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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
16章・再び訪れたケントニス帝国
250/284

勇者バルトス②。

 魔物達スタンピードを終息させた事で都市へと戻った俺達は、防衛戦で命を落とした人達との合同葬儀にて、レスターとメイサの遺体を埋葬した。


「レスター……。 ううぅぅぅ……」

「アリシア……」


 ==


 魔物達のスタンピードが終息してから、さらに数か月経った。


(マトーヤさん、まだ私に知らせたい情報でもあるの? もうスタンピードを乗り越えたと言う情報は分かったから、そろそろ現実に戻して欲しいんだけど?)


 バルトスの使い魔となったマトーヤと意識を共有してずっと成り行きを見守っていた私の意識体の前に、生前の姿をしたマトーヤさんが現れた。


(すまない……。 後少しだけ、私の我が儘に付き合っておくれ。 何故私があんたにこの記憶を見せているのか、そしてもう少し見続ければ私達が何と戦い、何を託そうとしているのかが分かるはずだ……)

(託すって言われても……)

(ほら、話しの続きが始まるよ)

(もう! 後で絶対に説明してよ!?)


 都市を守り切る事が出来たのは俺達の活躍のお陰だと知った領主様から呼び出しを受けた俺達は、大きな屋敷の執務室で和やかな雰囲気の中で彼と対面していたのだが、1人の兵士が慌てて部屋に駆け込んで来た事で事情が一気に変わるのだった。


「何事だ、今は来客中だぞ!」

「は、はい。 分かっていますが緊急事態です! 物見からの報告で、隣国が越境してこちらを攻めて来たとの報告が入りました! その数、約10万!」

「な、何だと!?」

「恐らくスタンピードで我が都市が疲弊していると、予想しての行動かと……」

「ぐ、く!」


 悔しさの余り強く拳を握る領主は、軍勢を迎え撃つ出撃準備の指示を出すと、バルトスは椅子から立ち上がり扉に手を掛けると領主が待ったを掛けた。


「バルトス殿。 あなたが奴らを迎撃しに行ってくれるのかもしれんが、それはしなくて良い」

「何だと? だが、この都市に残った戦力で10万もの軍隊と戦えば……」

「例え負けたとしても奴らの隙にはさせないさ……。 だからバルトス殿、奴等がこの都市に到着するまでまだ時間がある。貴殿達はそのまま別の街へ避難するんだ!」


 逃げろ。 では無く避難。 その1言でどれだけ彼がバルトスを人の戦いに巻き込みたく無いのか、その想いが分かった。


「強がりは止せ。 俺達が居なくて都市を防衛出来ると本気で思っているのか?」

「・・・・無理だろうな」

「なら!」

「だが、私にもこの都市を治めて来た意地がある。 先のスタンピードを防いでくれた【勇者バルトス】を人同士の争いに巻き込んで殺すのは、末代までの恥なのだ……。 分かってくれ」


 バルトスは、先のスタンピードの中にいた強大な魔物を討伐した事でドロップした豪華な剣の柄を手に取ると、領主目掛けて投擲した。


「ふっ!」

「バ、バルトス、何を!?」


『ぎ、ぎゃああああ!』


 投擲した剣は領主の顔の横を通り過ぎて、紫の液体の付いたナイフを今まさに領主に突き立てようとしていた侍女の胸に突き刺さると、その勢いを維持したまま壁に縫い付けたのだった。


「ぐおおお! あ、あと少しで長年の悲願が成就されたものを!! 勇者バルトスめ、余計な事を!!」

「貴様は確か最近入って来た侍女か、何故胸を貫かれてまだ生きている!?」

「く、くははははは! それは私が悪魔の1人だからだ!」

「悪魔? 悪魔が何故私の命を狙う!?」

「言う訳が無いだろう? それに、ベルゼブブ様自らこの街を落としに来た以上、お前達の命は今日をもって終わりを迎えるのだからな!!」

「そう言う事か、何故隣国がいきなり攻めて来たのか疑問に思っていたが、そのベルゼブブと言う奴にすでに隣国は……」

「くくく。 さあ、10万の敵兵に対してどう戦うのか、貴様等の最期を地獄で見させて貰うとするか」

「逃がすか!」


 レレイが剣を振るうと侍女は腕を交差して首を守り、その間に奴は黒い霧の様に霧散して姿を消してしまった。


「バルトス済まない、逃がしたようだ……」

「レレイ、気にするな。 あんな小物より、今は10万の敵兵とベルゼブブと言う悪魔をどうにかする方が先だ」


 バルトスが2人の事で口を開こうとすると、レレイアーラとアリシアが先に口を開いた。


「バルトス。 まさかと思うけど、私とアリシアに都市に残れなんて言わないよね?」

「う……」

「やっぱり……。 ねぇバルトス、私達が何の為に紫の魔石を渡したと思ってるの? 志半ばで死んだとしても、あなたの側にずっといると言う決意表明の証じゃないの!?」

「そうですよ。 それを承知の上で、あなたはそのペンダントを私達から受け取ったのではないのですか?」

「レレイ、アリシア……」

「バルトス、私は死ぬ事なんて怖く無いのよ? 何故だか分かる?」

「もしかして、レスター……か?」


 俺の答えが合っていたのだろう、アリシアは嬉しそうに頬んで頷いた。


「うん、正解。 例えこの戦いで命を落とす事になっても、レスターと一緒にあなたの側にいる事が出来る……。 だからバルトス、私達も一緒に行く。

 もし私が死ぬ様な事態が起きたとしても、決して後ろを振り向かないで……」

「アリシア、良いんだな?」

「勿論よ。 ホラ、レレイも言いたい事が有るなら今の内に言いなさい!」


 アリシアに促されて兜を脱いだ事で、普段は収められていた美しい金髪が流れ落ちたと同時に、彼女はバルトスに唇と重ねた。


 そして、彼女はユックリと唇を離すと嬉しそうに微笑んだ。


「ねぇ、バルトス。 この戦いに生き残る事が出来たら、私達今度こそ幸せな家庭を築きましょう?」

「レレイ……」

「ほらバルトス、女の方からプロポーズ言うなんて、勇気が必要なんだからさっさと返事をして上げなさいよ!」


 バルトスは、顔を真っ赤にして微笑むレレイの右手を取り、口づけをした。


「バルトス……、必ず生き残りましょう」

「ああ、アリシア、レレイ、行こう!」

『「ええ!」』


 こうして俺達は10万の敵と相対する為に、越境したばかりの敵軍がいる場所に向かうのだった。


 ==


【隣国の敵司令部】


 越境したまでは良かったが、行軍中の敵軍は大雨に阻まれて進軍が止まっていた。


 そして現在、敵は黒く大きな天幕を張り、中では幹部連中が会議をしている所だった。


 この軍の中心人物の1であるオレンジの髪を短髪にしている男が、設置されている机の上に両足を置いて機嫌良さそうに参加している幹部達に話し掛けていた。


「しっかし、俺達が長年狙っていた都市を魔物のスタンピードが攻撃してくれたお陰で、こうして労せず攻め込む事が出来たんだから、本当に魔物様様だぜ!」


 上機嫌に口を開く男にこれ以上喋らせたくないのか、黒髪を頭の上部で結わえて腰まで垂らしている男が、不機嫌そうに腕を組んでオレンジ髪の男に苦言を呈した。


「五月蠅いぞベルゼブブ、少しはその下品な口調を改めたらどうなんだ? 幹部であるお前の言動1つ1つが永遠様の品性を貶める事になるんだぞ?」

「ちっ! お前は何時でも永遠様、永遠様、永遠様だな、ディアブロ。 俺も創造主の永遠様を蔑ろにするつもりは無いが、少しは人生を楽しんだらどうなんだ?」

「永遠様が喜んでくれる事が、我が楽しみだ……。 それ以外の事には興味無い」

「ああ、そうかよ! ベリアル、お前はどうなんだ?」

「俺はそうだな……。 生きの良い実験動物が手に入れば人生ハッピーかねぇ……。 ベルゼブブ、俺の実験体になってみる気は無いか?」

「お前の様なマッドサイエンティストの実験体になる奴なんて、いる訳ねえだろ!?」

「残念……。 あぁ、何処かに良い実験材料は居ないものかねぇ……」


 ベリアルは椅子に仰け反って座り、天幕の天井を面白くなさそうに眺めるのだった。


 ===


【隣国軍の侵攻ルートにある崖上】


「来たか」


 勇者バルトス達3人は岩山の上に立ち、両側が岩肌によって形成されている細い山道を進軍して来る隣国の兵士達の様子を見下ろしていた。


「バルトス。 作戦を確認するよ?」

「ああ」

「まずマトーヤの爆撃魔法で崖を崩して細く伸びた軍隊を分断する。 そして前方の軍は領主様の軍が襲撃する。 そして私達は後方の軍を相手にする。 合っているわね?」

「それで合っているが、作戦を開始する前にする事がある」

「何をするって言うのよ? もう後は突撃するしか……」


 バルトスは側にいるレレイとアリシアの顔を見ると、右手を差し出すと何をしたいのか分かった2人は大きな溜息を吐いた。


「バルトス……。 あんたねぇ……」

「良いだろ? 生きてこれを出来るのが最後になるのかもしれないんだ。 悔いが残らない様にしたいんだ……」

「「しょうがないわね……」」


 2人は笑い合うと、差し出されたバルトスの右手の上に自身の右手を重ねた。


「レレイ、アリシア……。 生きてまた会おう……」


 2人が頷くと、レレイアーラはタワーシールドと剣を。 アリシアは宝玉が嵌められた両手根を強く握り締めると、マトーヤ、メイサ、レスターの3人のアンデットをバルトスがスキルを使い呼び出した。


「マトーヤ、爆裂魔法を崖に向けて放って崖崩れを引き起こしてくれ。 ……開戦だ」

「カカ!!」


 ==


「何だ?」

「おい、急に止まってどうしたんだ?」

「いや、崖の上で何かが爆発するような音が聞こえた気がして……」

「おいおい、こんな両側が岩に囲まれた場所を通っているのに、そんな不吉な事を……って、岩が落ちて来るぞ! 上に気を付けろ!」

『うわあああああああ!』


 マトーヤの爆裂魔法で引き起こされた崖崩れによって、前も後も巨岩によって封鎖された兵士達はパニックに陥ってしまい冷静な判断が出来なくなっていた。


「退け! 俺が逃げる方が先だ!」

「お前だけが逃げるなんて卑怯者のする行為だぞ! みんな、奴を行かせるな!!」


 そんな仲間割れをする一団の前に落下して来た巨大な岩の上に降り立つのは、3体のアンデットと2人の美女を従える無精ひげを生やしたおっさんを見た瞬間、兵士達は絶叫を上げた。


「ゆ、勇者バルトスだーーーーー!!」


 その悲鳴を聞いた瞬間、バルトスはスタンピードを防いだ事で手に入れた新たな魔法を発動した。


「【英雄魔法・万兵召喚】来い!」


 青い光が岩を伝い地面に吸い込まれて行くと、そこから信じられ無い数のアンデット達が地面を突き破り現れた。


『カアアアアアアアアアアアアア!!』


「うわあああああああ! あ、アンデットだーーーーー!!」


 前も後ろも巨大な岩で封鎖されて逃げ場の無い兵士達は、膨大な数のアンデットを前にして完全に心が折れてしまっていた。


「ゆ、許してくれ勇者バルトス! 俺は騙されただけなんだから、降伏する!!」「ずるいぞ! 俺も降伏する!!」「俺もだ!!」


 兵士達が、1人、また1人と腰に帯びていた剣を放り投げて降伏を宣言して行く姿を目にして、3人は違和感を覚えた。


「おい。 最初に降伏を宣言した奴が、この国を攻めたのは騙されたからだ、と言っていたが何の事だ?」


『騙された』その言葉の真意を尋ねた瞬間、兵士達全員が熱が引いたかの様に静まると、そのまま口を閉ざしてしまった。


「何故口を閉ざす必要がある! 本当にお前達が騙されたと言うのならば、騙された内容を俺に言った所で問題無いだろう!?」


 全員が喋ろうとしない中、戦闘員として駆り出されていた1人の老人がバルトスの前に歩み出た。


「長老!」


 呼ばれた事を無視した長老と呼ばれた人物は、粗末な兜を脱ぐとバルトスが召喚したアンデット兵達の前に片膝を付いた。


「バルトス殿、私達が何故騙された内容を言う事が出来ないのか、その理由を私が言います。 だから他の者を責めないで上げて下され……」

「言わない、のではなくて()()()()か。 その台詞が意味する事は、お前達全員が何らかの力によって喋る事が出来なくなっていると聞こえるな」


 村長は言葉にするのではなく、頷いて肯定した。


「恐らく今から言う台詞は呪いに抵触してしまい、私は命を落とす事になるでしょう……。 どうか、私1人の命で皆を見逃してはくれまいか……」

「分かった……。 その内容次第で、他の者達を見逃す事を約束しよう……。 だが、良いのか?」


 長老は自嘲気味に笑うと頷いた。


「私はこの通り年老いて、いつお迎えが来てもおかしくない状態です。 ならば若者の命を救う事が出来るなら私は喜んで命を捨てましょう」

「長老。 あなたの名は?」


 長老は、バルトスの問いに首を振って拒絶した。


「これから死ぬ者の名は、知らぬ方がよろしいでしょう。 それでも知りたいと思うのであれば、助かった者から聞いて下され」

「これ以上は長老の決意を侮辱する行為だな……。 あなたの覚悟、見守らせてもらう……」


 長老は優しく微笑むと、バルトスに説明する為に口を開こうとした。


「ぐ! ぶはぁ!!」

「長老!!」

 

 急に大量に吐血した長老の胸からは、血に濡れた腕が生えてその手には脈動する心臓が握られていた。


「ドランさん、いけませんねぇ。 まさか自分の命を投げ出して私達の情報を勇者バルトスに伝えようとするとは思いませんでしたよ」

「ディ、ディアブロ、貴様が何故ここにいる!?」

「ほう。 心臓を抉り出されたのにまだ生きていますか。 意外と人間もしぶとい、これは次の実験材料に人間を選ぶべきですかねぇ?」


 ドランと呼ばれた長老の背後に急に現れたベリアルと言う人物によって、彼の心臓が抉り出された光景を目撃した人達の悲鳴が響き渡るのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


もう少し良い表現方法が出来る文章力があれば、この作品ももっと面白くなりそうですが、中々に難しいですね……。



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