2人の共闘。
『カアアアアアアアアアア!!』
「こいつ! タンクが倒されてから急に動きが荒々しくなった、気を付けろリリス!」
「分かってる、だけどこいつの1撃1撃が重い! 共也、気を付けて!」
バルトスの4本の腕から放たれる剣撃に、共に戦っているリリスも防戦一方となっていた。
「共也、危ない!」
バルトスが持つ剣の1本が振り下ろされて俺を切り裂こうとした寸前でリリスが間に入り、真剣白刃取りで防いでくれたが、奴の持つ残り3本の剣が今度はリリスに襲い掛かった。
「トーラス!」
「承知!」
リリスの体からトーラスの顔と半透明の布の現れると、2本の剣を絡め取る事に成功したが、残り1本が彼女に突き刺さろうとした所で、体勢を整えた俺がカリバーンで弾き返した。
「無事か!? リリス」
「共也、助かったわ! でも、こいつ予想以上に手強いわね……」
「ああ。 だが、何故バルトスはここまで怒っているか、リリスに分かるか?」
「ちょろっと文献に書いてあった事を思い出したけど、どうやら生前のタンクと恋仲だったと記されていたから、仇を取る事が出来ないこの状況に怒りを私達にぶつけているんだと思う」
リリスの言う事が本当だとしたら、バルトスはタンクの仇を取る事が出来ない怒りのストレスを、俺達で発散している事になる……。
迷惑以外何者でも無い……。
一旦距離を取った俺達がどうやってあいつを攻略するべきか考えていると、バルトスがブルブルと震えている事に気付いた。
「何だ?」
「カアアアアア!!」
「ちょ!!」
リリスが驚いた理由、それはバルトスの背にタワーシールドと剣を持つ腕が生えて、腕が4本から6本になったからだ。
「ここに来て腕が更に増えるの!?」
ん?
リリスが困惑して声を上げる中、俺は構えを取るバルトスのタワーシールドと剣には見覚えがあった。
あ! バルトスの持つ剣と盾は、先程カムシンによって倒されたタンクが持っていた装備品か!
俺がその事に気付いたが、何故タンクの装備品と持っている腕を生やす事が出来たのか考えようとするが、奴は待ってくれない。
「来るよ共也!」
「ちょっとは考える時間くらいくれよ!!」
5本の剣を持ちさらに攻撃力の上がったバルトスが、今度はタワーシールドまで装備して防御を固めた為に、奴の連撃に徐々に対応出来無くなって行き苦戦し始める俺達だった。
(訓練だと言ってスキルを出し渋っていたら、この猛攻の前に死んでしまう! 使う事の出来るスキルを全部使ってでも戦わないと、一気に押し切られてしまうぞ!!)
そう思い至った俺は、自身が使える身体強化系のスキルを使用した。
(グランク様、使わせて頂きます! 金剛!!)
―――ギン!!
「カ!?」
俺が剣を持たない方の腕で受け止めた事に驚いたバルトスだったが、すぐに立ち直り油断する事無く残りの剣で俺の体を串刺しにしようとしたが、リリスが光る布で絡め捕った。
バルトスは邪魔をしたリリスを、忌々しそうに睨んでいた。
(今だ! 空弧、お前のスキルを借りるぞ! 剛力招来!)
俺は共生魔法で空弧のスキルを使用して腕力を大幅に強化すると、カリバーンを振り抜いてバルトスの剣を切り付けた。
―――ビキ……、ビキ! バキン!!
良し!
金剛と剛力招来の2つのスキルを使用してバルトスの持つ剣を切り付けた事で、1本だけだが砕く事に成功した。
だが、奴は全く動揺した様子を見せ無い上に、砕かれた剣を俺に向かって投げ付けた。
「こんな攻撃が今更通用するかよ!」
カリバーンの腹で投げつけられた剣を弾き返すと、地面に硬質な音を立てて転がった事で安心した俺に、リリスの慌てた声が耳に届いた。
「共也、何ホッとしてるのよ、前!!」
リリスの言葉に慌てて前に目線を移すと、そこには土魔法を使い岩を纏ったバルトスの拳が俺に今まさに振り抜かれようとしている所だった。
「海流魔法!」
「か!?」
海流魔法でバルトスが拳に纏わせていた土魔法に干渉した事で岩は弾け飛び、その衝撃で何とか攻撃を中断させた俺はすぐに飛び退き、何とか距離を取る事に成功した。
「………………」
バルトスの奴、相当イライラしている様子だな……。
「共也、もう少し気を引き締めて戦わないと、バルトスにやられちゃうわよ!?」
「悪い、つい弾き返した剣に目線が行ってしまったよ……」
「もう! あなたが傷ついたら悲しむ人が多いんだから、気を付けてよね!?」
「き、気を付けるよ……」
「それで、何とかなりそう?」
「分からないけど、今の俺ではバルトスを倒せそうに無いと思う……」
「じゃあどうするのよ!?」
「……神白剣術奥義・瞬。 あの技に挑戦してみようと思う」
「出来そうなの?」
「今まで出来た事は無いが、斎藤さんの話しでは後少しって所まで来ているそうなんだ。 だから……、この戦いの中で完成させようと思う……」
覚悟を決めた俺はカリバーンを収納すると、神刀雷切を取り出して構えた。
「ふぅ~~。 良し、リリス、行くぞ!」
「ふふ。 バルトスの攻撃は私が防いで上げるから、あなたは安心して奥義を習得しちゃいなさい!」
会話の最中も何故か攻めて来ようとしなかったバルトスに警戒を強めながらも、俺達は奴と向き合った。
=◇===
【魔導士とマリ視点】
私は黒いとんがり帽子を被る魔導士と様々な属性魔法を撃ちあいなら、相殺し合っていた。
「ライトニング!」「カカ!」
―――バチン!
まただ……。 さっきからあの魔導士は、私が発動させた魔法と同じ属性魔法を撃ち込んで相殺して来る。
まるで私が何の魔法を使う事が出来るのか確認する様に……。
そんな事を考えていた私の隙を見逃さないと言わんばかりに、魔導士は自身の周りに氷で出来た槍を大量に生成して浮かばせていた。
「舐めないで! スノウ姉から氷属性の魔法は教わってるんだから! 【アイシクルランス】!」
「カア!」
お互いの魔法を同時に打ち合い相殺して行くが、流石に向こうの方が経験も威力も上の為、数本の氷の槍が氷霧の中から飛び出して襲って来た。
「か、海流魔法!」
魔法自体に干渉する魔法によって、徐々に速度を落とした氷の槍は私に届く前に砕け散った。
「どうしよう……。 あいつより私の方が魔力はかなり多いけど、経験値や魔法の威力の方があちらの方が強いから、このまま魔法戦を続けてもいずれ押し切られちゃう……」
私がどうすれば勝てるのか思案している間も、魔導士は容赦無く次の属性魔法を撃ち込んで来た。
「今度は風魔法!? でもルフちゃんに習ったからそれも相殺出来るよ!」
私と魔導士の中間地点で激しくぶつかり合った風魔法は竜巻となり、その強烈な風が頬を小さく切り裂いた。
私が風魔法を使い相殺した事を、魔導士はむしろ嬉しそうに顎を鳴らしている。
「また違う属性魔法……。 あなた一体何がしたいの? まるで私を試すような事を……、あ、足が!」
「カカカカカカ!!」
魔道師は暴風の影響で目を覆ってしまい、視界の途切れた私の足を土で生成した手で握られてしまい、動けない様に拘束にされてしまった。
「土魔法はまだ習って無いから海龍魔法で解除するしか……。 ま、魔導士さん、あなた何をしてるんですか!!?」
私の目の前で相対していた魔導士は、私が土魔法を習得していない事を確認すると、途端に巨大な大砲を生成して今にも打ち出そうとしていた。
「駄目、海龍魔法で解除しても逃げる時間が無いわ! こうなったらあの手を使って、粉々に粉砕してやるんだから!」
魔導士と同じ様に、目の前に氷の大砲と弾を私が生成すると、楽しそうに向こうは笑っていた。
「カアーーー!!」
―――ドゴン!!
轟音と共に大砲から巨大な岩が私に向かって発射されたが、私は落ち着いて過去にパパに聞いた話を思い出していた。
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「ねぇパパ、菊流姉達が話してる電磁加速って何?」
「ん~~。 マリがタケから習った雷魔法を使った物理現象と言えば良いのかな?」
「物理現象? へぇ~~。 魔法とは違うの?」
「ああ、俺達が居た地球で研究されていた化学って分野の現象の事なんだ」
「化学……。 ねぇ、パパ、それって私にも使える? もし私にも使える技術なら詳しく教えて欲しい!」
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ここでパパに教えられた事が役に立つ事になるとは、知識とはどんな事でも蓄えておくに限るようだ。
「氷で筒と弾を生成! 風魔法で中の弾を浮かべる!」
魔導士が生成した大砲とは比べ物になら無い程小さな筒を作り出したマリに、大砲から打ち出された巨大な岩が迫って来ていた。
「行けーーー!! 【ライトニングボルト!!】」
―――パン!
氷の筒に雷魔法を撃ち込んだ事で、電磁加速した氷の弾が乾いた音を立てて発射された。
そして、電磁加速された氷の弾によって巨大な岩は粉砕され辺りに飛び散るのだった。
「カ、カカ……」
勿論、電磁加速された氷の弾がそのまま消滅するはずも無く、岩だけでなく魔道士の左半身も貫通して粉砕していた事で、奴は前のめりに倒れ込んだ。
「ふぅ~~」
私は緊張感から解き放たれた事で、ユックリと息を吐いて肩で息をした。
「はぁ、はぁ、実力では完全に負けていたかけど、魔法とは違う現象を知っていたから何とか勝てた……」
―――ドス!
「え?」
残心していなかった私も悪かったが、まさかあの状況で動けるとは思わなかった魔導士が右手から1本の糸の様な物を伸ばして私の胸を突き刺した。
「カ、カ!」
その瞬間、私の中に魔導士の様々な記憶が流れ込んで来た。
「い、痛い! 止めて、止めて!!」
私はその膨大な記憶を頭に流し込まれる痛みに意識を失い、彼女が過去に体験した事を垣間見る事となった。
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【海が遠くに見える丘の上】
丘の上に立っている私がバルトスを待っていると、背後から草を踏みしめる音が聞こえて来た。
私が後ろを振り向くと、そこには重厚な鎧を纏った金髪を腰まで伸ばした美しい女性に腕を組まれた状態の髭面の男、勇者バルトスが立っていた。
「来たかい、勇者バルトス」
「全く、急に呼び出して何の用なんだ? 我がパーティーの魔導士【マトーヤ】」
「そうですよぉ! 私とバルトスが愛を育む貴重な時間を割かせたんですから、ちゃんとした理由を教えてくださいよ? マトーヤおばあちゃん?」
「おばあ…………。 お前はどれだけ時間が立っても変わら無いな、タンクの【レレイアーラ】」
「私とバルトスは相思相愛なんですから当然です!」
「何が当然なのか分からんが、まあ良い……」
私がレレイアーラの態度に呆れていると、バルトスが間に入り仲を取り持とうとしてくれていた。
「まぁまぁ2人共、話しが進まないからそういきり立たないでくれ。 で? マトーヤ、俺に何か用があるんだろう? なんだ?」
「……お前にこれを渡そうと思ってな。 受け取れ」
私はそう言うと、紫の魔晶石が嵌められたペンダントをバルトスに投げ渡した。
「!!? マトーヤ、これを俺に渡す意味を分かっているのか!?」
「ああ、分かっていて渡している」
「マトーヤおばあちゃん! 本気で言ってるの!?」
「本気だよレレイアーラ。 お前が言った通り、私は何時お迎えが来てもおかしくない歳となってしまった。 後継者もいない私の死後、孫の様に可愛がってきたバルトス、お前を守りたいと思うのは当然の事だろう?」
「だけどよう……」
私が投げ渡したペンダントを持つバルトスの右手を包み込むと、優しく語り掛けた。
「バルトス、お前に死後も付き従うのは理由が有っての事だ。 だから、気にするな」
「その理由を聞いても良いか?」
「何時か……。 そうだな、何時か私と魔法戦で張り合う事の出来る逸材がお前の前に現れた時、全ての経験値、会得した魔法、そして、独自に開発した全ての術式をその者に託す為だ……」
「おばあちゃん……」
「泣くなレレイアーラ。 近い内にお迎えが来たとしても、私はお前達の側にずっといるのだから……」
マトーヤとなった私はとんがり帽子を深く被ると、泣き続けるレレイアーラの頭を優しく撫でるのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回は何故バルトスがタンクを殺されて激怒したのか、それを最後にかいてみました。




