3人の謝罪、そして再び占いに。
「お兄ちゃん、私を何度も庇ってくれてありがとうね! また今度見かけたら声を掛けるから、その時は一緒に遊んでね。 バイバイ!」
「あぁ、またな」
夕陽によって赤く染まっている南門に命からがら戻って俺は、ジェーンの知り合いの子供達が保護していた少女が別れる際に手を振りながら言った言葉が、先程の台詞だった。
その銀髪少女を見送った俺達は城に戻ると、エリアに頼み1部屋借りて3人を正座させた。 3人は今回多くの人に迷惑を掛けた自覚があるらしく素直に従った。
「さて……。 君達がどうしてこんな無茶な行動をしたのか、と言う話しを問いたださないといけないんだけど。 まずは君達自身がここに居る人達に自己紹介してもらえるかな?」
シュンと項垂れている3人だったが、俺の台詞を聞いてまずは黒髪を肩の辺りで切り揃えている少女が立ち上がった。
「はい……。 私は桜 小姫8歳です」
「髪が緑の私は山下 風同じく8歳…」
「髪が水色の私は山下 冷同じく8歳……。 風とは双子」
「自己紹介ありがとう。 それで本題なんだが、どうして3人だけで森の中に入ったんだい? 森の中は危険だと大人の人達から注意されていたよね?」
「はい……。 それは聞いて知っていました。 だけど、どうしても新鮮な薬草が欲しくて、風ちゃんと冷ちゃんに無理を言って付いて来てもらいました。
あの銀髪の女の子は、私達がゴブリンから逃げている最中に見つけて、このままだと巻き込んで危険だと判断して一緒に逃げてたので、詳しい素性などは一切分かりません……」
あの娘は偶然巻き込まれて、あの場にいただけだったのか。
「お叱りは2人を巻き込んだ私が受けます。 だから風ちゃんと冷ちゃんを責めないで上げて下さい……」
「「それは違うよ小姫ちゃん。 私達はあなたのお願いを聞いた上で納得して薬草採取に同行したの、決して巻き込まれたとは思って無い」」
「でも……。 結局私の我が儘で2人だけじゃなくて、あんな小さな女の娘まで巻き込んでこんな大騒ぎになっちゃったんだよ……? 発案者の私が叱られるのが筋だよ……」
「「それなら止めなかった私達にも責任がある……」」
お互いを庇い合い気落ちしている3人に、ずっと話を聞いていたジェーンだったが1つ疑問に思った事を小姫に尋ねた。
「ねぇ小姫ちゃん。 今回森の中に入った理由が新鮮な薬草が必要だったからと言う話しでしたが、その薬草で何をする気だったのです?」
「それは……。 私はこっちの世界に来た時に薬学知識と錬金術のスキルを取得してたの、だからポーションを作りたくて……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【名前】
・桜 小姫
【性別】
・女
【スキル】
:錬金術
:薬学知識
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「それで新鮮な薬草を求めて森に入ったのですね……。 でも小姫ちゃんのスキルは後方支援向きですし、すぐに戦場に出る訳では無いのですから、急いで作る必要は無かったんじゃないですか?」
「それは……。 だって。 ジェーンちゃんが……」
「??? 私ですか?」
「えっと……。 その……」
小姫ちゃんは言って良いのか悩んでいるみたいだったが、暫くすると首を縦に振り頷いた。
「今度グランク王によって企画されている兵士達との合同訓練に、ジェーンちゃんは幼年組を代表して参加する事を決めたんだよね?」
「どこでそれを……」
「やっぱり!」
「あ……」
どうやら小姫ちゃんの鎌かけだったたらしく、それに騙されたジェーンは慌てて口を塞いだが遅かった。
「何で言ってくれなかったのよ……。 ねぇジェーンちゃん、そんなに私達はあなたに取って足手纏いな存在なの?」
「そんな事は……」
「ううん、本当は分かってるの、私のスキル構成は後方支援型だって……。 でもね、だかと言ってジェーンちゃん、私達幼年組の立場を守ってもらう為に、あなた1人を魔物達と戦わせるなんて出来ない」
「あ、だから新鮮な薬草を求めて森に?」
「そう。 私みたいに戦う事が出来ない子供達の代わり戦うジェーンちゃんの命を繋げる、このポーションを錬金術で作る為に私は新鮮な薬草を求めて森に入ったの」
そう言って取り出された小姫ちゃんの手には、微かに緑色の光りを放つ試験管が握られていた。
「小姫ちゃん達は、そのポーションを作るためにあんな無茶を? 私が合同訓練に参加するのは自身の為でもあるのですから、気にする必要は無かったのに……」
『余計な事はしなくて良かったのに……』遠回しにそう言われた気がした小姫ちゃんはキッとジェーンを睨み怒声を浴びせた。
「気にするよ! 戦闘訓練に参加出来ない幼年組の子達は、みんなジェーンちゃんに感謝してるんだよ!? 気にする必要は無かったのにとか言わないでよ!! うぅぅああああああぁぁぁ~~」
「こ、小姫ちゃん?」
大声で泣き始めた小姫ちゃんにどう対応して良いのかわからないジェーンは、助言を求めて俺に視線を向けて来たので、彼女の頭に手を乗せて撫でると口を開いた。
「ジェーン、友達が君の事を心配してポーションを作ってくれたんだ。 こんな時はありがとうと言って受け取る事が正しいと思うぞ?」
「それで……、良いのでしょうか?」
「あぁ」
俺が断言すると、ジェーンは小姫ちゃんの前に歩み出ると感謝を伝える為に1度頭を下げた。
「小姫ちゃん、風ちゃん、冷ちゃん、心配してくれてありがとう……。 そして、小姫ちゃんが作ったそのポーション、大事に使わせてもらうね?」
「ぐす……。 うぅん……、大事にじゃなくて怪我をしたらすぐに使って……。 薬はまた作れば良いんだから……」
「分かった……。 これからは小姫ちゃんは後方支援として私を守ってくれるんだね、頼りにしてる」
「うん……。 スキルが成長したら薬以外も沢山作るから期待しててね」
泣きながら薄く笑う小姫ちゃんの姿を見て、これで将来の大錬金術師の誕生かな?と場違いな事を想像する俺だった。
だって錬金術って物作りが好きな者にとっては憧れのスキルだぞ!? ちょっと羨ましいのは皆も同じのはずだ……。
アホな事を心の中で呟く俺を置いておいて。 緑色のポーションを小姫から受け取ったジェーンは、部屋の隅で成り行きを見守っていたエリアに差し出した。
「ジェーンちゃん?」
「ガラスの瓶を持ち歩くのは壊しそうで怖いので、エリアさんこのポーションを預かってもらって良いですか?」
「そう言う事ね、良いわよ。 合同訓練に参加するなら一緒に行動するでしょう。 収納袋に入れておくから、いつでも必要になった時は声を掛けてね?」
「エリアさん、ありがとうございます。 そうだ小姫ちゃん、エリア様に預かってもらったけど良かった?」
「うん、私も命を救う薬が無駄になるのは嫌だからそれで良いと思うよ。 だけど、後でちゃんとエリアさんから受け取って使ってね?」
「勿論です」
ジェーンがポーションをエリアに渡した事で、今回起きた3人の転移者行方不明の事件は終息へと向かった。
さあ解散だ!となると、小姫ちゃん、風ちゃん、冷ちゃんが立ち上がり、こちらに向き直ると皆に対して大きく頭を下げた。
「「「皆さん、今回いっぱい迷惑をかけて……。 ごめんなさい……!!」」」
3人が心からの謝罪を口にした事で、今回の一件は奇跡的に1人も犠牲者が出なかったという事も有り、これでお終いにする事が決まったのだった。
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その後、子供達への聞き取りが終わったのは良いのだが……。 もうすっかり陽も沈み、晩飯が出される時間もとっくに終わっていた。
くうううう~~~。
横を歩くジェーンの腹から可愛らしい音が響き、慌ててお腹を押さえたが正直俺も同じ気持ちだったので突っ込む気力も無い……。
「腹減ったな……」
「はい……」
「余り物でもあるかもしれないから、一応食堂に行ってみるか……」
食堂に付くと、食器などの片づけをしていたおばちゃんに何か残って無いか尋ねた。
「おばちゃん、2人分残ってない?」
「お、共也とジェーンかい? あるよ。 エリア王女から取り置きしておいてくれと通達があったからね」
「助かる!」
配給自体はもう終わっていた様だが、どうやら子供達の事情聴取が長引くと判断したエリアのお陰で、俺達の分が取り置きされていた様だ。 素晴らしい判断をしたエリアに感謝しつつ素早く食事を終わらせるとジェーンと別れると自室に戻る事にした。
「共兄、今日は本当にありがとう。 もし、あの時声を掛けてくれなければ、そして、街に出ようと即断してくれなければ小姫ちゃん達は今頃……」
「彼女達は全員無事に助かったんだ。 それで良いじゃないかジェーン」
「そう……ですね。 分かりました、もうこれ以上言うのは止めにします」
「うん。 それで良『クレアドロップキーーーーック!!』ぐああぁぁ!?」
良い感じにジェーンと別れようとしていたのに、背後から現れたクレア王女のドロップキックによって壁まで吹き飛ばされてしまった。
「と、共兄、大丈夫?」
駆け寄って心配してくれるジェーンの台詞も耳に入らない位に、俺は頭に血が昇っていた。
『クレアーーー!!』
「きゃーーー! 共也が怒った~~~♪」
第二王女とは思えないあんまりな行動に腹を立てた俺は、クレアを捕まえるべく全力で城の中を追いかけ始めた。
足はっや!?
笑い声を上げながら城の中を走り回るクレアは異様に足が速く追い付けない……。 そうこうしている内に、自分が暮らす城に詳しいクレア王女に結局逃げ切られてしまい見失ってしまった……。
必ず次は捕まえる!
===
そして、次の日となった。
3人の子供の居場所を占ってくれたカーラ婆さんとの約束を果たす為に、俺とジェーンは昨日の露店が沢山並ぶ街道を進んでいた。
ジュ~~~~~~~!
「共兄……」
「見るなジェーン、見たら駄目だ……」
ジュ~~~~~~~!
ジュル……。 ……………ええい!!
「おっちゃん、肉串2本くれ!!」
「毎度有り!!」
とうとう街道にタレと肉の焼ける匂いに負けた俺とジェーンは肉串を1本づつ買い(朝に国から少しお金が支給された!)、腹を満たした後に占い屋に向かう事にするのだった。
昨日の路地を曲がると、カーラ婆さんが昨日と変わらない体制のままで俺達を待っていた。
「おや、昨日の異世界人じゃないかい、ここに来たって事は子供達を助けれたから律儀に約束を守りに来た、と言う事で良いのかね?」
「えぇ、かなり危険な状態でしたけど、あなたが占ってくれたお陰で3人を助け出す事が出来ました。 ありがとうございます」
お礼を言った途端、彼女はしわくちゃになった顔を歪めて笑い始めた。
「ふぇっふぇっふぇ、私は自分が出来る精一杯の仕事をしただけさね、気にしなくて良い。 で、ここに来たと言う事は昨日の約束通り、お前さん方2人を占って良いと言う事だね?」
「その為に俺とジェーンはここに来たのですから遠慮なくどうぞ」
「律儀な子供達だね。 さてと、じゃあ約束通り2人を占わせてもらうよ?」
ジェーンも頷いて了承すると、カーラは嬉しそうに笑った。
「そうかい、ならジェーンと言ったね、あんたから占わせてもらおうかね」
カーラ婆さんが水晶玉に魔力を込め始めると僅かに発光し始め、しばらくするとその光も収まった。 すると彼女はユックリとジェーンに視線を向けた。
「ふむ……。 ジェーン、お主はそれほど遠くない未来で、親しくなった者達と別れる悲しい未来がやってくる。 だが悲観する事は無い。 その後も、お主が必死に守ろうとしている者達と一緒に行動を共にすれば、沢山の者がお前の周りに集い触れ合う内にその心の傷も癒される事だろう。 ジェーン、別れの未来が本当に訪れたとしても悲観せずに自身を鍛え続けなさい。 そうする事で、お主の未来は眩しいほどに輝くわ」
水晶玉から手を放したカーラ婆さんに、ジェーンは悲しそうに声を掛けた。
「……カーラ様、どんな悲しい別れの未来が訪れるのか、その内容は分からないのですか?」
「すまぬ。 朧気な内容は占えても、ハッキリとした内容は悪いが分からん……。 儂の占いはあくまでも占いであり未来視では無い。 それにそんな未来が本当に来るかなど、スキルも持っていない儂が分かる訳がないのだからな……」
「確かに……」
「だが1つ言える断言出来る部分もある。 本当に分れの未来が来た後、お主が精進を続ける事で多くの者達がお主の元に集まる未来じゃ。 頑張りなさいジェーン、儂もお主を占った以上応援するよ」
優しく微笑んだカーラ婆さんに、ジェーンは頭を下げて礼を伝えた。
「……ありがとうございます。 これからも精進を続けます」
「そうするが良いじゃろうて。 では次に共也を占わせてもらおうかね」
(俺の番か……。 いざ自分を占って貰うとなるとさすがに緊張するな)
先程のジェーンと同じく水晶玉が僅かに光り始めてその光が収まったのだが、何故かカーラ婆さんは、何とも言いにくい様な表情を俺に向けて来ていた。
「共也……。 お前も少し先の未来で、大切な者達との出会いと別れが両方訪れると出ておる。 だがお主の場合、ジェーンと違いその未来に到達する事が出来る可能性がとても低い……」
「共兄……」
占いの結果を聞いて不安そうな顔を覗かせるジェーンは、俺の服の袖を親指と人差し指の2本の指で掴んでいた。
「だが、とても細いが、別れた者達と再会出来る道が残されているとも出ておる。 共也、別れをはねのけられるくらい強くなりなさい。 そうすれば、この悲しい未来を回避出来る可能性が有るともでてるわ。
ふぅ……。 共也、この様な占いの結果が出てしまったが、先程も言ったがあくまでこれは占いじゃ、当たるかもしれんし、外れるかもしれん。
この儂の占いの結果は、あくまでその可能性が有るのだと頭の隅にでも置いておけ。
だが……、もしも別れの占いが当たった場合は、再会出来る可能性もあるのだと思い絶望だけはするんじゃないぞ?」
カーラ婆さんの言葉を聞いた事で、親しくなった人との別れに極端に恐怖を感じてしまう体質になった俺は、しばらく動くことが出来ずに呆然と座っている事しか出来なかった…。
そんな……。千世ちゃん、親護父さん、綾香母さんと死別して、さらに大切な者達との別れって……。
「共兄、まだ何も起きて無いよ? しっかりして」
「そうだったな……。 まだ何も起こってもいないんだから、今ここで悩んでもしょうがない……か。 カーラさん、もちろんその未来を回避する手段もあるんですよね?」
「当たり前じゃ! この時点で確定する未来なんぞむしろ簡単に回避出来るわ! 確定して無い未来だからこそ、儂等は努力して最悪な不幸を回避しようと努力出来るのじゃからな。
……共也、ジェーンもう一度言うが、儂はあくまで占い師であって予言者では無い。 だから気にするな……。 とは言わんが、起こる可能性があると言う情報だけは頭の片隅にでも置いておくと良い」
俺とジェーンの2人はカーラ婆さんに対して頷いた。
「さて、この占いが終わった事でお前達の借金は帳消しじゃ。 またどこにでもいる占い屋の婆さんに戻るとするかね」
「カーラさん、困った事があったらまた占って貰いに来ても良いですか?」
「ん? あぁ、いつでも来るが良いさね、私はいつもここにいるよ。 ただし次からはちゃんとお金を払って貰うがね。 ヒッヒッヒ」
「分かりました、物の在りかとかが分らなくなったら小銭を握り締めて占いに来ますよ!」
「私は便利屋じゃないよ! まったく……。 2人とも、またおいで。 今度はお茶1杯くらいなら出してあげるよ」
「その時は是非に!」
俺とジェーンはカーラ婆さんに微笑みながらお礼を言うと、路地裏を後にした。
静かになった路地裏では、カーラ婆さんの背後に青色の肌をした少年が跪いていた。
「魔王様、隣国のアホ魔王が、こちらに攻めて来ようとしている兆候が有りますので至急ご帰還願いたく……」
「はぁ? また? どんだけ脳筋なのよあのアホ魔王は……。 せっかく楽しく人の国で過ごしてるって言うのに! はぁ……。 わかりました一時国に帰還します」
「私が弱いばかりに申し訳ありません……」
「あんたのせいじゃないでしょタナトス、あのアホ魔王は頭は弱いくせに、何故か物理に関しては異常に強いって言う、世界のバグみたいな存在なんだから気にするだけ損よ?」
「そう言う物でしょうか?」
「そうよ。 タナトス、それでも納得出来ないと言うのならリリスより強くなってみなさい。 人族はこれからどんどん強くなるわよ、下手をすると魔族が追い詰められるくらいに……ね」
「本当ですか? ですが今なら魔王様が本気を出せばこの国くらいあっという間に……」
ズン。
「がっはぁ!! ま、魔王様お許しを……!」
『殲滅する事が出来るのでないか』そうタナトスが発言しようとした所で、魔王と呼ばれた者は最後まで言わせなかった。 彼女は重力魔法を発動してタナトスを押し潰そうとしていた。
「失言でした……平にご容赦を。 【魔王ルナサス=サラ=クロノス様】……」
「次は無いわよ。 私はあのアホ魔王の様に、魔族優越主義の思想自体持って無いのだから」
「分かりました……」
命が助かった事に安堵するタナトスは片膝を付き、深く頭を下げた。
(共也、ジェーン気を付けなさい、確定していない未来の話しだとは言ったけど、あなた達の『別れ』の部分だけはハッキリと出ていたわ……。 せっかく知り合えた2人にそんな未来が来て欲しく無いと願うけど……)
そう心の中で呟いた魔王ルナサスは、足元で青白い魔石を砕くと魔法陣が形成され始めた。
「転移して帰還します、タナトス近くに」
「はい、お手数おかけします、ルナサス様」
「転移! クロノスに」
青白く輝く魔法陣が一瞬眩く輝くと同時に2人の姿はその場から消え去っていた。 そして、2人の居た路地裏には街の喧騒が響くだけだった。
3人の子供達の謝罪後に再び占い屋に向かう話でした。
次回は兵士達との魔物討伐実体験を書いて行こうと思ってます。
 




