グラッラール坑道へ。
「そうか……。 グランクの奴は満足して逝ったのか……」
「はい。 後の事は俺達に頼むと言い残して……」
「馬鹿野郎が……。 何故俺達に手紙でも送って相談を持ち掛けなかった……。 そんなに俺達は頼りなかったのかよ……」
「ハーディ……」
夜のテラスで、シンドリア王都でグランク様と話した事やあった事をハーディ様に説明すると、彼はグラスに並々と注がれていたワインを一気に煽り愚痴を吐くのだった。
「共也君、エリア王女、ハーディはこうやってグランクに愚痴を言ってるが、本気で言っている訳では無い事は理解して上げてくれ。 こいつに取って、グランクに頼られなかった事が寂しいんだよ」
「シグルド、余計な事を言うなぁ~~。 ヒック……」
「あぁもう、普段から酒に極端に弱いのにそんなに飲むから……。 2人共、グランクの最期を教えてくれて感謝する。 明日からまた大変な日々が始まる事になるだろうが、頑張ってくれ」
「はい」
「話は終わったんだ、ハーディ戻るぞ」
「う、気持ち悪い……」
「絶対に吐くなよ? 振りじゃないからな? 本気で吐くなよ?」
ハーディ様に肩を貸してテラスを去ろうとしている2人に、エリアは深くお辞儀をした。
「ハーディ様、シグルド様、グランクお父様を今も友として扱ってくれた事に対して、深く感謝いたします……。 ありがとうございます」
「…………エリア王女~~、気にするなぁ……。 国は違っても彼奴とは妙に馬があったから、魔物になったからと言っても全然実感が沸かないだけさぁ。 何時か俺もシンドリア王都に行く時が来るだろう、その時は奴が悔しがる位立派な王都を再建する支援をする事を約束しよう」
「おいハーディ、そんな約束を他の重臣達に相談しなくて……。 いや、断る奴はいないか。 それにこの国の建国理念は『他者を助ける事の出来る国を』だったな」
「そう言う事だぁ~~」
バルトス、あんたの託した思いは今もこの国に根付いているぞ……。
潤む目に涙を溜めて、エリアはニッコリと微笑んだ。
「何時か。 何時か世界が平和になったら、お二人にお父様のお墓に手を合わせに来て欲しいです」
「あぁ、その時は俺の秘蔵の酒を奴の墓に飲ませてやるよ」
「ではな、2人共」
「ハーディ様、シグルドさん、おやすみなさい」
話は終わったので、俺達が場を去ろうとするとシグルドさんが振り返った。
「そうだ言い忘れていた。 グラッラール坑道まで詳しい案内人を用意したから、出発する前にそいつ等を連れて行ってやってくれ」
「分かりました。 何から何までありがとうございます」
「ではな、2人共」
そして、俺達は案内人と一緒に、ノグライナ王国に向けてケントニス帝国を後にするのだった。
=◇===
【グラッラール坑道の関所】
坑道に通じる関所前まで来たまでは良かったのだが、長年誰も来なかった場所に大人数で来たものだから、関所を守る兵士達の警戒心は予想より強かった。
「止まれ! ここから先はハーディ皇帝陛下によって封鎖されているグラッラール坑道と知ってここまで来たのか? お前達の目的を教えて貰おうか」
懐から、前日ハーディ様から預かっていた通行手形を取り出し、兵士の1人に手渡した。
「これを」
「検めさせてもらう。 …………これはグラッラール坑道の通行を許可する手形。 ハーディ皇帝の花押もしっかりと有るな」
「はい、直接頂きましたか『貴様これを何処で手に入れた』……は?」
「何処で手に入れたのかと聞いている」
「いや、ですからハーディ様から直々に頂きましたがのですが……。 信じられ無いのですか?」
「何処の馬の骨とも分からん奴らが、こんなに大人数を連れてやって来たのだ、疑って当然だろ!?」
「ですが、これはれっきとしたハーディ様から直接頂いた通行手形で『うるせえ! ここを通りたいなら、俺にも分かる上役を連れて来るんだな!』なっ!」
関所を守る兵士達はそう無理難題を言うと、後ろに居る女性達を見渡してほくそ笑んだ。
「そうだ、良い事を思いついたぜ。 この関所を警備をしていると誰も来ないから暇でさぁ?」
「何が言いたい」
「へっへっへ。 ちょ~~っと、お前の後ろに居る女達を俺達に貸してくれよ」
「「「へへへへへへへ」」」
「共也ちゃん……」
こいつ等……。
その時、後ろから事の成り行きを見守っていたフードを目深に被っていた2人が歩み出て来た。
『おやめなさい見苦しい。 共也さんにお任せしようとしていましたが、もう我慢出来ません』
『お前等の処分は追って報せる。 覚悟しておくんだな!』
「ああん? 誰だ手前らは、俺達はケントニス帝国所属の兵士だぞ? お前等みたいな一般冒険者に処分とか言われる筋合いは無いんだが?」
「筋合いが無い? ……ああ、フードを被っているから分からないのか。 これでどうだ?」
―――パサ。
フードを取った事で、2人の顔が関所を守る兵士達の前に晒される事となった。
「「「カ、カトレア姫様! それに、ティニー竜騎兵様!?」」」
「姫様の顔を知っていて、何故立っているのです。 跪きなさい! それとも我々に反意があるのですか?」
「そ、そんな事は……」
「反意が無いのなら、跪きなさいと言っている!」
「は、はい!!」
そう、シグルドさんが用意したグラッラール坑道への案内役と言うのは、カトレアとティニーの事だった。
2人は跪いて震えている兵士の前に歩みを進めると、顔を上げさせ自分に視線を集めた。
「さて、確かにここにはグラッラール坑道があるだけですので、関所の番人をするには暇で暇でしょうがないでしょう」
「そ、そうなんですよ。 俺達も刺激が少し欲しくて……、なぁ、皆」
「「「そ、そうなんですよ。 決してハーディ様の書状を無視しようだなんて思っていませんって……」 「なるほど、あなた達の言い分は分かりました。 ですが、まさかとは思いますが、先程の様にあなたの指示に従った者達をこの関所を通した……と言う事は決して無いですよね? ね?」
奴等自身が言った『重要人物を連れて来い』と言う問題では無く、この国の次期継承者であるカトレアが眼前に現れた為、兵士達は大量の脂汗を流しながら視線が泳ぎまくっていた……。
「え、あの……、その……」
「私の質問に答える事が出来ませんか、そうですか……。 もしかしたらと思いカマを掛けて見ましたが、まさか本当にこんな馬鹿な事をしているとは思いませんでした。 帝国の軍人たる者が何たる醜態……。 残念です」
「姫様、違う、違うのです! 聞いて下さい姫様!」
「お黙りなさい! 坑道を完全に封鎖する協定をノグライナ王国と結んでいる事を、ここを守っていたあなた達は知っていたはずでしょう!? その条約を無視してあなた達の独断で関所を通すなど……。 はぁ、もう良いわ、行きなさい……」
薄く蒼く光る剣を抜いたカトレアは関所の詰所では無く、魔物が跋扈するケントニスまでの森を指し示した。
当然兵士達はその意味を知り、顔を真っ青にしてカトレアにすり寄ろうとした。
「え? ひ、姫様? じ、冗談ですよね?」
「冗談ではありません。 あなた達全員に、この場で解雇を言い渡します。 だから何処へなりとも行ってしまいなさい」
「ま、待ってください姫様! 今後この様な事は絶対にしないと誓います! ですからあの森を通って帝国王都に帰れと言わないで下さい!」
「兵士では無くなったあなた達を、この関所を任せる訳にはいきません。 それとも、勇者である私にこの場で切られたいのですか?」
「ひっ!!」
「本当なら丸腰で放逐したい所ですが、さすがにそれではただ死にに行く様な物ですから、せめても情けとして今装備している物は退職金として差し上げます。 さあ、行きなさい!!」
剣を突き刺したカトレアの迫力に怖気づいた兵士達は、関所とは逆方向に慌てて走り出した。
『「「「「「「うわああああああああああああーーーー!!!」」」」」」』
兵士達が居なくなった関所は物音すらせず、俺達だけが残される形となった。
「カトレア様……」
「ティニー、これで良かったのですよね」
「はい。 それにしても、奴らの言い分を信じるのなら、誰が坑道に行く為にこの関所を通ったのでしょうか……」
「あ、ここを違法に通った人物を、彼等から聞き出せば良かったですね……。 今更ですか……」
「ですね……」
関所の扉を開け放った2人は振り返り、皆に目的地が近い事を笑顔で告げた。
「皆さん、グラッラール坑道まではあと少しです。 行きましょう!」
こうして俺達は2人の案内でグラッラール坑道に向けて歩を進めたのだが、ティニーさんが俺にピッタリとくっ付いて来る為、歩きにくくてしょうがない。
そして、後方からそのティニーさんの行動に対して女性陣の会議が始まり、そのヒソヒソと話している声が俺の方にまで聞こえて来た。
「ねぇねぇ、やっぱりティニーさんって共也の事が忘れられ無かったのかな?」
「え~~? 菊流、彼女が共也君に好意を持っていたのって10年も前だよ?」
「あの人まだ30になって無いんだから年月なんて関係無く無い? きっと共也が本当に好きで、結局忘れる事が出来なかったんじゃない?
それに魅影、あんたがティニーさんの事を言っても説得力が全くと言って良い程無いわよ?」
「…………柚ちゃん、私は良いんです。 共也君とはずっと幼馴染として過ごして来たんですから、年期が違うんですから!」
「あんたねぇ、共也への好意が皆にバレたからって性格変わりすぎよ……。 大和撫子だった頃の御影を返して……」
「わ、私は別に変ってなんか……」
「柚ちゃん何を言ってるの、魅影は今も大和撫子」
「与一……」
予想外に与一からフォローされると思っていなかった魅影は、その言葉に感動して涙ぐんで彼女の両手を取ろうとしたが、その後続けられた与一の言葉に愕然とした。
「でも、共也が関わるとポンコツになるだけ。 昔からそうだったでしょ?」
「与一!?」
「そう言えば……。 ごめんね魅影、私が間違ってた!」
柚ちゃんに謝られた……。
その謝罪自体が共也に関わると自分がポンコツになると言われた様なもので……。
この結末をもたらした人物の両手を握って拘束しようとしたが、いち早く危険を察知した彼女は共也に抱き付き、私が手を出せないのを良い事に舌を出して小馬鹿にして来た。
「よ、与一、急にどうしたんだ?」
「鬼から逃げてる所だから匿って」
「お、鬼!? オーガの事か?」
「ちょっと違う。 ね、魅影?」
「そ、そうね。 オーガじゃ無いわよね!」
「変な与一だな?」
与一~~~! 後で覚えておきなさいよ!?
その後、ティニーと顔見知りのマリが、彼女に新たにパパの嫁候補になるのかなど爆弾発言連発する中、2人の案内で辿り着いた場所に有ったのは、立派な装飾の施された巨大な洞窟の入り口で……。
何ここ……。 本当に放棄されたグラッラール坑道で合ってるのか?
「カトレア姫、ここがグラッラール坑道で合ってるんだよな?」
「公式の場でなければ面倒なので【カトレア】と呼び捨てにして下さい。 そのはずですが、只の鉄を採取する坑道だったはずなのに、どうしてこの様な装飾がされているのか私にも分かりません……。
ティニー、あなたは何か知っていますか?」
「いえ、私も初めて知りました……。 7年程前に訪れた時はこの様な装飾など有りませんでしたから、ここ数年程で彫られた物なのでしょうが……。 一体誰が……」
このグラッラール坑道に入っても安全なのか躊躇していると、入り口に彫られた装飾を眼鏡の位置を直しながら興味深げに眺めていたノクティスが口を開いた。
「柚葉さん、恐らく大丈夫でしょう。 行きましょう」
「ノクティスさん、何か分かったの?」
「多分ですが……。 この施された装飾にある規則性を見た覚えがあったので記憶を遡って行くと、ある種族に思い至りました」
「種族? 魔物では無いの?」
「ええ、この装飾をして、ここに住みついているのは【ドワーフ】でしょう」
地球組はその種族名を聞いて驚きの声を上げた。
『「「「「「ドワーフ!?」」」」」』
ドワンゴ親方とサラシナさん以外ドワーフと言う種を見た事が無かったけど、まさかこんな所に住みついているとは予想すら出来なかったよ……。
敵がいる訳では無い事に安堵した俺達は、フェンリルのタケが飛び上がっても大丈夫な程巨大な洞窟の中に足を踏み入れるのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
もっと早くに登場させても良かったのですが、ここまで遅くなってしまいました。
なるべく早く投降しようと思いますので、モチベーション維持の為評価などしていただけると幸いです。




