ヴォーパリアの情報。
〖ドスドスドスドスドスドス〗
「はぁ……」
「金髪のオナゴ。 溜息吐いてどうしただ?」
「何でも無いですから大人しく付いて来て下さい……」
「ぞうが?」
屋敷を襲撃して私達を殺そうとした連中を無力化して捕縛したが、その捕縛していた連中から情報が洩れる事を恐れたのか、別動隊によって暗殺されてしまった。
その暗殺した連中を追いかけて追い詰めたまでは良かったが、魔石を食べてオーガの様に大きくなってしまった健を連れて柚姉の屋敷に戻っているのだけれど、彼の姿や足音に驚いてしまった街の人達が野次馬として見に来るものだから、目立ってしょうがなかった。
そして、柚姉の屋敷の門前では屋敷の主である柚姉が睨みを聞かせた事で、何とか集まった野次馬達を解散させて敷地内に入る事が出来たのだった。
「ジェーンちゃん。 あっさり帰って来たと思ったらこのオーガは一体何?」
「話すと長くなるのですがこのオーガ、実は10年前に私達と一緒に召喚された1人、黒木健なんです……」
「は? もう少し詳しくお願い……」
「柚姉、実は……」
私は別動隊を追い詰めた所から詳しく話した。
茜ちゃんと斎藤さんと共闘して追い詰めた所や、健が魔石を食べて変異を起こしてオーガの様な体躯になった所まで、なるだけ分かりやすく説明したが信じられ無いらしく微妙な表情をしていた。
「な、何となく分かったけど。 この健と言うオーガはもう元には戻れないの?」
「分かりません。 どうやら何故魔石を食べたのかすら覚えていない様なので……」
「う~~ん、困ったわね。 幼年組が成長した実働部隊と言う事なら、きっとヴォーパリアの機密情報などを知っていただろうに、残念だわ……」
「柚姉、一応私達の戦闘で負傷して動けないでいた2人を捕縛して連れて来てますけど、どうしましょう?」
「あらそうなの? じゃあセバスにお願いしようかしら? 良いわよねセバス」
「はい、お任せください。 このセバスとメイド達ですぐにでも情報を吐かせてみせましょう」
「じゃあ任せるわ。 くれぐれも死なさない様にねね?」
「心得ております」
「はい、これよ。 逃がさないでね?」
「ほら、お前達の新しい住処に案内してくれるメイドさん達に逆らう様な真似はするんじゃないぞ?」
茜ちゃんと斎藤さんが担いでいた黒ローブの2人を地面に投げ捨てた為痛かったのか、抗議している様だがムグムグとしか聞こえないので何を言ってるのか聞き取れない。
そして、セバスさんとメイドさん達が2人の前に殺気を放ちながら立った事で、自分達にこれから起こる未来を知って、何故か私達に助けを求めて来た。
「ム~~~~!! ムーム~~!!」
「どうやら助けを求めているようですな。 仲間の命を奪っておいていざ自分達の番になると、敵に助けを求めるとは……、何と情けない奴らか……」
「私は仲間を殺すような奴を助けるつもりは全く無いので、助かりたければあなた達が知っている情報を全て吐けば、助けて貰えるかもしれませんよ?」
「ム~~~……」
私に助けて貰えないと理解した2人はガックリと項垂れてしまい、セバスさんとメイドさんに担がれて屋敷に運ばれて行った。
これから誰にも叫び声が聞こえない部屋で、様々な拷問が行われるのだろう。
それを考えると少し同情したくなる気持ちがあるが、情けを掛けてヴォーパリアとの最終決戦で支障が出てしまったら後悔してもし切れない。
だから私は顔見知りであろうと、共兄の為に心を鬼にする。
「ジェーンちゃん、あなただけが背負う必要は無いわ。 私達も一緒に業を背負って上げるから、少し肩の力を抜きなさいね?」
「柚姉……。 はい……」
私が柚姉の言葉に感動していると、場の空気を読む事が出来ない健オーガが自分の扱いを聞いて来た。
「それで、ここまで付いて来たが、おではどうすれば良いんだ?」
「どうしましょうか?」
「柚葉さん、どうやらマリーダ姉の方は無事な事が確認とれました……って、オーガ? 何でここに!?」
「あ、ノクティスさん、実はこのオーガは……」
私はマリーダさんの安否を確認しに行っていたノクティスさんに、ジェーンちゃんから聞いた事の成り行きを掻い摘んで話すと、ワクワクした顔でオーガとなった健の事を見ていた。
「柚葉さん、魔石を食べて別種族へ変異すると言う技術を確立したから、この男は魔石を食べてこの姿に成ってしまったのでしょう?
しょ、少々このオーガの体に流れる魔力の形跡を調べて見てもよろしいでしょうか?」
「私は構いませんが、1人で調べるのは危険ではないですか?」
「む、確かに1人で調べていて何かあった時には対処しにくいですな……」
そこに魔法に詳しい人物の1人ミーリスが手を上げた。
「なら、儂が一緒に調べてやろう。 儂も話を聞いて興味が出て来たからの」
「ミーリスさん。 良いのですか?」
「うむ、奴らの事だから、ただオーガの様な容姿になっただけとはとても思えんから、今の内に調べておくに越した事はないじゃろう」
「確かに。 ノクティスさんミーリスさんも一緒なら大丈夫ですかね?」
「調べるのはそれで良いかもしれませんが、何かあった時の為にもう少し魔法に詳しい方が欲しいですね」
「ふむ。 魔法に詳しい者か……。 それなら……」
その話を聞いてミーリスは天弧、空弧、リリス、そして天使族のイリス、シャルロットの5名を健オーガを調べる為の協力者として指名した。
「この7名が揃っておれば、何かあった時でも対処が出来るじゃろうて」
「師匠、私も念の為に参加したい。 良い?」
「与一か、良いぞ。 ならこの8名じゃな。 柚葉、少し離れた場所を借りるぞ?」
「ええ、構いませんが。 お気を付けて」
「うむ。 ではそこのオーガ付いて来い」
「付いて行くのが良いが。 チッコイのにお前、ババ臭い喋り方だな」
「チ! バ……。 貴様、次余計な事を言ったら燃やすぞ!!」
「ヒ! わ、わがっだ……。 黙ってついて行ぐ……」
「それじゃジェーンちゃん、行ってくる」
「与一姉。 お気を付けて」
「うん」
こうして何故健がオーガの様な姿に成ってしまったのか、魔力の流れに詳しい人達によって解析される事が決まり、少し離れた場所に移動して調べる事となった。
柚葉達と離れた場所に移動した儂達は、この健と言うオーガの魔力の流れを調べていたのだがどうもおかしい。
「ねぇ天弧。 この健の魔力って人とも魔物とも違う流れ方をしているから、どう扱えば良いか分からないのだけれど、あなたはどう思う?」
「儂も今こいつの違和感を感じていた所だ。 ノクティスとやら、お前はこの状態をどう見る?」
「そうですね。 ジェーンさんから聞いた話しだと魔石を食べた途端に変異し始めたらしいですが、普通は食べた時点で魔石の毒素に耐えられずに死亡してしまうはずです。
奴等が魔石の毒素に耐えられる訓練か術を開発したとしか思えませんが……」
「魔石に耐えられる訓練か術の開発か……。 健とやら、お主本当に魔石を食べられるようになった理由を覚えておらんのか?」
「ちびっ娘すまねえ。 おで本当に覚えて……ハッ!」
健は手で口を塞ぐがもう遅い。
再度健にチビッ娘扱いされたミーリスは、自身の周りに濃密な魔力を纏い攻撃呪文を発動しようとする魔法陣が現れたため、与一が羽交い絞めにした後皆で彼女を落ち着かせた。
「師匠落ち着いて、今ここで研究対象を抹消しちゃったら、貴重なヴォーパリアの情報が手に入らなくなるから、共也に嫌われちゃうかもよ?」
「与一……、だがこ奴は儂の事を2度もチビ扱いして……ぐぬぬぬぬ! 分かったわい! リリス、元魔王のお主から見て普通のオーガとどう違うのか分からんか!?」
「ミーリスったら、いくらイライラしてるからと言って私に怒りをぶつけて来ないでよ」
「う、す、すまん……。 それで普通のオーガ達はこの健みたいな感じなのか?」
「う~ん。 ミーリスもそうだけど皆勘違いしてる所があるから、まずその勘違いを直してもらうわ」
「勘違いですか? リリス様」
「そうよノクティス。 オーガって頭が悪いイメージを持つ人が多いけれど、実はむしろ知能が高い者が多い種族なのよね。
皆が知ってる人物で言うとシュドルムが良い例かしら」
全員がシュドルムの名を出された事で、妙に納得出来てしまった。
「あ奴か……。 確かにシュドルムはオートリスの代表をしたりして成果を上げていたな。 だが最近は皆に気付かれていないと思ってマリアベルとイチャイチャして、皆に冷やかされておったがな」
「え? そこの所、後でもっと詳しく!」
「わ、分かったから。 今は健の解析をする方向で動こうなリリス」
「絶対だからね!」
私達が恋バナの約束を取り付けている間に、天使族のイリスとシャルロットが健の肌に直接手を当てて魔力の流れを調べていた。
「皆の言う通り魔力の流れが滅茶苦茶ね……。 イリスちゃん、私がこの健の魔力の流れを解析するから、ここに参加している人達と姉様達を念話で繋げる事って可能かしら?」
「うん。 任せてシャル姉。 姉様達、準備は良いですか?」
(良いわよ。 初めて頂戴)
「シャル姉、向こうも準備が良いそうです」
「皆さん、これから天界にいる姉様達と念話でこのオーガの事について話し合おうと思うので、イリスちゃんに一度触れて念話を受けて下さい」
「分かった。 イリスちゃん、お願い」
「はい、繋げますね」
イリスが目を閉じると、健を調べようと集まっていた人達の頭の中に直接聞いた事のある声が聞こえて来た。
(ハロハロー♪ お久しぶりな人はお久しぶり~。 戦乙女3女のシシリーで~す♪)
(シシリー、今はそんな自己紹介をしている場合じゃないだろう! 自嘲しなさい)
(ぷう。 アンナ姉はいつも真面目ぶって~~。 そんなのだから彼氏の一人も出来ないのよ?)
(か、かれ……。 今はそれは関係な……)
(お願いだ。 初めての者もいるのだから大人しく協議を開始させてくれ……。 長女のキャロルだ……、2人が場を乱して申し訳ない……)
「キャロルさん、相変わらず楽しそうで……。 それでそちら側でこの健の状態に付いて知ってる人っています?」
(リリス。 元気そうで何よりだ。 私達はイリスの報告を受けて過去の文献などを調べてみたのだが、1つそれらしい物を見つける事が出来た)
「本当ですか? それは一体……」
(その情報を見つけた私5女のメープルから説明させて頂きま~す)
(ちょ、メープル、まだ私が喋ってる所……)
相変わらずマイペースなメープルさんだね……。
(見つけた過去の文献によると、暗黒神の憑依体が現れた時代にも、変異型の魔物が複数確認されていると記録がありますね)
「複数じゃと?」
(そう。 でも複数と言っても、どうやら暗黒神の因子を取り込む事が出来た者だけらしいから、そこまで数は多く無かったみたいよ?)
「暗黒神の因子か……。 メープル、その記録には変異した者の末路は記されていないのか?」
「天弧?」
(変異した者の末路? ちょっと待ってね。 う~~ん。 どうやら記載されて無いようだね。 何か気になる事があるの?)
「ああ、健の奴、ここに来た時よりさらに体が大きくなっていないか?」
『(え!?)』
全員が慌てて健を見ると、天弧の言う通り明らかに1回り体が大きくなっている。
そして、体からは大量の赤い湯気が……。 まさか血が蒸発している!?
「あ、熱い。 た、助けて、お願いだ、助けてくれ。 俺はただベリアル様の指示通り魔石を食べただけなのに……、こんな死に方なんてあんまりだ」
「お前正気に……。 おい! この状態を解除するやり方を知らないのか!」
「知らない……。 俺はただ危なくなった時は魔石を食べろと言われただけだ、そうすればお前に新たな力が宿ると言われただけで……。 グブ!」
健の体はさらに大きく……、いや肥大し始めている!?
(あなた達逃げなさい! その男の魔力が暴走しているわ、すぐに大爆発を起こすわよ!)
「させない! 氷結せよ。 彼の者の全ての活動を停止させよ。 【氷結】」
与一の氷結の宣言でオーガの体が氷で覆われるがそれも一瞬の出来事で、ドラゴンブレスですら完全に溶ける事の無かった与一の氷が、白い蒸気を上げて溶けて行く。
「駄目。 熱量が高すぎる! 抑えられない!」
「与一! オーガを凍らせるのでは無くて、爆発の炎を上に逃がすように氷を生成する事は出来るか!?」
「あ、なるほど! さすが師匠、やってみる!」
与一は健の周りを囲う様に氷を形成すると、リリスがトーラスを叩き起こして半透明の布で氷の周りを固定。
さらにミーリスが植物魔法で蔦を作りだし、与一の氷を覆う。
天弧が念動力で、空弧がミーリスの作り出した蔦をさらに締め上げて、どんな爆発が起きても大丈夫な様にしたが、健の体はさらに肥大している上に体が白く発光し始めていて、本当にこれで耐える事が出来るのかと言う不安が募っていた。
「…………ああ、僕は何て馬鹿な事を……。 皆さん、遺言としてジェーンちゃんに伝言をお願いしま……す」
聞いて良いのか悩んでいる皆だったが、私が1歩前に進み出た。
「黒木健と言う名を持つと言う事なら日本人でしょうから、同郷の者としてあなたの遺言を私が聞く」
「あなたは確か与一さん……、でしたね……。 ありがとうございます。 ……地球で知られている悪魔の名を持つ者には気を付けろ。 それだけで良いのでお伝えて下さい……」
「分かった。 必ず伝える……」
「はぁ……。 ダリアの勧誘を受けたが為にこんな最期を迎える事になるなんて……。 僕は愚かだった……」
ダリア。 ボソリと呟いた中で聞き逃せない名が出て来たが、それ以上に健の体が今までに無いほどに発光していて、氷の壁の裏にいる私達にも凄まじい熱量が届いていた。
何て熱量なの!!
「どうやら最後の時が来たようですね……。 さようなら皆さん……」
その瞬間、皆がすでに寝入っている夜のボルラスに1本の巨大な火柱が上がり、その火柱によって都市全体が昼の様に明るく照らされる事となるのだった。
〖ドゴオオオオオオオオォォォーーーーン!!!〗
==
【商業都市ボルラス全体を見下ろせる丘】
その爆発によって上がる火柱を見て喜んでいる黒のローブを着た者が、遠くの丘にある石の上に座ってその火柱を楽し気に眺めて居た。
「アッハッハ。 たーまやーーー!! やっぱり命を燃やして上がる花火は綺麗だね~~!
そしてあの火柱が上がったと言う事は、暗黒神様の元にまた1つ転移者の魂が届いたと言う証明になるな。 うん、うん、とても喜ばしい事だ!」
そして火柱が収まると、その黒ローブは立ち上がり臀部に着いた土を払い落とした。
「さて、転移者殺害と研究の結果も見れた事だし、そろそろ帰還しないとディアブロの奴が五月蠅いだろうし、本国に戻る事にしますかね!」
赤い転移魔法陣を出現させた黒のローブを着た人物は今回の実験結果に満足しているのか、ローブの陰から見える口元は大きく弧を描いていた。
そして、赤い魔法陣が消えると、その黒ローブを着た人物は何処にも居なくなっていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
意識を取り戻した健でしたが、またもダリアに利用された被害者の1人と判明した回でした。
次回は『証言』で書いて行こうと思っています。




