室生と愛璃。
「リリス様、人魔大戦と呼ばれたあの時、あれだけの白金貨と共にボルラスへと飛ばして貰ったのに、あなたが本当に危ない時に間に合わず、このノクティス申し訳ない気持ちでいっぱいです……」
「ノクティス……」
商業都市ボルラスの港へ何とか着けた事で怪我を負った船員さん達の介抱をしていた私の前には、頭を出来る限り下げているノクティスが居た。
「ううん、良いのよ。 あの時居たダグラスから色々と話を聞いたわ。 ノクティス、あなたはちゃんとこのボルラスから有志を募って、オートリスまで駆け付けてくれたんでしょう?」
「それはあなたとの約束があったからで……。 肝心のあなたの救出に、間に合わなかった……うう……」
遂に泣き出してしまったノクティスの肩に手を置いて慰めようとすると、私の体から薄く見える布が現れてノクティスの頬を撫でた。
「うわ! リリス様、この布は一体……」
「もう、トーラスったら。 今、真面目な話をしてる所なんだから悪戯したら駄目じゃない……」
「は? ト、トーラス殿?」
『カッカッカ、ノクティスよ久しぶりだな、10年ぶりか?』
私の体から半透明の骸骨が顔を覗かせると、ノクティスを見て嬉しそうに顎を鳴らすのだった。
「ほ、本当にトーラス殿みたいですね……。 どうしてリリス様の体の中から現れたですか?」
『それはな』
「トーラス、ノクティス、どうやら後で柚葉の家で皆と情報交換する場所を提供されるみたいだから、その時に改めてめて説明する事にしましょ?」
「……柚葉さんの家でですか……。 分かりました! 後で柚葉さんの家に必ず伺う様に予定を立てます!!」
「う、うん? 今あなたは、別の目的を持って柚葉の家に来ようとしている感じで言わなかった?」
「き、気のせいですよ! それでは私は仕事がありますので夜にまたお会いしましょう!」
聞かれたら不味い事なのか、物凄い速度で船を降りて行ったノクティスを見送った私は、丁度良いので顔を出しているトーラスに質問してみた。
「ねぇトーラス、何でノクティスはあんなに慌てて降りて行ったんだと思う?」
「カッカッカ、それはまた簡単な質問をこのトーラスに振って来ましたな」
「何故、慌てて降りて行ったかトーラスには分かってるんだ?」
「勿論!」
「へぇ、どんな理由だと想像出来るの?」
「それはですね。 リリス様みたいに想い人と上手く婚約出来る者ばかりでは無いと言う事です。 恐らくノクティスは柚葉殿に好意を寄せているが、受け入れられていないと言う所でしょうか?」
「え!? ノクティスは柚葉が好きなんだ!?」
「あくまで私の予想ですがね?」
「ふ~~ん。 へ~~! 後で皆と作戦会議しないと……」
「カッカッカ! あまりノクティスの恋路を面白がって手伝わおうとしない方が良いですぞ? あまり首を突っ込む様なら、リリス様が共也とベッドで抱き合ってた事も皆様に〖ブン〗オッと! ではリリス様、恋バナも程々に」
トーラスが余計な事を言わない様に半透明の頭蓋骨を掴もうとした私の腕を搔い潜ると、それだけ言い残して彼は霧の様に消えてしまった。
「あ、待てトーラス! 絶対にあの時の事を皆に言うんじゃ無いわよ!! もし、言ったりなんかしたら、絶対に許さないからね!!」
自分の体に向かって怒鳴る姿は何とも滑稽だが、他の人達は誰も私を見てないみたいだからきっと大丈夫よね!?
==
こうして夜に柚葉の家に集まる事が決まったが、連れて行って良いか悩む仲間が1人居る事を思い出し、そしてその人物が私に声を掛けて来た。
「ねぇ菊流姉様、柚葉って人が仲間に入るなら私も彼女の家に行って説明した方が良いのかな?」
「ヒナゲシ……」
そう、菊流の前の体を持つヒナゲシだった。
さっきは偶々、柚葉が船を降りるまで遭遇する事が無かったが、この船に残して行く事も何か違う感じがして、どうした方が良いのか決めかねていたが、心配そうに見て来るヒナゲシを見て私は柚葉の家へ一緒に連れて行く事を決意した。
「ヒナゲシ、あなたを決して攻撃させたりしないから柚葉の家に一緒に行きましょう」
「守ってくれるの?」
「えぇ、それに柚葉ちゃん達とヒナゲシの事を情報共有した方が向こうもあなたを信用してくれるはずよ。 怖い思いをするかもしれないけれど……良い?」
「……うん、行く。 連れて行って」
「了解、夜になったら一緒に行きましょう」
「ありがとう菊流お姉様。 後ね、今度2人の時に聞いておきたい事があるんだけど良いかな?」
「良いけど……。 今じゃなくて?」
「ちょっと考えを整理したいから、少しだけ待って?」
「……分かったわ。 ヒナゲシが良いと思ったタイミングで教えて頂戴」
ヒナゲシは一度頷くと、船にある厨房へと戻って行った。
「何だと思う?」
「私が分かる訳無いじゃない。 それと与一、いつも言ってるけど後ろからいきなり声を掛けるのは止めなさいよ……」
「むう……、私の扱いが最近雑になってる感じがする……」
「…………気のせいよ」
「菊流? 私の目を見てもう一度言ってみようか」
「止めなさい! 来るな! あ、そうだ私は自分の船室に用事があるんだった。 与一後の事は任せた!」
「あ、待ちなさい菊流!」
こうして船室に逃げ込んだ私は、夜になるまで閉じこもる事にした。
《菊流の部屋の中の床よ、氷結せよ!》
と、部屋の前で物騒な事を呟く与一の事は、ベッドの掛布団を被って意地でも放置する事にした。
=◇====
布団を被って丸まっていた私はいつの間にか寝っていた様で、船室の壁に取り付けてある丸窓から夕陽が入って来ていたが、それも徐々に暗くなり始めていた。
「もう柚ちゃんの迎えに来る時間だ! 早く行く準備をしないと!」
私が床に足を乗せた時だった。
⦅つるん⦆
「は?」
〖ドスン!〗
「い、痛っっっっっっったーーーーい!!」
あまりにも予想外の事が起きて足を滑らせた私は思いっきりお尻を床に打ち付けてしまい、あまりの痛みに背中を仰け反らせてしまう程だった。
私は今自分に起きた事が信じられ無くて慌てて床を良く見て見ると、夕陽を反射してキラキラと輝いていた……。
「与一め、本当にあの時氷結のスキルを使って私の部屋の床を氷漬けにしたって事ね……。 後で絶対説教してやるんだから!」
不安定な足場の中、何とか柚ちゃんの家に行く準備を終えて甲板上に出ると、すでに何台もの馬車が私達の事を待っているようだった。
「菊流遅いわよ、もうみんな向かう準備は終わってるんだから」
「与一……。 あんたねぇ、後で覚えておきなさいよ……」
「何の事? 私分かんない」
「後で絶対説教してやる……」
私と与一がじゃれていると、ジェーンやリリス達が柚葉の家に向かう準備を終えて出て来ると、そのまま馬車に乗り込んで行った。
「菊流姉様、隣良いかな?」
「ヒナゲシ良いよ、一緒に乗りましょう」
「ありがとう!」
こうして何台もの馬車に乗り込んだ私達は、馬車に案内されて柚葉の家へと運ばれて行ったのだが、向かう先にはとても大きな豪邸が……。 え、まさかだよね?
「え~~っと御者さん、もしかして今から向かう柚葉の家って……」
「はい、今見えている豪邸が柚葉様の家で間違いありません」
「うわぁ……、菊流姉様、とても大きな家ですね……」
「本当にね。 一家の主となったダグラスは、この家に連れて来られて何を思ったんだろう……」
幼馴染の一人が成功を手にした事には純粋に嬉しいと思うが、私の中ではあの日からまだ1年も経っていないので、何処か置いて行かれてしまったと思うともやもやしてしまった。
「さあ、着きましたよ。 ここが柚葉様のお屋敷です」
馬車から降りた私達の前には沢山のメイドさん達が並び、お辞儀をして私達を歓迎していた。
『「「皆様ようこそいらっしゃいました」」』
そして、燕尾服を着た執事らしき人がメイド達の間をすり抜けて私達の前に立つと、お辞儀をした。
「柚葉様からあなた達の案内を仰せつかっている【セバスチャン】と言う者です。 以後お見知りおきを」
そして、そのセバスチャンの案内で大きな屋敷の中を案内されて、柚葉の元へと移動していたのだが、私や地球組の皆は執事のセバスチャンの名を聞いて、皆してニヤニヤとする顔を止められずにいた。
「柚ちゃんも良い趣味してるね」
「全くだよ、外側は大人になって綺麗になったけど、中身はやっぱり私達の幼馴染の様で安心した」
「菊流姉、与一姉、やっぱりセバスチャンと言う名はラノベでは良く執事の人に使われているのですか?」
「全てって訳じゃ無いけどかなりの頻度で使われてるね」
「なるほど!」
ジェーンの相槌を聞きながら屋敷の中を歩いていると、1つの扉の前でセバスチャンさんが足を止めた。
「ここで柚葉様達がお待ちです。 どうぞ中へお進み下さい」
「ありがとうございます」
私達が扉に手を掛けようとすると、横から2人のメイドさんが先に扉を開けてくれたので、そのまま部屋へと進むと目に入った光景が、柚葉とその前で正座させられているダグラスだった。
そして白いテーブルクロスが掛けられている大きな丸いテーブルに、柚葉ちゃんと同じく少し歳を取っているが、見慣れた顔が2つほど椅子に腰かけてこちらを潤んだ目で見つめていた。
「菊流! 与一! 本当に、本当にお前達なんだな!?」
「菊流ちゃん、与一ちゃん、良く帰って来てくれたわね……」
「室生、愛璃、心配かけたみたいで……ご……ごめん……ね……」
私は2人の顔を見て色々な思いが込み上げて来てしまい、大勢の人の目が有ると言うのに我慢出来無くなってしまい大粒の涙が目から零れ落ちてしまった。
「菊流ちゃん、大まかな説明だけど話しは柚葉から聞いたわ。 でも、私と室生にとってもあなたはかけがえの無い存在なのは何時までも変わる事は無いわ、だからいつも通り接してね?」
「愛璃ちゃん……」
「だから何時もみたいに笑って私達を安心させて?」
「う、うん……。 えへへ、私も2人の顔をこうして見れて嬉しい」
「そう、それで良いのよ。 それと、与一も後でどうして行方不明になってたのか話を聞かせて貰うわよ?」
「分かった。 私も報告しないといけないと思ってたから丁度良いんだけど……。 ねぇ愛璃、室生、気になる事が有るんだけど聞いて良いかな?」
「何かしら?」
「私のローブの裾を引っ張ってるこの4~5歳位の女の娘は誰の子?」
「ふふふ、私と室生の子供よ。 名は愛奈。 愛奈、自己紹介出来るわよね?」
「あい! 上座愛奈、今年で6歳です! よろちく! あう……」
どこか愛璃の面影を残した利発そうな娘だったが、自己紹介の最後で噛んでしまった為上手く発音が出来なかったが、余計にそれが可愛さを引き立たせていた。
「なるほど、性は室生の方に、名の1文字を愛璃から取ったんだね」
「そうよ、日本みたいに戸籍が有る訳じゃ無いけれど、この娘のルーツは日本にある事を名に記して上げたかったから……」
「そうなんだね、愛奈ちゃん、その名は両親からあなたへの最初の贈り物なんだから、大切にしないといけないよ?」
「??? 何か分からないけどお姉ちゃん分かった! お父さんとお母さんが付けてくれたこの名は大切にするね!」
意味が良く分かっていないようだが、愛奈ちゃんは与一の言葉に精一杯の笑顔で答えてくれた。
「か、可愛い……。 愛璃この娘私に頂戴!」
「駄目に決まってるでしょ! 全く、与一あなたって本当に変わって無いわね……。 それに子供が欲しいなら共也との子供をさっさと作れば良いじゃない」
「と、共也との子供……!? ま、まだ早いよ……」
「はぁ、呆れるわね……。 与一、あなた普段からあれだけ共也にアタックしているくせに、いざとなったら初心な顔が出て来るのはどうなのよ?」
「うう……。 だって恥ずかしいし……」
「まぁ、あなたのペースでいつか共也との子供を作れば良いと思うけどね。 それで、あなたの年齢が変わって無い事や、目の色が変わっている事もこの後の食事会の時に説明してくれるのでしょう?」
「うん、後で説明する」
「なら子供を産んだ先輩として与一に1つアドバイスを送るわ」
「何?」
「出産する時とても痛いわよ!?」
「愛璃、何でそんな事言うのよ! 出産が怖くなるじゃないさ!!」
「あはは!」
与一をおちょくった愛璃は、部屋の中に入って来た人達を一通り見渡すとボソリと呟いた。
「それにしても、見知った顔もあれば初めて見た顔も多いわね……。 柚葉そろそろダグラスを許して話し合いを始めた方が良いんじゃない?」
未だに説教したりないのか不満顔の柚葉だったが、愛璃に言われて渋々とだがダグラスを解放する事に決めた様だ。
「むう、ダグラス次からは気を付けなさいよ!」
「分かったって! 愛璃助かったぜ!」
「私も少し腹に据えかねてる所があるんだから、今度は気を付けなさいよ……」
こうして仲間が1つの部屋に集まった事で、屋敷の主である柚葉が合図を送ると、部屋の中に様々な料理を持ったメイドさん達がテーブルに所狭しと料理を並べて行った。
「さあ、食べながらで良いから、あなた達が10年前に消えてから今日まで歩んで来た事を話して頂戴。 もちろん私や室生達も後で話すわ」
柚葉は丸いテーブルの1席に座り、真面目な顔を私達に向けて話しを促していた。
「…………じゃあ、まずは私から。 柚ちゃん達は私が光輝に殺された所まではディアナ様に聞いて知ってるんだよね?」
「…………そうだね、最初はあいつを見つけ出して殺してやろうと思ったけど、国を興された影響で警備が厳重になってしまってね。
結局今日まで手が出せずにいたんだよね……」
「仇を取ろうとしてくれてありがとうね……。 それで、私は殺された時に魂だけとなって共也にくっ付いて地球に戻っていたらしいの……」
そこからは私が見聞きした訳じゃ無いから、共也から聞いた話を柚ちゃん達に掻い摘んで説明して行くのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回は愛璃、室生、そしてその子供の愛奈との出会いの話しでした。
次回の説明する所はなるべく省略して書いて行こうと思うので、読みにくいかもしれませんがそこはよろしくお願いします。
次回は『皆の報告』で書いて行こうと思っています。




