フォックス港へ。
「野郎共! マリちゃんを助けにフォックス国に向かうぞ!」
『おう!!』
徐々にオートリス港から離れて行くアーダン船長の船の甲板から、俺はオートリス城のある方向をジッと眺めていた。
「共也ちゃん、リリスちゃんの事を考えてるの?」
「千世ちゃん。 うん、最低だよね、婚約者の君が居るのに他の女性の事を考えてるんだから」
「ううん。 共也ちゃん、前も言ったけど、私はみんな仲良く平等に愛してくれるなら、何人お嫁さんが居ても大丈夫だと思ってるんだよ?」
「うん、分かってる……。 これは俺の我が儘だって事も知ってる」
「なら……」
「でも最初は君との約束を果たしてからにしたいんだ。 4歳の時に約束したよね、千世ちゃんのお婿さんになるって」
「あ、もしかして、共也ちゃん……。 その約束をずっと守って?」
「エリアが千世ちゃんだって知らなかった時は、約束を破りそうになったけどね」
「馬鹿だよ共也ちゃん、そんな小さい時の約束を律儀に守ろうとするなんて……」
「でも、千世ちゃんもあの時本気だったから、召喚されて再会した時に俺の事を思い出してくれたんだよね?」
「うん、私はあの時本気で共也ちゃんのお嫁さんになるつもりだったから、京ちゃま達にお願いしたんだよ……」
エリアは申し訳なさそうに服の端を掴んで来るが、俺も同じ気持ちだったから彼女の手を握る。
「俺もそうだよ。 でも、みんなに甘えてる訳じゃ無いけど、千世ちゃんとの約束を果たすまでは待ってくれるって言ってくれたからさ、だからもう少し今後の事を話し合わない?」
俺は勇気を振り絞ってエリアに今後の事を話し合おうと提案してみたのだが、正直心臓は痛いくらい鼓動を繰り返していた。
「うん。 私も共也ちゃんと今後の事をもっと話し合いたい……」
「本当!?」
「ええ、そうしてあなたに好意を寄せる女性を平等に愛して上げてね?」
「う、うん?」
何か俺が思ってる事と違う返答が返って来た事に、頭の中には疑問符が一杯浮かんでいた。
「共也ちゃんに好意を持ってる人達と、家族会議をするって意味でしょ? 違った?」
「違うけど、違って無くて……。 俺は千世ちゃんと2人きりで……」
俺が2人きりで過ごしたいと言いかけた時だった。
港の方向から聞き慣れた声が聞こえて来たのは。
「……って! 共也、置いて……いで!!」
「え? この声はリリスちゃん?」
「本当だ、リリスだ。 でも、もう船は港から結構離れてしまった……」
=◇===
【オートリス港】
「リリス!? シュドルムが共也に付いて行く事を許したのか……。 はは、良いね、良いね!!」
「ガルボ、共也と一緒の船に乗る事を間に合わなかったよ……」
「諦めるなリリス! アーヤ、テトラ、手伝え!!」
「はい! 私達は何をすれば?」
「アーヤはリリスに風魔法を、テトラはリリスを上空に飛び上がる手伝いをしてやってくれ!」
「ガルボさんは?」
「俺か? 俺はリリスを上空で共也達の船に打ち出す役をやる! 行くぞリリス!」
すでにアーヤが風魔法をリリスに掛けて緑色に淡く光っている。 そして、テトラが腕をグルグル回して打ち上げる準備の為に体をほぐしていた。
「え~~っと……。 もう少し穏便な方法でお願い出来ないか……な?」
「五月蠅い! 時間が無いんださっさとテトラに上空へ打ち上げ貰え!」
「う、打ち上げ!?」
「リリスちゃん、行くよ~~?」
テトラが地面を抉り足の甲にリリスを乗せると、本当に足の力だけで上空へと打ち上げた。
「いやーーー!!!」
「お~~~、飛んだ飛んだ!」
リリスが上空高くまで打ち上げられた先には、ガルボがすでに一緒の位置まで飛び上がっていた。
「ガ、ガルボ、ここからどうするの!?」
「リリス、俺の足の裏に足を乗せろ! 詳しい説明は時間が無いから出来ん!」
「わ、分かった……。 こ、こう?」
「リリス、俺達はお前の両親も、グロウからお前を守ってやることが出来なかった。 だからお前の留守にしている間くらいは俺達がこの国を守ってやる、だから……。
幸せになって…………来い!!」
「ガルボ!!」
“ドン!”
ガルボがリリスの乗っていた足を思い切り伸ばした事で、リリスは共也達が乗っている船に向かって打ち出された。
共也、今行くね……。
=◇◇===
リリスがテトラに空中に蹴り上げられると、上空でガルボによって今度は船の方向に打ち出される事によって、リリスが高速でこちらに近づいて来ている。
「共也、手を出して!」
「無茶な!」
だが船まで後1Mと言う所で、失速してしまいリリスが海に落ちて行く。
「リリス!」
「リリスちゃん!」
もう駄目かと思った時だった。
グレイブ戦の時と同じく白く薄い布が、リリスの体から現れた。
「カカカカ! リリス様、その布を共也殿に投げるのです!」
「トーラス!? あんた一体何処にいたの!?」
「その説明は後です! 早く!」
「ああ、もう昨日といい、今日と良い!! 後でちゃんと説明しなさいよ、共也受け取って!!」
リリスから投げられた白く薄い布を俺がしっかりと握ると、その布を登ってリリスが船に乗り込んで来ると笑顔で抱き着いて来た。
「はぁ、ドキドキした!!」
「リリス、お前、オートリスに残る予定だったんじゃ……」
「その予定だったんだけどね……。 シュドルムがオートリスを守るから、共也と一緒に世界を旅して来いって……。 迷惑だった?」
「そんな訳無いだろ……。 頼らせて貰うよリリス」
「うん、任せて!」
リリスは、エリアに向き直ると手を出しだして、握手を求めた。
「エリア、私も共也の嫁の1人になるからよろしくね?」
「リリスちゃんなら嫁になる事を歓迎するけど、最初に共也ちゃんと結婚するのは私だからね?」
「分かってるから大丈夫だよ。 じゃあこれから長い付き合いになると思うけど、よろしくね!」
こうしてまた1人俺に嫁候補が出来てしまった……。
何でみんな俺の嫁になろうとするんだ??
「カカカカ! 共也殿、私の様に干からびない様に注意しないとですな!」
リリスの腹から、霊となったトーラスの顔が出て来た事にも驚いたが、トーラスの魔力自体がリリスを通して白い布に変換されている感じを受けた。
「トーラスさん、その状態は一体……」
俺達は何故リッチであるトーラスが、リリスに取り付く形で存在しているのか不思議に思い尋ねると、少しの無言の後にその理由を語り始めた。
「私がこの姿になったのは10年前の戦争時に遡るのだが……。 リリス様、光輝を巻き込んで自爆した所は覚えておいでですか?」
「ええ、確か周りにある装置を自爆させた記憶があるわ。 でもその後の記憶は天界で両親と暮らしていた事しか……。 そう言えば、今更だけど何で私生きてるの?」
「カカカ。 あなたが自爆した地点で、ボロボロになったがまだ微かに生命反応が有るリリス様の体を、私が発見して治療したからです。
ですが、あまりにも生命力が乏しく、治療効果も薄かった為、誰にも邪魔をされないように暗く深い洞窟に移動して回復魔法を掛け続けるしか無かった。
ですが、そこまでしても徐々に生命力が失われて行くリリス様を見て、私は覚悟を決めました。
リッチである私の核をリリス様の体内に埋め込む事で、アンデットの特性である不死の特性を一時的に付与しようと……」
リッチであるトーラスの核をリリスに埋め込む……。 そんな事が可能だったのかは分からないけれど実際出来ているから、今ここにリリスが生きているんだろう。
でもそうすると核を失ったトーラスは……。
「共也殿、言いたい事は分かる。 核を失った私が存在出来るはずが無いと思っておるのだろう?」
「ええ……。 アンデットの核は心臓と同じ、それをリリスに埋め込んだあなたは……」
「カカ、前にも語ったであろう? 覚悟を決めたと。 だが嬉しい誤算だったのはリリス様の体の中に私の核がある事ですぐに消滅する事が無かったという所だな。
核の移植に成功した後も、私は体を構成している魔力を解き、その全てを治療魔法に変換する事で、何とかリリス様の体の修復がユックリとですが始まりましたが、元々の状態があまりにも酷かった為、10年と言う長い年月がかかってしまったのだ。
その頃には私の意識もリリス様に吸収されてしまっていたのですが、無意識に行っていリリス様の体の修復と同時に成長を促していたのですが、当時の出血量が多かった影響なのか、記憶を失われているなど夢にも思わず迷惑をおかけしました。 リリス様、気付かずに申し訳ない事をいたしました……」
リリスは、トーラスの顔が浮かぶ腹を見て納得した顔を向けていた。
「記憶に関してはもう完全に取り戻す事が出来たから大丈夫よ、ありがとうトーラス」
「勿体ないお言葉です」
「でさ、もう私も健康体だしトーラスも自由になって良いんじゃない?」
「カカカ、無理です! すでに私の核は完全にリリス様と同化してしまっているので、離れる事は出来ないのです」
「そうなんだね……。 トーラス顔を出す位置って調整出来る? お腹から顔を出されるのは乙女的にちょっと……」
「おお、これは配慮が足りませなんだな、これでよろしいか?」
トーラスはリリスの顔の左斜め上辺りに、骸骨の顔を出現させる事に成功させていた。
「うん、これで遠慮なくあなたに質問が出来るわ」
「おや、私に答えられ質問なら、リッチである私があなたのお悩みに見事答えて見せましょうぞ!」
何故か徐々にリリスの額に青筋が浮かんで行く……。
「あなたってさ、昨日の時点で意識を取り戻していたのよね?」
「ええ、何故だかわかりませんが、急に意識を取り戻しましたね、それの何が気になるのですかな?」
「トーラス……。 もしかしてだけど、昨日共也と一緒に話した内容も……。 知ってたりするの?」
トーラスに向かってニッコリ笑っているが、目が笑っていないリリスを見てこの場に居る皆が冷や汗を流し始めた。
「…………カカカ!」
先程までリリスの横に浮かんでいたトーラスの顔が、1笑いすると消えてしまった。
「あ、こら、トーラス、出て来なさい!! 絶対に何時か追い出してやるんだからーーー!!」
リリスの絶叫が海上に響き渡る中、俺達は島国のフォックスを目指して船旅を開始するのだった。
=◇◇◇==
リリスが合流してから2日経ち、太陽が水平線から昇りかけた時に、物見台で辺りを見渡していたトニーさんが声を張り上げる。
「フォックス国の陸が見えたぞーーー!!」
トニーさんの声を聞いた俺達が船室を出て甲板に出ると、まだ距離があるが視線の先には陸が見え始めていた。
マリ、お前は本当にここにいるのか?
もし、本当に奴隷として囚われているなら、俺達が必ず助け出してやるからな。
「入港するぞ。 帆を畳め!」
『おう!!』
フォックス国の港に接岸した俺達だったがアーダン船長の指示で、まずはアーダン船長が様子見で先に船を降りる事となり、俺達は後に続いて大地を踏みしめる事となった。
陸地に降り立った俺達の前には和服?のような着物を着ている熊の丸っこい耳を頭から生やしている獣人が、アーダン船長に向かって深くお辞儀をしていたのだった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
これでオートリス国でリリスの話は一旦終わりを迎え、次回からフォックス国編へと話は移って行きます。
次回は『フォックス国の統治者』で書いて行こうと思います。




