逃避行の先に。
『があああぁぁぁぁぁぁ!!』
「ローレリヒ様、あいつ等を振り切る事が出来ません!」
「ジジイ、俺があいつ等を説得してくる! 俺だったらきっと話を聞いてくれるはずだ!」
『黙れアグロップ! お前が話し掛けるだけであいつ等が正気に戻るのなら苦労はせん!
奴等が現れた時に口の周りに付いていた血が何か、お前はもう分かっておるのだろう! 最早あいつ等は儂等の知っている仲間では無い、無駄口を叩く暇があるなら全力で飛ばんか!!』
「…………分かったよ」
私達は黒く染まった緑竜達から距離を離す為に全速力で空を飛んでいたが、どうやら奴らの能力が強化されているらしく、徐々に距離を縮められ始めていた。
「ジジイ駄目だ! このままだと追い付かれるぞ!」
「そんな事は分かっておる! 今はあいつ等だけだが背後から増援が来るとも限らないのだから逃げるしか手が無いのだ!」
「クソ! でもこのままじゃ……。 一体どうすれば良いんだ……」
夜空を緑と黒の竜が通り過ぎる姿に、森に住む動物達は恐れおののき巣に隠れてしまう。
「ほらほらアグロップ様~~。 あと少しで追い付いちゃいますよ~~?」
「グ! 手前ら調子に乗ってんじゃ……」
「相手にするなアグロップ! 今はルナサス殿達と合流する事だけを考えろと言っただろう!」
「チッ!」
アグロップは何度も煽って来る元部下達に苛立ちを覚えながらも何とかこの地を離脱してルナサス達と合流する為に全力で飛んでいたが、遅れ始めていた1匹の緑竜に奴等が追いついた事でそれは起こった。
「つまらないな~。 相手をしてくれないなら、こうしちゃいますよ?」
〖ドス! ベキベキベキ!〗
「ぐあああ!!」
「手前! 仲間に何をしてやがる!」
「仲間? 仲間ねぇ……。 確かに仲間だった気がしますが、今の俺達にはあなた達が……、食料にしか見えないんですよーーー!!」
〖ブチィ!〗
「ア、アグロップ様……」
翼を引き千切られてしまった緑竜の1匹がユックリと地上へと落下して行くのを見た黒く染まった緑竜達全員が、群がる様に追従して地上へ降りて行った。
「ジジイ! 仲間が!」
「振り返るなアグロップ!」
「だが! 今助けに行かないとあいつは!」
〖ポタ〗
何だ? 水?
いや違う、ローレリヒの爺の涙か、あれだ厳しい事を俺に言っていたジジイが泣いている……。
そして、ジジイの口からは歯を食いしばり過ぎて力がかかり過ぎているのか血も滴り落ちていた。
ジジイ……。
その姿を見てしまった俺はそれ以上何も言う事が出来ずに、同じく歯を食いしばって仲間を見捨てる選択をするしか出来なかった……。
だが、落下した仲間の悲鳴を聞いた瞬間、俺はその落下した仲間の元へ向かっていた。
「アグロップ! 行くな、行くんじゃない!」
「ジジイ、必ずあいつを連れて戻る! だから先に戻ってルナサスの姉さん達と合流して、この状況を説明してくれ!」
「馬鹿者! お前の実力では、今のあいつ等の相手は無理だ!」
実力が無いアグロップを向かわせた所で被害者が増えるだけだと思い、私は制止しようとしたが、背中に乗っていたアーヤとテトラが声を上げた。
「ローレリヒ殿、私とアーヤがアグロップに同行します。 あなたはルナサス様達と合流してください」
「だが、あいつ等だけと決まった訳では無いのだぞ!?」
「確かにそうかもしれませんが、見捨てる事も出来ない以上こうするのが一番良いのです。 こうして議論する時間も惜しいので行って下さい!」
「グ! 分かった! ルナサス殿達と合流したら必ず援軍として連れて来るから、それまで耐えるのだぞ!」
私とアーヤがアグロップの肩に乗ると、ローレリヒ殿は凄い速度で飛んで行き、彼の背中がすぐに見えなくなった。
「お前等もジジイに付いて行け! でないと死ぬぞ!?」
「嫌です! 俺もアグロップ様に付いて行って仲間を助けたいんです。 それにあれだけの数を3人で捌くのは無理がありますよ!」
「……すまん。 お前達の力を借りるぞ、行くぞ!」
『おう!!』
==
〖ブチブチブチ……、ゴク〗
「うめえ! こんなに美味い肉ならもっと早く行動を起こしておけば良かったぜ!」
「全くだぜ! こいつは……、誰だっけか? まあこいつも俺達の胃の中に入る事が出来て幸せだろうよ!」
「ちげえねぇ!」
地上に落下した緑竜は黒く染まった緑竜達に群がられてすでに絶命していた、その光景は死肉に群がる巨大なカラスの様だった。
〖ドドドドドドン〗
「おい! 生きてるなら返事を……、お前等、仲間を食ってるのか……?」
「おや、ア、アグ……、アグロ? 誰だったか忘れたが、お早いお帰りで。 それで? 弱っちいお前が、ここに、何をしに来たんだ?」
「仲間を取り戻しに来たに決まっているだろうが!」
「仲間? 仲間……、ああ! 俺達が食ってるこの肉の事か! 馬鹿が、もうとっくに息絶えてるよ!!」
「手前ら……」
「お前が凄んでももう怖くも何とも思わないんだよ、馬~~鹿。
それにしてもこいつの肉は美味かったぜ! で? 助けに来たこいつはすでに死んでるが、お前達はこれからどうするんだ? お前達の肉も俺達に食わせてくれるのか?」
何匹かこちらを涎を垂らして見て来ているが、他の連中は未だに元仲間だった者を貪り食っている。
「…………もう良い。 お前らなど仲間だとは思わねえ! ここで俺がお前等を殺してやる!!」
「弱っちいお前が俺達を? アハハハハハ! 寝言は寝て言えよ坊ちゃん!? あんまり図に乗ってると……。 殺すぞ?」
「やれるものなら、やってみろや!」
アグロップ達が今まさに戦闘を始めようとした所で、私テトラと、アーヤはアグロップに確認を取る為に声を掛けた。
「アグロップ。 あの黒トカゲ共を殺す事に、未練は無い?」
「お前等はこの状況で何を言って!」
「大事な事なの。 ちゃんと答えて」
「…………無い。 仲間を食べても罪悪感すら無いあいつ等は、もう俺の仲間じゃない……。 テトラ、これで良いか?」
「ええ、今まではあなたの部下だと思ったから手を出さない様にしてたけど、これであの黒トカゲ共を処分する事が出来るわ。 アーヤ、私達の出番の様ね」
「待ってました! 獲物は半分ずつで良いよね? テト姉」
「やり過ぎないでね? あの緑竜さんの遺体は後で回収するんだから」
アグロップやその部下達は、全く気負わずに黒く染まった竜達に歩いて行こうとする2人を呆然と眺めて居た。
そこになんとか気を取り戻したアグロップが待ったを掛ける。
「ま、待て待て! お前達だけであれだけの竜を相手にするつもりか!? 俺達も加勢する!」
「いえ、むしろ邪……、動ける場所が埋まってしまうので下がっていて下さい」
「お前、今俺達の事邪魔って言いかけたよな!?」
「気のせいですよ。 ほら、強力な味方は温存するのが常識じゃ無いですか」
「それって2軍の奴に言う常套句だよな!?」
「いちいち五月蠅いですね……。 取り合えず、すぐに終わらせて来ますから待ってて下さい。 行きますよアーヤ」
「了解! さあ、逃げたければ逃げて良いわよ、黒トカゲさん達!」
私達のやり取りを呆然と眺めていた黒トカゲ達は、自分達より遥かに小さな私達に煽られた事に相当頭に来ている様子だった。
「俺らの10分の1も無いお前等が俺らの相手をするだと? 笑わせてくれる」
「すぐに俺達の胃袋に入れてやるよ、後悔すんなよ兎肉共!」
「とは言っても4人もいればミンチに出来るだろうから、お前等にあの兎共を譲ってやるよ」
「良いのか? へっへっへ、後で文句言うなよ?」
4匹の黒トカゲは私とアーヤを見て舌なめずりすると、襲い掛かって来た。
「テトラ! 来たぞ!」
「私とアーヤを相手に2匹づつですか。 舐められたものですね」
「グダグダとうるせえ! 大人しく俺の玩具になりやがれ!! があああああぁぁ!」
テトラは黒トカゲが付き出した右腕の爪を回転受けの要領で受け流すと、胸元に滑り込んだ。
「背撃衝! 鎧通し! 寸勁! はああ!」
〖ベゴン! ドン! パアン!!〗
「ギャガアアアアァァァァァl!!」
テトラの3連撃を胸に受けた黒トカゲは胸が弾け飛んでしまい、大穴を空けてあっという間に絶命してしまった。
「手前! 死ね!!」
残った1匹が今度は両手を使いテトラを捕まえようとしていたが、彼女はその細腕で巨大な竜の腕を受け止めた。
「な! こんな細腕で俺の腕力と互角だと! 化け物め!」
「化け物とは失礼な! お前達みたいに自然に強くなる事の出来る者達には到達できない、地獄の様な鍛錬をやり遂げた者だけが辿り着く事の出来る局地ですよ!」
「それはお前等が弱い存在だからだ!!」
「なら己の未熟さを味わってあの世に行きなさい!!」
〖ミシイ。 バキィ!〗
テトラは掴んでいた黒トカゲの腕を握力だけで握り潰した。
「ぎいやああああぁぁぁぁ!! 俺の、俺の腕がぁぁ!!」
「ふっ!!」
「ひっ!」
両手を握力で握り潰された痛みに怯んだ黒トカゲをテトラは指を掴むと、1本背負いの要領で投げ飛ばした。
「ぐっは!」
「では、さようなら黒トカゲさん」
「ま、待ってく! ゲボ!!」
〖ゴシャ!〗
彼女は投げ飛ばされて仰向けになった黒トカゲの首を蹴り抜き絶命させた。
「さて、こちらは終わりましたよ。 アーヤは大丈夫ですかね?」
==
銀色の手甲と足甲を装備しているアーヤは両手に魔力を纏わせながら、2匹の黒トカゲの攻撃を躱し続けていた。
「魔法職のくせにちょこまかと! さっさと俺達の胃の中に入りやがれ!」
「お断りします。
それに、私だってこの10年ミーリス様と鍛錬して来たのですから共也さん達と肩を並べて戦う事が出来る様になったのよ!
もうシンドリア王国が攻め落とされた時に何も出来なかった私とは違うんだ!!」
ミーリス様、今こそこの手甲と足甲の力を使わせて頂きます!
「食らえ!【ウインドトルネード!】」
「ぬぐ! だがこの程度の風魔法など我々には効かん!!」
「じゃあ逆回転の竜巻を食らってみる?」
「何!?」
「逆回転【ウインドトルネード!】」
「ぐ、ぐああああ! 2重詠唱とは驚きだが、まだ耐えられる!! この魔法効果が終わった時が貴様の命の終わりだと『そうですか、では【サンドストーム】』さ、三重発動だと!!」
小さな砂粒も風の威力によっては鋭利な刃物と化す。
風と砂によって徐々に竜の鱗も削り取られて行き、竜巻の中が徐々に赤く染まって行くと断末魔が響き渡るのだった。
「よくも!」
残った1匹がアーヤをその爪で貫こうとしたが、それより早く彼女の詠唱が終わった。
「う~~ん。 こうすればもっと効率が良いのかな? 【サンドランス】【ウォータランス】【ウインドカッター】これを1つに纏めて放てば!」
「は!?」
〖シュイン!〗
「そんな……。 俺がこんな矮小な存在に……」
それだけ言い残すと黒トカゲは左右に分かれて物言わぬ塊と化した。
それを確認したアーヤは手を上げてテトラに処分が終わった事を報告した。
「テト姉、こっちも終わったよ!」
「苦戦せずに倒したのは偉いけど3重詠唱はやり過ぎよ。 まぁ、今回は時間が無いから良いけど、次に機会があるなら手数を少なくして倒してみなさい、アーヤ」
「は~~い。 さて……っと、残りの皆さんはどうする? まだ私達を食べるつもりかな?」
私とアーヤが4匹の黒トカゲを瞬殺した事で、元仲間の緑竜を貪り食っていた連中も口をあんぐりと開けた状態のまま固まってしまっていた。
「おい、どうするよ?」
「どうするも何も俺達が敵う相手だじゃない……。 ここは逃げ一択だろ!」
「だな! じゃあなチビ共、今度会った時殺して……、ゴボ……。 へ?」
「いけませんね~~。 せっかく数少ない食料を提供したのですから逃げるなんてダサい真似をしないで下さいよ。 元緑竜様方?」
「誰だ!?」
「ほっほっほ。 もう忘れたのですか? 私達ですよ」
「お、お前は俺達が食い殺したはずの……、あの村の村長と村人共……」
「正解です、さっきぶりですね?」
そこには私達を食事に招待した村長や村人達がニコニコと微笑みながら、木々の間から出て来ると私達を包囲し始めていた。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
今回はテトラとアーヤの活躍する話となりましたがいかがでしたでしょうか?
今後も物語を終わりまで書いて行くつもりなので応援よろしくお願いいたします。
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