冒険者ギルドとして出来る事。
「カーター。 あなたの力であの老害共を排除する事は出来ないのですか?」
「排除か……。 1人、2人なら出来無くも無いが、奴らはヴォーパリアでの暮らしが素晴らしいと言って何人も住みついてる。
流石に元とは言え、上位冒険者だった奴らを相手にするのは俺一人では厳しいな……」
ノインちゃんの悔しがる姿を見た私達は何とか組織を浄化する事が出来ないか考えていたが、やはりそう簡単な話しでは無い様だ……。
「バリスの奴も巻き込めば少しは戦えるだろうが、それでもまだ戦力が足りない……。 せめてジュリアさんの協力を得る事が出来たなら、魔法戦に特化した奴らを排除する事が出来るのだろうが……」
「結局ジュリアさんの居場所は分からなかったの? カーター」
「ああ、冒険者ギルドがヴォーパリアを国として認めてしまった事で、彼女はギルドと言う組織に見切りを付けて去ってしまった。
それ以降、俺はずっと探してはいたんだが結局足取りがつかめてないんだ……」
「そう……」
「だが……」
「だが?」
「最近ジュリアさんの故郷ノグライナ王国で、良く似た人物を見かけたと言う噂話を聞いた事がある」
「ノグライナ王国か……。
確かにあの国なら可能性はあるわね、今あの国は大変な状況だし妹のリリーさんを可愛がっていたジュリアさんなら助けに駆けつけても不思議じゃ無いわね」
「柚葉さん、確かあの国にはあなたの幼馴染の鈴さんがいるんですよね?」
「そうよ、ノクティスさん。
菊流達に彼女の現状を伝えていたら、きっと助けに行くと言って駆け付けたでしょうから言えなかったんです……」
柚葉さんは知り合いの現状を伝える事が出来なかった事の罪の意識なのか、手が微かに震えていた。
「ノグライナ王国を攻めている奴と言えば【腐敗のノーチェ】か……。 あいつは容姿の整ったエルフを心底憎んでいたな」
「アケロー、あなたノグライナ王国を攻めてる奴を知ってるの?」
「ああ、あいつも幼年組と言われた転移者の1人だ。 能力も二つ名が表している通り『腐敗』のスキルを持っている。
もし鈴さんを、ノグライナ王国を救いたいと思っているのなら急いだ方が良いのかもしれない」
「……でも今まで鈴がその腐敗の侵攻を防ぐ事が出来ていたのだから、暫くは持ち堪える事が出来るはずよ。
菊流達も合流出来た訳だし、急いで準備を終えて駆けつければ間に合うはずよ」
「いや、柚葉さん急いだ方が良いと思うぞ」
「タンブロ?」
タンブロが急いでノグライナ王国に駆けつけるべきだと主張する事に不安を抱くが、まずはその理由を聞かない事には判断しようが無い。
「確か俺達がここに向かうちょっと前に、何時まで経ってもノグライナ王国が落ちない事に苛立った上層部の判断で魔将の1人が派遣されたはずだ」
「魔将の1人が?」
「ああ。 そいつがどの様な能力を持った奴なのか俺には分からないが、魔将の名を持っている以上普通の強さではないはずだ」
「そんな……。 鈴……」
「柚葉さん、鈴さんの救援、もしかしたら急いだ方が良いかもしれないですね」
「そうね……。 後で菊流達にも相談してみるわ」
私達がノグライナ王国に居る鈴を助ける為の計画を練り始めている間も、マリーダさんとカーターさんは冒険者ギルドをどうするか話し合っていた。
「カーター。 あなたはこのまま老害共の暴挙を静観するつもり?」
「……マリーダ。 回りくどい事を言うな。 お前は俺にどうしろと言うんだ?」
「なら言わせて貰うわ。
カーター、あなたが号令をかけて他のギルドマスターと手を取り、ギルドの最高責任者と言う椅子にしがみついているジジイ共を引きずり下ろしなさい」
「なっ! 正気かマリーダ!?」
「勿論よ。 奴らに対して情報遮断の手が使えないと分かった以上、もう誰かが先頭に立って奴らを実力で排除しな事には、冒険者ギルドを人々に寄り添った組織として存続させる事なんで出来ないわよ?」
「だが、俺が象徴的な存在として指揮を取るのは無理だ……」
「何でよ!?」
てっきりカーターが御旗となって冒険者ギルドを老害共から取り返してくれると思っていたマリーダさんは、声を荒げて彼を非難した。
「冒険者は実力を重視するのはお前も知っているだろう?」
「確かにその傾向があるのは知ってるわ」
「俺も一応実力でギルドマスターの席に座ってはいる自負はあるさ。
でも歳を取って実力が落ちたとは言っても、化け物と呼ばれたあいつ等を排除するだけの実力が俺にあると思うのか?」
「そ、それは……」
「マリーダ……。 そこは有ると即答してくれよ……」
「…………まぁ、それは置いておいて」
「置いておくなよ!! はぁ、取り合えず俺では御旗になるには実力不足って話なんだよ。 もし、年若くて実力がある奴がいるのなら……。 いるのな……ら?」
カーターはいきなり凄い勢いで首を動かすと、私達の話を悔しそうに聞いていたノインちゃんに視線を向けた。
「ひっ!」
唐突に自分に視線を向けて来たカーターに対して短い悲鳴が漏れてしまったノインは、少し後ずさりしてしまった。
「ノインちゃん、君はかなりの実力者だよね?」
「き、基準が分からないのですが、一般の兵士よりは強いつもりです」
「ふむ。 ノインちゃん、冒険者ギルドは好きかい?」
「えっと、好きですが……。 カーターさん、もしかして……」
「そう。 君に冒険者ギルドをジジイ共から取り戻すための象徴的な存在になってくれないか?」
ノインは暫くカーターに言われた事が理解できなかったが、時間が立ち意味が理解出来ると両手を前に突き出すと左右に振ってその依頼を拒否した。
「無理無理無理無理!! 絶対に無理ですって!!」
「そう言わずに頼むよ! もう君みたいに若くて可愛くて実力のある奴で冒険者ギルドに詳しい人なんていないんだからさ!」
「実力で言うなら、バリスお父さんやオリビアお母さんも立派な実力者じゃないですか!」
「それはそうなんだが……。 どうしても駄目かい?」
「私まだ8歳ですよ!? 将来大人になった私なら引き受けても構わないと思いますが、この歳の女の娘がですよ? 例えば冒険者の人達に『あなたの将来を私に掛けて下さい! さあ、あの老害共を引き釣り下ろしましょう!』と言っても鼻で笑われるだけじゃないですか!?」
「頭の中でその場面を想像したらかなりシュールな状況なのは理解した……」
「ですよね!?」
「だが、他に冒険者達の先頭に立ってくれそうな都合の良い人材に心当たりがないんだよな……」
他に良い人材がいない……。 そう考えていた3人だったが、ある人物の顔が頭の中を過った。
・若い
・冒険者のランクが高い
・実力者
・指揮に慣れている
「「「……………」」」
「柚ちゃーーーん♪ 君って冒険者ランクはSだったよねーー!?」
「ひゃい!」
いきなりマリーダさんに声を掛けられた私は驚いて変な返事をしてしまった。
「マリーダさん、いきなりなんですか!? 驚いて変な声で返事をしちゃったじゃないですか!」
「ごめんごめん。 でさ、柚ちゃん。 君、冒険者ギルド組合の最高責任者になる気は無い?」
「…………は?」
「マリーダ姉。 そんな説明の仕方だと俺も意味が分からないから順を追って説明してくれ……」
「ノクちゃん……。 分かったわよ……」
その後、マリーダさんから何故いきなり私に最高責任者の席に着かないか、と言って来たのか説明を受けたので納得は出来た。
納得は出来たけど、本当に1人の冒険者でしかない私がギルドの最高責任者にならないといけないの?
「ええっと……」
「勘違いしないで。 あなたに今すぐ最高責任者になれって訳じゃ無いわ」
「じゃあ、どう言う意味を持って私にこの様な説明を?」
「……柚ちゃん、あなたにはこの腐り切った冒険者ギルドの態勢を一度解体した後に、カリスマ的な存在としてその席に座って欲しいのだけれど、その為に必要な物って何だと思う?」
「実績……、ですか?」
「そうよ、その実績を作る為の場所。 それはいずれ必ず来るジジイ共との決戦の時に、最高司令官として指揮を取って奴らを殲滅する事よ。
そして、その功績を持ってギルドの最高責任者の席に着いて欲しいのよ……」
「マリーダさん、私は……」
「先程も言ったけど、すぐに答えを求めている訳じゃ無いからユックリ考えて答えを出して頂戴」
「はい……」
「それじゃそろそろ菊流ちゃん達の元へ戻る事にしましょうか」
結局私達はヴォーパリアの冒険者ギルドを各支部との情報共有の網から排除する事が出来なかったが、ボルラスのギルマスであろるカーターさんは、こちら側の人間だと分かっただけでもまだマシだと思うしかなかった。
そして、私は次代の冒険者ギルドの最高責任者に請われる身となってしまったのだった。
「俺が出来るのはお前等の情報を他のギルドに回さない様にする事くらいだ。 すまん……」
「カーター、それだけでも十分よ。 私は商売で、そしてあなたは冒険者達を率いてヴォーパリアの連中がこれ以上勢力を拡大するのを妨害する。
柚ちゃん達が、ヴォーパリアとの闘いの為の準備を終えるまでそれを続ける。 それで良いかしら?」
「ああ、でも柚ちゃん、君達がこの先活躍してジジイ共の耳に入る様な事になれば、必ず君達の情報を得ようとするはずだ。
俺も出来る限り妨害するつもりだが、限界はあるはずだ。 だからなるべく早く準備を終えてくれ」
「はい!」
こうして私達は会議室を出て菊流達と合流すると屋敷に戻り、冒険者ギルドで決まった事を報告した。
「柚ちゃん、冒険者ギルドの最高責任者の件。 受けるの?」
「……屋敷に帰って来るまでずっと考えていたけど、この件受けようと思うわ」
「柚葉さん! 本当ですか!?」
「ノインちゃん、まずはヴォーパリアでの決戦で最高司令官に任命されたらの話しよ?」
「いいえ、きっと柚葉さんなら選ばれるはずです!」
「ありがと……。 さて、菊流これからどうする?」
「どうするって?」
「このまま船の修理が終わるのを待ってから、ケントニス帝国に向かうのが1つ」
「うん」
「次は、ボルラスの北にある湖を超えてノグライナ王国へ行く選択肢よ。 どっちを選ぶ?」
ケントニス帝国は共也が生きているならきっと向かっているはず。
そして、ノグライナ王国には新たな魔将が向かっているらしいから、鈴とリリーが危ないって話なんだよね……。
共也とケントニス帝国で合流してノグライナ王国へ向かうか、このまま湖を超えて私達だけで向かうか……。
どうしよう……。
「菊流、迷ってるなら私が選択するけど良いかしら?」
「う、うん……。 お願い……。 私じゃ選べないわ……」
「分かった。 では選択するわね?」
「お願い」
「菊流。 私はまずケントニス帝国に向かって共也達と合流しましょう」
「え? 鈴達が危ないんじゃないの?」
「確かに鈴達の安否は気になるけど、いくら新たな魔将が派遣されたからと言っても鈴の結界術を突破出来るとは思えないのよ。
あなた達は知らないでしょうけど、鈴の結界術は頭がおかしいんじゃないかと言うくらい強化されてるから、きっと暫くは無事なはずよ」
「何だか柚ちゃん妙に詳しいね?」
「そりゃ何度も実験に付き合わされたしね……。 そのお陰で私でも突破は無理だって分かったからね!!」
何だか柚ちゃんの言い方に棘を感じるから、きっと何度も付き合わされたんだろうね……。
「でも、船の修理に相当時間がかかるんだよね?」
「う~~ん。 明日ある提案をアーダン船長に持ちかけようと思っているのよね」
「え? それはどんな事なの?」
「な~~いしょ♪」
柚ちゃんが人差し指を口に当てて、右目をウインクして来たが……。
「柚ちゃん。 三十路手前の女がそれをするのは痛々しくない?」
「五月蠅いわね!! 私の心は何時でも10代なのよ!!」
柚ちゃんの意外な一面を見る事となった私達だったが、彼女がアーダン船長に持ちかける提案って何だろう?
共也、ケントニス帝国に向かう事が出来そうだから、合流出来たら急いで鈴達を救いにノグライナ王国へ向かおうね。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回でボルラス編も終わらせる事が出来たら良いと思うので応援よろしくお願いします。
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