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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
16章・再び訪れたケントニス帝国
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七罪嫉妬。

「さあ、ドワーフさん達は苦しんで死んでるかな~~? うふふ、見るのが楽しみ♪」


 黒髪黒目の美女が喪服を着た姿でスキップしながら集落に入って来る姿は、異様としか表現の仕方が見つからなかった。


「う、うわ! 本当に来た!!」

「うわ~~~ん! ママ怖いよ~~!」

「家に入るんだよ! 早く!」


 その異様な姿を目撃したドワーフ達は、先日の体験を思い出したのか自分の家に逃げ込むと鍵をかけて閉じこもった。


「あれ~~? 何で皆生きてんの? ふっしぎ~~~。 まぁ良いや。 もう一度毒に侵せば今度こそ死に顔を見せてくれるでしょ」


 ノーチェが両手を上に上げてスキルを発動させようとした所で、私は彼女に対して止めるように声を掛けた。


「海里、もう止めて!」

「ん? あれ、君は…………。 もしかして茜ちゃん?」

「そうよ、もうこんな惨殺を止めて、出会った頃のあなたに戻ってよ!」

「…………止めないよ。 私に取って、光輝様の依頼は何を差し置いても達成するべき任務なの。 いくら茜ちゃんの頼みでもそれは叶えられ無いんだ。 ごめんね」

「海里、あんた……」

「それにね、今更何も出来なかった頃の私に戻るなんて死んでも嫌。 茜ちゃん、せっか再会出来たけど、光輝様の任務の邪魔をするのなら……死んで!?」

「海里!」

「茜殿、下がって!」


 その瞬間、ノーチェの足元から膨大な毒霧が吹き上がり洞窟全体を覆いながら、ドワーフ集落に向かって流れ始めた。


「あはは! 茜ちゃん、直接相手して上げても良かったんだけど、光輝様の任務を完遂する為にドワーフ達と一緒に殺して上げる!!」

「海里、どうしてそこまで光輝に尽くそうとするの!?」

「あはは! あなたには一生この気持ちは分からないよ!」


 徐々に集落に向かって移動する毒霧に、突如吹き上がった膨大な炎が包み込んだ。


「良いわよヒノメ! そのまま毒霧を包み込んで!」

「ピュイイイイィィィ! はい、お母さん!」

「「菊流殿! ヒノメ殿!」」


 火の鳥の姿に戻ったヒノメと菊流の操る炎によって、毒々しい色をしていた毒霧が次々と蒸発して行くが、ノーチェは楽しそうな表情を崩していなかった。


「良いね良いね! やっぱり任務達成の充実感を味合う為には邪魔が無いね! さあ、お人形さん達、解毒して欲しいのならさっさとドワーフ達を殺して来なさい!」

「う、うあああああ……。 ドワーフ達を殺せば、本当に解毒してくれるのか?」

「ええ、ドワーフを1人殺したら1人解毒して上げる♪」

「やるしか……。 やるしか無いのか……」


 鉄製の武具に身を包んだそいつ等の顔には見覚えがあった……。 カトレア姫に関所の任を解かれて、森へと追放されたはずの門番達だ。


 どうしてここに。 いや、そんな事より、今あれだけの人数がドワーフ達の集落を襲撃したら手が回らない!


「グチグチ言って無いで、さっさと行けっつってんだろが! 今すぐブチ殺すぞ!」

「ううぅ、お前等が、お前等がグラッラール坑道を抜けようとしたせいでこんな事に!! お前等のせいだーーーー!!」

『「「「「わああああああああ~~!!」」」」」』

 

 そして奴らはノーチェの命令通り武器を構えると、ドワーフ達を殺すべく集落に向かって走り出した。


「あはははは! そうそう、そうやって最初から言う事を聞けば良いのよお人形さん達!」

「海里ーーー!!」

「茜殿、駄目だ!」

 

 斎藤さんの制止を振り切って突っ込んだ私は、親友だった海里を殺すつもりで腰に帯びた刀を抜刀した。


―――ガキーーーン! ギギギギ。


「あら怖いじゃない茜。 私が【嫉妬】のスキルで、常に身を守っていなかったら死んでいた所よ?」

「切れない!! 何だ、この黒い霧は!?」 


 海里にあと少しで刃が届くと言う場面で、急に現れた黒い霧によって私の刀が火花を上げながら受け止められた。

 そして、刀を動かせない様に包み込んだ黒い霧は、今度は私を拘束しようと周囲を取り囲んだ。


「茜殿はやらせんよ!」

「斎藤様!」


 あれだけ固い黒い霧を切断した斎藤さんは、私を引っ張り出すと同時に脇に抱えて後方に飛び退いた。


「や、柔らか……じゃない! 普段冷静な茜殿が我を忘れるなど、らしく無いですぞ」

「ご、ごめんなさい……。 助かりました」


 私を地面に下ろした斎藤さんを、海里は興味深そうに眺めて居た。


「へぇ、茜ちゃん。 あなたの様な人を受け入れてくれる人物を見つける事が出来たんだ……。 嫉妬しちゃうな……」

「あなたの……様な?」

「……斎藤さん、その事はまた後で……」

「あら茜ちゃん、そうやって色々と助けて貰ってるのに、秘密をまだ打ち明けて居なかったんだ?」

「・・・・・」

「はぁ……。 茜ちゃんって昔からそうよね、見た目はとても優しそうに見えるのに肝心な事は何も言わない……。 あなたのそう言う所って、とっても卑怯だと思うよ?」

「散々世話になったシンドリア王国を滅ぼした、ヴォーパリアに行ったあなた程じゃないわ……」

「世話になった? そんな事を私は頼んで無いし、優しい両親から無理矢理引き離したシンドリア王国を憎んですらいたわ!! ちょっと優しくされた位で、あいつ等に尻尾を振っていたあなたと一緒にしないででくれないかな?」

「・・・・・それが、あなたの本心なのね」

「・・・・・ええ、そうよ。 ようやくあなたに本当の事を言えてスッキリしたわ」

「「・・・・・・・」」


 海里の本心を聞いた私は、彼女を何とかヴォーパリアから連れ出し助けようとしていたが、その想いは敵わないのだと悟り、海里を切る決意をするのだった 


 もう迷わない。 海里にこれ以上罪を犯させない為にも、彼女は今ここで切る!


 決着を付けようと抜刀の構えに入ったが、当の海里はそんな私を見ていない。


 ??? 何処を見て……。


「あの赤髪は、もしかして……」


 そんな呟きが海里から洩れた時に、後方から集落の方角から絶叫が響いたのだった。


『駄目! ドワーフさん達は殺させない!』


 声が響いて来た場所を良く見ると、そこではヒナゲシが集落を襲おうとする兵士達を素手で制圧していた。


「やっぱりあの特徴的な燃える様な赤髪はパペック! 髪型が少し変わっていたから分からなかったけど、こんな所にいただなんてね!!」


 そう口にしたと同時に、海里は茜を無視して弾かれた様にヒナゲシに向かって走り出した。


 今まで海里の歩いた姿しか見た事が無かった私は反応出来ず、まんまと距離を稼がれてしまった。


 反応が出来なかったのは斎藤さんも同じで、毒霧を処理する事で手一杯だった菊流さんとヒノメちゃんも同じだった。


 そんな海里が、ヒナゲシちゃんに対して右手を伸ばした。 


「ヒナゲシちゃん、逃げて!!」

「え?」


 私の忠告に気付いて振り返ったヒナゲシちゃんだったが遅かった。


「私の奴隷ちゃん、み~~つけた!!」

「ひっ! ノーチェ……さん」


 眼前まで迫っていた狂気に染まったノーチェの顔に怯えたヒナゲシは、棒立ちとなっていた。


「パペックちゃん、散々探したんだよ~~? ……さあ、私の言う事を聞きましょうね、お人形ちゃん!!」


 ヒナゲシの顔に右手を添えた海里は、赤いオーラを発生させ彼女の体内へと流し込み始めた。


「い、いやああぁぁぁぁぁぁ!!」

「海里止めて! 関係の無いその娘を巻き込まないで!」

「関係無い? あぁ、茜ちゃんは知らないんだね。 この娘はね、私が腐食の力を流し込むと私の命令を聞く様に命令されてるのよ。 それにね、七罪の1つを得る事に成功した私の支配力は、あの頃とは比べ物にならないのよ!!」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇl!!」


 さらに多くの赤いオーラをヒナゲシに流し込んだ海里は、暫くするとその手を放した。


「ヒナゲシ! ヒナゲシ!?」

「菊流さん駄目、ヒナゲシちゃんは完全に支配されてる」

「さあヒナゲシ、私の為にあいつ等と戦いなさい!」

「あ、あ、あ、あ、あ……」

「ヒナゲシ……」


 そう命令されたヒナゲシの目は真っ赤に染まり、何時も私の横に笑顔で付いて来ていた彼女の面影は失われてしまっていた。


「こう言う時の為に仕込んでおいて良かったわ。 さあ木偶の坊、さっさと敵と戦って噛み殺しなさい!」

「・・・・・」

「パペック! 何故動かないの!」

「ち、ちが……う。 私の……名は……お姉様から貰った……ヒナゲシ……だ。 決して、パペックと言う名じゃ……ない!!」

「なっ! そんな馬鹿な、スキルすら持っていないアンデット如きが、暗黒神様の力の一端を得た私の力に抵抗してるって言うの!?」


 だがヒナゲシは頭の中では先程の海里の命令が何度も再生され、今にも菊流達に襲い掛かりたい衝動が襲って来ていたが、彼女は意思の力で必死に抵抗していた。


「うああああああああああ!!!」

「さっさと私と言う事を聞けパペック!」

「嫌! 嫌嫌嫌! いや~~~~~~~~~!!」


 その絶叫を最後に、ヒナゲシは意思を失い地面に倒れ伏した。


「ちっ、所詮は光輝様に捨てられたアンデットか、使えないわね。 おい、兵士共。 ぼ~~っとしてないで、お前達もさっさとドワーフ共を殺して来い! 死にたいの?」

「・・・・・・約束は守れよ女」


 今度は自分達が殺されかねない。 そう判断した兵士達はドワーフ達の集落を襲撃しに向かった。


「待ちなさいあなた達!」


 兵士達を追いかけようとして菊流さんが走り出そうとした所で、海里が行く手を阻んだ。


 そして、彼女は菊流さんの顔を正面から見た事で、10年前の記憶が呼び起されてしまった。


「行かせないわよ、赤髪のおん……な? …………私は、パペックにソックリなあなたの姿を、10年前に見た覚えが……。 まさか光輝様の想い人の、花柳 菊流!? あなたは人魔大戦で死んだはずじゃ!?」


 バレた! こいつが、私の素性を知っていたなんて!


「ぷ! あははははは! どうやってパペックとは違う肉体を得て復活したのか分からないけど、これは光輝様に真っ先に報告しないといけない情報を手に入れる事が出来たわ!」


 そう言った海里が素早く懐に手を入れると、赤く輝く魔晶石を右手で取り出すと地面に叩き付けようとした。


―――スパン!


「き、きゃあああーーーーー!! わ、私の右手が!?」


 だがいち早く転移で逃げる事を予測した茜によって、海里が赤く輝く魔晶石を持つ右手を切断する事に成功した。


「茜、あんた。 よくも、よくも私の右手を切断してくれたわね!!」

「菊流さんの情報を、今光輝に与える訳にはいかないのよ!」


 右手首を左手で握り必死に止血している海里だったが、まだこの場から逃げ出して菊流の事を光輝に報告する事を諦めていなかった。


 だが、逃亡を目論む海里の不幸は続いた。


 隙を付いて赤い魔晶石を拾い上げて転移で逃げようとしていた海里だったが、勢いを付けて右手で魔晶石を叩き付けようとしていた右手が切断された事で、少し離れた場所に落下してしまった。


 地面に落下する右手の下には赤い魔晶石があった為、落下と同時に破壊されてしまい転移が発動。

 そのまま、切断された右手だけが転移してしまう結果に陥ってしまったノーチェだった。


「1個しか無い私の転移石が!! 私の右手が!?」

「これで終わりよ、海里!」

「光輝様に菊流の情報を伝えるまで、私は死ぬ訳には!?」


 諦めの悪いノーチェは、再び黒い霧を発生させると周囲に展開し自身を守らせた。


「はぁ、はぁ、私は光輝の為にこの情報を伝える為に生きるんだ!!」


 海里の使命感に燃える顔に狂気を感じたが、私達はそれ以上に彼女の背後を見て息を飲んだ。


 私達の視線に気付いたノーチェは恐る恐る後ろに視線を向けると同じく息を飲んだ。 何故なら、そこには真っ赤に充血した目のまま立ち尽くしているヒナゲシがいたからだ。


 海里はそんなヒナゲシを見て心の中で歓喜した。


 まだ運は私を見捨てていなかった!


 海里は口角を上げて喜ぶと、意識が朦朧として佇むヒナゲシに命令を下した。


「さあパペック。 あなたの敵を嚙み砕きなさい!」

「私の……敵?」

「そうよ! さっさとしろ、このアンデット風情が!」

「私の。 私の……敵は!」


―――ブシュ! 


「はっ?」


 ヒナゲシが敵に噛みついた事で、辺りには血飛沫が飛び散った。


 赤く染まった目でヒナゲシは、海里の命令通り敵と認識した人物の首筋に噛みついた。


 そのヒナゲシが噛みついた相手は、そうする様に命令を下した他でもない海里本人だった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


次回でグラッラール坑道の話しは終わり、ノグライナ王国に話が移ります。



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