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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
16章・再び訪れたケントニス帝国
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紫色の液体の正体。

「あれだけ酷い扱いをしたのに、儂等の命を再び救ってくれた事、感謝する……」

「皆さん、私達は気にしてないですから顔を上げて下さい!」


 ノーチェと兵士達を撃退する事に成功した事で、今私達の前には集落中のドワーフ達が頭を下げている所だった。


「分かった、頭は上げる。 だが、2度も命を救われたと言うのに、恩を返さずに行かせたとあっては末代までの恥。 全力で応えて見せるから、何か儂等にして欲しい事は無いか?」

「私達は報酬が欲しくて、あなた達を助けた訳では無いのですが……」


 海里ちゃんと会える事を期待していたのだから、嘘は言っていない。


「その言葉に、嘘偽りは有りませんね?」

「菊流さん!?」


 報酬は無しで通そうとしたが、ヒナゲシちゃんを背負った菊流さんが会話に入って来た事に驚いた。


「待って茜ちゃん。 あなたが報酬は要らないと言いたいのは分かるけど、今はヴォーパリアに対しての戦力が少しでも欲しいって分かるよね?」

「それは……分かりますが……。 まさか、ドワーフ達を?」


 私の疑問に首を縦に振る菊流さんの真剣な眼差しに、考えを改めた。 報酬と言う形でこの人達を戦場に引っ張り出す事は、本当はしたく無かった……。


 でも、王となった光輝を含めヴォーパリアが一体どれ程の戦力を保有しているのか分からない以上、仲間になってくれそうな人達は強引にでもこちらに引き込むべきだ。


「ドワッジさん、先程協力は惜しまないとおっしゃいましたが、その言葉に嘘偽りはありませんね?」

「無い! ある訳無いだろう!?」

「それなら……」


 こうして私は、このドワーフ達の纏め役のドワッジさんに、ヴォーパリアとの決戦に参加してくれるように打診をするのだった。

 考えると酷い願いだ……。 ノーチェの脅威から命を助けた報酬として、ヴォーパリアとの戦いに参加してくれる様にと打診するのだから……。


 戦争への参加を打診をされると思わなかったドワッジさんは、しばらく腕を組んで考え込んでいたがそれもすぐに終わり、首を縦に振った。


「良いだろう。 参加してやろうじゃないか」

『「「「「村長!?」」」」」』


 まぁ、皆が驚くのも無理無いわね。


「お前達、考えて見ろ。 ノーチェの毒によって死にかけた儂達を、無償で助けて下さったのはこの方達だ。 その方達が、この世界の混乱を招いている元凶の組織を壊滅させる為に力を貸せと言っているんだ。 協力するのが人に属する者としての責務だろうが! それともお前達は命の恩人の頼みを断るとでも言いてえのか!?」

「そうは言いませんが……」


 そんなドワッジ長老の怒声が集落全体に響き渡る中、私は斎藤さんの姿が何処にも無い事に気付いた。


 斎藤さん、何処に行ったの?


 ==


 ドワーフの集落から離れた場所に放置されていた、海里の遺体に手を伸ばす者がいた。


「クックック、これでまた新たな素体が手に入『やはり海里殿の遺体を狙って来たか。 ヴォーパリアに巣食う悪魔よ』!?」


 その瞬間、海里の遺体に伸ばしていた右手が切断され宙を舞った。


「グアアアアア!? き、貴様、よくも俺の右手を!!」

「へぇ、悪魔って奴に初めて会ったが、お前の血は赤いんだな」


 奇襲によって右手を切断する事に成功したのは、茜と共に集落にいたはずの斎藤だった。


 彼は愛刀を肩に担ぐと、冷めた眼差しをその悪魔に向けていた。


「わざとらしく悔しがる演技は止めろ。 腕を切られたと言うのに、お前の言葉からは必死さを感じぬ。 まるで何時でも治せるかの用にな」

「ぐううぅぅぅ、切られた腕が痛むぅ!!」

「お主、どうせ強力な再生能力でも持っていて、俺が攻めて来るのを待っているのだろう?」

「そんな便利な能力など持っている訳無いだろうが!?」

「わざとらしい演技を止めろ、と俺は言ったんだがなぁ……。 これ以上喋るようなら、海里殿の遺体を粉微塵に切り刻むぞ?」

「・・・・・・・」

「そこで黙るのかよ!?」


 頭が痛くなる思いの中、俺は大きく深呼吸をするとそいつの名を尋ねた。


「おい悪魔。 お前の名は?」

「【悪魔ウロボロス】だ……」

「悪魔ウロボロスねぇ……。 地球にもその名の悪魔がいた記録があったはずだが、もしかしてお前の事だったりするのか?」

「地球……。 地球か、確かにその惑星に滞在していた記憶はあるが、お前に詳しく話す必要があるのか?」

「確かにねえな……。 だが、強引に喋らせる手段くらい俺も持ってるんだぜ?」


 悪魔と言う名を持つ以上こいつも強者の部類に入るんだろうが、神白流抜刀術は神敵を相手にする目的で編み出された刀術だ。 決して負ける事は無いはずだ。


 刀に手を当て中腰に構えた俺を警戒したウロボロスは、大きく後方に跳躍すると同時に懐から赤く輝く転移石を取り出すと、着地と同時に叩き割った。


 するとウロボロスの足元に、すでに見慣れた赤い転移魔法陣が姿を現した。 


「怖い怖い。 海里の遺体を手に入れたかったが、鬼がいるなら諦めるしか無い様だな。 おい男、お前の名は?」 

「あれ、言って無かったか? 斎藤 剣、次に会った時にお前の命を刈る者の名だ」

「斎藤……剣か。 覚えておこう。 お前も俺以外の者に殺されるなよ? さらばだ」


 そう言い残すと、奴は赤い燐光を残してこの場から転移して行った。


 そして、そんな赤く輝く魔法陣が目立たない訳が無く……。


「斎藤さ~~~ん!」


 愛する茜殿に見つかってしまい、こちらに全速力で駆け寄って来る姿が目に映った。


 さて、ドワーフ達は反対するかもしれぬが、坑道を出た所で茜殿の為に海里殿の墓を作る事にしますかね。


 海里の墓を作ると言ったら、茜殿は喜んでくれるかね?


 収納袋の中に彼女の遺体を入れると、照れ臭そうに頬を掻きながら茜の元に向かう斎藤だった。


 ===


 そして、話しは集落に戻る。


 ドワッジ長老の鶴の一声により、ヴォーパリアとの決戦に参加する事が決まったドワーフ達に、ケントニス帝国から船に乗って港町アーサリーに向かってくれ。 と伝えた私達は共也達を追う為にノグライナ王国に出発しようとした。


「命の恩人に、このまま何もせず行かせるなんて儂等ドワーフ族の汚点になる! 今日1日泊って行ってくれ。 頼む!!」

「でも、私達急いでいて……」

「泊って行かないと言うのなら、決戦に参加すると言う約定を破棄するぞ!?」

「そ、そんな~~……」

「赤髪の嬢ちゃん諦めな。 こうと決めた以上、ドワッジ長老はテコでも動かないよ。 それにヒナゲシちゃんも未だに気絶したままじゃないか……」

「うっ……。 分かりました、でも1日だけですからね?」

「ガハハハ! そうだ、最初からそう言えば良いんだよ! 皆の者、宴じゃ~~! 秘蔵の酒を出せ!!」

『よっしゃーーーーーーー、流石ドワッジ長老!!』


 こうして少々強引だが、ドワーフ達と宴を楽しむ事となるのだった。


 そして、宴が始まると集落の中央では大きな焚火が灯されると、集落中を照らしていた。


「ひやぁぁぁぁぁ~~、そんなにお酒を注がないで下さい~~!」

「シャルロット殿、遠慮は無用だ。 飲め飲め♪」

「注がないでと言ってるのに、注がないで!? ちゃんと人の話を聞いてます!?」


 お酒に弱いシャルロットさんはドワーフ達の飲めや歌えやの騒がしさに目を回していたが、何処か楽しそうにしていた。


 そして、未だにヒナゲシはずっと気絶したまま目を覚まさない……。


 大丈夫かな……。


「お母さん、ヒナゲシならきっと大丈夫ですよ」

「そうだと良いんだけどね……」


 膝の上で眠っているいるヒナゲシの頭を撫でながら、目を覚ますのを待つのだった。


 ==


 集落の中央では楽しそうな宴が開かれている中、私と斎藤さんは普段使われていない空き家を1件借りて、そこで2人だけで食事を楽しんでいた。


「ふぅ、ご馳走様、茜殿」

「ふふ。 私も斎藤さんが一杯食べてくれて嬉しいです。 ありがとうございます」

「いやいや、私こそ茜殿の手料理を食べられて幸せ者だ。 最近はヒナゲシ殿が率先して、皆の料理を作ってくれていたので茜殿の手料理を食べたのは久しぶりに感じますな」

「ふふ。 ヒナゲシちゃんも料理が上手になりましたから、つい皆彼女に頼ってますしね」


 そんな楽しい談笑を終え私が使った食器などを片付けている間に、斎藤さんは風呂で汗を流すと寝室に向かって行った。


 収納袋から紫色の液体が入った小瓶を取り出して握り締めた私は、これを託してくれた友人を思い出していた。


 海里ちゃん……。 ありがたく使わせてもらうね……。


 小瓶の封を切った私はそのまま液体を呷ると同時に、体全体が凄まじい熱と痛みに襲われた。


―――パリン


 あまりの痛みと熱に衝撃を受けた私は小瓶を落として割ってしまうが、それ所じゃない。


「あ、く………」


 体全体を業火で焼かれているような激痛に苛まれながら、大声が出そうになるのを口を塞いで必死に抑え込む。 


「ううううううぅぅぅ……」


 そんな拷問の様な時間が10分、20分続くと、先程までの激痛と熱が嘘の様に退いて行くのを感じたのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ………。 湯、湯浴みをしないと……」


 汗を洗い流す意味も込めて、私は風呂に向かった。


 ==


 湯浴みを終えた私は、意を決して斎藤さんが寝ている部屋の中に入ると、彼は扉が開く気配を察知していたのか、薄っすらと目を開けていた。


「ふわぁぁぁぁ、茜殿か。 何かあったのですかな?」

「・・・・・・・・」

「茜殿?」


 窓の外では未だに皆が宴を楽しむ笑い声が、私と斎藤さんの息遣いだけが響く部屋の中まで聞こえて来ていた。


 そんな皆の笑い声が響く中、無言で湯浴み着の帯を解いた事で絹擦れ音が大きく響き渡る。


 帯を解き終わった事で湯浴み着が解けて、露になった私の乳房に目を剥く斎藤さん。


「うわわわわわ。 あ、茜殿一体何を!?」

「斎藤さん。 私を見て」

「見てと言われても……。 あれ? 乳房が……ある? 女性……の体? あ……」


 慌てて口を塞ぐ斎藤さんだけどもう遅い。 先程の口を滑らせた事で、私が男性だと言う事を元々知っていた様だ。 


 やっぱり……か。


「ふふ。 やっぱり斎藤さん、私が男性だと気付いていたのですね?」


 申し訳なさそうに下を向く斎藤さん。


「申し訳ない……。 儂が茜殿が男性だと知ったと知られると、あなたは身を引いて何処かへ行ってしまうと思い……。 遂に言え出せなかった……」

「斎藤さん……。 男の体を持っていた私でも愛してくれていたのですか?」

「あなたが男だと知った最初の頃は、散々悩んだ……。 だが、儂はそれでも茜殿を愛していると言う事実に触れた時、別れると言う選択肢は無くなった……」


 その言葉を聞いた私は居ても立っても居られずに、前を開けたままの状態で斎藤さんに駆け寄り抱き付いた。


「斎藤さん、私もあなたの事が好き。 愛しています!」


 抱き付いた私が涙を流しながら告白すると、勢いのまま口付けした。


「ん! む、プハァ! 茜殿、あなたの気持ちは本当に嬉しいが……。 その体は一体?」

「海里ちゃんがくれた紫の液体が入った小瓶……。 あれは1度だけ性転換出来る秘薬だったの」

「性転換の秘薬か、なるほど……。 いや待て、1度だけ!? 茜殿、じゃあまさか私の為に男を捨てたと言うのか!?」

「本当の意味であなたのパートナーになる事が出来るのならば、男と言う性別に戻れなくても後悔はありません……。 ご迷惑でしたか?」

「迷惑な訳、迷惑な訳があるか!」


 女となった私の体を、斎藤さんは折れそうな程強く抱き締めた事で体同士が深く密着する事となった。


「斎藤さん、私の事は「茜」と呼び捨てにしてください」

「なら私の事は「剣」と呼んでくれ、茜」

「嬉しい剣さん……。 私を、あなたの妻にして下さい……」


 宴による焚火の灯りが部屋を照らす中、私と剣さんはお互いを求める様に体を重ね合うのだった。




ここまでお読みいただきありがとうございます。


 次回で茜達の話しを終わらせて『ノグライナ王国編』に突入したいと思っています。



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