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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
14章・龍達が住む大陸。
224/286

龍達の悲しみ。

「そうですね、何処から語れば良いのか……」

「じい、まずはあいつ等が現れた所からで良いんじゃないか?」

「ふむ。 確かにその方が分かりやすくて良さそうですな」


 グランクさん達に余程の事が起きたのか、俺達は彼からの言葉を待った。


「あれはそう、丁度1年前の雲によって空が良く見えない日でした……。

 あの日も私達は何時もの様に水龍が海に向かい魚を、地龍や風龍がイノシシなどを狩って肉を、それを持ち寄って皆で分け合い、人型となって暮らしていた時でした。 あいつ等が現れたのは」


 =◇====


【龍王国グランロード・港】


「グラン様、各種族が集めた今日の収穫物は港に集めれば良いかい?」

「そうですね、各種族が集めた収穫物は、いつもの様に最後に分配していく方向でお願いします」

「了解です。 水龍達が今日も豊漁だと言っていたので期待出来ますよ!」

「それは楽しみですね。 では、私はお嬢様へ報告しに向かい……。 おや? あの船団は……」

「人族の船ですかね? 珍しいですね、普段は島に近寄ろうとすらしないのに」


 その時の私は久々に訪れた人達の事をただ珍しい客が来た、とそう思っていました。

 そして、その船団がこの島にある唯一の港に接岸すると、一際立派な装束を纏った金髪の男が降りて来て名乗りを上げました。


「私は神聖国ヴォーパリアの王、黄昏光輝だ。 船旅の最中に新鮮な野菜が切れていしまい壊血病を患ってしまった者が多数出ているのだ、もし余裕があるなら分けて貰いたい。

 こちらは有り余っている酒を出そうと思っているので、出来れば早めに返答を頂きたい!」


 普段、収穫物を分け合って質素な生活をしている私達に取って『酒』と言う言葉は魅力的過ぎました。


「そ、それは大変だな。 地龍達に頼めば新鮮な野菜を融通してくれるんじゃないか?」

「いや、それは皆で分け合う物だろう? 酒を地龍達ばかりに持って行かれるのは流石に……」


「なるほど、この島では収穫物を皆で分配して生活している様ですね……。 では、こうしましょう」

「ん?」

「分け合って全員分に行き渡るはずだった野菜を、私達が全て酒と交換すると言うのはどうかな?」

「正気かあんた。 全員分の野菜と交換となると凄い量になるぞ?」

「構わないさ、酒より一緒に船旅をしている者達の命の方が大事だからな。 酒はまた造れば良いが、人の命はそうはいかない。 それで、答えは?」


 とても立派な事を言う若い王だと感心した私は、奴の前に歩み出てしまった。


「あなたは?」

「私は地龍のグラン。 この島の纏め役の様な立場にいる者だと思ってくれれば良い。 それで、そなた達は新鮮な野菜と酒の交換を望んでいる、間違い無いか?」

「あぁ、だが、酒と言ってもピンキリだからな。 後から騙されたと言われても困るからグラン殿がまず酒の味見をしてくれぬか?」

「い、良いのか?」

「構わないさ、良い酒だと分かれば交換しようとする気も起きやすくなるだろう?」

「分かった。 味見させて貰おう」

「了解した。 ダリア、一番良い酒をグラン殿に」

「はい。 どうぞグラン様、これがこの船に積まれている酒の中で一番良い物です」


⦅トク、トク、トク、トク……⦆


 透明なガラスのグラスに注がれた琥珀色の酒を、私は一目で気に入ってしまった。

 そんな私の目をダリアと呼ばれた女の目が怪しく光って、見ている事など知る由も無くな……。


 そして、私は樽の香りが移って、鼻を擽るその酒を一気に呷った。


「う、美味い……」

「本当ですかグラン様!?」

「あぁ、これなら皆が納得する美味さだ……」


〖ゴクリ……〗


「それで、どうされます? 交換してくれるなら、可能な限り交換したいと思っているのですが……」

「だが……」

「グラン様、私の分の野菜は交換してもよろしいです!」


 その1匹の人型になっていた龍の言葉が切っ掛けとなった。


「わ、私が貰う予定の野菜を酒と交換してくれ!」

「ズルいわよ! 私も交換して!」

「「「俺もだ!」」」

「皆さん、お酒は沢山ありますから押さないで下さい!」


『わあぁぁぁぁl!!』


 そうして野菜と交換して手に入れた酒は普段飲む機会が少ない龍達に取っては嗜好品の為、長く味わおうと皆が人型となるのだが、浴びる様に酒を飲んだ龍達は夜になる頃には全員がすっかり酔っ払ってしまい地面の上で眠りに付いてしまっていた。

 私も含めてな。


 そんな龍達の醜態をお嬢様が気付いたのは、次の日の昼を過ぎた辺りだった。


「何だこれは……、皆寝入っているのか? じいやが珍しく朝に来ないと思ったから来てみれば……」


⦅パシン!⦆


「じぃ! 起きろじい! 何があった! 起きて説明しろ!」

「う、お、お嬢様!? わ、私は一体……」

「それはこっちが聞きたい事だ。 この状況の説明を私にしてくれるのだろうな!?」

「皆……。 そうだ! 奴らは!? 黄昏光輝とその一行は!?」

「何処にそんな奴らが居るんだ、龍族以外誰もいないぞ?」

「な、何ですと……。 じゃあ奴らは野菜を手に入れたからさっさと航海しに戻ったのか?」


 その時お嬢様の片方の眉が跳ね上がったのが、私には見えた。


「野菜……? じぃ、何が起きたのか詳しく話せ。 他の者は寝入ってる連中を強引にでも良いから起こせ! これは黒龍王バハムートからの命令だ!」

「は!!」


 お嬢様の周りに居た兵士達によって、酒に酔って寝入っていた連中も目を覚まし、私は黄昏光輝と言う名の者から、壊血病を発症した者達が沢山出たために新鮮な野菜を求めている、物々交換の品として酒を提示されたので、私達は野菜と酒を交換した事をなるべく詳しく説明したのだ。


「あり得ない……。 新鮮な野菜を求めているからと言って、酒と交換するなど……」


 その時だった、水龍の夫婦が住まう家屋から悲鳴が上がったのは。


「わ、私達の卵が……無いわ!!」

「う、家のもだ!」

「何だと!? まさか……。 皆の者、子供達を。 卵が有るか調べるのだ! 急げ!」

「ぼ、坊や!」


 こうして調べた結果分かったのが、人族が入る事が困難な火龍の住む火山以外の場所、港、谷、森に住んで居た水、地、風の龍達の卵が根こそぎ奪われている事が判明し、その全てが行方不明となっていた。


 その事実を知ったお嬢様は激高し、奴らの特徴を聞こうとして私に詰め寄って来た。


「じぃ! 奴らの特徴を言え! 私が探し出して取り戻す!」

「…………もう良いじゃありませんか、お嬢様」

「…………は? じぃ、お前今何て言った?」

「もう良いじゃないですか。 と言ったのです、今更追いかけた所でどちらの方角に行ったのかも分かりませんし、夜の内にこの港を発ったのだとしたら一体何処まで移動しているやら……。

 良いじゃありませんか、また産め〖グシャ! パリン〗……ばぁ!!」


 顔に強烈な衝撃を受けた事で地面を何度も転がり続け、ようやく止まれた時に、私はお嬢様に殴られたのだと理解した。

 そして、顔の痛みを我慢して起き上がると、お嬢様は腕を龍に変化させた状態で涙を流しておられた。


「じぃ、お前ともあろう者が人族の魅了にかかるとは何事だ! 魅了の効果は殴って解除したが、私を鍛えてくれた、憧れのじいはこの程度じゃないだろう! うぅぅぅ……」

「私が魅了に掛けられていたと……。 まさかあの酒の試飲の時か……」

「じい、悔いるのは後にしろ! 奴らの特徴を言え! 時間が無い!」

「は、はい!」


 私が覚えている限りの特徴を伝えるとお嬢様は龍の姿に戻り、海に向かって飛んで行かれたのだ。

 お嬢様が居なくなった島中から、我が子を奪われた悲しみの声が至る所から聞こえていた。


「あぁ、私はどうしてあの時お酒なんかに目が眩んだのよ!」

「私もそうだ……、人族を信頼して野菜と酒を交換しなければ……」

「あぁぁぁぁぁ……」


「お嬢様、頼みますぞ……1人でも良いから救助して下され……」


==


 私は海上を高速で飛び回っていたが、それらしい船団の影を発見出来ずにいた……。


「絶対に民達の子供を取り戻す! 待っていてくれ子供達よ!」


 それから1か月間、お嬢様は奴らを探し続けたがとうとう見つける事が出来ずに、この龍王国へ帰って来られたのだ。


 =◇◇===


「これが、私達の国で起きた出来事だ……。 それからもお嬢様は定期的に外海に出られて、龍の波動を放つ卵を探していたのだ」

「なるほど。 それでこのニーズヘッグから託されたこの卵の波動を、あなた達が奪われた卵と勘違いして襲って来たのですね……。

 全く、あいつ等はどこでも迷惑を掛けるな……」

「ん? 共也『あいつ等』と言う事は名前に聞き覚えが有ると言う事か?」

「えぇ、実は……」


 俺はバハさん、グランさんに今俺達は神聖国ヴォーパリアを壊滅させる為に動いている事、そして光輝は転移者で俺達の幼馴染だと言う事を伝えると納得してくれた。


「なるほど、例えばそいつらの居場所を共也達から聞き出して、そのヴォーパリアに我々龍族が攻めたりしたりすると、今後警戒を強められてしまい壊滅させる事が出来なくなる可能性があるから困る、とそう言うのだな?」

「そうです。 攻めるなら確実に彼奴らを包囲した上で壊滅させたいですからね……。 だから攻めるなとは言わないけれど、せめて俺達の攻め込むタイミングに合わせて欲しいんです」


 俺の言葉に2人は腕を組んで唸っている。


「確かに共也の言い分も分かるが、様々な龍種の卵が攫われてすでに1年、恐らくすでに卵から孵っているであろう、そんな何も知らない子供達を早く助け出さねば、どんな扱いを受けているか……」


 確かに……、多分光輝達は龍達を戦力にするか、魂を暗黒神に捧げる為に卵達を奪ったんだろうな……。


 俺はそこで、ある提案をバハさん達にしてみる事にした。


「そうだバハさん、こう言うのはどうだろう?」

「ん? 共也どうしたんだ?」

「今度、魔国で人族の村に住む人々を救出する作戦が行われるんだが、そこに空を飛べる龍達が魔国まで急いで行き、参加させて貰って子供達の情報を探すってのはどうだろう?」

「ふむ、奴らの領地で人の救助を手伝うと同時に子供達の情報を集めると言う事か、私は有りだと思うがじいやはどう思う?」

「私も有りだとは思います。 私達がもし向かうとなれば行くのは魔国オートリスですかな?」

「そうですね。 あそこに集結した後に人族の領地に向かうはずなので」

「すでに動いているとなると、地龍である私が行くのは無理ですな……。 水、火、も無理となると……風龍……、風龍ですか~~……」


 風龍と言うワードが出た途端に2人揃って額を押さえている。 そんなに風龍を派遣する事に問題があるのか?


「グランさん、風龍を派遣する事は何か不味い事でもあるのですか? 実は空を飛べるだけで、そこまで実力が無いとか」

「いえ、まだまだ荒削りではありますが潜在能力自体はあるのです、潜在能力は! ですが派遣するとなると、今の世代の風龍達は少々性格に問題があってな……」

「じいや、魔国に派遣する事は決まった訳だし、取り合えず奴らを見て貰った方が早いんじゃないか? 黒龍王バハムートの名を使っても構わないから、奴等をここに呼んで来てくれるか?」

「分かりました。 少々お待ちを」


 グランさんは、そう言うと部屋から出て行った。


「バハさん、そこまで風龍達を派遣する事に問題があるなら、別の手段を考える事も……」

「いや、奴らの根性を叩き直すいい機会だ。 それに、族長を付ければ、流石の奴等もそう無茶をする事も無いだろうしな」


 そして、グランさんが来るまでの間、俺達はバハさんとの会話を楽しんでいた。

 どうやらバハさんはマリの事をいたく気に行った様で、膝の上に座らせて頭を撫でたりして可愛がっていた。


「そうか、マリは長い人族の生活の中で1度も海龍にならなかった事で、もう人族の姿に固定されてしまったのだな……」

「うん。 でも、海龍の能力が使えなくなった訳じゃ無いし、これはこれで有りなのかなと思ってるから大丈夫だよ?」

「そうなのか? ふむ、ではマリ、後で私がある技を教えてやろうじゃないか」

「本当!? ありがとうバハ姉ちゃん!」

「ね、姉ちゃん……。 マリ、お前はどれだけ愛い奴なんだ!!」


 バハさんが、マリを抱き締めているとグランさんが戻って来たらしく、扉をノックする音が部屋の中に響いた。


「お嬢様、風龍の長を含めた多数を連れてまいりました」

「許可する。 入れ」

「失礼いたします」


 扉が開き入って来たのは白髪が混じった初老の男の人と、後から入って来た人達は……。


「ねぇ、共也ちゃん、何でこの世界に暴走族がいるの?」

「俺に言われても分からないよ……」


 そう、どうやらグランさん達が派遣する事を躊躇っていたのは、この暴走族の恰好をしている事が原因だったようだ。


 そして、奴らは後ろで手を組み、背を逸らすと王であるバハさんに向かって挨拶をするのだった。


『世露死苦ーーー!!』


 

最後までお読みいただきありがとうございます。

魔国オートリスに風龍達を派遣する事が決まりましたが、少々性格に難有りの人物達でした。


次回は『風龍達を派遣する』で書いて行こうと思ってます。


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