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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
13章・ケントニス帝国への航海。
222/285

黒龍王バハムート。

【共也達の視点】


⦅ザー、ザザ~~ン⦆


 アーダン船長の船から荒れ狂う海に落ちて、俺達が遭難してから早2日が立とうとしていた。


「1隻も船が通らないな……」

「ここってクロノス国とケントニス帝国のど真ん中辺りでしょうから、そう都合良く船が通るとは思えませんし……」

「だよなぁ……」


 そう、俺達はディーネの結界をマリが強化してくれているお陰で海に沈むような事態は避けられているが、何処を見ても水平線しか見えない大海原を彷徨っていた。


「ディーネ、この結界を張っていても魔力は保ちそうかい?」

「えぇ、この程度の結界なら水の精霊となった私なら大した魔力を必要としませんし、ずっと張り続ける事も可能ですよ。

 だから私の魔力切れを心配する必要は無いですが……」

「ずっとこのまま海を漂ってる訳にもいかないよなぁ……」

「はい……」


 どうしたら良いのか分からずにいると、マリが俺達の周りを何かが泳いでいるのを発見したらしく、指指して教えてくれた。


「パパ、何かが私達の周りを泳いでる!」

「あれは……。 水面から背ビレが出てると言う事はサメか!?」

「マリちゃん、私達から離れない様に気を付けて」

「うん、エリアママ……」


 様子を見ながら俺達の周りをグルグルと泳ぐ背ビレを見ながら警戒を強めていると、ディーネが急に警戒と構えを解いた。


「共也さん、どうやらサメでは無いようです」

「え? じゃあ一体……」


⦅ザバン⦆


 すぐ近くまで来ていたそいつ等が海面から出した顔を見ると、白と黒で体の模様が構成されているのが見えたので、その模様を見て俺は気付いた。

 俺達の周りを泳いでいたのは、哺乳類に分類されているシャチだと言う事を。


『キュキュキューー!!』


 胸ヒレを使って器用に手を振る動作をするこいつ等に、俺達は見覚えがあった。

 10年も前に、海龍の卵を盗んだのは俺達だ、と思い込んで襲って来たメリム達から助けてくれたシャチ達だった。


「はぁ……。 お前達か、久しぶりって言いたいけど、サメが襲って来たのかと思って本当に肝が冷えたんだから、驚かせないでくれよ……」

『キュキュキュ!』


⦅ビューーー!⦆


 心外だ!と抗議しているのか、海水を水鉄砲の様にして結界に吐きかけるシャチ達の姿に、俺達がホッコリしていると、ディーネの張った結界を口先で押し始めて大海原を移動し始めた。


「お、おい。 結界を押し始めてどうしたん……。 もしかして俺達を近くの陸地にまで連れて行ってくれるのか?」

『キュ!』

「どうやらその様ですね。 彼等が近くの陸地まで押して行ってくれる様なので、このままこの子達にお任せしちゃいましょうか」

「前も助けてもらったのに良いのかな……」

「ふふふ、この子達は共也さんと触れ合える事が嬉しくてしょうがないみたいなので、大丈夫ですよ?」

『キュキュ!』

「ディーネがそう言うならそうなんだろうな。 でも、お前達が率先して俺達を助けてくれるのはありがたいが、無理だけはしないようにな?」

『キュ~~!』

「分かってるなら良いんだ。 じゃあ、近場の陸地まで頼むな」


 そのままシャチ達に結界を押されながら海原を移動していると、急にシャチ達が止まってしまい上空を見ながら震え始めた。


「お、おい、お前達、何をそんなに震えてるんだ?」


 そんなシャチ達を俺が心配していると、ディーネから焦りを含んだ声が辺りに響く。


「共也さん、上です!!」

「上?」


⦅バサァ!⦆


 ディーネの言葉に俺が上を見るが、何か黒い物体が高速で近づいて来たと思ったら、それは漆黒の鱗を持つ龍だった。

 それが俺達の前で海面スレスレを浮かび、ジッとこちらを見ている。


「な! 龍ですって!? しかも、漆黒の鱗を持つ龍は……。 もしかして、バハムート!?」


 鱗の色と巨大な姿から龍の正体に辿り着いたエリアは、恐怖から体を小刻みに震わせていた。


「エリア、俺の後ろに!」

「共也ちゃん、でも……」

「良いから!」

「う、うん……」


 エリアを背中に隠しながら龍がどんな行動をするのか待っていたが、こちらをジッと見つめて来るだけで何もしようとはしない。


 こいつは一体何がしたいんだ……。


 ディーネとマリも油断無く漆黒の鱗を持つ龍に対峙しているが、その迫力の前に緊張している。


 そんな無言の時間が流れて行くと、漆黒の鱗を持つ龍がユックリと口を開いた。


 ブレスか!


 そう思って4人が身構えたが、その行為は徒労に終わる。


『我の名は黒龍王バハムート。 そこの白髪の女よ、貴様は我が同胞の卵を盗み取った者か?』


 ん? 卵?


「わ、私がですか?」

『そうだ、貴様からは僅かだが龍の波動が見て取れる。 正直に答えれば良し、もし偽りを答えるなら……。 分かっているな?』


 バハムートと名乗る龍からその言葉を掛けられたエリアも、訳が分からず困惑している。


 そりゃそうだ、龍の卵を盗んだって言われても俺達は龍に会った事さえ今が初めて……。


 俺は龍で、そして卵と言うワードで一つの出来事に思い至る。


 あ、もしかしてあれの事を言ってるのか?


「エリア、ニーズヘッグから託された卵の事を、バハムートは言ってるんじゃないのか?」

「あ! なるほど!」


 エリアはポーチから厳重に梱包されていたニーズヘッグから託された卵を取り出して、バハムートの前に翳した。


「バハムート王よ、これは古龍ニーズヘッグから託された託された卵です。 決して盗んだ訳ではありません」

『馬鹿を言うな! あいつはもうかなり前に死んでしまっている! 死者がどうやって卵を残すと言うのだ!!』

「ひ……」

「バハムート王よ、それを今から説明しようと思いますがよろしいですか?」

「…………良いだろう。 だが私が嘘だと判断した瞬間に我が炎で貴様等を焼き尽くすぞ?」

「分かりました……。 少々長くなるかもしれませんが許して下さい」


 そこから俺は港町アーサリーであった出来事をなるべく分かりやすく語って行き、そして最後に氷漬けになったドラゴンゾンビのニーズヘッグから、力の全てを託したこの卵を残した事を語ると黒龍王バハムートの瞳から1粒の涙が零れ落ちて海に落ちて消えた。


『そうか……。 あいつはドラゴンゾンビとなったが、最後の最後に意識を取り戻す事に成功したから、全ての力を託したその卵を、お前達に託したのだな……』

「はい、信じて貰えましたか?」

『あぁ、確かにその卵からはあいつの力の波動が感じられるからな、疑いの余地が無いわ。 白髪の女、盗人扱いしてすまなかった』

「い、いえ。 分かって貰たならそれで充分です」

『そうか、海の旅を邪魔して悪かったな。 我はそろそろ行くよ達者でな』


 俺達がようやくこの緊張感から解き放たれると思い安堵すると、今までずっと口を閉ざしていたマリがバハムートに話し掛けた。


「バハムートのお姉ちゃん、待って!」

『ん? お主は?』

「私は海龍の子供だけど、共也パパの娘のマリです!」

『ほほう、海龍の子供かその誇り高い種族の子供が私に何の用だ?』

「えっと……。 ここから一番近い陸地ってどれくらい離れてるか分かる?」

『陸地だと? それを私にわざわざ聞くと言う事は、お前等その結界で海を旅しているのでは無くて、もしかして遭難しているのか?』

「はい…………」


 俺達全員が下を向いたのを見たバハムートは、その巨体からは信じられ無いくらい澄んだ声で笑い始めた。


『アッハハハ! す、すまん私はってっきりその水精霊の結界で気楽な旅をしてるものとばかり……。 クックック……』

「しょうがないじゃないですか、先日大嵐に遭遇してしまい乗っていた船から投げ出された影響で、遭難してしまったんですから……」


 俺が大嵐に合って遭難したと言うと、ピタリと笑うのを止めてどこか余所余所しくなるバハムートに不信感が拭えない……。


「バハムートのお姉ちゃん……。 もしかして……」


 マリがジト目を向けると、慌て始めるバハムート。


『ち、違うぞ!? 決して大きな帆船から卵の波動を感じたからと言って、大嵐を起こして攻撃したとかそんな事は絶対に無いからな! うん、決して無い!』

「お姉ちゃん……。 それって自白してるようなものだよ?」

『う、五月蠅い五月蠅い! 白髪の女がそんな紛らわしい卵を持ってるのが悪いのだ! 我は悪く無い……と思う……』


 先程までの威厳は何処かの海へと落としてしまった黒龍王バハムートを眺めて居ると観念したのか、俺達に提案して来た。


『同胞ニーズヘッグを看取ってくれた者達よ、その卵を私の同胞達にも見せてくれるなら、私の国まで運搬して、客人として迎え入れよう。 それで今回の事は水に流してくれんか……?』

「それの問いに答える前に、1つ聞きたい事があるのですが良いですか?」

『何だ?』

「あなたが嵐に巻き込んだ船に乗っていた人達は無事なんですか?」

『あの船に乗っていたのはお前達の仲間だったか、強き力を持つ者達だな、我の全力のブレスを防ぎ切るとは予想すら出来無かったわ』

「……黒龍王バハムートが無実の帆船に向けて……ドラゴンブレスを全力で放ったのですか?」

『あ、いや、その……。 分かった! 悪かったですぅ! 後で謝罪の意味も混めて宝具を渡すからもう許してくれよぉ!』

「パパ、これ以上はお姉ちゃんが可哀想かも」

「そうだな、ここで手打ちにしようと思うけど、エリアは良いかい?」

「はい、大丈夫です」

『おおお、海龍の娘マリよ、感謝する! えっと……、後の3人、お前等の名をちゃんと自己紹介してくれぬか?』


 そう言えば向こうに名乗らせておいて、俺達は名乗って無かった事に今更気付いてしまい、恥ずかしくなり慌てて自己紹介を始めた。


「俺の名は神白共也です。 黒龍王バハムート様」

「私の名はエリア。 ある国の王女でしたが今は王位継承権を持たない身なので只のエリアです」

「私はディーネ、この共也さんと契約している水の精霊です」


『共也、エリア、ディーネだな。 良し覚えた。 ではこれからお前達を我が国に運ぼうと思うが構わぬか?』

「えっと……。 先程から『運搬』と何度も不穏なワードが出て来ているのですが……。 もしかして……」


 エリアのその言葉を聞いたバハムートは口の端を持ち上げて笑うと、足でディーネの結界を鷲掴みすると一気に上空に飛び上がった。

 バハムートに結界ごと連れ去られる際に、ここまで運んでくれたシャチ達が胸ヒレを使って俺達に別れを告げてくれたのは何処か嬉しかった。


 だが、そんな感情もすぐに打ち消されてしまう。


「た、高い! バハムート、高度が高すぎるってぇ~~!!」

『アッハッハ、風切り音に紛れてしまってお前達が言ってる事など聞こえぬなーーー!』

「しっかり聞こえてるじゃないかぁ!!」

「パ、パパ、た、た、高いよぉ~~~!」

「共也ちゃん、落ち着いて、ここは深呼吸を……ヒッヒッフ~~」

「落ち着けエリア、それ出産時にする呼吸法な! ディーネを見てみろ、彼女に至っては全く微動だにせずに座っていて立派じゃないか!」


 そんなディーネを見ていたマリが何故か首を傾げて近くまで歩いて行くと、何を思ったのか彼女の顔の前で手を左右に振る。

 だがディーネはその手の動きに全く気付いていないのか、反応を示さない。


「パ、パパ、ディーネ姉って気絶してるみたいだよ?」

「ディーネぇ!!」

『アッハッハ、良いね良いね、そんなお前達の悲鳴が私の心を満たしていくぅ~~!』


 こいつ、さっきまで俺達に責められていた事に対する仕返しか!! 大人げねぇ!!


『あ、ちなみに私の国まで後半日くらいかかるから頑張ってな♪』


 その台詞をバハムートから聞いた俺達の言葉は、盛大にハモるのだった。


『「「もう近場の陸地で降ろしてくれーーーー!!」」』

『アッハッハ! い・や・だ♪』


 凄い速度で雲が流れて行くのを眺めながら、俺達は龍達の住む国へと招待?されてしまうのだった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

今回はダグラス達と逸れた共也達がバハムートと邂逅して、国へと招待?される話しでした。


次回は『龍達の住まう大陸』で書いて行こうと思っています。


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