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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
16章・再び訪れたケントニス帝国
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腐敗のノーチェの最後。

「あ、が! 痛い!! パペック命令よ、今すぐ離れなさい!」


 海里の命令に従いたくなる衝動に襲われるヒナゲシだったが、必死に抵抗し続けながら首筋に食らいつく顎に力を籠めた。


「ふぅふぅふぅ……!」


―――ビキ、ブチブチブチ。


 辺りに繊維を断つ不気味な音が響き渡る。


「や、止め!! もう一度命令だパペック! 私から今すぐ離れろ!!」

「ぐ、ぎ! ……わ、私を……私をパペックって……呼ぶなぁ!!」

 

―――ブチィ!!


「あ……」


 首筋の肉を強引に噛み千切ったヒナゲシは、アンデットの本能の赴くままに血の滴る海里の肉を捕食した。


 そして、ヒナゲシに首筋の肉と一緒に頸動脈も一緒に噛み千切られた海里は大量出血を止める事が出来ず、そのまま後ろに倒れ始めた。


 そんなユックリと倒れる彼女の視界には、宙を舞う自身の血一滴一滴を見る事が出来たのだった。


 それはまさに走馬灯の様だった……。


 あ、私、死ぬ……んだ……。


 自分の死を悟った海里は小さく笑い、ようやくこの世界から解放される事を喜んだ。


「海里ぃ!!」


 倒れる寸前に自分を呼ぶ声に視線を向けると、そこには茜がいた。


 茜ちゃん……。 そんな悲しそうな顔しないでよ……。 未練が出来ちゃうじゃない……。


 そして、仰向けに倒れた海里の姿を兵士の1人が目撃した事で、事態は思いがけない方向に進む事となる。


「おい、皆止まれ! あの女がやられぞ!」

「何だと!?」


 足を止めた兵士達は海里が倒れているのを確認すると、止めを刺そうとして何食わぬ顔でこちらに戻って来た。


「へっへっへ……」


 そして奴らはカトレア姫によって散々実力差を教えられたのにも関わらず、懲りずに同じパーティーに所属している茜達に対して脅かすように剣を向けると、信じられ無い言葉を口にした。 


「おい、お前等。 こいつの首と手柄は俺達に譲れ! 良いな!?」

「……は?」


 学習すると言う事を知らないのか、それとも腐敗のノーチェを倒した手柄を持ってケントニス帝国の兵士の職に復帰したいのか分からないが、その必死な姿に呆れるしかない茜達だった。  


「あなた達正気? 関所の任務を放棄した上に他者の手柄を暴力で奪おうだなんて……」

「う、五月蠅い! そもそも俺達がこうなったのも、お前達が関所を通ろうとしたのがいけねえんじゃねえか! そんな加害者のお前等を手柄を譲るだけで許してやろうって言ってるんだ、ありがたいと思え!」

「お主ら……。 カトレア姫にあれだけ叱責されたにも関わらず、まだその様な事を……」

「おっさんは引っ込んでろよ! それにこいつが死ねば、スキルの毒に侵された俺達も助かるかもしれないんだからな!」


 俺に掛かれば、こいつ等を全滅させる事は容易い……。

 だが雑兵とは言えここまで数が多いと、こ奴等を殺している間にあの海里と言う女は殺されてしまうだろう……。


 どうしようかと考えていると、兵士の1人が海里の首元に剣を突き付けた。


「おっさん、動くなよ。 動けば即こいつを殺す!」 

「貴様等……」

「けけけ! 敵を人質に取られて動きを止めるだなんて、馬鹿だぜこいつ等!」

「全くその通りだぜ! お前等はこいつを殺す俺達の勇姿を指を咥えて見てるんだな!」

「止めて!!」

「もう遅い!!」


 兵士が剣を振り下ろした瞬間、地面を金属を叩く音が響き渡った。


―――カラカラカラカラ……。


「あれ? 何で俺の剣があんなに遠くに飛んで行ったん……。 う、腕が! 俺の腕が無い! 何処に行った!?」

「あれ? お前ってそんなに身長高かったっけ?」

「違う! お前の足が無くなってるんだよ!!」

「め、目がーーーーー!!」


 そんな兵士達の悲痛な叫びの中で、海里が幽鬼の如く立ち上がった。


「ま、まさかあれだけ虐めてたパペックに、私が致命傷を負わされるとはね……。 でも、私は腐っても神聖国ヴォーパリア魔将の1人腐食のノーチェ。 あんた達雑兵くれてやる程、私の首は安く無い!」

「雑兵雑兵うるせえな……。 俺達の未来の為に、その首を……寄こせーーー!!」


 そこから海里と兵士達の戦いに発展したが、目を覆いたくなるような戦闘が繰り広げられていた。


 手を翳すだけで兵士を1人腐らせて殺すノーチェに対抗する為に、誰かが1人やられたら出来た隙を好機と捉えて海里に剣を突き刺す。

 その流れが暫く繰り返されると兵士達も流石に迂闊に攻撃を仕掛ける訳にはいかず、遠巻きに包囲する形を取るだけとなっていた。


 剣を何本も体に突き立てられた海里の方も無事とは行かず、彼女は足元に血溜まりを作りその顔色は真っ青を通り越して土気色となっていた。


「嫉妬の力が何故か使えない上にこの数はさすがに……。 でもおいそれと殺される訳にはいかないのよ、さっさと腐らせて上げるからかかって来なさい、雑兵共……」 

「く、おい、どうする!?」

「どうするって言われても……」


 その時、1人の兵士が何気なくドワーフ達の集落に目を移すと、そこには窓からこちらを心配そうに覗くドワーフの子供が目に入った。


「そうだ、そうだよ。 俺達が生き残る為の簡単な答えが、目の前にあったんじゃないか!」

「な、何だよおまえ、急に大声出して!」

「お前等考えて見ろ、ドワーフ共も俺達と同じくこの女の毒に侵されていたはずなのに、何故今も生きているんだ?」

「あ? 何故って……。 まさかあいつ等、解毒薬を持っているって事か!?」

「何!? ドワーフの奴等、解毒薬を持っているのか!?」

「そうとしか考えられねえだろ!?」「確かに……」「いや、でも……」

「お前等良く考えろ! 解毒さえ出来れば、こんな死にぞこないを相手にする必要すら無いだろうが!」

「!?」


 その一言で兵士達は戦う相手を海里からドワーフ達に変更した。


「良し、こんな奴は放置して今は解毒薬だ!」

『俺達が助かる為に、ドワーフ共を皆殺しにしてでも奪え!』 

『うおおおおおおぉぉぉーーーー!!』


 兵士達が有りもしない解毒薬をドワーフ達から強奪する為に走り出す姿に、私達は彼等を止めようともせずそのまま見送った。 


 馬鹿な連中。 あのまま海里に殺されていた方がまだマシだったろうに……。


 そして、私達は兵士達が居なくなった事で、再び倒れた虫の息の海里に近づいて行った。


「茜……ちゃん……」

「海里……」

「あ~あ、悔しいな……。 こんな薄暗い洞窟で……雑魚兵達に殺される事が……私の運命だったなんてね……」

「・・・・・・」

「まぁこの10年間、散々好き勝手に暴れ回って来た……報い……かな? だからさ、茜ちゃん……泣かないで?」

「出来る訳無いじゃない……。 ()()の死を看取るのに泣かないなんて……」

「ふふ、嬉しい。 まだ私の事を友達って言ってくれるんだ……」

「当たり前じゃない! ヴォーパリアのせいで袂を分かつ事になったけど、私はずっと海里の事を友達だと思っていたのよ!?」


 ついに耐えられなくなった茜の目から大量の涙が溢れ出す姿を見て、今までの凶相と違い昔の海里の優しい笑顔を茜に向けていた。


「茜ちゃん……。 最後に私の手を握ってくれるかな? もう力が入らないの……」

「グス、良いわよ」

「茜ちゃん!?」

「菊流さん大丈夫よ。 海里からは戦う意思を感じ無いから……」

「分かったわ。 でも、一応気を付けてね……」

「はい」


 そして、私は海里の横に座り右手をユックリと手に取った。


「これで良い?」

「うん、ありがとう。 後ね、茜ちゃん耳を貸して」

「何?」


 海里の口元に耳を近づけると、彼女は1つの問いを投げかけて来た。


「茜ちゃん……。 あの中年の男性の事を本当に愛してるの?」

「ぅぇ!?」


 全く予想外の質問に私は声を漏らし掛けたが何とか抑え込み、首を縦に振った。


「でも茜ちゃん、彼にあなたが男性だと教えて無いでしょう? もしバレたらどうするの?」

「……その時は彼の元から去るつもりよ」


 私の返答を聞いて暫く黙っていた海里だったが、諦めたかの様に息を吐いた。


「あ~~あ。 そこまでハッキリ言われたら、諦めるしか無いじゃない……」

「海里、あんたまさか……」

「最後まで言わないで……。 私はこの想いをあなたに伝えられただけで満足してるから……」

「ごめんね、海里ちゃん……」

「ふふ、『ちゃん』か、まるで子供の頃に戻ったようだね。 そうだ茜ちゃんに渡す物があったんだったわ。 私の収納袋に紫の液体が入った小瓶が入ってるから、それを後で飲んで……効果は……」


 紫色の液体の効果を知らせられた私は目を剥いて驚いた。 


「海里ちゃん、それって本当?」

「うん本当。 でも、それを1度服用したらもう戻れないから、覚悟を決めてから飲んでね?」

「うん。 でも、どうしてそんな物を持ってたの?」

「…………偶々だよ? 決して何時か再会した茜ちゃんに、強引に飲ませようと思ってた訳じゃ無いからね?」

「……あなたってまさか」

「うふふ。 さあ、どうでしょう♪ う、ゲホ!」

「海里ちゃん!」


 最後の最後で再会した事を笑い合う事が出来たのに、彼女は大量に吐血した事ですでにその命も残りわずかだと言う事が見て取れた。 


「茜ちゃん、怖いから最後まで手を握っててね……。 お父さん、お母さん、あなたの望む優しい娘になれなかった私を許して……ね。 あぁ、地球に……帰りたかった……な…………。 幸せに……なって……ね、茜……ちゃ……」

「海里ちゃん……」


 握っていた手から力が抜けた事で、海里が亡くなった事を知る私だった……。


 まだ暖かい海里の手を額に当てて死を悼んでいると、心配した斎藤さんが私の肩に手を置いた。


「茜殿……」

「斎藤さん、大丈夫。 大丈夫よ……。 今はドワーフの集落に向かった奴らを処理しないと……」

「茜ちゃん、本当に大丈夫?」

「菊流さん。 はい、大丈夫です。 それでヒナゲシちゃんは?」 

「気絶してるだけみたいだから大丈夫じゃないかな?」

「それなら良かったです」


 意識が無いのか菊流さんに背負われて動かないヒナゲシを心配するが、どうやら体に欠損などは無い様で安心した。


 ===


「う、ううううぅぅぅ………」「た、助けて………」「何で俺がこんな目に……」


 ドワーフ達の集落に到着した私達の目には、白い翼を広げたシャルロットさんによって無力化された大勢の兵士達が、地面に転がされていた。


 こうなる事は分かっていたけど、まさかここまで圧倒的だとは思わなかった。 さすが天界の戦乙女の1人だね……。 


「シャルロットさん」

「あら、皆さんお帰りなさい……。 どうやら腐敗のノーチェとの戦いは終わったみたいですね」

「ええ。 腐敗のノーチェ、いえ海里の最期を看取って来ました」

「そうですか……。 茜さん、辛かったですよね……」

「お互い納得した上での決闘でしたから……大丈夫……です……。 うぅ……」


 シャルロットさんの優しい言葉に、私は遂に我慢の限界を超えてしまい目から涙を溢れ出してしまった。


 そんな私に変わり、斎藤さんが地面に転がる兵士達の処遇を話し合う事となった。


「こ奴等の処遇はどうするべきか……。 シャルロット殿は何か考えがありますか?」

「いいえ。 それにこう言っては残酷ですが、最早彼等がこの解毒薬を飲んだとしてもすでに手遅れてです。 かなり奥まで毒が浸透している為、今更解毒した所で間に合わないでしょう」


 その言葉に解毒薬さえ飲めば助かると思っていた兵士達は、絶望して喚き始めた。


「ふ、ふざけるな! 俺達が助からないだなんてそんな事実、認められるか!! ゲホ!」

「興奮すると毒の周りが早まりますよ? ドワーフさん達、地下牢があるなら彼等を放り込んでおいて下さい。 恐らく明日の朝になる前には静かになっているでしょう」


 そのシャルロットの言葉に、暗がりに潜んでいた大勢のドワーフ達が現れると兵士1人1人の服を掴んで担ぎ上げた。


「シャルロット殿、感謝する。 それと、お前達にも感謝を……」


 そう言って私達に対して頭を下げたのは、エリアが命を助けた長老のドワッチだった。


「ドワッチさん……」

「おっと。 話しはこいつ等を地下牢にぶち込んだ後だ。 おいお前等、こいつ等を地下牢に運ぶぞ!」

『おおう!』

「嫌だ! 襲おうとした事は謝る! だから、助けてくれ~~~~~!!!」


 こうして、何とか腐敗のノーチェとの戦いを勝利で終えた私達6人は、もう1泊だけして共也達の後を追う事にするのだった。



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