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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
16章・再び訪れたケントニス帝国
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能力の継承。

 あまりの疲労の為うつ伏せに倒れていると、領主達が俺達を必死に探す声が俺の耳に聞こえて来ていた。


「バルトス、何処だ! 何処にいる! 生きているなら返事をせんか!」


 どうやらこの部隊を率いていた悪魔ベルゼブブが居なくなった事で、人質を殺される事が無くなった兵士達が無条件降伏したようで、一緒に俺を探している光景が視界の端に映っていた。


 領主様。 必死に探してくれる事は嬉しいが、人で無くなってしまった以上あの街で暮らす訳にはいかないんだ……。

 それに、レレイやみんなとの想い出が沢山あるあの街で暮らすのは、俺にとって辛すぎるのだ……。


『バルトス! バルトスーーー!!』


 去らばだ、俺達の故郷……。


 痛む体に鞭を打って立ち上がった俺は、必死に声を荒げて探してくれている領主に背を向けて1人で歩き出した。


 ==


 あれから数か月の月日が経ったが、魔物となったこの体は魔素さえあれば食料すら必要としない為、俺は1人当ても無い旅を続ける事が出来ていた。


 そして、俺は今クラニス砂漠の手前に、ここまでの案内人として雇ったおっちゃんと立っていた。


「あんた、本当にそんなフード付きのローブだけでこの砂漠に入るつもりなのか? 死んじまうぞ!?」

「おっちゃん、心配してくれるのは嬉しいが、そうなったらそうなったで受け入れるつもりだから良いんだ……」

「あんた……、もしかして死ぬつもりなのか?」

「ん~~。 自殺するつもりは無いが……。 生き足掻くつもりも無い……かな。 ハハ……」


 おっちゃんの問いに指で頬を掻きながら、俺は否定も肯定もしなかった……。


「そうか……」

「だからなおっちゃん。 ここまで快く案内してくれたあんたに、これを受け取って欲しいんだ」


 収納袋から一抱えもある麻袋を取り出すと、俺はおっちゃんの目の前に置いた。


―――ガシャ!


 金属音を響かせる麻袋を開いたおっちゃんは目を見開いた後に、俺に視線を移した。


「お、お前! こ、こんな大金受け取れねえよ!!」


 おっちゃんの驚きは当然か。

 その麻袋の中には、俺達が冒険者として活動して貯め込んで来た金が、金貨数千枚単位で入っていたのだから。


「良いんだ……。 言っただろう? 生き足掻くつもりも無いって……。 だから余所者の俺の事情を一切聞かずに、ここまで快く案内してくれたあんたに使って欲しいんだ……」

「でもよぅ……」

「じゃあ、おっちゃんこうしよう。 その金を使って、将来俺の様な余所者でも安心して暮らせる様な場所を作ってくれないか?」

「場所と言う事は国か? これだけの金があれば国を作るチャレンジをする事は構わねえが、これから砂漠に入って行くお前には1銭にもならないじゃないか……」


 俺は故郷がある方角を見ると、仲間達の想い出を思い出していた。


「仲間達のやって来た結果を誰かに託したかったと言う想いもあるが、悪魔達と本格的に戦う事になるであろう未来の子供達の為に『恩送り』を、と言うのは俺には似合わないキザな台詞だったか?」

「恩送り……。 お前に預かったこの金で未来の子供達の為の国を作る。 その資金と考えれば良いのか?」

「ああ、おっちゃん、頼めるかい?」

「何を思って未来の子供達の為にその様な場所を作れと言っているのか、少しも理解出来無かった俺だが……。 お前が未来の子供達の無事を願って、この金を託したってのは分かっているつもりだ……」

「未来の子供達に俺の想いを届けてくれよ、おっちゃん……」

「ま、任せろ……! だから、だから、お前も何時か俺が作った国に来る事があったら、必ず顔を出せよ!!」

「必ず顔を出すさ……」


 男同士の礼儀として拳同士を合わせて別れた、俺はやり遂げた想いを胸に抱き砂漠に砂漠に足を踏み入れた。


 そして、俺の背後でおっちゃんが最後の別れの言葉を口にしていた。


「バルトス!! 作る国の名は【ケントニス】にするつもりだ! 必ずでっかい国にしてみせる! お前もその名を忘れるんじゃ無いぞ!!」

「分かったよ、おっちゃ……、ケントニス! お前も下らない国を作るんじゃ無いぞ!?」


 ケントニスは最後に高々と腕を突き上げると、俺が託した金貨の入った麻袋を携えて自分の町へと引き返して行き、すぐにその姿は見えなくなった。

 

 彼の姿が見えなくなった事で、俺は死地を目指して灼熱の日差しが照り付けるクラニス砂漠に足を踏み入れた。

 

 やはり魔物になった影響か、少しの暑さを感じるが死を感じる程では無いな……。


 どうやらクラニス砂漠は魔素が異様に濃いらしく飢えを感じる事は無い上に、偶にマトーヤを呼び出して水魔法で水分を補給するだけで砂漠を歩くのに支障が出ない程だった。


 数か月後、クラニス砂漠を抜けた俺は海岸を沿って移動して行き、更に数週間後に頂上付近に雪が降るバリルート山脈に辿り着いた。


「これだけ高い山脈なら誰も来る事は無いだろう……」


 偶に力の差が分からない魔物が襲って来るが、俺は構わず薙ぎ払い奴らを氷の魔石へと変えて行った。

 山頂を目指して登っている最中に良い感じの洞穴を見つける事が出来たので、疲れた体を癒す意味でもしばらくそこで暮らす為に奥に進んで行った。


 そして、行き止まりに突き当たった所で俺は腰を下ろした。


「ふぅ。 魔素が普通より薄いこの場所でなら、しばらく何もしなければ死ぬ事が出来るだろう……」


 収納袋から薪を取り出すと、俺は火魔法を使い着火させるのだった。


「…………皆、出て来てくれ」


 死んだ後も一緒に歩むと誓い合った5人を呼び出すと、俺は静かに頭を下げた。


「皆すまない……。 魔物と化した俺が俗世で暮らすだけで、世界を混乱に陥れない。 だから、俺はここを死地にしようと思っているんだ……」

「・・・・・・・」

「命をあっさり捨て様とする俺を、お前達は軽蔑するか?」


 誰も反応を示してくれない中、レレイが俺の背後に回ると腕を首に回して優しく抱き締めてくれた事がとても嬉しくて、人目が無い場所と言う事も関係して何時までも泣き続けた。


「く、ぐ……。 レレイ、レレイ!」


 その後、皆が囲み優しく手を肩に置いてくれた事で安心感した俺は、疲れも影響していた事もあり仲間の名前を呟きながら、いつの間にか眠りに落ちてしまっていた。


「…………レレイ」

(お休みなさいバルトス。 私達は何時までもあなたと共にいるわ……)


 寝落ちした後も洞窟内を優しく照らす焚火の火を、3匹の雪豹が遠くから眺めていた。


 =◇===


 この洞窟に住み始めてから何ヵ月経ったか分からないが、俺はもう何時死んでもおかしくない程衰弱していた。


 そこに最近良く来る客が、洞窟内に訪れていた。


「グル……」

「お前達か雪豹……。 見ての通り俺はもう死ぬ寸前だが、何か用事か?」

(ううん。 あなたも1人で死ぬのは嫌だろうから、最後くらい看取りに来たのよ)


 最初は念話を使える雪豹のフェリスに驚いていたが、仲良くなる内にそう言う物だと気にしなくなって行った。


「フェリス……。 ありがとう……。 ついでと言っては何だが、最後にお願いを聞いて貰っても良いか?」

(何?)

「俺が死んだらこの洞窟の入り口を封鎖して、誰も入れない様にしてくれ……」

(それは構わないけど、何でそこまでする必要があるの?)

「邪悪な存在が俺の遺体を悪用しようとする未来が何となく分かるんだ。 そんな事をさせない為にも、俺の遺体は誰の手にも渡らない様に隠したいんだ……」

(そう言う事なら良いわ。 あなたの死後、洞窟の入り口を崩壊させた後に、私の両親に氷魔法で厳重に封鎖して貰うわ)

「頼む……。 ゲホ、ゲホ!」


 咳き込んで口を塞いでいた手を見ると、そこには魔物特有の青色の血がベットリとへばり付いていた。


 ようやくか……。 長い様で意外と短かったな……。


 俺は吐血していた手を握り締めると、3匹の雪豹に別れを告げた。


「さよならだ、フェリス……」

(安らかにお休みなさい。 勇者バルトス……)


 その言葉に薄く笑顔を作ったのを最後に俺はユックリと目を閉じると、それ以降瞼を開ける事は無かった。


 =◇◇===


 俺が死んでから、数百年の月日が流れた。


 氷の封鎖が解かれた洞窟の中に、誰かが入って来るが俺の遺体を見付けると方眉を跳ね上げた後、目を見開いた。


「んん? おやおやおやおや~~? こんな所に昔見た事のある剣を持った遺体が……。 ふ、ふふふふふふ! あ、あはははははは!! まさか勇者バルトスの遺体ですか!? これはこれはまさかこんな所であなたが死んで居るとは夢にも思いませんでしたよ」


 白衣を着た悪魔ベリアルが、勇者バルトスの遺体を収納すると高らかに笑うのだった。


「ククククク、執務室に飾る為の雪豹の毛皮を取りに来ただけなのに、まさかこの様な場所で良い実験材料が手に入るとは予想外でしたよ。 今日は良い日ですねぇ!」


 嬉しそうにそう呟くと、ベリアルは黒い靄に変わりその場から姿を消すのだった。


 ==


 全ての回想を見終わった私は、マトーヤおばあちゃんと一緒に暗い地面にユックリと降り立った。


(ふぅ、これが私達の旅で起きた全てだよ……)

(おばあちゃん……)

(泣くんじゃないよ、全く……)

(でも……)


 暗い空間の中でとんがり帽子を被ったマトーヤは、バルトス達に起きた物語を追体験した事で涙が止まらないマリの頭を愛おしそうに撫で続けていた。


(ようやく私の全てを託す事が出来る娘に会えたと言うのに、別れが悲しくなるじゃないかい……)

(え!?)

(老衰で亡くなる前に、私がバルトスに魔石のペンダントを渡した時の場面があっただろう? その時に語った私の心残りは何だったか思い出せるかい?)

(それは……。 確か後継者を見つけて、その人物に自分が開発した全ての術式を託す……。 まさか私に!?)

(そう。 勝手に後継者に認定して悪いと思うけど、私が編み出した全ての術式はマリ、あんたの頭の中に全て刻み込ませて貰った……。 今後意識するだけで自在に様々な術を使う事が出来るはずだよ……)

(おばあちゃん……)


 マリの頭から手を放したマトーヤは、とんがり帽子を被せると人差し指を立てるのだった。


(マリ、別れの前に最後に1つ助言をしよう。 私達の回想で出て来た悪魔、ベリアル、ディアブロ、ベルゼブブ、こいつ等に出会う事があったなら私達が刻んだ傷跡を思い出すが良い。 数百年経ったとしてもあの傷は必ず癒えていないはずだからね……)

(おばあちゃん、最後だなんて言わないでよ……)

(あんたはまだ幼いが愛する男もいるし、その想いを受け入れてくれる仲間もいるだろう? ポッと出の私がいなくてもあんたは大丈夫だ。 頑張んな、()()()!)

(おばあちゃん!!)


 その言葉を最後に、暗い空間にヒビが入り始め光が漏れ始めた。


(時間だね。 これで本当にお別れだよ。 出来る事ならあんたの横で暗黒神を討伐する旅に付いて行きたかったが、老兵は去るのみ……)


 愛弟子マリが泣く姿を見ていると、不意に背後から聞き慣れた声が聞こえて来た。


(マトーヤ。 あなたの力は託し終わったの?)

(レレイか。 ああ、私には勿体ない位の後継者だったよ。 きっと人々の為に私が託した力を使ってくれるはずだ……)

(そう。 レスター、あなたの力も託し終わったの?)

(聞いてくれよ! あの三毛猫の着ぐるみを着ている奴、俺が思念の糸を飛ばした瞬間に何をしたと思う!? 近くに来ていた仲間を拘束して身代わりにしたんだぞ!?)

(うわぁ……。 ご愁傷様……)


 悔しがるレスターの後ろから、力を継承し終わった事が嬉しいのか、ニヤニヤしながらこちらに来るメイサが目に入った。


 そして、レスターはメイサに八つ当たりを始めた。


(メイサは良いよな! あんなに可能性を秘めた奴に力を託せたんだから!)

(ふふふ、良いでしょ~~? いずれあの娘は私が編み出した槍技を全て使いこなせると思うから、将来が楽しみだわ♪)

(レスターが能力を託した人物は能力が低かったのですか?)

(いや。 思念の糸を繋いで分かったが、むしろあの娘に託して良かったと思ったよ)

(なら良かったじゃない。 何をそんなに怒っているのよ……)

(分かってる、分かってはいるんだがさぁ……。 身代わりされた娘への力の継承だから、思う所が有ってなぁ……)

(ねぇアリシア、あんたの持っていた『聖女』のスキルもあの白髪の娘に託したの?)

(ええ、そうよメイサ。 今を生きる子供達に託す事が出来て本当に良かったわ……)


 話し合っていた5人の体が徐々に浮上し始めた事で、もう時間が無い事を悟った。


(もう時間の様ね……。 バルトス、先に行ってるわよ)


 皆の体が浮き始めた所でマリも我慢の限界が来たらしく、マトーヤを目指して走ったが、彼女が来るよりこの空間が砕ける方が先だった。


―――パリーン!


『おばあちゃん!!』


 マリ、あんたの未来に幸あれ……。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


 今回で過去に起きた事の話しは終わりとなり、次回から現実世界へ話が移ります。


 

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