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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
11章・海龍の娘マリ。
208/285

後継者。

 玉藻は城の一角から上がる火事の炎によって空が赤く染まるのを、キセルを吸いながら何となく呆けて眺めていると、天守閣に登って来る複数の人影を目の端に捉えていた。


「来ると思っておったよ、アポカリプス教団の者だな?」

「………………」


 その者達は黒装束を纏い仮面を付けている為、顔を窺い知る事は出来ぬが、わっちを殺そうとする明確な殺気は感じ取る事が出来た。

 そして、そいつ等は短剣を2本取り出すと、音も無く前に進み出て来るとわっち目掛けて攻撃して来た。


『ドドドドス!』


「あっけない物だな、これで任務終了か。 逃げれないと悟って、無抵抗で殺される道を選んだか。

 まあ、時間を掛けて他の者が駆けつける事態は避けられたから、俺達は助かったがな」

「でも隊長ここまで無抵抗だったのなら、こいつの体を堪能してから殺しても時間的に余裕があったんじゃないですかね?」

「お前は何を言ってるんだ、この人数で楽しんでたらさすがにバレるだろ!」

「クックック、そう言う事だ。 まあそれも今更なんだがな、これで暗黒神様の力がまた1つ戻る事に⦅パチン⦆ぬ?」


「おまんらの様な下衆に、わっちの体を自由に出来ると思わん事だな」


「な、お前は玉! まさか、そんな、俺達は確かにお前の体を突き刺して殺し……。 無い……。 横たわった玉の死体が……。 貴様、何をした……」


 襲撃者は焦っていた。

 先程確かに短剣で玉の体を刺し貫いたはずだ、手にもその時の感触も残っている、なのにこいつは楽しそうに口角を上げて、窓枠に腰掛けながらキセルをふかし、俺達を見ている。


 だが、俺達の任務はこいつの魂を暗黒神に捧げる事に変わらん!


「お前が何をしたのか分からんが、そうして生きているなら何度でも殺すだけだ。 お前等もう一度だ、殺し尽くすぞ」

「はい!」


「お前達に、わっちを殺す事が出来るかな?」

「ぬかせ、女狐!!」


『ドドドドス!』


(手応えあり!! 今度こそ仕留めた!!)


⦅パチン⦆


「そろそろ諦めたらどうだ? 言ったであろう、お前達程度ではわっちを殺す事は出来んと」

「また……。 隊長どうします?」

「どうするも何も、私達にはこいつを殺す事でしか、ヴォーパリアの上層部に俺達の忠誠心を示す方法が無いのだ。

 覚悟を決めろ、いくら何でもずっと復活し続ける事は出来ないはずだ!」

「分かりました!」


「愚かな……」


 襲撃者達は、何度も何度も玉藻を刺し貫き殺していたが、その度に彼女は指を鳴らし、復活するのだった。


「はぁ、はぁ……。 な、何度殺せばお前は死ぬのだ、化け物め……」

「何度も何も、わっちは1度も死んでおらんが?」

「は? 何を言ってる、俺達は何度もお前を殺したはずだ!」

「ふむ、共也達も到着した事だし、そろそろ現実を見せてやろう」

「現実だと!?」


⦅パチン⦆

『パリーン!』


 玉の指が鳴った瞬間、目の前の光景がガラスの様に砕け散ると、周りには今の今まで居なかった奴等が俺達を取り囲んでいた。


「あなた達はもう包囲されています。 諦めて投降してくれませんか?」


 すぐ真後ろから声がした為振り向くと、そこには美しい金髪の女性によって、俺の首に刃物が付きつけられていた。

 そして、身動きが取れない状態となっている俺達は、最早玉の命を狙う事は出来ないと悟り、武器を足元に投げ捨て、両手を上げた……。


「投降する。 尋問や拷問も俺が受けるし、お前等が欲しがっている情報も喋るから、部下達は見逃してやってくれないか?」

「隊長!?」


「お前等、何を勘違いしてるのか知らんが、1国の代表者の命を狙っておいて、見逃して貰えると本気で思っておるのか?」

「思って居ないが、俺が対価としてヴォーパリアに関する情報を喋るから、せめて命だけは助けてやって……ゴボ……。 なん……血?」

『「グアアアアァァァァ!!!」』 


 襲撃者の隊長がいきなり口から血を吐き出すと、部下達も胸を押さえて苦しがってい血を吐いている姿を見て、俺達はアポカリプス教団の関係ある、現象が頭の中に思い浮かんで来た。


「アポカリプス教団お得意の、遅効性の毒か!」


「ゴホ、ゴホ……。 あ、ありえん! 教団が俺達を切り捨てるなど、ありえんのだ!!」


 隊長と呼ばれていた人物が、俺達に対して吠えるが、その間も部下達が次々に床に倒れ伏すと、そのまま動かなくなった事で、隊長も自分達が教団から切り捨てられたのだ、と言う事を思い知らされた。


「そんな、部下達が皆……。 ゲボ! く、クソ……。 俺達はあれだけ神聖国ヴォーパリアの為に汚れ仕事をして来たと言うのに!!

 ゆ、許さんぞ【魔壊のマクレガー=オーランド】俺が死んだとしても、必ず呪い殺してやる!!」


 意識が朦朧としている隊長と呼ばれた人物は、血を吐いて床に倒れると外が見える窓に向かって手を伸ばした。


「隊長さんが僕を呪い殺すのですか? 良いですね~、その呪いの力もあなたの魂と一緒に、暗黒神様に捧げて力を取り戻して貰おうじゃありませんか!」


「誰!?」


 ジェーンが天守閣の外に1本の苦無を投げた所には、茶色の髪と目を持ち、アポカリプス教団の信者の特徴である、黒のローブを纏った男が宙に浮いてる上に、苦無を黒い靄の様な物で受け止めていた。


「マ、マクレガー。 貴様……、俺達に【救済の華】を盛ったな……」 

「ええ、お茶の葉に混ぜていたので分からなかったでしょう? 美味しかったですか?」

「き、貴様、何故俺達にこの華を飲ませた……」

「アッハッハ! それはね、あなた達の死体を再利用して、強固なアンデットを作る実験を、お願いされているからですよ!」

「お願いだと! まさかその依頼主は……」


 マクレガーは可笑しくてたまらないと言った表情を隊長に見せると、両手を上げてその人物の名を口にした。


「そうです、聖女ダリア様ですよ! 華を飲んだあなた達が死んで魂を暗黒神に捧げられた後は、聖女ダリア様の実験材料として、体を再利用する。

 まさに飲んだ者を、この世から救済してくれる、素晴らしい華じゃないですか!」


「クソ……。 仲間に殺される事が、俺の人としての終着点かよ……。 ゲボ……」


 襲撃者達は最後に一度床に血を吐くと、誰一人として動かなくなってしまった。


「さて皆様方、これからが見物ですよ~~? 僕が華の効力で死んだ死体に、こうして魔力を注げば……。 ホラ、始まりましたよ!!」


 マクレガーが指差した先にある、死んだばかりの襲撃者達の死体を俺達が見ると、ユックリと動き始めた。


「と、共兄、襲撃者達の死体の中を何かが、這いまわってます!!」


 ジェーンの言う通り、襲撃者達の死体の中を巨大なミミズの様な物が、大量に這いまわっているのが見て取れた。


 ⦅グチャグチャグチャグチャ、バリ⦆


 死体を突き破って出て来た赤い触手は、他の死体を取り込み1つの赤く脈打つ大きな繭の様な物となると、マクレガーが興奮した様子で独り言を喋り始めた。


「ああ、さすが暗黒神様がお創りになられた華ですね、何と美しい事か。 皆さんもそう思われませんか!?」


 マクレガーにそう問われた俺達だったが、嫌悪感のあまり何も言う事が出来ないでいると、玉藻が口を開いた。


「お前さんは仲間を、そのように実験材料にして何も感じんのか?」

「はは、仲間? そいつ等の様な有象無象が仲間!? ハハハハハハ!!」

「何が可笑しい!」

「これが笑わずにいられますか? 僕の様に変えが効かない人材じゃ無く、勝手に増えて行く暗黒神様の餌が、僕の仲間の訳ある訳無いでしょう!」

「貴様!」

「おお怖い。 さすが汚らわしい血を受け継ぐ獣人ですね、私と違ってちょっとした事で吠えるとはまさに獣。 人の恰好を取っていますが、知性の欠片が見いだせない存在ですね」

「お前の発言はヴォーパリアとしての発言とみなし、今この時を持ってフォックス国の全てを敵に回したぞ……」

「アハハ! 獣の国ごときが僕達の国に対して宣戦布告ですか、良いでしょう受けて立って上げますよ!? ですが、その前に僕に構っていて良いのですか? そろそろ、繭が孵りそうですよ?」


 マクレガーの言葉に俺達が脈打つ繭を見ると、鼓動がどんどんと大きくなり真ん中から裂けると、血飛沫と共に人の形をした何かが這い出て来た。


『あああ………。 ああああああああぁぁぁぁl!!』


 音波攻撃の様な声を上げて現れたそいつは、腕が6本有る上に体長も3M近くある。

 生まれ落ちたばかりのそいつが、一度辺りをユックリ見渡して来たので俺達に攻撃して来るのかと思い構えると、外で浮いて成り行きを見ていたマクレガーに向かって突進して行った。


「へぇ。 僕に殺された記憶でも残ってるのかな?」


⦅ガギン⦆


「ああああああああぁぁぁぁl!!」

「ふむ、造形はまぁまぁだが、所詮は有象無象を素体にして作りあげた個体ですかね。 僕の魔力障壁を破る事が出来ない以上、何か特殊なスキルを持ってる訳でも無いみたいだ」


 マクレガーは生まれた落ちたばかりの個体の力を、ある程度測れた事に満足したのか、それとも興味を失ったのか、実験体を弾き飛ばした彼は、懐から赤い欠片を取り出して砕くと、足元から赤い魔法陣が現れた。


「ある程度そいつの力を知る事が出来ましたので、僕はそろそろお暇させて頂きます。 あぁ、その個体は倒そうがどうしようが、あなた達の好きにして貰って構いませんが。

 ただ、一言言わせて貰うなら……。

 そいつは命を持つ者を憎悪して襲い掛かって来るので、懐柔する事は不可能ですので、お気を付けて」


 それだけ言うと、マクレガーは赤い燐光を残して転移して行った。


「ああああああああぁぁぁぁl!!」

「本当にアポカリプス教団の奴等は、まともな事をしないわね! 来るわよ!」


 菊流の掛け声と同時に、こちらを標的に変更した実験体は窓近くに居た玉藻をその巨大な腕で殴り付けた事で床を貫いたが、幻術によってすでに別の場所に移動していた玉藻は、無事に回避する事が出来ていた。


「憎い! 命ある奴等が憎いーーー!!」


 実験体が声を張り上げると、背中から別個体が2体分裂した事で少し体長が縮んだが、取り囲んでいた俺達を攻撃してきた。


「イリス姉、危ない!」

「ノインちゃんありがと。 でも無理しないで!」


 ノインの斧によって両断された実験体だったが、そこからすぐに腕が生えて別個体とし分裂してしまった事で、今度はノインとイリスが1体づつ相手をする事になってしまった。


「こいつら切断すると分裂するみたいです。 皆さんも気を付けて下さい!」

「なら動きを拘束する【氷結】」


 与一の氷結スキルによって足を凍らされた4体の実験体だったが、すぐに足を切断して拘束から逃れた上、そこからさらに分裂してしまった。

 また分裂した事でまた少しは小さくなったが、12体もの実験体が天守閣に現れた。

 そして、皆がこの分裂して数を増やして行く実験体を、どうやって倒せば良いのか模索している中、実験体の1体が玉藻に再び襲い掛かった。


「玉藻、逃げろ!」

「クソ、幻術が解除されておる!」


 実験体に掛けていた玉藻の幻術は分裂して別個体となってしまった事で、解除されてしまったようで、彼女の本体をしっかり認識して攻撃を繰り出した。


「防御が間に合わん!」


 攻撃を食らってしまう。

 そう思い目を閉じた玉藻だったが、いつまでも衝撃が来る事は無かった。


 玉藻は恐る恐る目を開けると、目の前には子供の頃から知っているセアトが、刀を抜いて実験体の攻撃を受け止めていた。


「セアト、お主。 それにその刀は村正か! すぐに納刀しろ、その刀は!」

「呪いによって、私の生命力を吸い取るですよね?」

「分かっておるなら!」


 セアトは玉藻の言葉を無視して、目の前にいた1体を切りつけた。


「セアト、そいつらは斬撃では倒せ……何だと!?」


 セアトの斬撃によって真っ二つとなった実験体は、黒い塊となりグズグズと崩れて行き、そして消滅した。


「玉様、今何と?」

「い、いや。 まさか、そ奴らを斬撃で倒せるとは思わず……、倒す事が出来たのは村正の呪いの影響か? セアト、もしかするとお主が持つ村正だけがこ奴等を切り殺せるかもしれぬ。 だが、無理はするな、お主はこの国の後継者候補の中の1人なのだからな!」

「わ、私がですか!?」

「説明は後だ、来るぞ!!」

「おっと!」


 さらに襲って来た2体を切り伏せたセアトは、他の実験体を倒そうと周りにいる個体を倒そうと駆け付けようとしたが、ジェーンが1体の実験体を鎖鎌で外に引き釣り出すと、懐から取り出した爆裂符で燃やし尽くしていた。


 ジェーンが火で討伐したのを見た菊流は、同じく火で倒そうと考えたが、部屋の中で火精霊の力を使う訳にはいかないので、しょうがなく2体の実験体を天守閣の天井をぶち抜く威力で蹴り上げると、ヒノメと一緒に実験体が開けた穴から外に飛び出すと、空中で火炎竜巻を発生させて燃やし尽くして消滅させた。


 実験体との相性が悪い与一だったが、先程の反省点を補う形で人型となったスノウと協力して、全身を芯まで凍らせると、分裂できない程細かく砕いた。

 奴等もそこまでされると、さすがに分裂出来無いらしく復活して来る事は無かった。


 そして俺はと言うと、天弧が念動力で圧縮した実験体を、空弧が剛力でさらに圧縮した物体を外の瓦の上で火魔法で焼いて消滅させた。


 ねぇ、何だか俺の活躍だけ、妙に地味じゃない!?



ここまでお読み下さりありがとうございます。

後数体実験体を倒す描写をしたら、クロノス国に向かわせる予定ですのでお付き合いをお願いします。


次回は『クロノス国に向けて出航』で書いて行こうと思っています。

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