダグラス!」
「はぁ!? そこで何で俺に話を振って来るんだよ!?」
「え? お前も何も言わなかったからだが?」
「お前……。 流石にそれは無責任じゃ無いか? ここは、リーダーのお前が気の利いた事を言う場面だろうが!?」
「はぁ!? 何時俺がリーダーになったんだよ!?」
「…………誰がどう見ても、お前がこの集まりのリーダーだろうが! 何だったら、誰がリーダーなのか、皆に聞いてハッキリさせるか!?」
「おお、ダグラス、その提案に乗ってやるよ! 皆、ここのリーダーだと思う人物を指差してくれ!」
そして、結果は……。
「お前以外、全員お前を指差したな」
「何で俺なんだよぉ……」
ガックリと地面に手を付く俺の肩に、ダグラスが手を置いて慰めてくれ……。
「なぁ共也、お前だけが俺に票に入れた今の気持ちを教えて貰って良いか? ……ぷっ!」
カッチーーーーーン! どうやら、俺を小馬鹿にする為だった様だ……。
「良し、ダグラス。 お前は今ここで殺す!」
「おい、共也ちょっとした冗談じゃねえか。 雷切を持ち出すとか冗談じゃ済まねえだろ!?」
「うるせえ! 雷切の錆となれる事を誇りに思え!」
「うおおおおおおお!!」
『「「「あ、あははははは!」」」』
命懸けの追いかけっこをする俺達の姿を見たカトレアの顔からは、先程の様に沈んだ顔と違い心の底から笑っていた。
これで、様々な困難が待ち受けていたとしても、俺達ならこの迷いの森を歩いて突っ切る事が出来る。
そう思ってダグラス達と頷き合っていると、襟首を掴まれ持ち上げられた。
「旦那様、何故わざわざこの森を歩いて抜けようとする。 私に、そのクリスタルフォートレスと言ったか? そこまで運んでくれと何故言わん」
「エレノア。 確かに君に頼む選択肢も考えていたが、この人数を1度に運べるのか?」
「愚問じゃよ。 で、どうするのだ旦那様? 時間はかかるかもしれんが、迷いの森を歩いて抜けると言うのも確かに手段の1つじゃからな」
確か魅影が影から仕入れた情報では、ノグライナに多くの魔将が向かっているとの事だったな……。
時間が無い……か。
「エレノア、頼めるか?」
「そう来なくてはな。 今日中にこの迷いの森を抜けて見せる! その時は儂を可愛がってくれよ? があああああぁぁぁぁ!!」
「ちょ! エレノア!?」
肉を軋まる音を響かせながら黒龍の姿になるエレノアに、初めて見る与一達は少々……。 いや、かなり驚いた様で、慌てて坑道の中に逃げ込んでいた。
『与一、魅影が時間が無いと言っておるのだから、早く我の背に乗らんか!』
「……食わない?」
『食うか!! 無駄口は良いからはよ乗れ!』
「……分かった」
恐る恐る背に乗った与一達を確認したエレノアは大きく翼を広げ、クリスタルフォートレスに向けて羽ばたいた所で、後ろか別れを告げる聞き慣れた声が聞こえて来た。
「共也さん、頑張って来て下さいね~~」
そこに居たのは、高所恐怖症のディーネだった……。
「何してるんだよ、ディーネも行くんだよ!」
「いや! 私を連れて行くつもりなら、せめてカリバーンの中に入らせて!」
「はぁ……。 ……ほら、ディーネ」
「えへへ~♪」
カリバーンの中に入ったディーネを確認した俺達は、今度こそ空へと飛び立った。
=◇===
迷いの森の上空を飛び続ける俺達の視界の先には、蒼く輝くクリスタルフォートレスや城下町をスッポリと覆う淡く光る膜?が目に入っていた。
『やはり迷いの森の幻惑効果の影響で、ユグドラシルがある場所は全くの別方向じゃったな。 それと城や城下町全てを覆うあの巨大な膜は……結界……か?』
「結界と言う事は鈴か……。 急ごうエレノア」
『分かった』
この速度なら、後数十分も飛べばノグライナ王国に到着出来る。
そう思った時だった。
「共也、下から何か来るぞ!」
「下!? 何も見えないぞ、ミーリス!」
「森から。 くっ! 間に合わん! エレノア、後で回収してくれ!」
「ミーリス、何を!?」
「師匠!?」
そう言い残したミーリスは、エレノアの背から飛び降りると錫杖を手に取った。
「我が魔力を糧として、仲間を守る盾となれ【全色障壁】展開!!」
虹色の魔力障壁が眼下に展開された瞬間、大小様々な魔法攻撃がミーリスの張った魔力障壁に激突した事で大爆発を起こした。
「きゃあああぁぁぁぁ!」
「うおおおおおお!?」
皆の悲鳴が響く中、その爆炎もミーリスの魔力障壁が完全に防いでくれたお陰で、俺達に届く事は無かった。
そして、エレノアは落下し続けるミーリスを空中で捕獲すると、クリスタルフォートレスの方向に向けて速度を上げた。
『ミーリス無茶をするな。 だが、助かった。 流石の我もあれだけ様々な属性攻撃は対処しようが無かった』
「感謝するのは後にしろ! まだまだ来るぞ!」
『なんだと!?』
そのミーリスの忠告通り、又も森の至る所からエレノアに向けて攻撃が発射されたのだった。
炎魔法による爆発、土魔法による岩石、氷魔法の氷の槍、など様々な攻撃が飛んで来る中、ミーリスの魔法障壁、エレノアの必死の回避のお陰で今は攻撃を受けていないが、このままではクリスタルフォートレスに付く前に撃墜されてしまいかねない……。
「カトレア、この攻撃はエルフ達による物だと思うか!?」
「いいえ、違うはずです。 エルフ達が、自分達の愛する森のを焼き払う可能性のある炎魔法を、森の中で使うはずがありません。 きっと影から報告のあった、ヴォーパリアの兵士が森の中に潜んでいるはずです!」
「この攻撃が奴等からのものだとしたら……。 もうほとんど迷いの森を踏破している事になるぞ……」
それ程までに、森の至る所からエレノアを標的にした攻撃が飛んで来る。
「す、すまぬ。 こうも物量で押されると、流石の儂も魔力が……」
大小様々な魔法攻撃を防いでくれたミーリスだったが、この物量の前に屈してしまい予想よりかなり早く魔力枯渇に陥ってしまった。
「こなクソ、儂を舐めるなぁ!!」
意識が途切れる寸前まで魔法障壁を維持してくれ用途してくれたミーリスだったが、それもほんの僅かな時間でしかなかった。
「ミーリスお姉ちゃん!」
そんなマリの絶叫と、ミーリスの魔力障壁が砕ける音が同時に響いた。
―――パリーーン!
『ミーリス!』
「エレノア、前!」
『しま!』
魔法障壁が砕けた事で、盾を失ってしまったエレノアの目の前に巨大な炎魔法が接近したのだが、彼女は右腕を突き出して爆発を受け止めた。
『ぐううぅぅ!』
「エレノア!」
『大丈夫。 大丈夫じゃ、ちょっと右腕を火傷しただけじゃ……』
「強がりを言うなエレノア。 いくら黒龍の鱗と言っても、さっきの規模の魔法攻撃を受けてちょっとで済む訳無いだろう! エリア、回復魔法を!」
「任せて共也ちゃん、【ディアナ様、この者に癒しを。 ヒール】」
『すまんエリア』
回復魔法で徐々に腕の火傷が治って行くが、流石に先程の様な速度で回避する事が困難となっていた。
「私が海龍魔法で攻撃を逸らすから、エレノア姉はクリスタルフォートレスに向かって!」
『マリ……。 皆、振り落とされるなよ!』
速度を上げたエレノアだが、行く手を阻む様に様々な魔法攻撃が飛んで来る為、マリ1人の力では防ぐのに限界がある。
『ぐ! 直撃する! 皆、衝撃に備えろ!』
魔法の直撃に備えて身を固くしている全員の耳に、気の抜けた声が聞こえて来た。
「はぁ、あまり全力を出すのは私の性に会わないのですが、そうも言ってられませんね……【魔力障壁】」
寸での所でノクティスが魔力障壁を張って防いでくれたのだ。
「ノクティスさん!」
「皆さん、私の魔力障壁では、ミーリスさんほど維持する事が出来ません。 迎撃をお願いします!」
「分かった。 師匠の頑張りを無駄にしない為にもやるよ」
「与一、私の氷の魔力を使って!」
「スノウ、助かる」
マリが逸らし、与一が氷の盾を形成してエレノアの周囲に展開。 ノクティスが魔力障壁を張り、他の皆が迎撃する事で何とかあと少しでクリスタルフォートレスに到達出来る。 そう皆が思った時だった。
『グアアアアアァァァ!!』
エレノアの絶叫に全員が視線を向けると、彼女が右肩と翼から大量の出血をしている事に目に付いた上に、翼の根本に食い込んでいる立派な装飾が施された1本の槍が目に入った。
「槍!? 一体何処から飛んで来たんだ!?」
「共也君、下よ! 下にいるアホ兄貴が、その槍を投げたのが見えたわ!」
「木茶華ちゃんが言うアホ兄貴って……光輝か!?」
落下するエレノアの真下にある森の切れ目に木茶華ちゃんの言う通り、豪華な馬具を装着した白馬に乗ってニヤニヤと笑う光輝の姿があった。
「まさかあいつ、あそこから投げて強固なエレノアの鱗を貫いたって言うのか!?」
その事実に辿り着いた時、光輝の人間離れした膂力に驚くが、今はそれ所じゃない!
『皆すまん、しっかり摑まっておれよ、もう高度を維持出来ん……』
片翼でしか羽ばたけないエレノアは何とか急激な落下だけは防ごうとしているが、怪我も酷い為もう方向転換をする事も出来なくなっている。
そして、俺達の目の前には淡く光りを放つ鈴が張ったものと思われる結界が……。
「ぶつかる!」
全員が手を前に翳し衝突に対する態勢を取るが、結界は俺達を拒む所か、そこには何も無いかの様に素通りする事が出来たのだった。
結界内に入った事でこれ以上攻撃しても無駄だと判断したのか、ヴォーパリアの連中からの攻撃はいつの間にか止んでいた。
「エレノア」
『旦那様、今は着地する方が先だ。 話は後にしてくれ……』
「分かった……」
何とかエレノアの頑張りでクリスタルフォートレス前の広場に着陸する事に成功した俺達は、まず彼女の片翼に刺さっている槍を抜こうとした。
『触っては駄目だ旦那様、この槍は呪われている……。 私が自分で抜くから、エリア、解呪の方は頼んだぞ!』
「分かった!」
刺さった槍を抜くために手に持ったエレノアだったが、途端に黒い靄が噴き出してエレノアを包み込んだが、彼女は構わずに自身の翼に食い込んでいる槍を強引に引き抜いた。
『ぬあああああぁぁ!』
―――カン、カンカララララ……。
『エリア、治療を頼む』
「はい」
呪われた槍を投げ捨てたエレノアの治療を開始するエリアの姿を見ていると、いきなり誰かに背後から抱き着かれた。
「う、うわ!」
慌てて後ろを見ると、そこには顔を背中に押し付けて来ている為ハッキリとは分からないが……。
「・・・・・・」
この背丈と髪色……。 そして、この背が小さいのに胸が立派に育ってる人物は……。 痛い、いたたたたた!!
「馬鹿共也、今、私の背が小さいと思ったでしょ?」
「な、何で分かって……『私を置いて行けない様に、結界に閉じ込めてやろうか?』そう怒るなって、久しぶり……鈴」
「うん。 お帰り共也、ずっとずっとあなたが帰って来るのを待ってたんだよ?」
そう、目に涙を溜めながら微笑む人物。 それは幼馴染の最後の1人にして、結婚を約束した「鈴」だった。
ノグライナ王国に到着する事が出来ました。 そして、宿敵光輝もこの場に来ている事が分かり激戦必須な状況になる予定です。
何とか書き上げて見ますので、応援の程よろしくお願いします。




