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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
11章・海龍の娘マリ。
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マリの解放条件。

「こう見えて意外かもしれぬが、わっちは中々に忙しい身でな、たまたまこの時間の予定が空いていたから会う事にしたのだが、この後も人と会う予定が入っておる。

 わっちに用があると言うなら、はよう言うが良い。 内容次第では聞いてやろう」


 俺達は顔を見合わせて頷くと、俺は玉に声を掛けた。


「まずはこうして会ってくださって、ありがとうございます。 俺の名は『ああ、名は名乗らなくて良い、印象に残らない奴の名前を覚えるのは時間の無駄だからな』……分かりました。 では要件を言わせて頂きます」

「うむ、遠慮なく言うが良い」

「10年前に、あなたがこの少女マリを犯罪奴隷として購入したと聞きましたが、それは本当ですか?」

「お主の横にいる少女か? 確かに急に来た男共から勧められて購入した記憶があるな。 それで?」

「この娘を売りに来た男達は犯罪奴隷と言ったのでしょうが、マリは決して罪を犯していません。 それなのに犯罪奴隷として売るのは、違法じゃ『関係無い』……はい? 今何と?」

「関係無いと言ったのじゃ」

「この娘は男達に無理矢理に犯罪奴隷としてあなたに売られたのに、関係無いってどう言う事ですか?」 


 俺は自分の耳を疑った、違法奴隷を購入したのに関係無い?

 この人は本当に国の代表者なのか?


「確かに無理矢理に奴隷とされて、わっちに売られたのは可愛そうではあるな」

「そう思っているなら、この娘の開放を!」


 俺がこの女に必死に訴えかけているのに、玉はキセルを取り出すと呑気に火を付けてふかし始めると、吸った煙を俺に吹きかけて来た。


「何故わっちが購入した物を、無条件で解放せねばならんのだ? そもそも、その娘が本当に犯罪を犯していないと言う証拠を、お前達は出せるのかえ?」

「今この街の憲兵隊の人に当時の記録を調べて貰っています。 それでマリが犯罪を犯した記録が出て来なければ、違法に奴隷とされたという証明になりませんか?」

「ふむ、確かに犯罪奴隷として売られたからには、犯罪を犯した記録が残っていなければおかしいな。 だがな、その娘が犯罪を犯していなくても、わっちは金を出してその娘を購入したのだ。

 そして、わっちは手に入れた物を無条件で手放す気は無いからな。 諦めろ」


 さっきからこの女は『無条件で』と言う言葉を頻繁に使っている。 と、言う事はこの玉が求めている言葉は……。


「玉様、あなたがマリを解放する条件を、お教え願いたい……」


 俺がこの言葉を言うと、玉は嬉しそうに口角を持ち上げた。


「そうそう、最初から素直にそう言えば良いのだよ。 その娘を解放する条件、それはな……」


⦅ドンドンドンドン⦆


 玉がマリの開放条件を言おうとすると、廊下を大きな音を立てて、こちらに歩いて来る足音が響いて来た。


『お待ちください、まだ玉様は来客中です。 すぐあなた達に順番が回ってまいりますから、控室でお待ちください!』

『獣人の分際で私達を待たせるとは何事だ、そんな者など無視して神聖国ヴォーパリアの使者である私達を優先する事が当たり前では無いのか!?』

『そんな常識など私は知りませんし、ここは玉様が治めるフォックス国です! 玉様に謁見したいと言うならこの国の法律を守っていただきたい!!』

『知るか! どうせお前達もいずれ我が国の属国となるのだ、精々俺達の機嫌を損ねない方が良いぞ? む? ここだな?』

『や、止めなさい!』


⦅スーーー、タン!⦆


 勢いよく襖を開けて入って来たのは、身長が2Mほどあり、頭が後頭部まで禿げ上がっている上に、筋肉がはち切れんばかりに盛り上がっている男が数人の男達と一緒に、上座に座っている玉を見つけると、嫌らしい顔で笑いながら見下ろしていた。


「玉様申しわけありません、何度も止めたのですが、話を聞いてくれず……」


 女中さんが玉に頭を下げて謝ると、彼女が左手を上げて謝罪を止めさせた。


「良い。 お前は下がれ」

「ですが!」

「良いと言っている。 わっちが怒りを抑えている内に下がってくりゃれ」

「……分かりました。 もし何かあればお呼び下さい。 対処いたします」

「その時は頼む」


 女中さんが襖を閉めて出て行くと、男達は俺達を無視して玉と話し始めた。


「やっと会えたな玉よ。 散々我々を無視した挙句、ようやく会う予約を取り付けたと思ったら、今度は長時間待たせおって。

 ヴォーパリアの使者たる私達ににここまでの事をしたのだ、ただで済むとは思っておらんよな~?」

「ほう。 わっちにどうしろと言うのじゃ?」


 頭が剥げた男達は、玉の全身を上から下へと無遠慮にジロジロと嫌らしい目で眺めると、彼女の左手と顎を手に取った。


「獣人と言う所が気に入らんが、これだけ美しい顔と体をしているのだ。 我々の夜の相手をすれば、今回の事を水に流そうじゃ無いか。 良い条件だろう?」

「貴様等、それでわっちを脅しているつもりか知らんが、お前等の様な下衆にわっちの体を自由にさせる訳が無かろう? その汚らわしい手をそろそろ除けろ!!」


⦅バチン!⦆ 


 玉は濃密な魔力を放出すると、男達を弾き飛ばした。


「ち! こっちが優しくしてやっておれば付けあがりおって。 だが、国の代表であるお前が、我々にそんな態度を取って良いと思っているのか?」

「何がだ!!」

「我々に歯向かうと言う事は、神聖国ヴォーパリアの属国になると言う栄誉を逃すと言う事だが、それで本当に良いんだな?」


「はぁ? お前、自分が今何を言ってるのか、その筋肉ばかりが詰まった頭の中で少し整理してみたらどうなんだ?

 交渉しに来たのにその態度を取られて、はい、そうですかと言う為政者がどこにいると言うのだ」

「何を言う。 私はこうやって数々の()()支配下に治めて来たのだ。

 そのような輝かしい功績があるから、俺はヴォーパリアの交渉役として、こんな小さな島国へと来てやったのだぞ?

 だから、遠路はるばるこの国に訪れたこの【鉄槌のバーンズ=アイアン】様を貴様の体で労うのは、我が国の属国となる国の代表者として当たり前の事であろうが!」

「…………はぁ?」


 鉄槌のバーンズと名乗った男の無茶苦茶な理論に、さすがの玉も絶句してしまい、素の声が漏れ出てしまっていた。


「…………さっきから黙っておれば属国、属国と……。 鉄槌のと言ったな。 お前の言うそれは、神聖国ヴォーパリアの総意と受け取って良いのじゃな?」

「当たり前だ、私が交渉役として任命されたのだからな!」


 こいつ、本当に頭の中も筋肉で出来ているのか?

 さっきから玉の魔力が膨れ上がって、今にも爆発しそうになっている事に気付いて無い!?


「使者として来たからには、わっちの返答を持ち帰らないといけないな。 鉄槌の、わっちからの答えを伝えようじゃ無いか。 …………貴様等の国の属国になるなど、死んでも断る!」


「そうか……。 ならば武力を持って制圧して言う事を聞かせるしかないな。 貴様のように気が強い女を屈服させてから襲うのも俺達は大好きだからな」

「下衆共が!」


 玉はバーンズから飛び退き距離を取り狐の尻尾を膨れ上がらせると、腰に差していた2本の鉄扇を両手に取り、勢いよく開くと臨戦態勢に入った。


「アーダンさん達は離れてて下さい。 神聖国ヴォーパリアが相手なら、俺達も彼女と一緒に戦おうと思います。

 ノイン、イリス、タケに乗って彼女を助けてやってくれ!」

「了解。 ノイン、タケちゃん行こう」

「イリス姉、タケちゃん頑張ろう!」

(うん、ノインちゃん、イリスちゃん行くよ!)


 謁見をしていた俺達が玉を守る為に動き出した事に、バーンズ達も気付くと武器を抜いて、こちらに構えた。


「ち、お前等もどうやらどうやら死にたいらしいな! この鉄槌のバーンズに殺される事を誉れとして、あの世に行くがよいわ!」


 鉄槌と言われるだけあって、巨大な戦槌を取り出すと俺達を叩き潰そうと向かって来た。


「来るぞ!」


 俺達が武器を取り出して構えると、近藤さんが俺達の前に無言で出て来た。


「近藤さん!?」

「共也、お前が雷切を託されていると言う事は、奥義の天照が使えるようになったと言う事か?」

「い、いいえ。 1度見せて貰えましたが、まだ再現出来ていないです。 父さんから、その技は世界を回り終えるまでに使えるようになれ、と言う宿題を出されています」

「なるほど、一応見せて貰える段階には来てるのか。 なら、俺も奴の同期としてお前に1つ奥義を見せてやるよ」

「それは後で良いですから! 近藤さん危ない!」


「まず1つ!!」


 バーンズの持つ巨大な鉄槌が、近藤さんの頭目掛けて振り下ろされた。


「良く見ておけ共也。 神白流剣術奥義の1つ、【(またたき)】」


『ドゴン!』


「ハッハッハ! これでこいつはペシャンコだ! あれ、いな、い? あれ? 視界が上下にズレ……て……、こ、これって、俺はもしかして切られて? ぶげ!!」


“バシャバシャバシャ”


 近藤さんが鉄槌を高速の突進で躱しながら、目にも止まらない斬撃を何度も放った事で、バーンズは自分が細切れにされた事すら気付かずにしばらく行動していたが、それも長続きせずに何個もの肉塊になり絶命したのだった。


「バ、バーンズ様あぁ!! お前等よくもバーンズ様を!!」


「【私達に敵意を向ける者達の足よ、氷結せよ】」

⦅ピキ、パキパキパキ⦆


 与一が手を前に出し、スキル発動の言葉を呟くと、バーンズの部下達の足元から氷の蔦が発生し、足を拘束すると同時に、徐々に凍り始めた。


「な、何だ!? 俺の足が凍って行く!?」

「こっちもだ!」

「う、動けない!」


 動けなくなったヴォーパリアの連中を確認した俺達は警戒を解くいた後は、玉が先程の女中と応援を呼び寄せると、ヴォーパリアの連中は片付けられる事になった。


 さすがの玉もこの血の臭いが溢れる部屋で謁見するつもりは無いらしく、部屋を変える事になった。


 そして、先程よりは少し小さな部屋に通されると、先程の続きが始まった。


「さて、先程は無礼共のせいで話が遮られてしまったが、お前達には助けられた、一応礼は言っておこう。 感謝する」

「いえ、ヴォーパリアの兵士達は俺達にとっても敵なので、それで……」

「その娘の解放条件だったな、わっちがその娘を購入した代金の建て替えて貰うのは当たり前として。 そこな若い男、先程は名を聞かなかったが、名乗るが良い」

「俺ですか? 俺の名は神白共也です、玉様」

「ふむ、共也か。 なら共也、お主がその娘の代わりとなって、わっちの奴隷となれ。 そうすればその娘を奴隷身分から解放する事を、約束しようじゃないか」


 俺が……、マリの代わりに玉の奴隷に?


「無茶な! 玉様、そもそもその娘は犯罪を犯していないのに、犯罪奴隷とされたのですぞ!! それを共也に代わりに奴隷になれなどと、無茶な要求をするなど何を考えておられるのですか!!」


 玉があまりにも理不尽な要求を突き付けて来たものだから、ベアードが激怒して批判してくれてた。


 でも、俺が了承すればマリをこの苦しみから解放する事が……。


 どうすれば良いのか悩んでいると、俺の手にマリの奴隷生活で荒れてしまった手が重ねられ、精一杯の強気の笑顔を向けて来たが、彼女の目からはポロポロと涙が流れ出ていた。


「パパ、私はここに残るよ……。 パパ達は世界を救う為に動いてるんだよね? だから私はいつか解放されるその時を待つから、パパ達はアポカリプス教団の魔の手から、世界を守って上げて……」

「マリ……」

「そうそう、最初からそう言っておけば良かったのじゃ。 わっちは一度手に入れた物を手放したくは無いのでな! ホッホッホ!」

「あんたは!!」


 俺が怒りで玉を怒鳴ろうとした時だった、底冷えのするような声が部屋を包んだのは。


『共也達の成長を願って黙って見守っていたが、先程無頼漢共から守ってくれたのにも関わらずその態度、もう我慢の限界だ。

 玉藻(たまも)お前の態度は目に余る、覚悟は良いな?』

『そうね……。 昔急にいなくなった同族と再会出来たものだから、どう改心したのかと思って黙って見ていたけど、昔と全く変わって無い上に私達の契約者に対してあまりにな態度だわ。

 玉藻ちゃん、死ぬ覚悟は出来ているわね?』


 天弧と空弧の声が濃密な魔力を放ちながら辺りに響くと、玉の顔から血の気が引いて真っ白になり、見えている肌からも大量の脂汗をかいて、ピクリとも動かなくなっていた。


 それに玉藻? 玉じゃなくて?


「こ、この声は……まさか……天弧と空弧……?」


『ほう? 儂達を呼び捨てか、随分と良い身分となったようだな』


⦅ダアン!!⦆


「あ、ぐ……」


 玉がいきなり前のめりに倒れたと思ったら、その両側にはいつの間にか現れた天弧と空弧が、片方づつの肩を持ち、玉の肩と頭を床に押し付けていた。


「玉藻、先程の呼び捨ては聞かなかった事にしてやる。 だからさっさと本来の姿に戻れ」

「天弧様……、空弧様……。 何故あなた様方がここに居るのか分かりませんが、元に戻りますので、どうかお許しを……」

『さっさとしろ!』

「は、はい!」


⦅ボン⦆


 玉藻の体が煙に覆われて見えなくなったが、少しすると煙が晴れて中から現れた玉藻の容姿に変化は無いが、1本だった狐の尻尾が9本に増えていた。


 え? 玉藻ってまさか良くラノベとかで描かれている、あの九尾の狐の玉藻なのか!?


 地球組はその事に気付いた様で、目をキラキラとさせて正体を現した玉藻をジッと見つめていた。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

鉄槌のバーンズは短い命でしたが咬ませ犬として出て来て貰いました、そして玉の正体は九尾の狐の玉藻でした、まあ予想していた人もいるでしょうが……。


次回は『ルナサスの治める、クロノスへ』で書いて行こうと思っています。


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