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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
11章・海龍の娘マリ。
207/285

妖刀村雨。

「アーダン来たか! こっちだ!」

「ベアード、待たせたな。 明日の出航準備にちょっと手間取ってな。 1杯目は俺が奢るから許してくれ」


 俺はベアードとの約束を守り、いつも再会した時に来る居酒屋で酒を酌み交わしに来ていた。


「言ったな? お~~い、女将さん、この店で一番高い酒を一杯くれ!!」

「ちょ! お前、いくら何でもそれは……。 ああ、分かった分かった。 女将さん、俺もそれをくれ!」

「あいよ~~!」

「アッハッハ! ごっそさん!!」

「畜生……。 絶対お前の方が金持ってるだろ!? 貧乏人から搾取するなよ……」

「まあそう言うなって。 せっかく数年ぶりに再会する事が出来たんだし、マリちゃんの奴隷解放にも力を貸してやったろ?」

「まぁなあ~~……。 しょうがねぇ、高い酒だが1杯だけ奢ってやるよ!」

「そうそう! そう来なくちゃな!」


 “ドン!”


 そこに女将さんが先程頼んでいた酒の入った()()()を、テーブルの上に置いて来た。


「はいよ、お二人さん、家の店で一番高い酒だ!」

「女将さん! 俺が頼んだのは1杯づつーーー!!」

「アッハッハ、ベアードからお前さんが臨時収入が有ったって、聞いてるよ? だから、たまには私の店にも金を落としてくれても、ねぇ?」


 俺がベアードを睨むと、サッと視線を逸らされた。


 こ、こいつ!!


「まぁ、まぁ、俺も半分出してやるから、たまには良い酒を飲もうぜ。 アーダン」

「ちゃんと半分出せよ!!」


 俺はそれからベアードと日が変わるまで飲んだり馬鹿話しで盛り上がっていたのだが、何故か店の中の客が俺とベアードの2人だけとなった所で、唐突にベアードが話しを変えて来た。


「なあ、アーダン。 お前の客に、凄い技物の刀を持ってる奴が居ただろ?」

「ん? ああ、居るな。 それがどうしたんだ?」

「実はな、俺のお得様に力を持つ武器を集めている人が居てな、その人の為に買取を申し出ようと思うんだが、お前に取り持って貰う事は可能か?」

「いやいや、無理だろ。 あの武器は先祖代々受け継がれて来た品だって言ってたから、手放す訳無いぞ? それに……」

「それに?」

「いや、何でも無い。 俺は明日も早いんだし、時間も時間だからな、そろそろ引き上げ(ようぜ……? な、何だ、体が……)」


 俺の体が動かなくなった事を確認したベアードは、先程まで俺に優しく笑っていた顔から、まるでこれから人を殺すかのように、視線が鋭い顔に変わっていた。


(ベ、ベアード!?)

「ああ、喋ろうとしても無駄だよアーダン。 この店に来てからずっと飲んでいた酒だがな、あれには短時間だけ効果のある自白剤が混入されててな。

 これからお前には、色々と美味しい情報を話して貰うよ」


(ベアード。 こ、こんな事をして、お前タダで済むと思ってるのか!)

「何を言ってるのか分からんが、まぁ言いたい事は大体想像付くよ。

 だが、安心してくれアーダン、君に自白剤で色々喋って貰った後は、ちゃんと記憶を日付が変わるくらいまでしか覚えてない様に調整してやるからな。

 しかし、これをお前に説明するのも何回目だろうな、アーダン? クックックック……」

(こいつ、まさか今までずっとこうして、俺から情報を抜いていたのか!)


「さあ、アーダン今回はどんな金のなる情報を教えてくれるのかな? 楽しみだよ!」


 こうして俺は親友だと思って居た、熊の獣人の男にあっさりと裏切られていた事を知るのだった。


 =◇====


【フォックス国、駐在所】


「やはりそうだ。 こいつも、こいつも! 10年前にマリ殿を奴隷にした奴らは、すでに死んでもう居ない。 そして、似たような事例が記載されている書類がこんなに……。

 そして、今までの事例を繋げて行くと、辿り着く店舗が1つ……【ベアード商会】こいつらがいつから活動していたのか知らないが、かなりこの国の内部に食い込んでいる事が分かる……。

 しかも、報告書には何度も城の宝物庫に眠る力の有る武器を購入しようと交渉しているが、良い返事がもらえなくてイライラしていると記載されている。

 まさか、こいつらが違法奴隷の売買に手を染めている理由は、その武器を購入する資金に充てるつもりで?」


 ベアード商会の事を、私がもう少し詳しく調べようと書類に手を掛けると、1人の隊員が血相を変えて駐在所に入って来た。


「セ、セアト隊長!!」

「何事だ! もう深夜近いんだぞ、何かあったのか!?」

「か、火事です。 フォックス城から火の手が上がっています!」

「何だと!」


 俺は丁度手に当たった1枚の報告書を手に取った。

⦅ベアード商会は力を持つ刀を常に欲していて、交渉に応じなかった者が行方不明になっている事例が多数報告されている⦆と書かれていた。


「まさかあいつ等、この火事に乗じて力を持つ武器を宝物庫から盗む気か!!」

「隊長、あいつ等とは?」

「ベアード商会だ、あいつ等が違法奴隷売買の黒幕だ! お前等は急いで奴等の商店を差し押さえて来い! 俺は玉様達の救出に向かう!」

「セアト隊長!」


(何故今までこんな簡単な事に気付けなかったんだ! 玉様、ご無事で!!)


 =◇◇===


【居酒屋】


『カーン、カーン、カーン! カーン、カーン、カーン!』


 店の中には火事を知らせる鐘の音が響き、野次馬達が外に出て騒いでいる声が聞こえて来ている。


「始まったか。 さて、これだけ外が騒がしければ、少々お前の声が漏れたとしても気にする奴は現れないだろう。

 アーダン、普段他人に雇われる事を極端に嫌うお前が、何故あいつ等に雇われているのか、まずそこから喋って貰おうか」


 俺は必死に喋らない様に口を噤もうとしたが、意思に反して口が開いてしまう。


「じゅ、10年前に俺は1度あいつ等をケントニス帝国まで運んだ事がある。 そして、そこである事件を一緒に乗り超えた事で、仲良くなったんだ……」

「10年前……。 ケントニス帝国……。 ああ、なるほど【アポカリプスの祝福】の事か、お前あそこにいたんだな。 だがな、それだけでお前程の男がずっと雇われる理由にはならんはずだ、そこを喋ってもらおう」


(こいつ、アポカリプス教団側の人間か!! まずい、俺がヴォーパリア進行の作戦内容を喋る訳にはいかん! こうなったら!)


 俺は舌を噛み切ろうとしたが、体が動いてくれない。


「ほう、舌を噛み切ろうとするとは、余程その情報を俺に聞かれたく無いらしい。 良いね、今からお前が喋るその情報の価値が、跳ね上がってくれたじゃないか。

 さあ、聞かせて貰おうか、何故あいつ等を乗せて旅をし続けているのかをな!」

(共也、すまん!!)


⦅ドカ⦆

「女将さん、俺にも食事を大至急持って来てくれ!」


 俺の横には先程まで居なかったはずの近藤殿が座り、ベアードの仲間と思われる女将に料理の注文をしていた。


「こ、これは近藤殿、いつの間に!」

「おっと動くなよ? ベアード殿は俺が鉄槌を瞬殺したのを見ていたはずだ、だから俺の実力は知っているはずだよな? 少しでもそこから動けば切り捨てるぞ?」

「ぐ……!」


 カチャ、カチャ。


 外にいる野次馬が、火事を見て騒がしいはずなのに、女将が料理を作っている音だけが響く店内で、近藤殿はベアードに注意を払ったまま、料理が来るのを待っていた。


「お、遅くなりました。 鳥の照り焼き定食です、どうぞごゆっくり……」

「おお、これは何とも美味そうじゃないか」


 女将は料理を近藤殿の前に置くと、1度だけ視線をベアードに向けると、軽く頷くと厨房へと戻って行った。


「近藤殿、ここのその料理は絶品でしてな。 私も良く食べているのですが、まさに天にも昇るほどに美味くてですな『そうか、じゃあ食べてみてくれ』え?」

「聞こえなかったのか? この定食を食べてみてくれ、と言ったんだ」


 ベアードが笑顔のまま頬が引きつっている、きっと料理に毒でも盛っているんだろう。

 この状況でさらに立場を悪くする事をするとか、こいつ実は馬鹿なのか?


「え、えっと……」

「食べれないのか? お前はまさに天にも昇る程美味しいと、今自分で言ったばかりじゃないか。 俺に遠慮する事は無い、ベアード()()()


 近藤殿の気迫に冷や汗をダラダラと流すベアードだったが、それを救おうと女将が包丁を持って彼に襲い掛かった。


「うわぁぁぁ! ベアード様、今の内に逃げ……」


⦅ゴトン、ドサ⦆


「ひ、お、女将……」


 近藤殿の神速の抜刀によって、頭の無くなった体が包丁を持ったまま床に倒れていた。

 そして、あまりにも一瞬の出来事だった為、アーダンは逃げる事が出来ずに椅子に座ったまま震える事しか出来なかった。


「さて、ベアード殿。 あなたの背後関係を洗いざらい喋って貰いましょうか。 拒否するなら……」

「ひ……」


 近藤殿が床に倒れている女将だった物に視線を送ると、死の恐怖を直に感じてしまったベアードは、床にアンモニア臭のする水溜まりを作り出した。


「さて、こちらは何とかなったな。 共也、玉藻殿の方は頼んだぞ」



 =◇◇◇==


【フォックス城】


「厨房からの出火だ、みんな逃げろ、火に巻き込まれたら死ぬぞ!!」


 今フォックス城では急な出火に対処する事が出来ずに、蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。


『誰か回復魔法を使える奴は居ないか、火傷を負った者がいるんだ!』

『誰か食材を運び出すのを手伝って!』

『燃えそうな場所を崩さなくて良いのか?』


 誰もが自分勝手に動いているものだから、全く消火作業が進んでいない。


 そこにベアード商会の悪事に気付いたセアト隊長と数名の隊員が現場に到着したのだが、あまりにも統率が取れていない現状を見て、声を張り上げた。


『落ち着かんか!!』


 セアト隊長の怒声に驚いたその場に居た者達は、動きを止めて黙って彼に視線を向けた。


「今優先するべき事は何だ!? 落ち着いて行動すれば分かる事だろう!」

「火を消し止める……」

「そうだ、分かってるなら動け! 水魔法を使える者は消火作業を、厨房の周辺にある部屋を崩しても影響が無いなら崩して構わん、延焼する範囲を狭めるのだ!

 手が空いている者はバケツリレーをしてでも鎮火作業を手伝うんだ。 良いな!」

『「は、はい!」』


 セアト隊長の指示を聞いた人達は先程と打って変わり、バケツリレーをする者、火の手が回る前に燃えそうな物を運び出す者など様々だった。


「ここはもう大丈夫そうだな。 これからはお前達に任せて、私は宝物庫がある場所に向かう」

「待ってください1人では危険です。 おい、2人程セアト隊長に付いて行け、ベアード商会の者が潜入しているかもしれないから、気を付けろよ」

「はい!」


 そして宝物庫がある場所に向かった俺達だったが、火事で人がそっちに集まっているとは言っても、不気味な程城の中は静かだった。


「隊長、これは……」

「ああ、居るな……。 警戒しろよ」


 俺達が襲撃を警戒してユックリと進んで行くと、宝物庫の前には黒装束を纏った人間の遺体が複数横たわっていて、その遺体の積み上がった中央には血まみれとなった、1人の男が怪しい雰囲気を放つ1本の刀を大事そうに抱えていた。


「お前は……セアトか……。 随分と久しぶりだな……」

「ダッドリー、お前ダッドリーか! 今から応急処置をするからもう喋るな、気をしっかり保つんだ」

「無駄だ、血を失いすぎたから、俺はもう助からんだろう。 だからお前にこの黒ずくめの連中が狙っていた、この刀を託す。

 この刀の名は【妖刀村雨】魔剣の1つだが使用者を呪う効果もあるから、決して抜くなよ」


 俺がその刀を受け取ると、部下が持っていた包帯をダッドリーに巻き止血を行ったが、血が止る気配がない……。

 無理か……。


 そう思った時だった。


「マリちゃん、回復魔法の効果を海龍魔法で強化して!『はい!【海流魔法】、エリア姉どうぞ!』行くよ【回復魔法】」


 その少女が行使した回復魔法は。俺達がいつも見ている柔らかい光より、力強く輝いてダッドリーの体をみるみる回復させて行った。


「これは……。 凄いなあれだけ重傷だった傷が、どんどん癒えて行く」

「傷は塞がりましたが、失った血が多いので今はそのままジッとしていて下さいね」

「ああ、助かったよ。 そうだ! セアト、玉様の元に急げ! 進入して来たこいつらの目的は、妖刀村雨と玉様の命だ!」


 俺はその言葉を聞くと同時に、弾かれたように玉様が居るであろう天守閣に向かって、走り出すのだった。


ここまでお読み下さりありがとうございます。

次回で出来るだけフォックス国編を終わらせて、クロノス国編へ移るつもりです。


次回は『後継者』で書いて行こうと思っています。

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