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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
12章・魔王ルナサスの趣味。
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各々の自由時間③

【ジェーン視点】


 今、私の視線の先では、共兄とエリア姉が手を繋ぎながらクロノスの都市を散策している所だった。


「エリア姉が、手を繋いであんなに幸せそうに歩いてる姿を見るのって初めてかも。 共兄も共兄で嬉しそうだし、ちょっと嫉妬しちゃうなぁ。 だけど、今まで常に誰かが近くに居たから2人きりの時間なんて取れなかったんだし、2人があんなに嬉しそうにするのはしょうがないか……」


 そう小さく独り言を呟きながら、私は2人の護衛として路地沿いに建てられている屋根の上から付いて回っていた。


「生活必需品はまだ沢山あるから買う必要も無いし、2人の邪魔をする奴が現れないかちゃんと監視しないとだね! これは任務、うん、任務なの。 決して羨ましいだなんて思って無いんだから!!」


 すっかり共也への恋心を拗らせてしまったジェーンは、これが誤魔化しだと自分でも理解しつつ幸せそうに歩く2人の後を追跡していた。


「おい。 あの白髪の女、人間にしては」「良いね、攫って奴隷商に売っちまうか?」「へへ、高く売れそうだな」


 路地裏に潜んでいた魔族の男達が下卑た笑みでエリア姉を指差すと、後を付け始めた。


「あいつ等……」


 どれだけ平和そうに見える魔王の1人が統治する都市だと言っても、やはり一定数の悪人はいるらしく、数人のチンピラ達がエリア姉達の後を付け始めていた。


「やっぱりルナサス姉が統治している街でも、ゴミの様な悪人が発生してしまうのは防げないんですね……。 まぁ、共兄達に手を出すなら、隙を見て処すだけですけどね」


 腰に差してある2本の片手刀を手に取ると、ルフちゃんにお願いして視認妨害の魔法を掛けて貰い、路地裏に潜む男達に近づいた。

 するとチンピラ達から、下衆な会話がハッキリと聞こえて来た。


「人族の男程度が、あんな綺麗な女をこれ見よがしに連れて歩きやがって、気に食わねえ……。 女は攫って奴隷商に売る事は確定だが、男の方は殺して海にでも捨てるか?」

「女の方は奴隷商に売る前に勿論楽しむん……だろ?」

「へっへっへ、何を当たり前の事を言ってやがるだお前達は」

「へへ。 一応確認をな?」

「まぁ良い、気付かれない様に後を付けるぞ」

「了解!」


 こいつら、今共兄を殺すと言ったの……?

 …………へぇ。

 じゃあ、こいつらも人を殺そうとしてる以上、自分が殺される事も覚悟の上なんだろうから、遠慮する事無いよね?


 自分では冷静だと思っていたけれど、先程こいつらが発言した『共兄を殺す』と言う言葉に頭に血が昇っていた様で、もしあと一言こいつ等が余計な事を言っていたら、人に見られようが関係無く殺していた所だ……。


「ふぅ~~。 落ち着け、落ち着け……」


 ただ、魔族の男達の人数が少し多い。 もしもの事を考えるのならこいつ等が共兄達に接触する前に少し人数を減らすべきだと思い、一番後ろを歩いていた魔族の男の口を塞ぎ路地裏に連れ込んだ。


「!!?」


 無言で昏倒させると、空になった酒瓶を足元に適当に置く。 これで酒に酔って寝ている様に見える男の出来上がりである。


 この様に、次々に最後尾を歩く男達を路地裏に連れ込み偽装工作をして行く内に、リーダーらしき男に異変に気付かれてしまい、仲間に何故人数が少なくなっているのか理由を尋ねた。


「おい、妙に人数が少なくなってるが、他の奴等はどうした?」

「あれ、本当だ。 確かに人数が少なくなってますね」

「ふむ、お前等の誰にも行き先を告げずに消えたって事は……」


 まさか、私が襲撃している事がバレたのか!? と、思ったが違った。


「便所だな!?」

「流石リーダー! ほんのわずかな情報でその答えに辿り着くとは! 俺達とは違い頭良いですね!」

「だろう? 生理現象なら恥ずかしいから黙って居なくなるのもしょうがねぇな。 お前等の分け前が少し減ってしまうかもしれないが、後から来た奴らにも分け前をやっても良いか?」

「リーダー、あんたって人は優しすぎますよ!」

「ふっふっふ、どうだ俺は優しいだろ!!」

「最高っす!!」


 …………何こいつ等。


 私は透明になった状態のままで、円陣を組み始めたチンピラ達を冷めた目で見続けていた。


 ==


 その後も私は数人の男を路地裏に引き込み昏倒させて行くが、リーダーと呼ばれている男は仲間が居なくなるのは、生理現象の為の離脱だと本気で思って居るらしく、大して気にも止めていない様子だった。


 そして、共兄とエリア姉が1軒の魔道具屋に入った所で、奴らは入り口から死角になっている場所に陣取った。 


「お前等、用くらい足しておけよ。 どんだけ離脱者出してんだよ」

「まぁ良いじゃないですかリーダー。 どうせ後は店から出た所を襲うだけなんですか。 その後は……グフフ!」

「今日は良い1日になりそうだな。 おい!」

「本当ですよ!!」


 流石にこいつ等を、これ以上放置しておく訳にはいかない。


 そう思いこいつ等を処分しようかと思った所で、魔道具屋の中からとんでもない大音量が鳴り響き、店の入り口の死角に居たチンピラ達はその音波攻撃により気絶してしまったのか、その場にバタバタと倒れ込んで行った。


「い、一体何が起きたの?」 


 絶叫のような音波攻撃が終わった後も暫く耳が聞こえなかった私だが、流石にチンピラ共をこのまま放置する訳にも行かない。

 そう思い、チンピラ共の懐を漁り武器やお金を回収すると、こいつ等の服を剥ぎ取り街道の端に放置してやった。 


 魔道具店に入った共兄達を見守っていると、2人が店から出て来た。 その背後には、三毛猫の着ぐるみに身を包んだ特徴的な人物は……。 エスト姉!? 何でこんな所に……。 


 どうやら聞こえて来る会話の内容から再び仲間として加入する事が決まった様で、私は共兄達に気付かれない内に一足先に船に戻り、新たな乗船員が増える事をアーダン船長達に報告する事にした。


(……またお嫁さん候補が増えるのかな?)


 巨大なリュックを背負う三毛猫の着ぐるみを見ると、溜息を一度吐き私はその場を後にした。



 =◇====


【菊流視点】


 生活用品を買い揃えた私は、誰にも見られない様に船に戻るとすぐ自室に籠っていた。


「……………」


 暫くすると船内が騒がしい。 どうやら共也が帰って来たらしく、アーダン船長の声がここまで聞こえて来る。


「ま~~た乗船員が増えるのね……。 まぁ、もう今更か。 取り合えず共也に会って来るから、あなたは絶対に部屋から出ないでよ?」


 同じ部屋に居る人物は私の言葉に素直に頷いた事で、私は共也を連れて来る為にドアノブに手を掛けた。


(ヒノメ、逃げ出す事は無いと思うけど、一応気を付けてね?)

(分かりました。 早く帰って来て下さいねお母さん)

(共也を呼んで来るだけだから。 行ってくるわ)


 念話で指示を出すと、私は共也を連れてくるために部屋を出た。


「いた、共也……とエスト!?」

「あ、菊流さん、お久しぶりです……。 ニャ~~」


 目的の人物は三毛猫の着ぐるみを着たエストを船員達に紹介していたが、どうやら事前にジェーンちゃんから彼女が来る事の説明を受けていた様だ。

 エストの容姿に少し驚いてはいたが、流石私達との付き合いが長いアーダン船長。 悟りを開いた様な優しい表情で彼女の事を受け入れていた。 


 アーダン船長も共也が次から次へと新しい仲間を連れてくるものだからすっかり慣れちゃって……。  と、そんな事を言ってる場合じゃ無かった。


「共也、ちょっと私の部屋に来て欲しいんだけど良いかな? エリアとジェーンちゃんも一緒に……」

「…………その感じだと、今じゃ無いと駄目なんだな?」

「うん、ちょっと後にしたくない話があるの」

「エリア、ジェーン、良いかい?」

「私は平気、あそこまで強引に来て欲しいって言うのは、相当重要な案件何だと思うし」

「菊流姉、私も大丈夫です」

「ありがとう。 エスト、ちょっと待っててもらって良いかな?」

「大丈夫ですよ。 私の事は気にせずに、ごゆっくりどうぞ」


 そして、私は共也達を自室の扉を開けると、小鳥の姿になっているヒノメが出迎えてくれた。


「お母さんお帰りなさい。 異常無しです」

「ヒノメありがとう。 皆入って」


 菊流に招かれて彼女の部屋に入ると、深めの黒のフードを被っている人物が椅子に腰掛けていた。


 誰だ?


 菊流に視線を向けると、彼女はフードを取る様に指示を出した。


「フードを取って顔を見せて上げて」

「…………」


―――パサ


「え? 嘘……」


 フードを取った燃える様な赤い髪を持つ人物の顔を、俺達は良く知っている……。 


 そう、フードを被って椅子に座っていた人物、それは菊流の体で俺達を襲って来たパペックがそこに座って居たのだ。


「共兄、私の後ろに下がって!」


 ジェーンが素早く片手刀を構えると、俺を庇う様に前に出た。


「お前はパペック! 何で菊流の部屋に居るんだ!?」

「共也、落ち着いて。 これから何故パペックがここに居るのか説明するから」

「あ、わ、悪い……。 菊流、敵かもしれない相手をこの船に招き入れたんだ、それなりの事情があるんだろうな?」

「事情と言うか……。 この子、どうやら光輝に捨てられたらしいのよ……」

「は? 捨てる?」

「えぇ、私もパペックから全部を聞いたわけじゃないけど、どうやら本当にゴミを捨てるみたいに『お前はもう必要無いから、俺の前に二度と姿を見せるな』と言われた後に、最後の命令として赤の転移石を強制的に使わされたらしいのよ……。 で、気が付いたらこの街の路地裏にいたらしいのよ……」

「パペック、そうなのか?」


 こちらをジッと眺めるパペックだったが、諦めた様に頷くとこれまでの経緯を話し始めた。


「うん……。 次に姿を見かけた場合は、問答無用で破壊するとまで言われました……。 私、マスターが喜んでくれるように頑張って来たつもりだったのに……。 結局最後まで私の何が気に入らなかったのか、分からなかったの……」


 質問に答えた後のパペックは、体を震わせながら床を眺めていた。


「あなたがアーサリーでした事は許される事じゃない。 それは分かってる?」

「……うん。 でも、マスターに捨てられない様にするには、ああするしか無かったの……」

「悪い事をしたって分かってるなら良いのよ……」


 菊流はパペックを優しく抱き締めると、口を開いた。


「共也、無茶を言ってるのは分かるんだけど、この子を私達の旅に連れて行く事って出来無いかな?」

「菊流、本気か?」

「うん。 駄目……かな?」


 パペックの言う事が本当なら、俺も可哀想だとは思う。

 だけど、こいつが港町アーサリーでネクロマンサーの宝珠を使ったせいで、何人もの犠牲者が出てるのも事実なんだ、俺だけの判断でこの子を連れて行く事は出来ない……。


「パペックさん、あなたを捨てた光輝にまだ未練はありますか?」


 そこにパペックが答えるのに辛い質問を、エリアがぶつけた。


「未練が無い……って言うと嘘になるけど、マスターにハッキリと捨てると言われた以上、戻りたい、彼の為に何かして上げたいとは思わないかな……。 それでも、私が怪しいと思うならこのまま破壊してくれて構わないよ? もう誰にも必要とされない毎日に疲れたの……」


 そんなパペックの悲しそうな顔を見て、エリアはその話を信じたらしい。


「共也さん、私は連れて行っても大丈夫だとは思いますが、最終的な判断はお任せします」

「俺も大丈夫だとは思いたいが、エストだけじゃなくパペックも……となると、物資的な意味も変わって来るから、アーダン船長に相談しないといけないし、彼がどんな判断を下すかだな……。

 パペック、この船の主にお前が乗船する事の許可を貰いに行こうと思うんだが、自分の口から何故俺達と行動を共にする事になったのか、その説明する事が出来るか?」

「説明しろと言うならするけど、私を連れて行ってくれるの?」

「俺が両親を失って1人になった時に、菊流がずっと側に居てくれたから耐える事が出来たんだ。 そんな菊流の顔を持つお前に1人になったって言われたら、救わない訳にはいかないさ」

「共也……、ありがと……」

「さて、じゃあ皆でアーダン船長に怒られに行きますか!」


 パペックを旅に連れて行くと決めた以上、これからの事も考えて上げないとな。 そんな事を考えているのが顔に出ていたのか、皆の顔は嬉しそうに微笑んでいたのだった。


「パペックさん、その名前に拘りってあります?」

「拘りと言うと……。 このパペックと言う名にですか?」

「そうです」


 唐突にジェーンがパペックと言う名に対して質問したものだから、彼女は目を剥いて驚いていたがすぐに返答を返した。


「いいえ、捨てられた以上はこの名前に未練は無いです……。 それがどうされました?」

「じゃあ、心機一転として、新しい名前を付けて貰ったらどうでしょう?」

「新たに名前を……付けて貰うのですか?」


 予想だにしなかった提案だったが、パペックは何処か嬉しそうにしている。


「お願いして良いかな?」

「了解です! では共兄、頑張って良い名を付けて上げて下さい!」

「ジェーンが名付けるんじゃなくて、俺が付けるのか!?」

「ふふ、それは良いわね。 見つけて連れて来たのは私だけど、連れて行くと決めたのは共也だもの、元は私の体なのだから、きっと良い名前を付けてくれるわよ……ね?」

「良いですね! きっと共也さんなら良い名前を付けてくれますよ!」

「ジェーン、後で覚えておけよ?」

「えへへ、いつでもお相手になりますから良いですよ?」


 それはどんな意味で!? と聞きたかったが藪蛇になりそうだったので止めておいた。


「名付けするの……嫌ですか?」

「嫌じゃ無いが…………。 分かった、分かったからそんな悲しそうな顔をしないでくれ……。 ネーミングセンスは無いんだから、そこまで期待しないでくれよ?」


 何か名前のヒントにならないかと思い、パペックの全身を眺める。


 そして、燃える様な赤い髪が目に入り、菊流の家の女筋は花を名を付ける人物が多いと聞いた事があるのを思い出すと、脳裏に1本の花が思い起こされた。


「…………【ヒナゲシ】と言うはどうかな? 花言葉に『いたわり』や『思いやり』も含まれてるから、これからはこうして欲しいと言う想いを籠めて、この名を送ろうと思うんだけど……どうかな?」

「ヒナゲシ……。 いたわり……。 思いやり……。 うん、私は今からパペックから【ヒナゲシ】だね。 ありがとう共也さん……、ずっとこの名前を大切にして行くね……」

「あぁ、ヒナの名前も決まった事だし」

「そうね」


『「「アーダン船長に怒られに行きますか!!」」』


 こうしてエストに続き新たにヒナゲシを仲間に迎えた俺達は、アーダン船長にまた新たに仲間が加わった事を説明する為に、再び甲板上に向かうのだった。




ここまでお読み下さりありがとうございます。

今回で自由時間の話しは終わりになり、次回からケントニス帝国に向けて出航となります。


次回は『嵐』で書いて行こうと思って居ます。

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