竜達、魔国オートリスに到着する。
【風竜ローレリヒ達の視点】
儂らは共也殿の依頼を受けて、オートリスに向けて空を高速で飛んでいたがそろそろかの国の領域に差し掛かろうと言う所まで来ていた。
「アグロップ。 そろそろ魔国オートリスの領域に入るから、敵意が無い事を示す為に速度を落として行くぞ」
「ああ? 俺はそんなまどろっこしい事をするつもりはねえぜぇ!!」
「アグロップ!? 話を聞け!! お前、このまま速度を落とさずに近づいたら!」
「ヒャッハー! 俺は誰にも止められねぇ!!」
「アホか、止まれ! 止まるんだアグロップーーー!! あの馬鹿! 共也殿に言われた事をもう忘れたのか!?」
アグロップの馬鹿は儂達を振り切って全速力のまま、オートリスの支配領域に突入してしまった……。
儂は血の気が引く思いでいたがそれは他の者も同じ様で、どうするか尋ねて来たが儂だってどうして良いか分からんわ!!
だが、族長である儂が狼狽える訳にもいかない。
「ローレリヒ様、どういたしましょう?」
「放って置け! 共也殿の言う事が正しいなら理性的な方達が今集まっているはずだから、命まで取られる事は無いだろうよ……」
「アグロップさんが竜の姿のままその強者に突っかかったら、肉として狩られませんかね?」
「…………少し急ぐか」
「はい……」
儂達は本当にアグロップが肉として狩られない事を祈りながら、少し飛ぶ速度を上げて急ぐ事にするのだった。
=◇===
【オートリス城の執務室】
ここオートリス城の執務室では、ルナサス、シュドルム、ガルボの3人がヴォーパリア近辺に点在する村の人々を、どう救助するば良いか話し合いをしている所だった。
「シュドルム、ガルボ。 あなた達は西側の村々を救助して回ってくれるかしら?」
「ルナサス様、あなたは南側か?」
「そうねシュドルムの言う通り私はそこを受け持つわ。
でも東の村人達の救出する為には手が足りないわね……。 いっその事、港町アーサリーにいる共也の仲間達に手を貸して貰おうかしら……」
「京谷殿達か。 確かに単体の戦力としては申し分ないが、多くの人を救助するとなると少なすぎるな……」
「ガルボ、じゃあどうするの? 急いで村人達を救助しないと魂を狩られちゃうわよ?」
「分かってる。 分かってるんだが……。 何か、何か手は無いのか? このままの戦力で救助に向かえば、救助に向かった先で不測の事態に対処出来無いぞ……」
そこへ慌てた様子の兵士が1人、執務室の扉をノックもせずに部屋の中へ入って来た。
「し、失礼します!」
「何事だ! 今は重要な会議をしていると知っているだろう!」
「はい! ですが緊急です! 緑竜が1匹こちらに猛スピードで迫って来ています!」
「何だと!?」
3人は目線を合わせて頷くと一旦会議を中断して、その緑竜の迎撃に向かった。
ルナサス達が緑竜を迎撃する為に庭に出ると、そこには特攻服を着たガラの悪そうな1人の男が兵士達に囲まれているだけで、緑竜など何処にも見当たらなかった。
「皆の者無事か!? 問題の緑竜は何処だ!?」
「シュドルム様! こいつです。 こいつがその緑竜です!」
「いや。 どう見ても只のガラの悪い男にしか見えないんだが?」
「シュドルム様信じて下さい! こいつは地上に降り立つと光り出して、人に変化したんです!」
「人化の術を使う緑竜だと言うのか?」
「人化の術が使えると言う事は俺達の会話も理解しているはずだ。 男、名を名乗れ」
「うっせえな……って、おいおい! こんな所に良い女がいるじゃねえか! おいそこのピンク髪の女!」
その暴走族の様な恰好をした男は、よりにもよってルナサスの事を指差した。
「……ピンク髪の女って私の事かしら?」
「周りにお前しかピンク髪の女なんていねえじゃねえか!」
「そうね。 で? 私に何か用?」
「お前! 俺の女になれ!」
シュドルムを含め、その場に居る全員がその台詞を聞いて凍り付いた。
ルナサスは先日、共也と婚姻関係を結んだ事を幸せそうに語っていたばかりだったからだ……。
「は? あんた正気? そんな提案を受ける理由が無いし、鏡を見てからもう一度出直して来なさいよ」
「はぁ!? 手前……、俺が優しく言ってやってるのに調子に乗りやがって……」
「あんたが本当に緑竜が人に変化した姿だったとしても、そんな常識すら身に付けていない男に私が靡く事は無いわ。 シッシッ! 2度と面見せんなトカゲ野郎!」
「トカ! …………良いだろう。 どうやらお前は1度叩きのめしてから、俺様に従順に従う様に躾ける必要がありそうだな!」
「あんたみたいなトカゲが私を叩きのめす? 面白い冗談ね」
「お、おいお前……。 そろそろ冗談は止めた方が良いぞ? この方は曲がりなりにも」
「シュドルムさん、どうやらこのトカゲにはキツイお灸をすえないと分からないみたいだから、少し黙っててくれるかしら?」
「…………殺すなよ?」
「善処するわ」
ルナサスはそう言うと無表情のままアグロップが立つ場所に歩み出た。
「さあ出て来たわよ。 で? 勝負は相手を気絶させれば勝ちって事で良いの?」
「随分と余裕じゃねえか。 それで構わねえぜ! おい、お前等もし賭け事をするなら俺に掛けな! 損はさせねえぜ?」
〖ざわざわ……〗
ざわめきが起こる中1人の兵士が口を開いた。
「馬鹿を言うな。 勝負にすらならないのが目に見えてるのに、賭けが成立する訳ねえじゃねえか……」
「は、はぁ~! 見ろ女、兵士達も俺の勝ちを確信してるようだな! これでお前は俺の」
「本当に弱い奴程口が達者よね……。 さっさとかかって来なさいよ2流、いや3流のトカゲさん?」
片手を前に突き出し手招きをするルナサスに、上機嫌だったアグロップの真顔になった。
「手前……。 傷物にされても文句言うんじゃねえぞ……」
「いちいち口上が長い! ガルボさん、審判をしてもらって良いかしら?」
「分かった。 両者構え!」
「絶対にお前を俺の女にしてやるよ!」
「……………」
そしてガルボは上げていた片手を振り下ろした。
「始めい!」
開始の合図と同時にアグロップは猛スピードでルナサスに突っ込んで行った。
「これで仕舞だ! 食らえい!!」
アグロップは拳を握り締めてルナサスを殴ろうとしたが、彼女はすでに片手を振り上げて迎撃準備を完了していた。
「遅い!!」
〖バチコーーーン!!〗
「ブベ!」
〖バゴーーーン!!〗
「うお! 土煙が!!」
兵士達はアグロップが殴られたと同時に凄まじい土煙が上がった事に驚いていたが、少しして土煙が晴れると、そこには上半身を地面に埋めた状態でピクリとも動かないアグロップの姿があった。
「勝者、ルナサス殿!」
「ふん、私に手を出そうだなんて100年以上修行してから出直しなさいよ!!」
すると審判をしていたガルボがアグロップを土の中から引き抜くと、どうやら気絶しているだけで命に係わら無い事を確認したガルボは彼を放り投げると、ルナサスに話し掛けた。
「まぁ、あなたに手を出す出さない以前に、すでに共也との婚約が決まっているのですから、元々応じる気なんて無いのでしょう?」
「う、うん。 せっかく私を受け入れてくれた共也以外の男を認める気は……、って公衆の面前で何を言わせる気なのよ! ……えへ♪」
共也と幸せな家庭を築いている場面を想像したのか、ルナサスは両手で顔を挟むと幸せそうに笑っていた。
「魔王2人を嫁に迎える決断をした共也の懐は深いな……、あいつが帰って来た時に何人嫁が増えている事やら……」
ガルボが呆れた声を呟いていると、兵士達が海岸側を指差し騒ぎ始めていた。
「シュドルム様! 緑竜の大群がこっちに向かって来ています!」
「お~~、凄い数だな……。
お前等絶対に手を出すんじゃ無いぞ。 タイミング的にこいつのお仲間だろうから俺達に何か用事があるんだろうさ」
『「「はっ!!」」』
シュドルムの警告を聞いた兵士達が緑竜達が降下してくるのを静観していると、群れを率いる竜が庭に降り立つと同時に光り輝き始め、光が収まるとそこには初老の男へと変化した人物が立っていた。
すると彼は膝を折って地面に座ると私達に対して綺麗な土下座をするのだった。
「この馬鹿が、大変申し訳ありませんでしたーーーー!!」
『申し訳ありませんでしたーー!!』
「はい?」
人に変化した緑竜達全員が私達に対して土下座をしているので、取り合えず立って貰い何故この様な事になったのか先程のリーダーらしき初老の男の人に説明を求めると、彼の口から予想だにしない名前が出て来た事に驚いた。
「あなた達を派遣したのは共也だって言うんですか!?」
「そうです。 私達もヴォーパリアの連中に子供達を攫われてしまい、どうやって取り返そうか全種族の族長達と考えていた所に、共也さんが現れてあなた達と一緒に行動する事を提案してくれたのです」
「あの人は竜達が住む島にまで絆を結びに行ったのね……。 本当に規格外の人ね……」
「えっと……。 結びに来たと言うか……、姫が攫って来たと言うか……」
「……ま、まぁ、その話は後で聞くとしましょうか」
「えっと、ローレリヒ殿。 あなた達は我々の作戦に参加して下さると言う事でよろしいか?」
「勿論です、我々はその為にここまで来たのですから遠慮なく戦力として組み込んで下さい。 それなのにこのアグロップの馬鹿が先走った上に、共也殿の奥方を自分の女にしようなど言語道断だ!!」
「ねぇねぇ、シュドルム、ガルボ、聞いた!? 私って共也の奥さんに認定されてるみたいだよ!?」
「あ~~。 嬉しいのは分かったから少し落ち着いてくれルナサス殿」
嬉しそうにはしゃぐルナサスを2人が落ち着かせていると、ローレリヒ殿がアグロップを睨みつけると手を伸ばした。
「それなのにこの馬鹿が!」
ローレリヒ殿はそう言うとアグロップの後ろ髪を掴むと、地面に何度も叩き付けるものだから、庭が徐々に蜘蛛の巣状にひび割れて凹み始めていた。
「ローレリヒ殿、ストップ、ストップ! それ以上やると死んでしまいますから、取り合えず会議室に移動して今後の事を話し合いませんか?」
「分かりました。 おいお前等、行くぞ! アグロップの馬鹿を連れて行くのを忘れるなよ。 後でしっかりと説教するのだからな!」
『了解です、族長!』
こうして緑竜達の参戦と言う思いがけない戦力を手にする事が出来た私達は、手の足りなかった東側の村々を解放する手伝いをしてもらおうと、頭の中で作戦を考えていた。
共也、龍の姫と婚約した話は少し気になるけど、緑竜達を派遣してくれた事は本当に助かったわ。
緑竜達が参戦してくれた事で、ここからだと遠すぎて救出する事が困難だと諦めかけていた東側の村人達を助け出す事が出来る。
緑竜達とアーヤとテトラを加えた部隊を編制出来る事に、心の中でほくそ笑む私達3人だった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
今回からルナサスやガルボ達の視点となりますので、共也達の話しは少々お待ちください。
モチベーション維持の為に、評価などしてくれたら嬉しく思います。




