フォックス国の統治者。
「アーダン様、ようこそフォックス国へ。 あなた方の来訪を心より歓迎いたします」
深々とお辞儀をする熊獣人の執事さんは姿勢を戻すと、口角を上げて笑うとアーダン船長を抱きしめた。
「ベアード、元気だったか!? 礼儀正しくお辞儀する奴がいるから誰かと思って身構えちまったじゃないか!!」
「アッハッハ! すまんすまん。 中々この国に立ち寄らないお前に意地悪がしたくなってな!」
ベアードと呼ばれた執事さんは、アーダン船長と旧知の仲だったらしく再会を喜んでいた。
「親父とベアードさんは、昔一緒に航海していた仲らしくてな。 だからこの国に立ち寄った時には、いつもあんな感じなんだ」
「トニーさん、何時の間にあの人に俺達がこの港に来る事を知らせていたんですか?」
ベアードさんがここでアーダン船長が来るのを待っていたと言う事は、俺達がここに来訪する事を知っていたと言う事になる。
俺達がアーダン船長に、フォックス国に来たいとお願いして日数もそんなになかったのに、どうやって知らせたんだ??
「あぁ、俺達は知らせてないよ。 獣人の人達は目が良いから、いつも俺達の船を沖合で見つけるとベアードさんに連絡する手筈になってるみたいなんだ」
「なるほど、それで」
未だに大声で笑い合う2人を見て、仲が良いんだなと思いホッコリするのだった。
「会えて嬉しかったぞアーダン。 長々と話してもしょうがないから、さっそく本題に入ろうと思うんだが、普段滅多にこの国に立ち寄らないお前が、何の用があって来訪したんだ?」
「ん、ん~~。 ベアード、言い難いんだがこの国には奴隷制度があるよな?」
「ああ、あるな。 だが主に罪を犯した者を奴隷とする犯罪奴隷がほとんどだな。 それで?」
「実は10年前に離れ離れになった子供がいるんだが、この国に奴隷として囚われていた所を見た、と言う情報を耳にしたんだ」
ベアードの目の下がピクリと動き真顔になると、アーダン船長に詰め寄った。
「それは本当の事なのか? もし迷子となっていた子供を奴隷として扱っているなら大問題だ、アーダンその娘の特徴は?」
「そこは一番詳しい人物から説明させるから待ってくれ。 共也、ベアードにマリちゃんの特徴を教えてやってくれないか?」
「はい、神白共也です、よろしくお願いします。 少しの情報でも良いので、思い当たる事があるようなら教えてくれると助かります」
「ああ、アーダンの紹介なら儂の知り合いも同然だ、教えてくれ。 その娘の特徴を」
俺はマリの特徴を詳しく伝えると、ベアードは腕を組むと困ったように唸り出した。
「うぅ~~ん。 ……その特徴を持つ娘を儂は知っている……」
「本当ですか!?」
「本当だ。 だが儂はその娘があまりにも幼いから理由を聞いた時に、ハッキリと犯罪奴隷だと言われたんだが……。 その娘は確かに紫の髪色なんだな?」
「はい、今は丁度10歳になった所です」
「……やはり年齢的にも……。 いや、でも……」
ベアードさんは俺の説明を受けても、その娘がそうなのか確信が持てない様で、さっきからずっと独り言をブツブツと呟いている。
すると我慢の限界が来たアーダン船長が、ベアードの胸倉を掴んで顔を上げさせた。
「ベアード! その娘は俺も思い入れのある子供なんだ、知ってるなら教えてくれ!」
「アーダン……。 分かった。 だがその娘がそうなのか、確信を持っていないから、その娘の主として登録されている者に文句を言うのは一先ず止めてくれ」
「分かったから早く言え!!」
アーダン船長が強く言うと、ベアードは1回溜息を吐くと渋々名前を口にした。
「……このフォックス国の統治者である玉様だよ」
俺はマリが主と登録されている者がこの国の統治者だと聞いた事で、目の前が真っ暗になる感覚に陥りそうになった所を、菊流によって支えられた。
「共也、大丈夫!?」
「あ、ああ、菊流すまん……。 ちょっと立ち眩みが……」
その時だった。
「キャ!」
“ドサ……”
『手前……。 いちいち荷物を落としてんじぇねぇ! さっさと運ばないか、この愚図が!! お前があまりにも使えない様なら、処分しても構わ無いと言われてるんだぞ!』
「ごめんなさい、ごめんなさい。 もう叩かないでよぅ……」
1人の役人らしき男が荷物を落としてしまった奴隷の女の娘の頬を叩いた事で、体を丸めて体罰と言う名の躾が終わるのを耐えている。
そして、あの娘の髪色が……。
「おや、あの娘も髪が紫……。 紫!? まさかあの娘がアーダンの探している!?」
「共也! 念話を!」
「そ、そうか!」
俺は菊流の言葉にハッとして、体罰を受け続けている娘に対して念話を送ってみた。
(マリ、君は海龍の子のマリか!? マリなら返事をしてくれ!!)
これで俺が知ってるマリなら、念話を返してくれるはずだ。
すると先程まで体を丸めていた娘が反応を示すと顔を上げてこっちを見た。
その途端、彼女は涙をポロポロとこぼすと念話を返して来た。
(パパ! パパ! 私は海龍の子でパパの子供のマリです!! 生きてた、パパが生きてた!!)
「この! いきなり顔を上げたと思ったら大泣きし始めやがって!! さっさと荷物を運びやがれ!!」
「ひ! もう、いやぁぁぁぁ!!」
男が今度はムチを取り出し、マリに向けて振りかぶったのを見た俺は高速で近寄ると、その男を殺すつもりで躊躇い無く雷切を抜刀した。
『ガギン!』
「ひ、ひぃ!!」
「いてて。 にぃさんやるねぇ。 無名だが長年付き合って来た、この刀が刃こぼれを起こしちまったじゃ無いか」
男を殺す一歩手前で和服を着崩している、年齢が40後半くらいと思われる男が、俺が放った雷切の抜刀を日本刀の刃を立てて受け止めていた。
「邪魔をするな。 その男を殺してマリを解放する事が出来ないだろ……」
「殺気が駄々洩れだぞ小僧。 それに悪いけど俺もこいつの主に雇われている身なんでね、はいそうですか、とはいかねえのよ。
ってお前、この赤い刀身は……まさかこの刀の名は雷切か?」
「そうだが、何でお前がこの刀の名を知ってる。 それにあんたが持つ日本刀も……」
こいつ、雷切を知ってる? だが、こいつがこの刀の名を知っているからと言って味方とは思えないし。 それにこいつはさっきこの男の主に雇われていると言っていた。
マリを奴隷として扱い、そしてその男の主に雇われていると言う事は……。
「分かった、言う。 言うから取り合えず雷切を収めてくれないか? 俺も刀を仕舞う」
「あんたが先に納刀しろ。 俺はその後だ」
「おお怖い、そう睨むな今仕舞う」
そう言うと男は本当に刀を鞘に仕舞うと、両手を上げて敵意が無い事を示した。
「ほらな? 俺が刀を仕舞ったんだ、お前も仕舞えって」
「…………分かりました。 でも、俺を攻撃しようとした瞬間に俺の仲間があなた達を殺しますよ? マリの痛々しい姿を見せられて本気で怒っているのですから」
俺が雷切を鞘に仕舞うと同時に、俺が攻撃されない様に両手を上げている男のすぐ横に、三又の槍を構えるディーネと、大人の雪豹の姿に戻ったスノウが剣から出て来て、今にも攻撃しかねないほど興奮していた。
「よくもマリちゃんを……」
(マリ、大丈夫か? 助けに来たぞ?)
「パパ、みんな~~~。 会いたかった。 会いたかったんだよ~~」
“ジャラ”
俺達に会えて泣くマリの首には首輪が嵌められ、そこから両手両足に鎖が付けられて逃げられない様にされていた。
「さて、そこの人」
「ひ! な、何だよ!?」
「マリを解放してください。 どうせ、犯罪奴隷と言うのは嘘なんでしょう?」
「し、知らねえ! 俺は玉様の命令で、こいつを使って荷物の運搬をする仕事をしていただけなんだ。 そんな下っ端の仕事をする俺が、この娘を解放する手段を知る訳無いだろ!!」
「なら質問を変えます。 どうすればマリを解放する事が出来るか、知っていますか?」
「ぐ、く、俺の主、玉様に聞いてくれ……。 俺は本当に知らないんだ……」
俺は項垂れる男から情報を聞き出すと、マリの鎖を切る事が出来ないか超振動の剣を久々に発動させて試してみたのだが、魔力的な防御幕が張られているらしく切断する事が出来ない。
それに魔術に詳しいミーリスが言うには、どうやら強力な魔術が施されていて、この国から逃げられない様にされているらしく、俺はこのままベアードさんに玉様と言われる統治者の元まで、案内してもらう事を思いついた。
俺達がジッと見ている事を感じ取ったベアードさんは、諦めた様に一度溜息を吐いた。
「はぁ……。 分かった、分かった。 君達を玉様の元まで案内するから、これ以上ここで暴れないでくれ……。 全くアーダン、なんちゅう連中を連れて来てんだよ……」
「ベアードさん、巻き込んでしまって大変申し訳無いとは思っていますが、犯罪を犯していないマリを奴隷にしている事は許される事じゃありません」
「マリ、と言ったな。 お主は本当に罪を犯していないんだな?」
「してない。 10年前リリス姉の城から崖下に落ちた後、気が付いたらこの海岸に打ち上げられてたの。 痛くて動けなかった私を見つけた変な男達が、この首輪などを嵌めて私を奴隷にして玉に売り払ったの……。 そして、奴隷にされた私は少しの食事を与えられながら、荷物運びなどさせられて今に至るの……」
10年前のあの日の後から、ずっとマリは奴隷として玉に仕えていたと言う事になる……。 マリを奴隷にして売りさばいた男共に怒りが沸くが、恐らく違法奴隷だと分かった上でマリを購入したそんな玉にも腹が立つ。
「マリちゃん、きっと私達があなたを助け出しますからもう少しだけ頑張ってね」
「え、うん? 綺麗なお姉ちゃん。 私の事知ってるの?」
ディーネがマリを優しく抱き締めたのだが、あまりにも変わり過ぎている彼女が誰か分からないらしく、酷く困惑していた。
「あら、ごめんなさい、そうよね姿が変わった事に慣れ過ぎていたわ。 マリちゃん、私はディーネよ、あの日、光輝に殺された私だったけど、水の精霊として復活させて貰えたの」
「え、お姉ちゃんはディーネ姉なの!? パパ本当に!?」
「あぁ、本当だよ」
「う、うえええぇぇぇ……、ディーネ姉! ディーネ姉! 良かったよぅ………」
泣き続けるマリに近づき涙を舐め取ったスノウが、話し掛ける。
「私もいるよマリ」
「雪豹って事はスノウ姉?」
「そうだよ、あなたが生きててくれて本当に良かった……。 私もあの日からあなたに力を貸す事が出来なかった無力な自分をずっと攻め続けて来たけど、やっと自分を許せそうだよ。
私の命を懸けてでもマリを助け出して見せるから、また一緒に共也と旅をしましょうね」
「うん……。 スノウ姉、ディーネ姉、私もう少しだけ頑張ってみる!」
俺達がそんな3人のやり取りを暖かく見守っていると、憲兵隊らしき人達がこちらに走って来るのが見えたが、あっという間に俺達はその憲兵隊に包囲された。
「そこの者達、ここは玉様の治める港町と知って騒ぎを起こしているのか? 責任者が居るなら出てまいれ、でなければここに居る者全員に署へ来て貰う事になるぞ?」
ここは俺が出て事の経緯を説明しようとしたが、ベアードさんが目線で『ここは私が対処するからお前は前に出るな』と、訴えかけて来たので俺は下がる事にした。
「いや~~。 お役人様お勤め御苦労様です。 私はこの近辺で商いをさせて頂いておりますベアードと言う者です、どうぞお見知りおきを」
「私の名はセアトだ、世事はいらん。 何故こんな騒ぎを起こしたのか理由を申せ」
「はいセアト様、理由ですがこの奴隷とされている少女なのですが、どうやら違法奴隷のようでして」
ベアードが話し掛けた隊長さんらしき人物の方眉が跳ね上がった。
「なんだと? それは本当の事なのか? 虚偽の報告をすると、それだけで罪となる事を理解した上で申しているのであろうな?」
「はい、どうやら少女本人からの証言で、彼女は10年前に不審な男達にいきなり奴隷にされた上に、売り払われてしまったと言う事でして……」
「ふむ……。 もし本当なら許せる事では無いが、少女の証言だけを信じる訳には……」
「セアト様、どうやらこの奴隷の所持者は玉様に設定されているらしく、きっとその当時の記録も残っているはずですので、調べてみて頂けませんか?」
「う、玉様の、か……。 我らも雇われている身だからな、彼女の機嫌を損ねる行為は避けたいのだが……」
「何をおっしゃいます。 もし不正をする男共を取り除いたとなれば、あなたの評価も上がるはずです。
もし此度の事で玉様から、解雇を言い渡されるような事態になった場合は、私が責任を持ってあなた達を全員雇う事をお約束いたしますので、どうかこの可憐な少女を助けると思って動いていただけませんか?」
『「「お願いします!」」』
俺達がセアト隊長に頭を下げると、悩んでいる様だった。
「う、う~~む……」
そしてセアト隊長がチラリと、マリに視線を移した。
「セアトおじ様……」
そんなマリに声を掛けられたセアトには、彼女が光り輝いて見えていた。
(ふ、ふおぉぉぉ!? こ、この胸のときめきはまさか!!)
「た、隊長?」
まったく動かなくなったセアト隊長を心配した1人の隊員が声を掛けたが、反応が無い……。
だが、少しすると再起動した彼は凄い速度で、マリの前に片膝で跪くと右手を優しく持ち上げた。
「…………マリ君と言ったな、後の事は私に任せておきたまえ!! 君の様に美しい少女を奴隷にするなど、決して許せるものでは無い、きっと君の無実を証明してみせようじゃないか!」
俺達やセアト部隊の面々、そして周りで見ていた野次馬は同じ事を思った。
(やべぇ、こいつ真正のロリコンだ!!)と……。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
フォックス国に到着して早々にマリと再会する事が出来ましたが、まだ完全に解放する訳にはいかないようです。
次回は『玉への謁見』で書いて行こうと思っています。




