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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
14章・龍達が住む大陸。
232/285

歓談の終わり。

 私達が柚ちゃんの家に集まって歓談していると、この街の代表であるマリーダさんが船を修理する為に必要な書類を携えて来場したようで、セバスチャンの案内で部屋へと入って来た。


「あれ、マリーダさん。 確か船を修理するのに必要な書類を作成する為に、今日は議会館の方で寝泊まりするって言ってませんでした?」

「柚葉さん、私もそうしようと思っていたんだけどさ。 あなたのサインが無いと進められない書類がいくつかあるから来たのだけれど、迷惑だったかしら?」

「サインするくらいでしたらすぐに済むでしょうし、迷惑だなんて思う訳無いじゃないですか。 みんな、少し席を外す事になるけど良いかな?」

「大丈夫だよ、もう夜なのにここまで直接来てくれたって事は余程必要な書類なんだろうから、気にせずサインして来なよ」

「菊流ありがと。 それでマリーダさん、私のサインが必要な書類と言うのはどれです?」

「これよ、そちらのテーブルに書類を広げるから、確認して頂戴」

「はい」


 マリーダさんが書類を持って、こちらへ歩き出すと乾いた音が部屋に響き渡った。


〖パシィーーン!〗


「ガハ!!」


 炸裂音が響き渡ると、マリーダさんは一度痙攣してその場に倒れ込んだ。


 これは雷魔法……、まさかタケちゃん!?


「マリーダ姉! このフェンリル、何故マリーダ姉を攻撃した! 理由次第では柚葉さんの知り合いと言っても許さんぞ!!」

「そうよタケちゃん、いきなり雷魔法でマリーダさんを攻撃するだなんて!」


 2人は知り合いを雷魔法で攻撃された事で頭に血が昇ってしまい、今にもタケを攻撃しかねない状況だった。


「2人共落ち着いて下さい。 タケちゃん、どうして攻撃したのかちゃんと理由を話そう?」

(ノイン……、分かった。 皆、知っていて欲しいのは、僕は彼女を攻撃しようとした訳じゃ無いよ?)

「でも現にマリーダさんを雷魔法で気絶させてるじゃない!」

(僕は悪意を持った人間が範囲内に入って来た場合、自動で迎撃出来る様に術式を展開していただけだよ)

「悪意を持った……、ですって?」

「馬鹿な! 今日だって俺達3人は仲良くお茶などして……。 まさかこいつ!」


 ノクティスは気絶して倒れているマリーダさんに近づくと、彼は何か呪文の様なものを唱え始めると彼女の姿がブレ始め、そして現れたのは私達が良く知っている恰好をした男……。


「漆黒のローブを纏った……、暗黒教団アポカリプスの信者かしら……」


 その男の手には、紫色の液体が塗られたナイフが握られていた。


 十中八九、毒が塗られたナイフだろう……。 もし、タケちゃんが防衛する為の術式を展開してくれていなければ、今頃私はこのナイフで刺されて……。


 その事に考え至った私は全身を寒気が駆け巡り、知らない間に体を抱きしめていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「柚葉落ち着いて。 もう大丈夫だから!」


 柚葉は殺されかけた事で過呼吸になりかけていたが、愛璃が抱きしめてくれたお陰で少し落ち着きを取り戻す事が出来た様だ。


「愛璃……。 ありがとう、もう大丈夫よ。 タケちゃん、あなたを疑ってしまってごめんなさいね……」

(ううん、僕も念の為に張っていただけの術式が発動したから、こっちの方がビックリしたくらいだし、柚葉が謝る事じゃ無いよ)

「でもそのお陰で私は助けられたのだから、感謝くらいはさせて?」

(分かったよ。 受け入れるからそうかしこまらないでくれると嬉しいかな、何だか照れ臭くなってくるからさ……)

「ふふ、分かったよタケちゃん。 ありがとう。 これで今回の事は終わりにするね?」

(うん!)


 タケがマリーダさんに化けていた人物を気絶させたお陰で、柚ちゃんの命を救う事が出来た事には安堵したが、次の問題として襲撃者の処遇だった。


「柚葉さん、こいつを拘束しましたがどうしましょう?」


 襲撃者はノクティスさんの魔力で編まれた鎖によって両手両足が動かせない程、厳重に拘束されていた。

 そのノクティスさんの異常な程の厳重な拘束を見て、私を殺そうとした襲撃者への怒りを感じ取る事が出来てしまい、ちょっと笑いが込み上げてしまったのは内緒だ。


「ノクティスさん、そいつが何か重要な情報を知っているとは思えまんが、取り合えず起こしてから情報を吐かせてみましょう」

「そうですね。 すでに動けない様にしてありますし起こしてみましょうか」

「あ、ちょっと待った!」

「エストちゃん?」


 ノクティスさんが気絶している男を起こそうとすると、エストちゃんが待ったを掛けた。


「柚葉さん、私が良い薬を持っているのでそれを使いましょう!」

「……嫌な予感しかしないけど、どんな効果がある薬なのかしら?」

「針の先に薬を付けて首筋にチクリと刺すと、1時間ほど首から下が動かなくなる薬です! どう? どう? 凄い薬でしょ!? ヒナゲシちゃん、凄いよね?ねぇ!?」

「多分凄い薬だとは思うんだけど……。 エストちゃん」

「何かな?」

「何でそんな危険なお薬を、柚葉さんの家に持ち込んでるの?」

「…………自衛の為?」


 エストのその言葉に皆が思った。 俺達って実はエストに信用されてないのか?と。


「あ、勘違いしないで下さいね。 みなさんの事は信頼してますし、仲間だと思っています。

 ですがやっぱり一定数、私の恰好を見て絡んでくる奴がいるのでその為にこの薬を持ち歩いているのですよ!」

「ふぅ~~ん? まぁ良いわ。 後でユックリとお話しを聞かせて貰えば良いだけだしね?」

「お、お手柔らかに……」

「それで? その薬を針の先に付けて刺せば、1時間ほど身動きが取れなくなるのね?」

「はい、それは私の魔具士の誇りに掛けても良い位、バッチリ効果があります!」

「…………刺したからと言って、この男が死ぬ様な事は無いわよね?」

「大丈夫です!」


 どうにも信用し切れないエストの言動だったが、目を覚まして暴れられても面倒なのは確かなので、万が一の事を想定して、解毒魔法の使う事が出来るノクティスさんを側に付けた上でエストの薬を使用する事となった。


「あれ? 私って実は信用されてません?」

「信用するしない以前の問題よ! ほら、その危険な薬を早く出して頂戴?」

「いまいち納得する事が出来ませんが、今はそんな事を言っている場合じゃ無いですね。 では私が薬を付けた針を刺しますね」

「お願い」


 取り出した小瓶に針を少し沈めて青い液体を付けると、エストは襲撃者の首筋にチクリと突き刺した。


「あれだけの量で効果があるの?」

「ええ、直ぐに効果が表れますよ」


 エストに言う通り、針を刺された男は一度大きく跳ね上がって海老ゾリになると、痙攣をし始めた。


「エストちゃん、何だか凄く苦しそうに痙攣してるんだけど、大丈夫?」

「ヒナゲシちゃん、首から下を動かなくする薬は少々痙攣する副作用が出る事があるんですよ。 効果が切れると後遺症も無いですから安心して下さい!」

「今度は口から泡を吹き始めたけど、これも想定内なの?」

「え、ええ……。 薬の効果が強めに表れただけでしょうから、きっとすぐに落ち着きますよ」


 エストの自信無い声と同時に男が口から噴き出していた白い泡が、徐々に赤く染まり出した上に苦悶の声を上げ始めた。


「が、がががが………」


「あ、やばい! 柚葉さん、少しだけ効果の有る回復魔法を掛けて下さい!」

「あんたねぇ……。 ノクティスさん、しょうがないからお願い出来るかしら?」

「はい、柚葉さんお任せください。【ヒール】」


 回復魔法独特の光が男を包み込むと、薬の効果が徐々に安定して来たのか血を含んだ泡を吐かなくなった。


「ふぅ、これで大丈夫のはずです。 時期に目を覚ましますよ」

「ビックリしたわよ。 エストちゃんがあれだけ自信満々に言ってたのに、痙攣や血の泡を吐き始めるんですもの……」

「まぁ人によって現れる効果が違ったりしますからね。 今回は私も少しばかり焦りましたし」

「こいつが死ななかったから良かったけれど、これからアポカリプス教団の情報を吐いて貰うんだから気を付けてね?」

「えへへ。 気を付けます♪」


 エストには重要な事を任せない様にしよう、と柚葉は心に誓った。

 そして彼女の言う通り、少しすると襲撃者は意識を取り戻した。


「う、ここは……」

「お目覚めの様ね。 気分はどうかしら?」

「お前は……、そうだ、私はお前を……」

「私をどうしたのかしら?」

「…………書類にサインを貰いに」

「あなたの恰好を見てから物を言いなさいな」


 襲撃者はすでに幻影が解除されている事を確認すると、取り繕う必要が無くなった為か口角を上げて柚葉を睨みつけた。


「…………そうか。 すでにバレているならしょうがない、貴様の命を暗黒神様に捧げるだけだ!」

「それだけ厳重に束縛されてるのに偉く強気じゃない」

「は! 襲撃者は俺1人だと思っているのが間違いなんだよ!」

「へ~。 じゃあそのお仲間とやらを呼んでみれば良いじゃない」

「言われなくても! おい、お前等もこいつ等全員を殺して暗黒神様へ魂を捧げ……。 おい!?」


 最初は強気で私達を襲撃して殺そうとしていた男だったが、仲間が誰も現れない事で焦りを滲ませていた。


「あなたはこの国の代表者であるマリーダさんに変装していたから見逃されたけど、他の奴等をセバス達が見逃すはず無いじゃない。 ねぇ、セバス?」


〖ドサドサドサドサドサ!〗


「そ、そんな。 我が教団の選りすぐりの猛者達が……」


 現れたセバスチャンやメイドさんの肩には多くの黒のローブを着た者達を担がれていて、部屋の中に積み上げて行った。


「このセバスも耄碌した物ですな。 まさかマリーダ殿に変装しているからと言って、疑う事もせずに雇い主のあなたに襲撃者を近づけさせるなど……」

『「お嬢様、私達も油断していました。 後で厳罰を言い渡して下さい!」』


 セバスチャンとメイドさん達は柚葉ちゃんの前で頭を下げて、今回の事を深く詫びたが当の本人は気にしていない様子だった。


「ああ、良いの良いの。 タケちゃんのお陰で未然に襲撃者を撃退出来たから、今回の事は罪に問う事はしないわ。

 でも……。 次は無いと思いなさいね?」

『はい!』


 さてと……。 この中に重要な情報を持ってる奴が居ると良いのだけれど、全員を拘束して情報を吐かせるのは手間だから、やっぱりエストの薬を使って貰おうかしら?


 私がエストの事を頼ろうとしたのを感じ取ったのか、着ぐるみを着たエストちゃんは左手で私の袖を引いて来ると、右手の親指で自分の事を指差してアピールして来た。


「おやおやおや? 柚葉さん、ここは私の出番ですかね? 出番ですよね? クックック、このエスト様にお任せあれ!」


 さっきまでエストちゃんの持つ薬に頼って、襲撃者達を麻痺させて貰おうかと思ったけど……。 この態度を見たら何か腹立つわね……。


「……エストちゃんに頼もうかと思ったけど、良く考えたらノクティスさんが厳重に拘束出来るんだから、間に合ってるわ~?」

「え……? わ、私なら針でチクっとするだけで拘束出来るのですから……」

「でも、それはノクティスさんが魔法で拘束しても同じよね?」

「同じだけどぉ……」


 柚葉の冷たい視線を浴びて意気消沈してしまったエストは、これ以上自分が何を言っても聞いてくれないと判断して引き下がろうとしたが、思わぬ所から援護が入った。


「柚葉さん、エストちゃんは活躍する場が欲しいみたいなので任せて上げてくれませんか?」

「ヒナゲシちゃん……」

「もう! ヒナゲシちゃんが言うならしょうがないわね! エストちゃん、今度は薬の量を間違わないでね?」

「この扱いの差!!」

「何か文句でも有るのかしら?」

「きーーー!! 後で絶対認めさせてやるんだから!!」


 今度は薬の量を間違えない様に薬を塗った針を襲撃者達に刺して行くエストだった。


「柚葉さん、今度は副作用も出ないはずです!」

「エストちゃん、ありがとう」

「愛璃ちゃん。 これから子供には刺激が強すぎる場面が展開されるし、まだ襲撃者が何処に潜んでいるかも分からないから、今日は愛奈ちゃんと一緒に私の屋敷に泊って行く事にすると良いわ」

「……そうね。 愛奈、今日は柚葉の家にお泊りしましょうね?」

「本当!? わたち柚葉おばちゃんの御屋敷で泊ってみたかったお部屋があるの!」

「柚葉、愛奈が泊まりたい部屋があるらしいのだけれど良いかしら?」

「良いわよ。 愛璃と愛奈ちゃんをその部屋に案内して上げて」

「はい。 ご案内いたします。 お二人ともこちらに」

「わ~~い!」


 1人のメイドに案内されて、愛奈ちゃんは無邪気に喜びながら愛璃と一緒に部屋を出て行った。


「さて、子供も居なくなった事ですし、尋問を始めましょうか」


 柚ちゃんが細剣を取り出すと、襲撃者の1人の首に添えた。


「私達の命を狙った以上は、自分達も殺される覚悟が出来てるわよね? でも、何か良い情報を吐いてくれるなら私達の気も変わるかもしれないから頑張って頂戴?」

「はは。 教団の不利になるような事は言うつもりが無いから好きにするが良いさ、だがもう時間切れだがな」

「時間切れ? あんた何を言って……」


〖ガシャーーーン!〗


 油断していた訳では無かったのだが、会場の外に面していたガラスが割られて新たな襲撃者達が乱入して来た。


「また襲撃者!? あんたらよくも私の屋敷を荒らしてくれたわね!!」


 柚ちゃんが新たに現れた襲撃者に飛び掛かろうとしたが、奴らの目的は別にあった。


「やれよ……」

「………………」


〖ドドドドドド!〗


 捕虜となっていた男がそう言った瞬間、何本ものナイフが投擲されて捕虜となっていた者達全員に刺さると、毒が塗られていた様ですぐに事切れてしまった。


「ガハ! はは、暗黒神に栄光あれ……」

「あんたら、仲間を!」


 捕虜となった者達が死んだ事を確認したそいつ等は、割って入って来た場所から逃走を開始した。


「逃がすか! 追って、セバス!」

「は!」

「皆も追うわよ! それにまだ襲撃者が居たと言う事は、マリーダさんの事も気になるわ!」

「そう言えば、マリーダ姉がまだ議会室に!」


 こうして私達は本当なら親睦を深めるべき晩餐会で、襲撃者達に次々に襲われてしまいそれどころではなくなってしまっていた。


「柚姉、私が先行しますので急いで追いかけて来て下さい!」

「ジェーンちゃん、お願い!」


 ジェーンちゃんやセバスが先行してあいつ等を追ってくれたが、私達も早く追い付かないと……。


 奴らはきっと私達の事を、光輝に報告してしまう。

 そうなれば精霊となって復活した菊流の事も……、絶対にあいつ等の口を封じなければいけない。


 その思いで、逃走を開始した奴らを全員で追うのだった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次回は少し早く投降出来れば良いなと思っているので応援よろしくお願いしたします。


出来れば評価など付けて頂けると、今後の励みになるのでお願いします。


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