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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
13章・ケントニス帝国への航海。
221/285

クラーケン撃破。

「茜さん、私の攻撃に合わせて下さい!」

「はい、近藤さん!」

『「はあ!!」』


〖パアァーーン!〗


⦅ザバーーン!⦆


 また1本クラーケンの触腕が、近藤と茜によって切り落とされて荒れ狂う海に落ちた事で、船に纏わり付いている触腕は残り7本となっていた。


「流石茜さん、素晴らしい太刀筋です!」

「嫌ですわ、近藤さんに比べたら私の剣技などお遊戯みたいな物です……」

「そんな事は無い! 茜さんの剣技はまだまだ伸びます、この近藤が保証いたします!」

「近藤様、ありがとうございます……。 あなたの言葉がどれだけ私を元気づけてくれるか……」

「茜さん……」


 また自分達の世界に入り浸る近藤と茜に辟易ていると、三毛猫の着ぐるみを着たエストがハリセンで2人の頭をぶっ叩いた。


『スパパーーン!』


「いったーーーい! 何をするのよエストちゃん!」

「そうだぞ! 俺達はお互いの愛を育んで『やっかましい! イチャイチャするのは、この状況を切り抜けてからにしろーーー!!』お、おう……すまん……」

「ごめんなさい……」


 2人を何とか現実に引き戻してくれたエストの感謝しつつ、甲板上に上がって来るマーマン達を次々に撃破して行く私達だったが、まだ7本もある触腕に巻き取られている船体から、あまり聞きたく無い音が辺りに響いていた。


⦅ミシ、ビキビキ、パキ……⦆


「ダグラス、船体から嫌な音が聞こえて来るんだけど、もしかしてマーマンの相手をしてる時間は無いんじゃない?」

「それは俺も感じてるが、こうも数が多いと……な!」

「そうよね……。 じゃあダグラス、私が精霊の力を解放してこいつ等の相手をするから、その間に1本でも2本でも良いから切り落とす事って出来る?」

「出来るとは言い切れないが、やらないとこの荒れた海に放りだされて死ぬだけだ。 やってやるよ!」


 その強気の言葉に私は微笑み、マーマンの相手をしていたヒノメを呼び戻した。


「ヒノメ、精霊の力を使うから制御の方は任せるわよ」

「お任せ下さいお母さん、遠慮なく全力で戦って下さい!」

「頼りにしてるわよ、ヒノメ! 行くわよ!」


 菊流が精霊の力を解放してマーマン達を次々に屠って行く中、俺は船体に絡む触腕を前にグラトニーとフレイムタンを手に持つと、船を解放する為に駆けだした。


「まずは1本目!」


⦅ジュ~~~~!!⦆


 炎属性の魔剣であるフレイムタンで触腕を切りつけた事で、イカが焼ける香ばしい匂いがダグラスの鼻腔を刺激して来た為、涎が溢れ出してくる。


「クッソ! 美味そうな匂いを放ちやがって!! 腹が減って来るじゃねえか!!」

(ダグラス、俺にその触腕を食わせろ!! 焼ける匂いのせいで腹減った!)

「あぁ、沢山あるからいっぱい食らえ、グラトニー!」

(ヨッシャーーー!!)


 黒剣から口が現れた事を確認したダグラスが、黒剣で触腕を切りつけると、その傷口を中心としてゴッソリと抉られて無くなった。


(うんめぇ~~~~!! もっとだ! もっと寄こせダグラス!)

「相変わらずの食欲だな、まあ7大罪の1つなんだから当たり前……か!」


⦅ザン、バツン!⦆


 また1本触腕が切断されて、海に落ちて行く。


(ああ! もったいねぇ! ダグラスさん、もうちょっと切りつける位置を考えて、俺を使ってくれるかな?)

「あぁ、五月蠅い五月蠅い! 今はそんな余裕なんて無いんだから黙ってろ!! それにまだ獲物は沢山あるんだから1本くらい良いだろ!」

(それもそうか、良し。 ダグラス、次だ次!)

「お前って、相変わらず現金な奴だなぁ……」


 俺が残りの触腕を切断しようとしている事を察知したクラーケンが、簡単に切断されない様に2本の触腕で攻撃して来たが、1本の触腕にジェーンが片手刀を突き刺して張り付いた事で、彼女を振り落とそうと暴れ始めた。


「ジェーン、無理するなよ、危ないそうなら一旦離れるんだ!」

「くうぅぅぅ! だ、大丈夫です。 これくらい一人で切り抜けられないと、共兄と一緒に歩んで行く事なんて……出来るはずが無い!!」


 俺が1本を相手にしていると、ジェーンが取り付いている触腕とは別の触腕が、ジェーンの背後から迫っていた。


「ジェーン! 後ろだ!」

「くうぅぅぅ! こんな事でーーー!!」

「アッハッハ! そこでこの生体磁石を使えばあら不思議! 対象がこの磁石に吸い寄せられて……」


 ジェーンを襲おうとしていた触腕が、生体磁石を持つエストに方向を変えて襲い掛かって来た。


「あんるぇ~~~。 そうか生体磁石に引き寄せられるんだから、当然私に来るよね~~……ひでぶ!!」


〖バガーーン!〗


 触腕に殴られて吹き飛ばされて船の壁を突き破ったエストだったが、魔道具の着ぐるみのお陰で全くの無傷らしく、すぐに立ち上がり、生体磁石に括り付けていた紐を引っ張り固定した。


「触腕が伸び切ってる今が切断しやすくなってますよ、ノインちゃん今ですよ!」

「エスト姉様、任せて! はあぁぁぁ!!」


〖バツン!!〗


「いよ~~~し! 残り5本!」

「いえ、残り4本です!【風遁・穿ち】」


〖パアン!〗


 ジェーンが触腕を風遁で切断した事で、残りの触腕は4本となった。 あと少し!


 だが、ここまで来てクラーケンの挙動がいきなり変わった。


⦅メキ、ビキキ、バキ!⦆


「やばい! こいつ俺達を相手にするより先に、船を破壊するつもりだ! 船を破壊されてこんな暴風が渦巻く荒海に放り出されたら、ディーネの居ない俺達だと死亡確定だぞ!」

「ダグラス、何とか出来ないの!?」

「出来たらやってるよ! 今から切断しようとしても時間がねぇ!!」

「やっぱりこうなりましたか……。 シャル姉、見てますよね? 来て下さい!【戦乙女召喚!】」


 イリスがスキルを発動したと同時に、あれだけ厚かった黒雲から一筋の光が船を照らすと、そこから白い4枚の羽根を持つ黒髪の戦乙女のシャルロットが甲板上に降り立った。


「やっほ、イリスちゃん。 お久しぶり♪」

「シャル姉、呼び出しに応じてくれてありがたいですが、今は」

「そうだったね、まずは船から触腕を引き剥がそうか」


 そう言うとシャルロットは、眼鏡の位置を直すと、今まさに船を壊そうとして絡み付いている触腕に手を向けた。


「私は船に触腕が絡む事を【拒絶】します!」


⦅ババババシン!!⦆


「そして、私は触腕の主たるあなたが海に潜っている事を【拒絶】する!」


⦅ゴボ、ゴボゴボ。 ザバーーーン!!⦆


 シャルロットが呟いたと同時に、海から巨大なイカが海から弾かれた様に飛び出して来た。


「イリスちゃん、今よ!」

「はい! シャル姉! 我が敵を貫け【神槍ゲイボルグ!】


 だが、イリスから放たれた攻撃が自分の命を脅かすと判断したクラーケンは、残った4本の触腕全てを重ねて彼女の攻撃を受け止めた。

 イリスの攻撃を受け止めた事で4本の触腕全てを切断されてしまったクラーケンだったが、生き残っている様で徐々に荒れ狂う海へと落下し始めた。


「イリスちゃん、もう1度行ける!? あのままだと逃げられちゃう!」

「ごめん、シャル姉……。 この槍を1度でも使うと体力と魔力が大部分持ってかれちゃうから……」

「そうだった……。 ああ、どうしよう逃げられちゃう!」


 クラーケンが落下し始めた所で、この海域に声にならない絶叫が辺りに響いた事で全員が一斉に耳を塞いだ。


『!!!!!!……』


 悲鳴が止んだ事で声の発生源であるクラーケンに視線を向けて見ると、そこには海から現れた巨大な氷で出来た槍に貫かれて絶命していた。


「氷の槍……って事は与一とスノウちゃん?」

「菊流、この氷の槍を与一の奴が作り出したって事なのか?」

「多分ね……。 与一とスノウちゃんが一緒に行動してたから、彼女の能力も加わってるのかな?」


 そこに聞き慣れた声が、私に耳に聞こえて来た。


「勿論そう。 スノウちゃんと合体技を編み出した。 ブイ!」

「与一姉ちゃん、それするのって恥ずかしいから止めよ?」

「むう、恰好良いのに……」


 与一が船内に続く扉から外に出て来ると、クラーケンの触腕によって崩れかけていた船体が薄い氷に覆われた事で補強されたのか、軋む音もしなくなった。


「与一、スノウ、かなり危ない状況だったから、船体を氷で補強してくれて助かったぜ」

「ふっふっふ。 それで、共也とエリアが見当たらないけど、何処にいるの?」


 与一のその言葉を聞いて、私達は何も言う事が出来ないでいると、与一が目を剥いて私の両肩を掴んで来た。 


「菊流! 共也とエリアは何処に行ったの!?」

「クラーケンの襲撃を受けた時にエリアが海に落ちて……。 そしてエリアを助ける為に共也も……」

「そんな……」

「で、でも! ディーネちゃんも一緒に居るはずだからきっと無事のはずよ!!」

「ディーネちゃんも……、そう言えばマリちゃんも見当たらないね……」


 私達が共也の事で話していると、シャルロットさんが今思い出したとばかりに、ディアナ様からの伝言を私達に伝えて来た。


「ディアナ様が千里眼で見ていたのですが、共也さんとエリアさんは、ディーネさんとマリちゃんの能力で作り出された結界に守られて無事との事です!」

「本当!? 無事なら良かったけど、私達は4人と合流出来そうなの?」


 そこに船の持ち主のアーダン船長が会話に入って来た。


「それは無理だ、今は与一とスノウの氷で補強されてるから普通に航海出来るているが、すぐにでも修理しないと崩壊しかねないし、ましてやこの嵐を乗り越えるなんて」


 アーダン船長がそう強めに口に出すと、先程まで空を覆っていた厚く黒い雲が消え、雲一つない青い空が晴れ渡り、あれ程荒れ狂っていた波も落ち着きを取り戻した。


「……あれだけ荒れ狂っていた暴風雨も、波も……」


 そこに物見台でずっと辺りを見渡して居たトニーさんから、悲鳴の様な声が船全体に響き渡る。


「に、2時の方向からドラゴンブレスの攻撃が来るぞ!! 魔力障壁を張れる奴は急いで張ってくれ!!」

「え? ドラゴン……ブレス?」


「今は理由を聞く前に早く行動しろ! 攻撃が来るぞ!!」

「ええい! 2時の方角じゃな!? 後でちゃんと説明するんじゃぞ!【魔力障壁展開】」

「《アイスウォール》」「スノウの出現させた氷壁よ、凍りつけ!【氷結】」


 スノウと与一が作り出した氷壁を前面に、そしてミーリスがその氷壁の後方から集めの魔力障壁を展開した瞬間に、それが来た。


〖ドゴン! ゴオオオオオオオォォォォ!!〗


「きゃああああぁぁぁぁぁl!!」

「うおおおぉぉぉぉ!!」


 巨大な炎が最初スノウと与一の作り出した氷壁に衝突すると、ミーリスの張った魔力障壁をなぞる様に広がって行き、船を避ける様に通り過ぎて行く業火を、何処か現実離れした光景として全員が呆然と眺めていた。


「くううぅぅぅぅぅ!!」


 そして、ようやく業火が通り過ぎて行った事を確認した私達は、炎が飛んで来た方角を見て驚愕した。

 そこには黒い鱗を持つ巨大な龍が、海面ギリギリを羽ばたきながらこちらをジッと見つめていたからだ。


 その巨大な龍の姿を目にした船員達は、膝がガクガクと震えてしまいまともに立っていられなくなり、腰が砕けた様に甲板に座り込んでしまった。

 そして、アーダン船長までもが、全身が震えてしまって後ろに後ずさりしているくらいの迫力がその龍には有った。


「全身が黒い鱗に覆われていて、尚且つあの巨体で空を飛べる事の出来る龍は1匹しかいない……。 黒龍王……バハムート……、なんでこんな海域にいるんだ。 奴は本来、ここからもっと南にある龍達が住む島にいるはずじゃ……」

 

 みんなが恐怖で震えている中、転移組の私達は別の意味で震えていた。


(龍! そしてバハムート! あぁ、この光景を見られなかった事を知ったら、共也は悔しがるだろうな……)


 と、全く別の事を考えていた。


「トニー、あいつはどこから現れた!」

「あ、あいつは黒い雲が消え去ったと同時に上空から降りて来たんだよ。 そして海面付近で止まったバハムートが、口に魔力を集めてドラゴンブレスをこちらに放とうとしていたから、慌てて声を掛けたんだ!」


「そう言う事か、さっきまでの嵐もあのトカゲが起こした現象かぁ!」


 ミーリスが悔しそうに怒声を放つが、当のバハムートはそんな私達の反応に満足したのか、口角を持ち上げて笑うと、もう用は済んだとばかりに羽ばたいて空に昇って行くと、そのまま南に向かって高速で飛び去って行った。


「一体あいつは何がしたかったんだ……」


 私達は嵐とクラーケンによってボロボロにされたアーダン船長の船の上で、遠ざかって行く黒い竜を見送るのだった。


 ==


「皆すまん……。 クラーケンから受けた攻撃によって船の損傷が酷いため、ケントニス帝国ではなく、1度船体の修理をする為に、一度商業都市ボルラスへ向かおうと思うが構わないか?」

「そんな……。 アーダン船長、まだ共也がこの広い海原の何処かに……!」

「菊流お前の言いたい事も分かる。 だが、このまま行方不明の共也を探して時間を無駄にすれば船が瓦解して、全員が死ぬ事になるぞ?」

「それは、そうですが……」

「大丈夫だ、ディーネとマリちゃんが一緒に居るならすぐ死ぬ様な事は絶対に無い。 急いで船を修理して戻って来ても、きっとあいつ等ならしぶとく生き残っているはずだ……」

「菊流……。 ディアナ様もきっと共也達の居場所を追ってくれてるはずだから、後でイリスちゃんに共也の居場所を聞いて貰おう? ね?」

「ううう、与一……。 分かったよ……。 アーダン船長、商業都市ボルラスに向かって下さい……」

「分かった。 菊流、船を必ず早めに修理するから、我慢してくれ」


 共也、必ず迎えに行くから死なないでよね……。


 こうしてクラーケンを撃破した菊流達は、船を修理する為に一時的に商業都市ボルラスに船を向けるのだった。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

クラーケンを撃破して、新たにバハムートとの邂逅、そして商業都市ボルラスで船の修理をしに向かう話でした。


次回は『黒龍王バハムート』で書いて行こうと思って居ます。


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