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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
14章・龍達が住む大陸。
227/285

10年ぶりのケントニス帝国に。

「エリアママ、このお肉料理って食べて良いのかな……」

「え~~っと……。 私達の為に用意されたお肉料理なんだから、食べないと駄目なのでしょうね……」


 俺達の前には様々な料理が並んで居て、特に目を引くのが巨大な()()()()を使ったステーキだった。


「どうした共也、皆、食べないのか? こんなに美味しいのに」

「いや、確かに美味しそうではあるよ……? でもさ、この尻尾を切り落とされた、龍の前で食べるのはどうなんだ?」

「お前達は、そんな事を気にしていたのか?」

「気にするだろ! 俺だったら嫌だぞ、自分の体の一部を他人に食われているのを見るのはさ!」

「そういう物か? 全く人族は気にしすぎなんだよ、どうせ明日にはまた生えてるんだから。 なぁ、【火龍の長ヒヨリ】よ」

「まぁ、少々痛くはありますが、先程お嬢様がおっしゃられた様に明日には生えて来ますから、そこまで気にする事では無いですね」


 バハさんの言った通り、やっぱり明日には生えて来てるのか……。

 しかも、この尻尾を提供してくれた人物が火龍の長とか、余計に食べにくいんだけど!?


「まぁ、尻尾を提供してくれた龍が近くにいるのは食べにくいかもしれんが、本人も納得しておるのだから、まずは一口食べてみろ、考え方が変わるから!」


 俺達がチラリと人型になっているヒヨリさんに視線を向けると、彼女はニッコリと微笑んでくれた。

 本人が認めている以上このまま食べないのも失礼かと思い、一口サイズに切ったお肉をフォークに刺した状態で固まっていた俺達は、意を決して口に入れた。


「うぅぅ、南無三!」


 モグ、モグ……。 モグ!?


「う、美味い……。 え、何これ?」

「うわぁ、パパこのお肉とても美味しい、口の中で解けちゃったよ!」

「美味いだろう? たまにこうして種族毎の持ち回りで尻尾を提供し合って食べてるのだが、今日は共也達が客人として来たから特別だ」

「さあ、私の尻尾を残されたら、それはそれで悲しいのでどんどん食べちゃって下さい!」

「共也さん、ヒヨリさんもああ言ってくれてるのですから、頂きましょう」

「ディーネ……、そうだな、提供してくれたヒヨリさんが食べてくれと言ってるんだ、エリアとマリも遠慮せずに頂くとしよう」

「分かったぁ! ヒヨリさん、頂きます!」

「はい、遠慮しないでねマリちゃん」


 こうして俺達はこの国の様々な料理を楽しんでいると、バハさんが目線でテラスへと誘って来たので、エリア達に断りを入れてそちらへと向かった。

 テラスまで来ると、そこには酒の影響で頬が薄っすら赤く染まった彼女が、谷から吹き付ける風によって、髪を流されている状態で手摺に寄りかかりながら、バハさんは俺が来るのを待っていた。


「共也、食事を楽しんでいる所悪いな。 明日、お前達をケントニス帝国に運んで行く前に、どうしても確認しておきたい事があったから、わざわざここに呼び出したんだ」

「そうなんだな、それで俺に聞きたい事って何だい?」


 バハさんは改まって、俺に一体何を聞きたいんだろう。


「私が聞きたいのは、ヴォーパリアと言う国を壊滅させる事に成功した後の事なんだ」

「あの国を壊滅させた後の事?」

「そうだ。 もし、あの国を壊滅させる事に成功したと言う事は、恐らく復活する暗黒神も倒したと言う事になる。

 ここまでは良いか?」

「あ、ああ」

「暗黒神を倒せるほどの戦力を持つお前達のその力は、次に何処に向かう? アポカリプス教団の残党狩りか? エリアの国を再建するか? それとも…………、我が国グランロードも、その力を持って滅ぼすか?」


 ん? 何でこの国を滅ぼす必要があるんだ?


「え~っと、バハさん。 俺はこの国を滅ぼす以前に、敵対するつもりすら無いんだけど、どうしてそう言う考えに至ったのか聞いても良いかい?」

「……絶大な力を持った者は、どれだけ高潔な精神を持っていてもいずれ傲慢になってしまうものだ。 それは散々読んで来た歴史書が証明している……」


 それは多分、この城に収められている書物の事を指しているんだろうけれど……。

 俺の知ってる為政者達は、皆その国で暮らしている人達の幸せを願って国を運営している。 そんな立派な人達を、国を滅ぼした暗愚と一纏めにされるのは良い気分じゃないな……。 


「バハさんは様々な歴史書を読んだから、俺達がいずれ傲慢になって他者を虐げる。 そう言いたいのかもしれないけれど、俺の知ってる為政者達は民の幸せを願って国を運営していた。

 グランク様に至っては、光輝に殺されてデュラハンとなっても、出来る範囲で民を守ろうとしていた。

 それを書物を読んだからと言って、そんな結論を出されるのは俺としてはちょっと面白くないよ」

「そう、私もその為政者の1人なのだよ共也。

 暗黒神を倒したその力が、この国の民に向かない様に警戒するのは当たり前であろう?」

「確かに……」


 そうか、親しくしているから忘れてたけど、バハさんはこの国に居る龍達の頂点なんだよな……。


「う~~ん。 ヴォーパリアを壊滅させた後の話しですか……。

 俺からは結局、この国を滅ぼす事は無いから信じてくれって言う事しか出来ないし……。

 じゃあさ、バハさん的にはどうすれば、俺達がこの国を滅ぼさないと確信を持ってくれるのか、その解決策を提示してくれるとありがたいんだけど……?」

「ふむ、解決策か。 それはお前が了承するならば、簡単に済む話しだな」


 あ、これはもしかして何時ものパターンか?


「血の盟約、要するに私をお前が娶れ、と言う話だな」

「あ~~~! やっぱり、ここでもそう言う話になりますか……」

「ぬ? 龍達の王である私を娶るのが嫌なのか?」

「いえ、娶るのが嫌とかじゃなくて、すでに婚約している女性が何人もいるのですが、それでも良いのかなと思って……」

「…………ちなみに私が共也に嫁ぐとして、何番目になる?」

「7番目……、ですかね……」

「……龍達の王である私が7番目……、むぅぅぅ……。 背に腹は代えられないか……まぁ、良いだろう……。 お前と婚約する!」

「俺と婚約で良いのですか? 別に他の人族と婚約しても大丈夫な気がしますが……」 

「まだ出会ったばかりだが、共也の人となりは理解したつもりだ。 だから、今更お前以外の男と添い遂げようとは思わんよ……。

 だが、私が共也に嫁ぐ条件として、お前の力を見せてくれ」


 真剣な顔で俺に視線を送るバハさんに嫌とは言えず、静かに頷いた。


「そうか、お前の力を見せてくれるか……。 ありがたい……」

「バハさん、力を示すのは良いんだが、どうやるつもりなんです?」

「私が放つ攻撃を受け止め切る、又は弾く事が出来ればお前が力を示したと言う事で、私を娶る資格を得ると言う事になるのだが……」

「なるほど、その試練は今からするつもりで?」

「共也が良ければ、今からやろうと思うが。 どうする?」


 俺は常に腰に下げている魔剣カリバーンに触ると、バハさんに顔を向けて頷いた。


「今からやります」

「そうか……。 共也、死ぬなよ」


 不穏な言葉をバハさんが言うと、素肌の露出していた背中から龍の翼を広げると、両手を前に突き出し魔力を収束させ始めた。


 収束させていた膨大な魔力を感じ取ったグランさん達が慌ててテラスに来ると、今まさにバハさんが俺に向かって攻撃を放とうとしている姿が目に入った事で、慌てて彼女を止めようとする。


「お嬢様、一体何をなさっているのですか!! 今すぐにその攻撃を解除しなさい!!」

「じいや、黙ってろ! これは共也の力を測る為に必要な事なんだ!」

「ですが!」

「行くぞ共也! この攻撃を見事防いで見せろ!【ドラゴニックオーラ!】」


〖ドン!〗


 高速で俺に迫って来る魔力の塊に、俺はカリバーンを抜くと様々なスキルを併用して防ごうとする。


(金剛、剛力将来、身体強化、魔法障壁! 身体能力を向上させるスキルを使って防がないと、これを防ぐのは無理だ!)


〖ガギン!〗


 カリバーンの纏う魔力障壁に接触した魔力球は、俺の身体能力と拮抗していて鍔迫り合いの様な状況になって嫌な音を響かせていた。


 流石龍族の王の本気の攻撃だ、これだけのスキルを使ってるのにギリギリかよ!


 あまりの威力に焦っていると、バハさんの背後から聞き慣れた声が聞こえて来た。


「共也ちゃん!」


 エリア。 そうか、説明も無しにこんな場面を見せられたら、バハさんに殺されかけてると思うよな。


 これは後でエリアに平謝りしないといけないな、と場違いな事を思いながらカリバーンに注ぐ魔力の量を増やして行くと、昔見た不思議な現象が剣に起き始めた。


「樋と刃が同時に青く光り始めた?」


 これは昔、王都が魔物達に襲われて、ハイコボルトと戦った時と同じ……。


 すると、徐々に徐々にだが、拮抗していたはずの魔力球を押し返し始め。

 そして、最後には後方に弾く事に成功すると、はるか後方の夜の海まで飛んで行った魔力球は巨大な爆発を巻き起こした。


「共也、良くぞ私の攻撃を防ぐ事に成功したな、私は嬉しいぞ!」


 いつも以上に全力を出した影響か、しばらく肩で息をしていた俺は、バハさんに返事を返す事すら出来ないでいた。

 俺がどう返事を返そうかと考えていると、彼女の背後にぬっとグランさんが立っていて、その額には青筋が浮かんでいた。


「あ、じい……や。 えっと、私が共也に魔力球を放ったのにはちゃんとした理由があってだな……」

「……お嬢様、いくらちゃんとした理由があろうとも客人として招いた共也殿に、あなたの全力の魔力を籠めた攻撃を放つとは何事ですか!」

「ち、ちが! じいや、聞いてくれ!」

「問答無用!」


 グランさんの渾身の拳骨がバハさんの頭の落とされた。


〖ゴン!〗


「い、いったーーーーい!!」


 拳骨を落とされたバハさんは、あまりの痛さに頭を押さえてしゃがんで悶絶してしまっていた。

 すると、グランさんは俺の前に立ち、申し訳なさそうに頭を下げた。


「共也殿、どんな理由があったのか分かりませんが、客人の命を危険に晒すなどあってはならぬ事。 このグラン、お嬢様に変わって謝罪いたします……」

「あ、いえ。 グランさん、先程のバハさんの攻撃を試練として受けると言ったのは、俺達2人の同意のがあっての事ですから、あまり彼女の事を怒らないで上げて下さい」

「ほう、その理由をお教え願えるのですかな?」

「はい、実は……」


 俺はバハさんに変わりに何故この様な事をしたのか詳しく説明する事となり、彼女はヴォーパリアが壊滅させた後をいたく心配していて、壊滅させた力がこの国に向かない様に人族、用は俺にバハさんが嫁ぐ事で防ごうとしている事。

 だが、彼女が俺に婚約する前に、力を見せて欲しいと願い出て来た事から、先程の魔力球を防ぐ流れとなったと説明すると、グランさんはバハさんに視線を移し、先程拳骨を落とした事を頭を下げて謝罪した。


「お嬢様がそこまで深く考えて、先程の行動を取っていたとは知らずに、ただ現場を見ただけで拳骨を落としてしまった事、深く謝罪いたします……」

「じいやにそうやって謝られると、私って普段何も考えてないように思われてる様で、余計に傷つくんだけど!?」

「何を今更……。 共也殿達を攫う形で、この国に連れて来た事に深い考え何て無かったのでしょう?」

「それは認めるけどぉ! 言い方ぁ!!」


 余程痛かったのか未だに頭を押さえているバハさんだったが、何とか立ち上がり俺に向き直った。


「取り合えず! 共也が私の魔力球を防いだ事で実力を示してくれたから、婚約する事に反対する龍は居ないと思うけど、じいやは反対する?」

「その事に関して反対するつもりはありませんよ。 万年独り身だったお嬢様にようやく春が来たと思えばこのじいや、むしろのし袋を付けて共也殿に差し上げたいくらいですよ!」


 その台詞を言われたバハさんは流石に切れた。


「五月蠅いよじいや!! 今まで春が来なかったのは、ただ良い出会いが無かっただけで、枯れてた訳じゃないんだから、いちいちそんな私の黒歴史を共也の前で言うんじゃないわよ!!」


 顔を真っ赤にしてグランさんに詰め寄っているバハさんの事を、ちょっと可愛いなと思う俺だった。


 そして、心配そうに事の成り行きを見守っていたエリア達は、俺の所に来ると怪我が無い事に安心したのか服の端を掴むのだった。


「共也さん、バハさんとも婚約する事になるんですか?」

「あぁ、どうやら彼女は、ヴォーパリアを壊滅させた後の事を心配しているらしいてね……」

「確かにあの国を壊滅させる事ばかりを考えて来ましたが、今後はその事に関しても考えて行かないといけませんね……」


 俺達が今後の事を少しづつで良いから考えて行かないと思っていると、言い争いしていたバハさんが、グランさんとの話を一旦切り上げた様だが、未だに怒りが収まらない様でこちらに大股で歩いて来た。


「共也、グランはもう今回の事に関しては黙らせたから、これでお前は私の婚約者だ。

 エリア、私も共也の嫁となるからよろしく頼む」

「えぇ、共也さんを一緒に支えて行きましょう」

「バハさん、それで明日の予定を話し合いたいのですが」

「ちょっと待て共也」

「何です?」

「まずは私に敬語で話すのを止めないか?」

「敬語を止めて良いのか?」

「私と婚約する以上は、共也と私は対等の扱いを受けないといけない立場になる。 だから私の事は呼び捨てで大丈夫だ」

「バハ……。 これで良いのか?」

「あ、いや……。 合ってるのは合ってる。 だけど……、出来れば種族名のバハムートでは無く、本名の方で呼んでくれないか?」

「バハさんの本名か……、構わないけど、何て言う名前なんだ?」

「私の名は【エレノア=リ=バハムート】と言うのだ。 だからエレノアと呼んでくれ」

「分かったよエレノア。 これからよろしくな」

「あぁ、任せておけ旦那様よ!」


 こうしてまた1人許嫁が出来てしまった事を、後で菊流達に説明しないとだな……。


「さあ、この後は皆で楽しく食事をしよう!」

「やった! お嬢様からの許可も出たし、久しぶりに私も龍の尻尾ステーキが食べられるわ」

「ちょっとマルローネ、あなたお肉ばっかり取り過ぎよ、皆楽しみにしてたんだから少しは遠慮しなさいよ!」

「良いじゃないヒヨリ。 こんなに沢山あるんだから!」

「あんた際限なく食べ続けるじゃない……」

「聞こえな~~い!!」


 メイド達が我先にと肉を食べる姿を見て、本当に楽しみにしていたのだと感じる。


「さあ、共也達も腹一杯食べて明日の旅に備えようじゃないか」


 こうして、龍王国グランロードに来てからの長い1日が終わりを迎え、漂流していた疲れも出たのか、ベッドに入り込んだ俺達はすぐに眠りに落ちた。


 そして、次の日の朝霧が立ち込めるテラスで黒龍となったエレノアの前には、グランさんとメイドさん達が勢揃いして見送りに来てくれていた。


「エレノアお嬢様、後の事は私達にお任せを」

「じいや、必ずや子供達を取り返してくるからな、その時は国を上げて喜び合おう」

「はい、勿論です……」

「では、行ってくる。 共也達、私の背中に乗ってくれ」

「乗ったぞエレノア」

「振り落とされるなよ、旦那様」


〖バサァ!〗


 エレノアが羽ばたくと、すぐに霧を突き抜けて空高く舞い上がった。


「ひあぁ、た、高い……。 マリちゃん、後の事は頼むわ……」

「ディーネ姉! ディーネ姉、こんな所で気絶しちゃ駄目!! せめて剣の中に入ってーーー!!」


 あまりの高度でディーネはこの国に来る前と同じく気絶しそうになったが、マリの言葉を聞いてカリバーンの中に入って行った。


(ケントニス帝国に着いたら教えて下さい、それまで私はぜっっっったいに外に出ませんから!!)

「ディーネ!」

「アッハッハ! 相変わらず賑やかだな、次の目的地はケントニス帝国だったな、とばすぞ!」


 エレノアがそう呟くと、あっと言う間にグランロードが見えなくなり、360度全てが海だけの景色が広がる事になるのだった。


 ケントニス帝国、10年ぶりだな。 


 幼馴染達を集める旅もついに終わりが見て来たので、アポカリプス教団との決戦も近づいて来るのを肌で感じる俺だった。



最後までお読み下さりありがとうございます。

次回からは菊流達の方に話しが移りますので、お楽しみに。


次回は『商業都市ボルラスに』で書いて行こうと思っています


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