今後の予定。
「柚葉さん、私とあなたはこれから仲間として一緒に行動する事になるんですから、今後は絶対に意地悪しないで下さいよ!?」
柚葉から取り返す事に成功した三毛猫の着ぐるみの頭を被り直すと、エストは指差して抗議した。
「意地悪はしてないわよ?」
「え? でも実際私が嫌がってるのに着ぐるみの頭を返してくれなかったじゃないですか!」
「あれは意地悪って言わないの、可愛がってるって言うのよ?」
(あ、この人、本気で言ってる……)
この人本気で言ってると言う事を、エストは柚葉の目を見て理解した。
(こ、この人から逃げる為には……。 ヒナゲシちゃんだ!)
「ヒナゲシちゃん、柚葉さんの相手は任せた!」
「え? エストちゃん!?」
「あら、ヒナゲシちゃん、私の話し相手になってくれるのかしら?」
「えっと……。 柚葉さんの話し相手になるのは構いませんけれど、他に聞きたい事が皆さんからあるんじゃ……」
「ん~。 菊流達から大体の事は聞き終わったけど、確かにもう少し聞きたい事があるかな。 例えば何故イリスちゃんとシャルロットちゃんがここにいるのか、とかね?」
柚葉さんに視線を向けられたイリスとシャルロットは、自身の髪色に合わせたドレスを纏ってこの会場に入って来ていたが、一歩引いて壁側に立ち話の成り行きを見守っていた。
屋敷の主である柚葉に質問された以上は答えない訳にはいかないので、説明する為に彼女の所まで移動しようとした時だった。
ダグラスから反対の声が上がったのは。
「シャルロット、お前はそこから動くんじゃない。 イリスちゃんだけこっちに来て柚葉に説明するんだ」
「ダグラスさん?」
ダグラスの顔は真剣そのもので、シャルロットが少しでも動く事すら警戒している様子だった。
「ダグラス、その言い方はあまりにもシャルロットさんに対して失礼なんじゃない?」
「そうだぞダグラス、何故そこまで彼女を邪険にするんだ?」
「室生、柚葉、お前はこいつの被害にあって無いからそんな呑気な事を言えるんだ!!」
『被害』その言葉を聞いて、シャルロットは人差し指を顎に当てて本当に心当たりが無いです、と言う顔でダグラスに視線を送っていた。
「お前……。 俺にあれだけの事をしていおいて心当たりが無いだと……」
「えぇ? ダグラスさんに対して私が何かしたのなら謝りますから~~、説明してくださいよ~」
本当に悪い事をしたのなら謝るつもりのシャルロットは、ダグラスに向かって駆けだした。
「く、来るな! しかも走るな! お前がそうする時は決まって!」
「キャア!」
慣れないドレスを着ていたシャルロットは裾を踏みつけてしまい転倒しそうになったが、咄嗟に食事を取る為に用意されていたテーブルクロスを握ってしまった。
「馬鹿野郎! だからあれだけ動くなと! ……へ?」
転倒しそうになったシャルロットが掴んだテーブルクロス。
その上には料理を食べる為に置かれていたナイフやフォークが置かれていた。 それが何故かダグラスの方向に勢いよく飛んで行った。
「うおおおぉぉぉぉ!!」
〖ズダダダダダダダダ!!〗
咄嗟にシャルロットからの攻撃?から回避したダグラスは、先程まで居た場所を見て戦慄した。 そこには複数のナイフとフォークが突き刺さっていたからだ。
「ご、ごめんなさいダグラスさん。 でも怪我が無かったから今回も許してくれますよね? テヘ!」
ああ、なるほど天然ドジっ娘なのか……。 このシャルロットの台詞を聞いた柚葉と室生は、苦笑いをしながらダグラスに尋ねた。
「さっきの様な事が、航海中に良くあったのか?」
「良く、じゃない! 毎日だ!! 毎日毎日、俺の命を狙ってるのかと言うくらいピンポイントで命の危機にさらされれば警戒位するだろ!」
「あ~~。 それは何と言うか……。 そう言えばあんたって天界に招かれた時もシャルロットさんに追いかけられてたわよね?
何かそう言う因縁がシャルロットさんとあんたにあんの?」
「知るか! むしろそんな因縁があるなら俺の方が聞きてえわ!!」
「そんなにムキになって怒らないでよ。 まあ、天界に居たはずのシャルロットさんが、何故ここに居るのか。 その理由は何となく分かったわ」
「あぁ、イリスちゃんがクラーケン討伐をする為に、シャルロットを呼びだしたんだ」
「イリスちゃんが? シャルロットさん、合ってる?」
「はい、元々イリスちゃんには危ない場面に遭遇した時は、私達姉妹の誰かを呼び出す許可を与えていたので、その時は私が急遽地上に顕現する事になったんです」
「イリスちゃんが救援求めるって事は、その時相当危なかったのね」
その当時の危険な状況を聞いていた柚葉だったが、隣に座らせて離してくれないユズリハが堪らず声を上げた。
「あ、あの真面目なお話をしてるのですから、そろそろ私を解放してくれても……」
「駄目。 ユズリハちゃんは私の隣にいるのよ」
「えっと……」
「駄目ったら駄目!」
「はい……」
離脱を試みたユズリハだったが、結局柚葉の圧に負けてそのまま残る事となった。
「話を戻しますね。 私が顕現した時は、すでにクラーケンによって船が破壊される寸前でしたからね」
「でもその危ない場面を切り抜けられたのに、シャルロットさんが未だに地上に留まってる理由って何?」
「えっと。 それは私がイリスちゃんの要請に応じて顕現しようとした時でした。
ディアナ様からそのままイリスちゃんと行動を共にするように、と言われてたのでこうして今も一緒に行動しているのです」
「ディアナ様から……」
「はい!」
柚葉はシャルロットの言葉を聞いて、思う所があった。
本来女神の護衛が主な任務の戦乙女がここに2人も居ると言う事は、ディアナ様は地上で何かが起きようとしていると予感して、2人を地上で活動する様に命じた可能性がある? と。
室生も私と同じ考えに至ったのか同時に視線が合う事となったので、頷いておいた。
こりゃ後で室生と話をすり合わせる必要が出て来たね。
そこに外で愛奈と一緒に遊んでいた愛璃も部屋に戻って来ると、丁度セバスチャンから夕食の用意が整ったと報せて来た。
「柚葉様、夕食の準備が整いましたので、後はお食事を取りながら歓談をしていただきますように」
「セバス、分かったわ。 みんなもお腹が空いたでしょ? 沢山食べても大丈夫だから遠慮なく我が家の料理長の料理を堪能して行ってね!」
「料理長を雇ってるのか……。 出世したね柚ちゃん!」
「菊流ありがと。 これから各自の席に案内するけど……、与一、料理に手を加えようとしたら、あんたのだけ料理を別にするから余計な事はしないようにね?」
アーダン船長をマグロのステーキで毒殺しようとした前科のある与一を、柚ちゃんが先に注意をしたのだが、彼女の手には謎の香草が握られていて……。
まさか……。
「与一……。 あんたまさか……」
「何故だ、何故バレたし!」
「…………セバス。 与一は今からお帰りになるそうよ。 お見送りして上げて」
『はは!』
柚ちゃんのその言葉を聞いた与一は、彼女のドレスにしがみ付いて許してくれるように懇願し始めた。
「もう毒草を使った料理を作ろうとしないから、追い出すのは止めて!!」
「あんた自分で毒草を使ってる自覚あるんじゃない……。 2度とみんなの料理に手を加えようとしない?」
「しない!」
「料理を食べたい?」
「食べたい!」
「……反省してる?」
「してる!!」
そんな与一と、許すかどうかの言い争いをしていた彼女だったが、何故か柚ちゃんが口角を上げて意地悪く笑った。 何で?
「与一最後の質問よ…………共也の事は?」
「愛して……………、柚ちゃん?」
「アハハハハ! いや、ごめんまさかしっかり者に見える与一が、こんなに簡単な罠に引っかかるとは思わなくて!!」
「…………むう。 まぁ、どうせ菊流達には知られてる事だし良いけど……ね」
強がりを言いながらも顔を赤くして席に着く与一の手には『早く食べさせろ!』とアピールしているのか、フォークとナイフが握られていた。
「全く照れ隠しして、昔と変わらずに可愛いわね。 良いわ、食事を始めましょう。 セバスお願い」
「はい! 食事開始だ! 配膳に取り掛かってくれ!」
『かしこまりました!』
部屋の扉が開くと、メイドさん達が様々な料理を乗せた台車を持って入って来ると、私達1人1人の皿に料理が乗せられて行った。
「タケにも同じ料理を出すように言ってあるから、好きに食べて良いわよ」
(柚葉、ありがと!)
「スノウちゃんはナイフとフォークの使い方は大丈夫よね?」
「こう見えてテーブルマナーは完璧に覚えているから大丈夫だよ!」
「そう言えばこの娘はどちらかと言うと天才肌だったわね……」
スノウちゃんやタケちゃんが美味しそうに出された料理を食べている中、天弧と空弧の2人は食が進んでいない様子だった。
そんな食の進まない2人の事を心配した、ジェーンが声を掛けて見た。
「天弧ちゃん、空弧ちゃん。 やっぱり共也の事が心配?」
「ジェーンか。 いや、ディーネとマリが付いてるのだ。 共也がどうにかなるとは思っておらん……」
「私達が落ち込んでいるのは、あの嵐の中で共也と千世の2人が荒れ狂う海に飛び込んだ時に、また助ける事が出来なかった自身に対する怒りによるものなの……」
「天弧ちゃん、空弧ちゃん……」
「ジェーン、お前が言いたい事は分かる。 きっと、共也は儂達を責める様な事はきっとせんだろう」
「ええ! 共兄はきっと2人を責めたりはしないはずです!」
「だがなジェーン。 最終的に儂らが戦おうとしている相手は曲がりなりにも『神』の称号を得ている者なのだぞ? 力を満足に使う事の出来ない今の状態では、共也の手助けをする事など……」
「暗黒神だっけ……。 あいつと戦うその時にまでに、どうにかして私達2人の力を全盛期以上にする必要が有るわね」
「そんな事出来るのですか?」
ジェーンは2人の空いたコップに熱々の緑茶を注ぎ込むと、2人は嬉しそうに飲み始めた。
「やはり緑茶は美味しいわね。 あ、ジェーンちゃんごめんなさい、話が逸れわね」
「いいえ、お2人が私の作った緑茶を気に入ってくれて嬉しいです」
「あら、今まで飲んでいた緑茶はジェーンちゃん作だったのね。 後で分けて貰っていいかしら、私と天弧はこの緑茶が大好きなのよ」
「はい、何年分もストックしてあるので後でお渡ししますね」
「ふふ、これでまた緑茶を楽しめるわ。 あ、それで話は戻るけれど、私達2人は元々地球でも神に近しい者として存在だった、と言うのはジェーンちゃん知ってるかしら?」
「良く物語で狐の妖として出て来てましたよね?」
「ん~。 惜しいけれど、それは九尾ちゃんの方ね」
「儂等2人は日本ではどちらかと言うと神として祀られていた存在だな。 だが、年月が経つにつれて力が強くなって行く儂等だったが、幾年月が経った頃にふと魔力の制御が難しく鳴り始めている事に気付いた時にはすでに遅かった。
儂等の強力になりすぎた力は、逆に儂等の体を呪いの様に蝕み始めたのだ」
過ぎた力は身を亡ぼすと言う言葉が日本にあるように、天弧ちゃんと空弧ちゃんの2人もこの言葉が示すように、強くなりすぎた力が徐々に自身を蝕んで行ったのだと想像出来る。
「でも不思議なのよ、この世界に来てから私達はその力の浸食に悩まされる事が無くなったばかりか、徐々にだけれど全盛期の力を取り戻し始めているのよ」
「じゃあ、2人が力を取り戻す事が出来れば暗黒神とも渡り合う事が?」
「相手の実力が分からないのだから一概にも行けないけれど、もしかしたらって言う可能性はほんの少しだけれど有るわね。
だけど……、今の私達2人の力は、全盛期の頃の私達にすらほど遠いわ……」
「だな、もし本当に暗黒神と言う者が神に相応しい実力を兼ね備えているのなら、儂等2人が全盛期の力を取り戻して挑んだとしても届かぬであろうな……」
「うん、だから足止め出来る位には力を取り戻せるように頑張らないと……」
「天弧ちゃん、空弧ちゃん……」
小さな子供の恰好をしている2人が、力無く自身の前に出されている料理をユックリと食べているその姿は、とても日本で神と崇められている存在とは思えない程覇気が無い様に見えた。
2人の話しを聞き入っていたジェーンは、愛璃に呼ばれている事に気付いた。
「ジェーンちゃん、食事中に悪いんだけれど、ちょっと聞きたい事があるから来て貰って良いかしら?」
「あ、愛璃さん、分かりました。 今からそちらに伺いますね。 天弧ちゃん、空弧ちゃん、またお話ししましょうね?」
「うむ、愚痴を聞いてくれてありがとうなジェーン。 さすがは共也の婚約者の1人だと感心したよ」
「こ、婚約……!?」
「おや? 私達から見てもお似合いだと思っていたが、違ったのか?」
「ち、ちが、ちちちち、ちがわ……無いですけれど……」
頭から湯気が出そうな程、顔を赤くしたジェーンに空弧は優しく微笑んで話し掛ける。
「天弧がごめんなさいね、この人ったら長生きしてるくせに女心が分からないのよ。 皆が要る場所で堂々と、好きだとか言われる事が恥ずかしかっただけよね?」
「ううう……。 はい……」
「あはは、それは悪い事をしたな。 で、その婚約者のジェーンに頼みたい事が有る」
「ん?」
「儂等に何かあったら。 共也の事を頼んだぞ……」
「え……。 それは一体……」
「ジェーンちゃーん!」
「あ、はーーい! 今行きます!」
「引き留めて悪かったなジェーン。 また詳しくは時間が有る時にな」
「分かりました……」
そして、私が先程の天弧ちゃんの言葉を聞いて後ろ髪を引かれる思いでだったが、愛璃さんの元に駆け寄って行った。
ジェーンが2人から離れると、天弧と空弧は念話である計画を頭の中でやり取りを始めた。
(ジェーンは良い娘よね。 共也のお嫁さんの1人にピッタリだわ)
(ああ、それは儂も同意する。 それで空弧。 もし。 もしもだが、この計画を実行した場合、共也は儂達の事を怒るかな?)
(怒るどころじゃ済まないでしょう。 憎む、いえ、私達を呪いかねないわね……。 昔、共也ちゃんの10年を使って、変化の呪いを千世ちゃんに移したどころの話しじゃ無いのだから……)
(そう……だよな……。 ならそんな未来が来ない事を祈って、儂等が全盛期以上の力を付けて暗黒神と言う痴れ者を相手取るしか方法が無いか……)
(頑張りましょう天弧。 共也ちゃんを小さな子供の頃から見て来た私達だからこそ、あの子の為にこの命を張る事が出来るのだから)
(…………何人もの契約者を見送って来た儂等だが、そろそろ終わりにする時が来たのかもしれんな……)
(共也ちゃんと千世ちゃんの子供を見たかったのはあるのだけれどね?)
(それも2人が生きていればこその話しだ……、その時が来た時は覚悟を決めるぞ空弧)
(ふふ、最後まであなたとは腐れ縁だったわね、天弧)
天弧と空弧は机の下で手を1度握り合うとすぐに離して食事を再開したのだが、その2人の様子を誰にも見られる事は無かった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回は船の修理。 そして、ケントニス帝国に向かう為の準備で書いて行こうと思っています。
次回は『必要な準備』で書いて行こうと思っています。




