命懸けの攻防。
勇者のスキルを持つカトレアの攻撃すら捌き切ったバルトスを、リリスと一緒に戦いながら俺が奴を超える。
言うだけなら容易そうだが、『勇者』その称号は軽く無い……。
覚悟を決めた俺がリリスと一緒にバルトスの前に歩み出ると、自分を踏み台にしようとしている魂胆を読み取ったのか、明らかに先程から顎をカタカタさせて苛立っている様子を見せていた。
「リリス、先に言っておくが所々で迷惑を掛けると思が許してくれ」
「共也、まだあいつと戦ってすらいないのに謝るのは早いんじゃない?」
「それもそうだな。 カトレアの攻撃を防ぎ切った光景を思い出して弱気になってたよ」
「共也、あなたは私が守るから色々な戦い方を試してみて」
「ああ、行くぞ!」
俺達2人がバルトスに向けて突っ込もうとすると再び顎をカタカタ鳴らして詠唱を開始した。 俺達は出鼻をくじかれてしまい一度立ち止まった。
「ここでまた万の兵を呼ぶつもりか!?」
「いえ、違うわ!」
「リリス?」
前回と違いすぐに詠唱を完了させたバルトスの周りには複数の魔法陣が出現すると、魔法陣の中から様々な服装や鎧を纏ったアンデットが出現した。
現れたアンデットの数はそこまで多く無いんだが……。
「シスター、シーフ、タンク、魔道師、槍術士……。 間違い無いわ。 あのアンデット達は過去の文献に記載されていた、バルトスのパーティーメンバーよ……」
『カカカカカカカカカ!』
俺が勇者パーティーを前にどうするか悩んでいる所に、魅影達が俺を取り囲む形で前に歩み出た。
「共也君。 私達が召喚された仲間達を受け持ちますから、あなたは勇者バルトスをお願いします!」
「だが、こうなった以上は皆で戦った方が『共也君、あなたは強くなるんでしょう!?』あ……」
「そうだよ共也ちゃん。 ここは私に任せて、あなたは自分がするべき事に集中して」
「エリア、魅影……。 分かった……。 みんな露払いは任せるぞ!」
「はい! 任されました!」
バルトス達も俺達が各個撃破しようとしている事を何となく察知したのか、そうはさせまいとして黒いとんがり帽子を被る魔導士がこちらに炎の魔法を撃ち込んで来た。
「させない!!」
だが、マリが水魔法と海龍魔法を合わせた合成魔法で霧散させた。
「あんたの相手は私。 パパの邪魔はさせないよ!」
『カア!』
魔導士は自身の魔法を相殺したマリを強敵と認めたのか、再び魔力を杖に込めると雷魔法を撃ち込んで来たが、マリも同族性の魔法を撃ち込み再び相殺したのだった。
「「・・・・・」」
とんがり帽子を被る魔導士とマリは睨み合いながら、どの様な魔法を撃ち込むか牽制し合うのだった。
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俺とリリス、そしてバルトスの周りでは、カトレアやシリウス伯なども召喚されたバルトスの仲間達と向き合い、一触即発の状態となっていた。
「お婆様、あの槍術士、只者ではありませんね……」
「ああ。 だが、魅影程の強さでは無い。 あいつ相手ならば、槍術スキル上げにも丁度良いだろうから頑張って来い」
「はい!」
魅影と槍術士は槍を使う者同士の礼儀として、1度だけ穂先を接触させて乾いた音を響かせた。
「行きます!」
こうして魅影は、槍術士のアンデットとの戦いが始まった。
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―――カタカタカタカタ!
シスターの服を着ているアンデットが呪文を詠唱し始めると、光の輪が2本現れるとエリアを締め付けて拘束してしまった。
「これは拘束呪文ですか!? でも、私には効きません! 【解呪!】」
―――パチン!
エリアは自身を拘束していた光の輪を解呪すると、紐を引き千切るような音を響かせて消滅させたのだが、その隙を見逃さ無かったシーフがエリアの背後に現れると、短剣を突き入れようとしてる姿が目に入った。
「しまった!」
「カカ!」
やられる!
エリアがそう思った瞬間、シーフは物凄い勢いで弾き飛ばされて行くと城壁に突っ込んで行き、土埃を巻き上げた。
そして、私の目の前には、シーフを蹴り飛ばした人物が腰に手を当てて踏ん反り返っていた。
「気絶していた私を放置して話を進めるとは良い度胸じゃない! せっかく再会出来たのに共也さんは受け止めてくれないし……。 受け止めてくれないしーー!!」
そう、シーフを蹴り飛ばしたのは三毛猫の着ぐるみを纏ったエストだった。
「エストさん、無事だったんですね」
「勿論よ。 私が作ったこの着ぐるみは、ちょっと位の衝撃では着用者に伝わらない様に出来てるんだから!」
「え、でも今気絶していたと『……ちょっとの衝撃では着用者に伝わらない様に出来ていますから!!』あ、はい……」
コントの様なやり取りをエストとしていると蹴り飛ばされた事が気に障ったのか、シーフは急接近すると両手に持った2本のナイフを突き入れようとして振り抜いた。
「エストさん!」
「エリアちゃん、心配してくれるのは嬉しいけど、こいつ程度のナイフ捌きで私がやられる訳無いじゃ~~ん」
―――バキン!
何と、エストはシーフの振り抜いたナイフを手で掴み取ると、真っ二つにへし折ってしまった。
「カ!?」
経験豊富な過去の英雄も、まさかナイフを折られるとは思わなかった様で、シスターがいる場所まで跳躍して後退した。
「さて、周りと見ると粗方対戦相手が決まった感じだから、私とエリアちゃんがあのシーフとシスターのコンビを相手にするって所かな?」
「そうみたいですね。 私はどうやらあのシーフとは相性が悪い様なので、エストさんに相手をお任せしてもよろしいですか?」
「良いよ。 でもその前に、エリアちゃんにはこれを上げる」
何気なく放り投げて来た石を受け取ると、それは白く輝く宝石だった。
「わ、たった! エストさん、これは一体?」
「エリアちゃんが持ってる銀の細剣。 その柄の所に窪みがあるでしょ? そこにその宝石を嵌めて見てよ」
「この宝石を……、ですか?」
私は半信半疑でその宝石をお父様から託された細剣の柄に嵌め込むと、強烈な白い光を放ったがすぐにそれも収まった。
すると私の手の中にある銀の細剣は白き清浄なオーラを纏っていた。
「これは……」
「成功した様だね。 これでその剣にエリアちゃんのスキルを1つ乗せて戦う事が出来るよ」
「えぇ? 何でお父様から託されたこの剣の性能をエストさん、あなたが知っているんですか!?」
「うふふ。 何ででしょう~? ほらほら、そんな後でも聞ける話よりあの2体のアンデットを先に何とかしないとだよね?」
「……後で絶対に教えて貰いますからね」
「おお~、怖い怖い。 それじゃ、久しぶりに私も本気を出しますかね」
そう言うとエストは何処からともなく2本のナイフを取り出すと、何時でも戦える準備を終えた。
「さあ、魔道具技師と聖女のコンビで戦うなんて、今後2度と現れないだろうね。 行くよエリアちゃん」
「はい!」
こうしてエストとエリアの異色のコンビは、シーフとシスターのアンデットを相手にする事となるのだった。
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(こいつ……。 さっきから私から一切視線を外そうとしない……。)
カトレアの相手となったのは、大きなタワーシールドを構えるタンクタイプのアンデットだった。
(今も動こうとしないのに、共也さん達をフォローに向かおうとすると、途端に邪魔をしようとしますし……。 困りましたね……)
タンクのアンデットは、今も動こうとしない。 だがその為、カトレアも迂闊に動く事が出来ないでいた。
「さあ、このままずっとお見合いを続けるつもり? 英雄と呼ばれた1人なら雄々しく掛かって来たらどうなのですか?」
「・・・・・」
だがタンクは、カトレアの挑発を意にも介さずその場から動こうとすらしない。
不味いわね……。 相手も何もして来ないけれど、結果的に私と言う戦力を封じ込める事に成功している……。 どうすればこの状況を打破する事が出来るのでしょう……。
こうしてずっと睨み合いが続く私の視界の端で、カムシンと戦い始めたシリウス伯とクロードが目に入り、ある作戦が思い浮かんだ。
「シリウス伯、クロード殿、そのままこちらに来る事は出来ますか!?」
「カトレア姫、何を言って……。 いや、なるほど」
流石歴戦の猛者のシリウス伯だ。 たった1言で私の意図を汲んでくれた様だ。
「クロード、このままカトレア姫の元までこいつを連れて行くぞ!」
「ち、父上!? ああ、もう!」
「父上、兄上、どうしたんですか~? 私から逃げ出すなんて、家の名に傷が付きますよ~?」
「自惚れるなカムシン。 貴様程度の小物から逃げたからと言って家名に傷が付くものか! むしろ、貴様の様な小物で卑怯者の血を、この大事な剣を汚さなくてホッとしている所だよ」
「…………ぶち殺す!!」
カムシンは地響きを立てながら2人を追いかけてこちらに来た為、私とタンクの間を走り抜けた事でお互いの視界を遮った。
今だ!
私はカムシンが土煙を巻き上げて通り過ぎたと同時に、タンクに対して切りかかった。
「カカ!」
だが、タンクは私が攻撃して来ると予想していたのか、盾に関するスキルを発動して受け止められてしまった。
「だけど、攻撃に移ったのは私だけじゃない!」
「カ!?」
「こっちだ!」
―――ガギン!!
カムシンが追いかけて行ったシリウス伯は踵を返してこちらに戻って来ると、タンクのタワーシールドを持つ腕を切り落とした。
「カア!?」
「これであなたは私の攻撃を防ぐ手段を失いましたね! これで止めです!」
私が止めを刺そうとして剣を振り上げると、シリウス伯を追いかけて来たカムシンが地響きを轟かせて突っ込んで来た。
「死ね!!」
「!?」
カムシンが自身の父親を踏み潰そうとして両前足を前に突き出したが、当のシリウス伯はすでに回避していてすでにそこに居なかった。
代わりにそこには盾を持つ腕を失ったショックで呆然と立ち尽くしているタンクがいた為、慌てて前腕を振り下ろすのを止めようとしたが、すでに振り下ろしている前足を止まれるはずも無く。
「な! よ、避けろ!」
「!?」
カムシンが気付いた時にはすでに遅く、タンクをそのまま踏み潰してしまった。
「お、俺は悪く無い。 こいつがこんな所で突っ立っているのが悪いんだ!」
慌てて足を退けたカムシンだったが、土煙が晴れるとそこには何もいなかった。 消滅した様だ。
その光景を目の当たりにしたバルトスは、1度大きく咆哮するとカムシンを切りつけようとするが、主に危害を加える事を禁じられているのか、腕を上げたまま動く事が出来ない様だった。
バルトスは振り上げた剣を必死に振り下ろそうとしたが、結局カムシンを傷付ける事は叶わなかった。
そんなバルトスは、カムシンを攻撃する事を諦めて俺とリリスと戦う事を選んだ様で、怒気を放ちながらこちらを睨むのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回から本格的にバルトス戦になる予定ですのでお楽しみに。




