近藤さんのパートナー!?
カチャ、カチャ、カチャ……。
(ダグラス、本当に共也達に付いて行かなくて良かったのか? 10年ぶりに見たあいつ等は確かに強くなっていた。
だが、シェリー嬢ちゃんがあの後言っていたよな、全員に死の気配が纏わり付いていると……。
ダグラス、シェリー嬢ちゃんがハッキリと『死』と、口にした時の占いは今まで外れた事が無い……。 すぐじゃないにしても、あいつ等死ぬ事になるぞ?)
「分かってる。 分かってるから少し黙っててくれ【グラトニー!】」
俺は家の地下に作ってある鍛錬場で【黒剣グラトニー】の整備をしていたが、先程グラトニーが言った様に、皆が帰った後にシェリーがまた無意識に共也達を占ってしまい『死』と言う言葉を含んだ予言を口にしてしまった……。
人の運命を予言してしまう占い……。
こうなる事を恐れて俺達家族はシェリーを守る意味でも、人里から離れて暮らしていたというのに、俺はどうすれば……。
⦅コンコンコン⦆
鍛錬場の開いている扉をノックする音が聞こえたので、そちらに視線を向けると入り口の扉の所には大きなお腹を支えているメリムが立っていた。
「やっぱりここだったか。 悩み事があるといつもグラトニーの整備をしに鍛錬場に降りて来るから、お前の行動パターンは読みやすいな……」
「メリム……」
メリムは小さな座椅子を手に取ると、俺と背中合わせに座った。
背中にメリムの体温が伝わって来る……。
カチャカチャ……。
「………………なぁ、ダグラス」
「何だ?」
「共也達に付いて行きたいか?」
カチャ……。
「…………いや、俺はお前達を守る為に参戦しないとハッキリ断ったんだ。 後は共也達の勝利を願って『嘘だな』……メリム?」
「確かにダグラスは皆と別れた時までは、私達の為に戦争への不参加を貫こうとしてくれていた。 だが、シェリ―の占いを聞いてお前は明らかに迷い始めている……。 違うか?」
「……確かに迷っているのは事実だよ。 でもな、俺はお前を妻に娶り、そしてシェリーが生まれ、そして、また新しい命が生まれようとしている。 そんな中、俺がお前達を置いて共也達と旅に出るなんて事が出来る訳無いだろう……。 だから頼む……もうその話しを俺に振らないでくれ………」
幼馴染達の命を見捨てる事になるかもしれない、でも俺は自分が築いたこの家族を見捨てる事なんて出来ない……。
共也……この選択をした俺は薄情者なのかな……。
「子供の様に泣きじゃくって……、ダグラスのそう言う所が可愛いと思えるんだよ」
「メリム、俺を揶揄うのも!」
俺がメリムの方に振り向こうとするより先に、彼女が背後から俺に抱き付いて来た事で、張り出したお腹も背中に当たっている。
そして、耳元でメリムが呟いた。
「行ってこいダグラス。 友人達を救いに」
その言葉に俺は暫く何を言われたのか理解出来ずに、身動きが取れなかった。
「メリム、何を言ってるんだ。 俺はもうお前達を守ると誓って……」
「大丈夫、大丈夫だよダグラス。 確かにシェリーの力を悪用しようとする輩がいるのは確かだが、いざとなったら海龍の巣に逃げ込むから平気だ。
だからシェリーと新しく生まれて来るこの子の事は私に任せて行ってこいダグラス、世界を救いに!」
「俺は……」
(相棒、ここまで嫁さんに言わせておいて、お前は何も行動を起こさないつもりか?)
「グラトニー……お前まで俺に共也達と共に世界を救って来い。 そう言うんだな?」
(ああ、嫁さんもただの人じゃない。 大人の海龍なんだから、そこら辺にいる有象無象など相手になるかよ。 ダグラス、お前は嫁さんの決意を無駄にするのか?)
俺は首に巻き付いているメリムの腕を優しく握り締め、考えてる事を口にした。
「本当に俺が行っても良いんだな?」
「ああ、行ってこい」
「シェリーの占いで言われたように、2度とここに帰って来れないかもしれないぞ?」
「その時は私が子供達を立派に育てきってやるさ。 安心しろ。 それにお前は気付いて無いのか?」
「何がだよ……」
「シェリーは『ここに帰って来れないかもしれない』と言ったんだぞ? 共也達みたいに明確な『死』を口にした訳じゃ無い」
「そう言えば……。 なら、お前達とまた再会する事が出来るかもしれないって事か!」
「ああ、だからお前も私達の元に生きて帰って来るんだぞ?」
「分かった……。 メリム、シェリ―と生まれて来る子供の事、頼んだぞ!」
俺がそうメリムに伝えると、前に回り込んだ彼女が唇を重ねて来た。
「ダグラス、出立は明日の朝になるだろうから、それまでに生まれて来る子供の為に、男と女の両方の名前を考えておいてくれ。 良いか?」
「ああ、分かった。 良い名を考えておくよ。 ってメリムそろそろ離れて貰っても良いか?」
「嫌! ねぇ、ダグラス、私達は当分会えなくなるのだから、会えなくなる前に私の事をいっぱい可愛がってよ……。
もう、こんな恥ずかしい事を私の方から言わせないでよ、馬鹿ダグラス……」
メリムの上目使いに我慢出来無くなった俺は、彼女を求めて抱き着いた。
「メ、メリム!!」
「キャア♪」
そこに水を差す黒剣が1本……。
(あ~~。 ダグラス、メリム、2人の気分が盛り上がってる所悪いんだが、せめて俺を扉の外に出してから楽しんでくれないか?)
「「あ……」」
こうして申し訳なさそうにグラトニーを鍛錬場の外に動かした俺達は、暫く会えなくなると言う反動なのか、お互いを求めるその行為は朝方近くまで続くのだった。
=◇====
朝になり、俺が共也達と世界を救いに旅に出る事をシェリーに伝えた結果、現在ギャン泣きされて手が付けれない状態となっていた……。
「おどうざんいっぢゃ、やーーーだーーーー!! シェリー達おいでっぢゃ、やーーだーーー!!」
ずっとこの調子でシェリーの音波攻撃の様な鳴き声に、俺とメリムは耳を塞ぎ続け、泣き止むのを待っていた。
そして、しばらくするとようやくグズりながらも話を聞いてくれる状態になってくれたので、俺はシェリーの目線に合わせてしゃがむと、両肩に手を置いた。
「シェリー、俺も出来る事ならお前達とずっと平和に暮らして行きたかった。
だが、今この世界には他人を殺して自分の望みを叶えようとしている奴らがいるのを、前にシェリーにも話したのを覚えているかい?」
「うん、昔お父さん達がアポカリプス教団って組織に襲われたんだよね?」
「そうだ、その連中が勢力拡大をする為に今度動き出すと、お父さんのお友達から教えて貰ったんだ。 それを俺はシェリー達の為に食い止めに行こうと思う」
「私達の為?」
シェリーは自身を指差し、何故自分達の為なのかを俺に問いかけて来た。
「そうだ、奴らはいずれここにまで勢力を伸ばすかもしれない。 その時、新しく生まれて来る俺達の子供を攫って行くかもしれない……。 シェリーはそれを許せるかい?」
「いや!! あ、お父さんはそれを防ぐために?」
「ああ、シェリ―やメリムお母さんもそうだが、新しく生まれて来る子供の命を守る為にお父さんは戦って来るよ」
「分かった。 じゃあ、お父さん必ず生きて帰って来るって、指切りげんまんをして!」
「お前等を置いて死ぬもんか……。 指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲~~ます! 指切った! これで良いか?」
「うん! 私もお姉ちゃんになるんだから、ちゃんとしないとだね!」
「そうだぞシェリーお姉ちゃん、お母さんと生まれて来る子供を守ってやってくれ。 頼んだぞ……」
俺はシェリーの頭を撫でると、メリムに向き直った。
「後の事は頼んだ……」
「えぇ、それで、この子の名前を考えてくれた?」
メリムはお腹を擦る。
「勿論。 男の子だったら『蒼真』女の娘だったら『蒼華』と名付けて上げてくれ。 ……俺の漢字の1文字を変えて託してみたんだが……変か?」
「いいえ、良い名だと思うわ。 きっとこの子も喜んでくれるはずよ」
「良かった……、やっぱり名前を考えるのは緊張するな」
「ダグラスったら……。 はい、これをあなたに託すわ」
「これは……。 収納袋?」
「そう、中には私の鱗で作った鎧と様々な種類の武器が中に入ってるわ。 鎧を私だと思って大切に扱ってね?」
「大切に使わせて貰うよ……」
「あとこれね」
「首飾りか?」
メリムから手渡された首飾りには、綺麗に磨かれた小さな紫の鱗が付いていた。 まさかこれって……。
「シェリー、この首飾りに付いてる鱗はお前のか?」
「うん……。 いつか必要になるかもと思って、自分で作った物をお母さんに渡していたの。 まさか今日渡す事になるなんて思わなかったわ……。 お父さん絶対に大切にしてね……」
「あぁ、この首飾りをシェリーだと思って大切にするよ。 じゃあ……、そろそろ行って来る」
「「行ってらっしゃい」」
メリム達は俺の姿が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
そして、俺は共也達と合流する為にクロノス国の都市に向かって歩き出す。
アポカリプス教団の野望を打ち砕き、シェリ―達が安心して暮らせる世界にする為に……。
=◇◇===
【クロノス国・都市内】
ダグラスと別れた俺達は夜の内にクロノスの都市に戻ると、アーダン船長の船で休むのだった。
朝になり、船の甲板で固まった体を解していると、皆も起きて来たので一緒に体を動かしていると、朝帰りして船に乗り込んで来た近藤さんと鉢合わせする事となった。
しかも、嬉しそうにしている近藤さんの隣には、年若く容姿の整った顔と、体の線が細い上に黒髪を腰辺りまで伸ばした美しい女性と腕を組んでいた。
その見た目は、まさに仲の良いカップルと言う感じだった。
その光景を見た女性陣や、船の掃除をしていた船員達も、近藤さんの元に駆け寄り祝福していた。
「近藤さん、とうとう彼女が出来たんですね! おめでとうございます!」
「後でどうやって知り合ったのか教えろよ近藤!」
皆の祝福が嬉しい近藤さんは、集まった人達を取り合えず宥めて隣の女性の自己紹介を始めた。
「皆ありがとうよ……。 彼女の名は【立花 茜】だ、どうやら10年前の転移者組の1人らしのだが、この都市に来たばかりなのに酒場で絡まれている彼女を助け出したら、お礼に飲みに誘われて話すと意気投合してな。
朝方に俺が告白したら了承して貰えたから、彼女になって貰えたって訳だ! それでさアーダン船長……。 俺の部屋に彼女を一緒に泊めても良いか?
どうやら彼女は行く当ても無く旅をしていたらしくてな。
この後行くケントニス帝国に、俺と行ってみたいと言う事なんだが…………」
アーダン船長は暫く腕を組んでどうするか考えていたが、すぐに近藤に考えを伝えた。
「本当だったら断る所だが……。 近藤の目的が彼女を作る為に、この国に来る為に乗船許可を出したのは俺だしな。
祝儀として一緒の泊まる事を許可しようじゃないか!」
「ほ、本当か、船長!」
『ただし! 船の部屋の壁は薄いんだ。 愛し合いたい時は陸の上まで我慢する事、約束出来るか?』
「するする! 約束するよアーダン船長!」
アーダン船長の許可が下りた事で、さらに盛り上がる船上に近藤さんの顔は綻んだ。
「やったな近藤!」「おめでとう近藤さん!」「クソ! 近藤に先を越された!!」
など、一応祝福の言葉を皆が投げかけている中、何故かジェーンだけが訝し気な顔で茜を見ていた。
「ジェーン、どうしたんだ? 茜さんの事をそんなに見つめて」
「えっと、共兄、さっき近藤さんは10年前の転移組の1人って言ってたけど、見た感じ私と同い年みたいだから、幼年組だったと思うんだけど、あんな顔の女の娘を見た記憶が無いんだけど……。
共兄は見た記憶ある?」
「そう言われてみれば……。 女の娘だとジェーン、小姫、風、冷、の4人が俺の記憶にあるが、他にも数人いたが、確かに記憶にある顔と合致しないな……」
「うん、それにあいつ等はヴォーパリアへ下って行ったしね……。 そう考えると誰なんだ……ろ?」
ジェーンと俺が誰なのか考えていると、茜がジェーンに気付いたらしく可愛らしくウインクをした姿を見て、ジェーンの体が雷に打たれたように硬直した。
「ジェ、ジェーンどうしたんだ!?」
「え? まさか……。 いや、本当に???」
「ジェーンさ~~ん?」
俺がジェーンに声を掛けても、目を細めて茜の顔をジッと見つめていたが、目を1度見開くと俺の腕を掴んで来た。
「共兄、ちょっとこっちに来て!」
「え 何か分かったのか?」
「良いからこっちに来て!」
俺とジェーンは近藤さん達が居る場所とは反対側に来ると、彼女は重い口調で説明を始めた。
「えっとね、共兄。 さっき彼女にウインクされた時にどこかで見た事があるな、と思ってずっと考えていたんだけどさ……。 思い当たる子が1人居たんだよ……」
「そうなのか? ジェーンが知ってると言う事は確かに転移組の1人なんだろうな。 で、何でジェーンはそんなに重々しい口調なんだ?」
「…………共兄、確かに見た記憶はあるんだけどさ。 その子は女の娘じゃないんだよ『男の子』……なんだ……」
「…………は? え? マジで言ってる?」
「うん……。 共兄も見たはずだよ、いつも皆とは一歩距離を置いてた黒髪の男の子が居たのを」
黒髪の男の子……。
「あ! 居た! 確かに居た! え? 全く面影が無いんだけど??」
「そうだよね、でも確かにあの子も立花って名乗ってたから間違いないと思うんだ」
「そうか~。 あの時の大人しそうな男の子が、あんなに綺麗になるとは予想すら出来なかったよ。 転移組の1人だと分かったし、ジェーン後で話を聞きに行ってみような」
彼女の身元が分かった事に安堵していた俺だったが、ジェーンの顔は何故か優れない。
「共兄さ、気付いてる?」
「ん? 何がだ?」
「茜君、近藤さんの彼女としてこの船に乗って来たって事を……。 そして、あんなに嬉しそうにしてる近藤さんに、茜ちゃんが男だって言える?」
「……………あ」
茜ちゃん?と腕を組んで幸せそうにしている近藤さん……。
近藤さん、何でわざわざ出会いが沢山ある都市まで来たのに、そんな低確率の出会いを引くかな!?
俺とジェーンは顔を見合わせて頷くと、この事は暫く黙っておくことを固く誓うのだった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
ダグラスは共也達と合流する事を決意。 そして、近藤さんには念願の彼女?が出来て幸せそうにしていますね。
次回は『再びルナサスに会いに』で書いて行こうと思います。




