子供達の探索
「共也兄さん、王都はこんな大きいのに、何処から探したら良いんだろ……?」
「分からない……。 でも、髪色の違う子供が3人で歩いていたんだ、目撃した人がいたら必ず印象に残ったはず。 商店街の様な人通りの多い場所で聞き込みをすれば、必ず誰かから話を聞けるはずだ」
まだ地理に詳しく無い俺達が当ても無く探し回った所で見つけられるはずも無い。 人通りの多い場所を選び、3人を目撃した人が居る事を祈る事しか出来なかった。
「ジェーン、3人がこの街の中にまだいるなら、色々な場所に詳しい兵士達が見つけてくれる可能性が高い。 だから俺達は別のやり方で3人を探そう、な?」
「うん……」
袖で涙を拭うジェーンを慰めながら街道を移動していると、いつの間にか露店が多く出店している路地に出て来ていた。
「これだけ人通りが多いならもしかして……。 すいません!」
「何だい? 何か買ってくれるのかい?」
「い、いえ……。 今はちょっと持ち合わせが無くて……じゃない! 水色、緑色、黒色の3人の子供を見かけませんでしたか!?」
「3人の子供? 迷子なのかい? いや、それらしい娘は見掛けなかったね……。 隣の、あんたは見かけたかい?」
「いや。 俺は見て無いな」
「そうですか。 忙しい所、いきなり尋ねてすいませんでした」
「良いんだよ。 子供達、見つかると良いね」
店主や行き交うお客さんに3人の子供達を見かけなかったか尋ねたが、結局芳しい答えは返って来なかった。
「3人の子供かい? う~~ん。 子供と言われても、見ての通りこの辺りにも沢山いるからねぇ……。 ごめんなさいね……」
「あはは、待て待て~~!!」「ちょっと、私の肉串食べないでよぉ!」「そう言えば、リディアちゃんどこ行ったか知ってる?」
確かに露店の中で店番をする子供もいれば、買い食いや遊ぶ子供達も沢山いる。 3人の子供達なんて珍しくも無い……。 3人を探し出すのは絶望的か……。
「ねぇ。 もしも、あんたたちがどうしても急ぎで子供達を探し出したいと思っているのなら、そこの路地を曲がった場所で占いをしている、お婆さんに子供達の事を聞いて見るといいんじゃないかい?」
「共也兄さん……」
「あぁ、行ってみよう」
その貴重な情報をくれた露天商のおばさんにお礼を言い、急いですぐ傍にあった路地裏に入ると、そこには如何にもという雰囲気を醸し出すお婆さんが大きな水晶玉を机の上に出したまま、俺達の事をジッと見ていた。
「おや、異世界人が2人も私の所に来るとは、こんな珍しい事が起きるなんて明日は雨かねぇ……ふぇっふぇっふぇ」
これが俺と【占い師カーラ婆さん】との最初の出会いだった。
警戒心を最大にした状態で、俺とジェーンはその占い師に声を掛けた。
「……何故俺達が異世界人だと分かったんです?」
「占い屋を長年やってるとね、その人物がどの様な生まれで、どの様な人生を送って来たのか見たら大体分るんだよ」
「そうなんですね。 でも俺達は今急いでいて『3人の子供達』……えっ?」
「だから3人の子供達の居場所を聞きたくて、私を訪ねて来たんだろう? 条件次第でタダで占って上げても良いよ? 今、2人は一文無しなんだろう?」
「「あっ!」」
そうだった。 今俺とジェーンは、お金と呼べる物を持っていない。 要するに一文無しだ……。
「呆れた……。 今更自分達が一文無しだと気付いたのかい……。 もし、私以外の占い屋に聞くつもりだったらどうするつもりだったんだい……」
「急いで子供達を探さないといけない思いが強くて、つい忘れていました……」
「別に咎めるつもりは無いよ……。 まぁ急いでいるみたいだし、チャチャっと子供達の行方を占う事にしようかね」
「占ってくれるのは嬉しいのですが、タダにする条件を先に教えてくれると……」
「ん? おや、そうだったね。 タダにする条件、それはお前さん達2人を占わせる事だよ」
「え? そんな事で良いの? カーラおばあちゃん」
「面倒な条件で逃げられても面倒だからね。 その代わり、子供達を無事に保護する事が出来たのなら、ちゃんとここに来るんだよ? 異世界の人間を占う機会なんて、そうある事じゃないからね。 ふぇっふぇ」
俺達を占うだけで良いなら、断る理由は無いな。
俺が先に返答しようとしたが、先にジェーンが口を開いた。
「その条件を飲みます。 だからお願いおばあちゃん、3人の居場所を占いで探し出して下さい」
「カーラ」
「え?」
「私の名はカーラ。 占い屋をしているカーラだよ」
「分かりました。カーラおばあちゃん!」
「良いね、私は素直な娘は大好きだよ。 優男、その娘を大事にして上げるんだよ?」
「優男って……。 あ、そうだ名乗るのが遅れてました。 俺の名は最神 共也、こっちの女の娘はカナリア=ジェーンです」
「分かった共也、ジェーン、子供達の居場所を占うからこっちに座って水晶玉を見つめておくれ」
占い師カーラ婆さんの提案に頷くと、俺達は机の上に置かれた水晶玉の前に座りジッと見つめた。
「ほら、見えて来たよ」
机の上に乗せられた水晶玉が徐々に淡く光り始めると、カーラ婆さんは手を翳し何かの呪文を呟くと3人の行き先が見え始めた様だ。
「ふむ……。 お主達の探している3人の女の娘が、すでに南門から外に出て左手にある森の中に入って行く姿が見える……。 危険じゃな。 あの周辺は、最近ゴブリンが良く出没するから兵士達からも注意喚起されているのじゃ……。 もし、助けに行くつもりなら急いだ方が良いかもしれぬ……」
「共也兄さん!」
「あぁ!」
その占いの結果を聞いてすぐ椅子から立ち上がり南門に向かおうとするが、一度立ち止まりカーラお婆さんに頭を下げた。
「カーラさん、この借りは必ず返しに伺います!」
「早く行きな。 時間は待ってはくれないよ」
「おばあちゃん、また後でね!」
急いで路地裏を抜けて南門へ向かおうとした俺達が体の向きを変えると、背後からカーラさんのアドバイスと捉える事の出来る声が聞こえて来た。
「共也! 水だ、水に関係ある存在が、お前の運命を大きく変えてくれると私の占いに出ている。 お前は焦らずユックリ強く成って行くんだよ!?」
その言葉を尋ねようと振り返るが、そこにはすでにカーラ婆さんの姿は無く、そこに彼女が確かにいた事を証明する机が有るのみだった。
先程まで一緒に会話していた俺とジェーンは、2人してその場で呆然とするしかなかった。
「と、共也兄さん、カーラお婆さんの事も気になりますが、今はみんなを……」
「そ、そうだな……。 ここに来る道中に見かけた兵士達にも先程の情報を流して、3人を連れ戻す手伝いをして貰おう」
「はい!」
子供達を探してくれている兵士達に、3人の居場所が分かった事を伝える為に急いでその場を離れようとするが、俺の耳にはカーラ婆さんの最後の言葉がいつまでも残り続けた。
水に関係ある存在が、俺の運命を変える……か。 一体誰の事を指してるか分からない以上、今は子供達を探す事を優先しないと……!
南門に向かっている道中に、3人を探してくれている兵士達と遭遇した俺達は、カーラと言うお婆さんに占い師に占って貰った結果を伝えたが、確定情報じゃないため微妙な顔をしていた。
「え~~っと……。 大変申し上げにくいのですが、流石に占いの結果を信じて動くのは、我々としても……」
ですよね~~……。
あまりにも唐突だった事と、占いで3人の居場所を知ったと言われても、俺だって同じ反応をするよ……。
その結果、数人の兵士しか付いて来てもらえなかった……。
まぁ、数人の兵士さんが護衛に付いてくれただけでも上出来と思うしかないか……。
=◇===
「見えた、南門だ!」
付いて来てくれた兵士に南門までの道案内を頼み、ようやく南門を守る兵士会う事が出来た。
「どうしたんだお前達。 そんなに息を切らせて」
「はぁ、はか、いきなりすまない。 こ、ここを子供達が3人通りませんでしたか!?」
「子供達だと? 詳しく特徴を教えてくれ」
3人の子供の特徴を伝えた所、1人の兵士が思い出した様で『お使いがあるのから少し都市の外に出てきます』と言われたので、一応ゴブリンに注意しろと伝えた上でここを通した。 と言われた俺達は、カーラ婆さんの占いが当たったと判断して、門を出てすぐ左手にある森の中に分け入った。
「共也兄……。 森の中が薄暗いです……」
勢いで森の中に入った俺達だったがすぐに後悔する事となった。
森の中はすでに薄暗くなり始めていて、早く見つけて上げないと真っ暗になってしまい身動きが取れなくなってしまう。 それに、もし戦闘手段の無い子供達がゴブリンに出会ってしまった場合は、命の危険もそうだが、連れ去られてしまう可能性が高い……。 そうなったら、後日何とか助け出したとしても……。
「ジェーン!」
「は、はい!?」
「こんな時に悪いんだが、ジェーンの取得したスキルを確認させてもらって良いか?」
「共兄さんになら私のカードを見せても構いませんよ。 これが私のスキルカードです!」
「すまない!」
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【名前】
・カナリア=ジェーン
【性別】
・女
【スキル】
:忍術
:気配遮断
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気配遮断を持っていると言う事は、もし俺に何かっても彼女だけは逃がす事が出来る……。
「もし俺達に何かあったら、気配遮断のスキルを使ってジェーンだけでも逃げてくれ」
「そんな……。 私が共兄を巻き込んだのに……」
「犠牲になるつもりは無いさ。 それにジェーンだけでも逃げ伸びてくれれば、救助隊を呼ぶ事が出来るだろう? 保険だよ保険」
「……何となく言い方が気になりますが。 今は時間が無いので、共兄を信じる事にします」
「ありがとな……」
空元気で笑顔を作った俺は、ジェーンにスキルカードを返し、皆でさらに森の奥に進んで行った。
『きゃ~~~~~~~!!』
森に生える草を掻き分けながら移動していると、絹を裂いた様な子供の悲鳴が森全体に響き渡った。
「この声は小姫ちゃん!? 共兄、急ごう!?」
声がした方向に進んで行くと、藪を掻き分けて4人の子供が飛び出して来たが、彼女等追いかけて来たのか、緑色の肌をした小人が耳障りな鳴き声を上げながら何体も藪を突き破って来た。
(卒業式の時に襲って来たゴブリンそっくりだ……)
「風ちゃん、冷ちゃん、小姫ちゃんこっちに早く!」
「ジェーンちゃん!? に、逃げて! こいつらだけじゃない。 一回り大きな固体の奴も、私達を追いかけて来ているの!」
「おい、ゴブリンだ! 子供達を守れ~~!!」
『おお!!』
兵士達は即座に陣形を組むと子供を守る為に、次々にゴブリン達を切り伏せて行く。
「みんな……。 無事でよかった……。 でもその子は一体?」
そう、5歳位の銀髪の少女が息も絶え絶えの状態で座り込んでいたのだ。
「この子は、森で迷っているのを見つけて保護を……。 そうだ、皆早く逃げて! 私達を追いかけて来奴がすぐ近くまで来てるの!!」
「何だと!? こいつ等より体が一回り大きいと言う事は……、まさか!」
「ぐえっ!」
小姫ちゃんの声に反応して振り返った兵士の1人が、藪から出て来た存在に不意打ちを受けてしまい俺達が居る場所に吹き飛ばされて来た。
「兵士さん、無事か!?」
「・・・・・・・」
慌てて返事が無い兵士の様子を確認すると、どれ程の衝撃を受けたらこうなるのか分からないが、鉄製の鎧の胸部が砕け散って気絶していた。
「こんな事が出来るって事は、まさかゴブリンの上位種が来ているのか?」
この後俺は考察などせずに、さっさと逃げれば良かったと後悔した。 兵士が吹き飛ばされた地点から近場にあった藪の中から、通常のゴブリンより一回り身長が高い上に肌の色も濃くなっている個体が出て来たのだった。
「な、あの濃い緑色の肌を持つ奴、てゴブリンより一回り以上大きい。 ちっ、ホブゴブリンか、何でこんな都市から近いこの森に!」
ホブゴブリンと呼ばれた固体は、こん棒を振り切った体勢で立っていた。
「お前ら逃げろ! こいつはホブゴブリンだ。 まだ戦闘訓練をまともに受けてないお前らが敵う相手じゃない!」
声を荒げて俺達に逃げろと言うおっちゃん兵士だが、子供達の足腰が立たない程疲れていて座り込んだまま動けないでいた。
少女達の腕を引いて何とか立たせようとするジェーンだったが、4人はここに来るまでに体力を使い果たしてしまったのか、立つ事すら出来ない程疲弊していた。
「子姫ちゃん達立って! 兵士さん達が魔物達を押さえてくれてる間に、少しでも距離を稼がないと!」
「助けに来てくれたのに、ごめんねジェーンちゃん。 足が痙攣してもう立つ事すら出来ないの……。 私達は大丈夫だからここに置いて行って。 ね?」
「そんな誰にでも分かる嘘に頷く訳無いでしょ!! 絶対に皆で帰るんだから!」
「ジェーンちゃん……。 分かった。 何とか立ってみせるから、この子だけは背負って上げて」
「お、お姉……ちゃん……」
「この娘は俺が背負うよ。 良いかな?」
「う、うん……」
名も知らない少女を背負い、3人を無理矢理立たせた所で、兵士達の間をすり抜けた1匹のゴブリンが、背負ったばかりの少女に向かって棍棒を振り下ろした。
「やらせるか!」
俺は無我夢中で腰に掲げていた剣を抜いた事で、手に肉を切り裂く感触が伝わって来た。
「ぐ、ぐ……」
ゴブリンは苦悶の表情で動きを止めると、左脇腹から右肩にかけて線が走ると2つの肉片に分かれ、地面に紫の血溜まりを作った。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。 俺は今何をした……?
剣を持つ手が震えている。 まさかと思い後ろを振り返ると、血溜まりに沈む2つの肉片が目に入った。
(あれは、ゴブリン……なのか? 俺が殺した……のか……? ぐっ!)
その事に思い立った瞬間、俺が気付いた時には胃の中の物を盛大に地面に吐いていた。
「共兄! 大丈夫?」
「ジェーン、すまない……」
「おい、ゴブリンを1匹仕留めた事は誉めてやるが、俺達の実力だとこいつを足止めするのが精一杯だ!救援を呼ぶなり逃げるなりしないと、本当にここで全滅するぞ! ぐっ!!」
必死にホブゴブリンを抑えてくれていたおっちゃん兵士も、ホブゴブリンの持つ棍棒の1激を遂に食らってしまい気絶させられてしまった。
「隊長!?」
「グゲゲゲァーーーー!!」
隊長が気絶させられた事で均衡が崩れてしまい、次々に棍棒の1撃で気絶させられてしまい残った兵士は3人だけとなってしまった。 少女を背負ったままの俺は背を向ける訳にもいかず、剣を向けて威嚇するしか手が残されていなかった。
「ジェーン、今更ここを離脱して救援を呼んで来てくれって言っても遅いよな……」
「流石に無理に決まってるじゃないですか。 それに、ホブゴブリンの奴にバッチリ見られてるんですから、気配遮断も効果がありません……」
「だよなぁ……。 まさか、転移して数日で死ぬ事になるとは運が無いな……」
「共兄、巻き込んでしまってごめんなさい……。 もしこの世界にあの世と言う物があるなら、いっぱい謝りに会いに行きます」
「まだそうなると決まった訳じゃ無いんだ、最期まで足掻くぞ!」
「はい!」
一瞬ジェーンに視線を向けた一瞬の隙をホブゴブリンは見逃さず、俺の頭に向けて棍棒を振りかぶっている所だった。
防ぐ事が出来ないと判断した俺は、咄嗟に背中の少女だけは守ろうとしたが、いつまで立っても棍棒が直撃する事は無かった。
「共也、身を呈して子供を守ろうだなんて、恰好付けすぎだよ?」
聞き慣れたその声にゆっくりと目を開けると、そこには光る壁がホブゴブリンの攻撃を防いでいる光景が目に入った。
「この光る壁は……結界か? と言う事は、鈴か!?」
「せいか~~い。 取り合えず目的の子供達が無事に見つかって良かった」
声がする方角に視線を向けると、そこには茶髪のもみあげを鎖骨辺りまで伸ばし、後ろ髪をセミロングにしている林 鈴が右手をこちらに向けて結界を張っていた。
「皆さん、子供達の保護をお願いします」
「ははっ!」
子供達を保護するように、と連れて来た沢山の兵士に指示を出すエリアの顔を見て俺は安堵した。
助かった……のか。
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【名前】
・林 鈴
【性別】
・女
【スキル】
:結界魔法
:形状自由
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『ぐがあぁぁぁぁ!!』
どうやら鈴の結界に閉じ込められたホブゴブリンは未だに子供達の事を諦めていない様で、棍棒で何度も結界を殴り続けていた。
「鈴、結界で閉じ込めたのは凄いが、こいつの事どうするつもりなんだ?」
「ゴブリンの上位種、ホブゴブリンだっけ? まあ何とかなるんじゃないかな、ここは鈴さんにまっかせなさ~~い!」
「不安だ……」
ホブゴブリンが鈴の結界に閉じ込められて身動きが取れないでいる間に、俺達はエリアと合流して兵士達の治療を開始しした。
「さて共也。 結界を自由な形で作り出して戦ってた、昔の漫画があったの覚えてる?」
「確か週刊誌でそんなのが連載されてたな……って、お前まさか……」
「そのまさかだよ! ふふふ……さあホブゴブリン君、私の結界術の実験に付き合って貰うよ!」
鈴は薄く笑いながらホブゴブリンの前後に2枚の結界を生成すると、勢いよく挟み込んだ。
『グゲアアァァ!?』
前後から挟まれてしまったホブゴブリンは身動きが取れなくなってしまい、苦しそうに結界を鋭い爪で引っ搔いているが傷すら付く様子すら無い。
「さてさて、捕まえる事に成功したのは良いけど、共也の言う通り実際こいつをどうしたら良いんだろうね……。 エリア王女、こいつらってさ生け捕りして意味ある?」
「いいえ無いですね。 むしろ街中で捕縛を解かれて暴れられでもしたら被害が出てしまうので、かえって迷惑になってしまいますね……」
「ふむふむ。 だってさホブゴブリン君、残念だけど君も兵士達を傷つけたんだから覚悟は出来てるよね? さよならだね」
そう言うと鈴は鋭角に尖った結界を作りだし前後の壁に突き刺した。
「グゲ!!!」
ホブゴブリンが結界に挟まれた状態でしばらく抵抗していたが、それも少しすると収まり動かなくなった。
(……もしかして今俺達の中で一番強いのって鈴なんじゃないか?)
そう思わせる程に、鈴はホブゴブリンをあっさりと倒してしまった。
動かなくなったホブゴブリンの体が紫色の煙へと変わり、すぐに周囲へ霧散していった。
煙が晴れた場所には握り拳位の紫色に光る魔石が転がっていたのだが、鈴はそれを無造作に拾い上げるとこちらに投げて寄こした。
慌ててその魔石を受け取ると、鈴は何故か明後日の方向を見ながら頬を染めていた。
「これを上げるから元気を出してね、共也」
「鈴、お前はいらないのか?」
「うん、どうせまたすぐ手に入るだろうし、幼馴染連中に元々渡すつもりだったんだけど、共也には借りがあったからさ……」
「借りって何のだ?」
「ホラ、卒業式の時、ゴブリンから守ってくれたでしょ?」
「…………ああ! あの時の事か、気にしなくて良かったのに」
「良いの! 私があんたに借りを作りたく無かっただけなんだし……」
鈴は何か必死に誤魔化そうとしているが、それ以上追及するのも野暮だと思い俺は感謝を伝えた。
「まぁ良いか……。 じゃあこれで貸し借り無しって事で良いな? 鈴、ありがとな」
「ニヒヒ、鈴さんに感謝したまえ? それじゃエリア王女、子供達も見つかったし私は帰るね?」
「ええ、助かりましたゆっくりと休んでください」
俺達はこのあとエリアの治療魔法によって目を覚ました兵士さん達と一緒に、すでに霧散したゴブリン達の小さな魔石を拾い上げると、王都に子供達を連れて帰還するのだった。
2,000字では少し少ないかと思い今回は約4000字辺りで纏めてみました。
次回は子供達の謝罪と再会の予定です。




