ドワンゴ武具屋ー後編
「さて、鉄志を家族に紹介する事も出来たし、約束通りお前達3人の装備品を見繕うか。 サラシナ、女性達の計測は任せるぞ?」
「あいよ、あんた」
現在、俺達はドワンゴ親方とサラシナさんに、体の寸法を測られていた。
「お前はこっち……あ~~『共也です』共也、こっちで寸法を測るからこっちに来てくれ」
体の寸法を測られている最中だが、どうにも端でいじけている鉄志が気になって集中出来ない様で、ドワンゴさんはチラチラと視線を向けていた。
「共也、隅で小さくなってる鉄志を放置してて良いのか? 何か声を掛けた方が良いとかあるか?」
「俺達が鉄志をいじるといつもあんな感じになりますが、すぐ元に戻りますんで放置して上げて下さい」
「そ、そうなのか? お前と鉄志が幼馴染だからと通用する面もあるのだろうが、鉄志は儂やサラシナの家族の1員になるのだから、今度から控えてくれると嬉しいのじゃが……?」
「分かりました、他の幼馴染連中にもあまり鉄志をいじらない様に、と伝えておきますね」
「ああ頼むな。 それで共也、お前は何の武器を求めて儂の店に来たのだ?」
「出来れば剣ですね、俺はスキル魔法が使え無いので……」
「使えないと言う事は、スキルとして所持はしているが原因があって使用が出来ないと言う事か?」
「はい……」
「詳しく話して見ろ。 秘匿したい情報なら言わなくて良いが……」
俺には使い方のわからない魔法が1つ所持している事と、剣術スキルはまだ無いが師から剣を扱った剣術を習っていた事を伝えると、説明に引っかかる部分があったのかドワンゴ親方は唐突に質問して来た。
「共也、使い方が分からない魔法がスキルカードに表示されていると言ったが、発動すらしないのか?」
「えぇ、今の所発動する条件すら分からないですね。 何か気になる事でもありました?」
「いや、使い方の分からない魔法と聞いて1つ試したい事が出来てな。 少し待っててくれ」
そう言うと親方は店の奥にある暖簾を押しのけて、店の奥へと消えて行った。 そんなドワンゴ親方の行動を見て、俺は首を傾ける事しか出来なかった。
時を同じくしてサラシナと呼ばれたドワーフの奥さんが、菊流とエリアを店の奥に呼び込んだ。
「2人共、店の奥で体の採寸するから行くよ。 リルも手伝っておくれ」
「はいサラシナお母さん。 共也さん、ドワンゴお父さんはすぐ戻って来ると思うので、ここでお待ちください」
流石に男の俺のがいる前で体の寸法を測る訳にはいかないのか、4人は店の奥に消えて行った。
手持無沙汰となった俺は、店内に飾られている様々な武具を見て回りながら親方が帰って来るのを待っているた。
「おう、共也、待たせたな」
そう大きな声で店の奥から出て来たドワンゴさんの手には、布に巻かれた1本の剣が握られていた。
「ドワンゴさん、それは?」
「これは昔、儂が露天商で買った魔剣なんだが……。 まぁそれは後で説明するから、ちょっとこれを持ってみろ」
絹擦れ音をさせながら剣に巻かれた布を外すと、黒い鞘に納められた剣が現れた。
「抜いて見ろ」
親方に頷き力を籠めるとスッと抵抗なく鞘から抜けた、その刀身は濃い藍色の両刃の剣だった。
「これは?」
「この剣の出自も名、そして何の素材で出来ているのかすら分からないが魔剣である事は確かなんだが……。 どうやら持ち主を剣自体が選んでいるらしくてな、これまで色々な奴に握らせてみたが全く反応しなかったんだが。 良く分からない魔剣なら、良く分からない魔法を所持しているお前になら、もしかして何か反応するんじゃないかと思って持って来たんだが、俺の感も満更外れって訳でもなかったみたいだな。 共也、見て見ろ」
「え?」
「剣の樋がほんの僅かだが発光しているだろう?」
親方の言う通り樋がある剣の腹を見て見ると、確かにほんの僅かだが発光していた。
綺麗だな……。
「ふむ……決まりだな。 共也、この魔剣はお前にタダでやる」
「本当ですか!? 俺は助かりますが、タダと言う以上条件があるんですよね?」
「ガハハ! 勿論だ。 儂は魔剣を自分の手で作り出す事を人生の目標にして研究していてな、共也に出す条件、それはこの剣を使って気付いた事をたまにで良いから報告しに来る事が条件だ」
「え、それくらいで良いんですか? 使い方が分らないとは言え魔剣ですよ? かなり高価なんじゃ……」
もう一度淡く光る魔剣に目を落とすと、ドワンゴ親方は首を振った。
「いや、さっきこの魔剣は、露天商で売られていたと言っただろう? 確かに魔剣は貴重で高価だが、使用者を選ぶ、切れない、ほぼ鈍器としか使えない。 そんな魔剣を誰が高く買うって言うんだ? だから値切りに値切ってやったよ」
「でも、いくら安く買い叩いたと言っても、タダでと言うとサラシナさんが怒らないんですか?}
「う……。 い、いや。 その魔剣は儂が自分のお小遣いを溜めて買った研究用の魔剣なのだから、サラシナは関係無い!」
そうは言っても額から汗がダラダラと流れ出ている。
やっぱり奥さんである、サラシナさんが怖い様だ……。
「だからこの魔剣に選ばれた共也に使ってもらい、魔剣としての情報を報告して貰う方が、儂にとってはよっぽど実入りがあるってものだ。 だから気にするな!」
これ以上は失礼に当たると思い、俺は快くこの魔剣を受け取る事に決めた。
「分かりました、ドワンゴ親方の言う通りありがたく使わせて頂きます。 それでどれくらいの頻度で報告に来れば良いですか?」
「ん? あぁ、そんなに急いで無いからな、メンテナンスに来た時にでも報告してくれれば、それで良い」
「では近くに寄った時には、必ず報告に来る様にしますね」
「さて。 お前の武器はそれで良いとして、防具の方も良いのを選んでやる。 それと……」
未だに店の隅で膝を抱えて凹んでいる鉄志に、ドワンゴ親方が声を掛ける。
「鉄志そろそろ再起動したか!? これから共也の防具を選ぶから、お前も武具屋を目指すなら、今からちゃんと見ておけ!」
「は、はい!」
鉄志は親方の手伝いをするために立ち上がると手伝い始めたのだが、スキルの恩恵による物なのかドワンゴさんの作業を無理なく補助をしている様だった。
そんな時、店の奥からリルちゃんの驚きの声が店内に響きわたったのは。
『菊流さんのオッパイってとても大きいんですね! うらやま……もが!』
店の奥から聞こえて来たリルちゃんの声に、俺達3人は顔を見合わせると頷いた…。
「儂は何も聞こえとらんぞ?」
「自分もだな!」
「俺もうまく聞こえなかったな~、という方向で!」
始めから決まっていたかの様に、俺達3人は顔を見合わせるとさらに1度頷いた。
口裏合わせが終わった俺達は何事も無かったかのように防具を選ぶ作業を続けていると、店の奥にあるカーテンが半分開くと、そこには顔を半分だけ出した菊流がこちらを睨んでいた。
「ねぇ……。 さっきのリルちゃんの台詞って、ここまで聞こえてたよね?」
人を殺せるんじゃないかと言うくらい殺意の籠った赤い目に恐怖した俺達3人は、首を全力で横に振りながら菊流の問いに答えた。
「「「いいえ! 何も聞こえませんでした!!!」」」
この答え方が正解だったのか、睨みながらも満足したのか菊流はそのまま店の奥に消えて行った。
「次は無いわよ?」
そう言い残して……。
何でだよ!? 俺達はむしろ被害者だろ!?
俺達3人は同じことを思ったのだった。
その後、何とか防具を選び終わった俺達はドワンゴ親方に入れて貰ったお茶を飲んで2人を待っていると、白のローブを纏ったエリアと、赤と緑の武闘着に身を包んだ菊流が店の奥から出て来た。
「と、共也さん……。 どうですか?」
「あ、あぁ。 似合ってる……と思う」
「あ、ありがとうございます……」
この歳になったと言うのにエリアの姿に見惚れていると、菊流が青筋を立てながら俺の尻を抓って来た。
「いっった!!」
「と・も・や、私には何も言ってくれないの?」
「菊流の赤い髪が武闘着に合ってて、似合ってるって! だから抓るのは止めてくれ!!」
「何だかエリアと違って妙に投げ槍に聞こえるけど、まぁ朴念仁の共也からその台詞を引き出せただけで、今回は我慢して上げる。 で、共也の防具は決まったの?」
「お前なぁ……。 はぁ、俺はレザー系の防具にする事にしたよ。 ドワンゴさんも勧めてくれたからな」
「おう、剣術スキルの無いお前では金属鎧だと動きで負けてしまうと致命傷になり兼ねんからな。 レザーアーマーなら軽いから少しはスキル持ちが相手だとしても渡り合えるはずだ」
「なるほどね……。 じゃあ、会計するわよ?」
その後、俺達3人分の装備代の会計を済ませると、俺の防具はまだ使う事が無いのでエリアの収納袋に入れて貰う。
「では私達3人の装備品の料金は、城の方に回して下さい」
「分かった、城だな。 共也、その剣を使った感想を必ず報告しに来るんじゃぞ?」
「はい! 必ずまたここに報告しに来ますよ。 鉄志、お前も頑張れよ! また来るよ!」
「あぁ、必ずお前達の使う装備を、俺の手で作ってみせるから楽しみにしてろよ!!」
こうして俺達3人はドワンゴ武具屋を後にした。
店の中に結構滞在していた気だったのだが、どうやら陽が落ちるまでもう少し時間があるようだ。
「ねぇ共也。 陽が落ちるまでもう少しあるし、ここに来る前にあった魔道具店に寄ってみない?」
「良いですね。 私も気になっていたので行ってみたいです!」
「俺も気になってたし、行ってみるか!」
こうして俺達は、ドワンゴ武具店に来る前に見かけた【エスト魔道具店】に行ってみる事にしたのだった。
もう少し3日目が続きます。
次はエスト魔道具店での一幕となりますのでお楽しみに。
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