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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
10章・今の魔国オートリス。
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過去編 グレイブ視点②

 私、ダリアは幽閉地に建てられた家の中で、港町で出会った2人が今後引き起こすであろう最悪な出来事を想像すると、楽しくてしかたがなかった。


「早く私が蒔いた種が芽吹いてくれないかしら。 そうしたら私は……あぁ、楽しみだわ。 戦争よ、は~やく起きて、た~くさん~の死が積み上~~がれ♪」


 そんなダリアの歌が、幽閉されている小屋の中に誰に聞かれる訳でも無く響くのだった。



 =◇===


【魔王城オートリス】


「グロウ君、良く来てくれたな。 さあ、遠慮なく中に入ってくれ!」

「お、お邪魔します!! ほ、ほ、本日はお招き下さりありがとうございます!!」

「そんなにガチガチに緊張して、一体どうしたんだ。 港町に一緒に行った時は、あれだけ私に沢山の文句を言って来てたじゃないか!?」

「それは、周りにグレイブさんしか居なかったからで……。 僕は元々コミュニケーション能力がほぼ0なのを、あなたも知ってるじゃ無いですか!!」

「まぁ……。 知ってたが、まさかここまで酷いとは思わなかったよ……。 あまりにも変わり過ぎて別人みたいになってるぞ?」

「あなた、そこまでにして上げて、グロウ君が泣きそうになってるじゃない……」


 ルシェリアに言われた事でようやく気付いたらしく、グレイブが見た時には、グロウの目に涙が浮かんでいた。


「わあぁぁ! すまん、お礼をする為に招待したのに失礼な事を言ってしまった!」


「い、いえ、良いんです。 僕がもう少し精神的に強ければこんな事には……ん?」


 グロウは自分のズボンを引く感覚がある事を不思議に思い下を見て見ると、金髪金目を持つとても可愛らしい少女が心配そうに見上げていた。


「に~に、痛いの? わたちが痛いの痛いの飛んでけ~ってしたげよか?」

「え、君はもしかして?」

「わたち? わたちの名はりりちゅ、お父ちゃまとお母ちゃまの子で3歳でちゅ。 よろしくなのでちゅ」


 舌足らずのリリスが必死に挨拶した姿があまりにも可愛いので、グレイブとグロウが鼻の下を伸ばしてだらしない顔を晒していたので、母親であるルシェリアが、慌ててリリスを抱き抱えてソファーに座るのだった。


「あぁ、やっとリリスちゃんに会えたのに……」


 ガックリと項垂れるグロウとグレイブを見たリリスは、私に目線で『わたちが慰める?』と目線で訴えかけて来たが、すぐ首を横に振った。


「リリがもう少し大きくなったら、気を付けないといけない人種がいる事をしっかりと学びましょうね~」

「??? あい?」


 リリスの良く分かって無い曖昧な言葉を聞いた事で、さらに項垂れている2人を放置するとして、彼女を膝の上に乗せて可愛がっていると、扉のドアがノックされる音で2人もようやく立ち直り、グレイブはノックして来た者に入室の許可を出した。


「入室を許可する、入れ」

「失礼いたします。 魔王様、お食事の用意が出来たのですが、何処でお召し上がりになります?」

「おお、もうそんな時間か、もちろん食堂で……」


 皆が集まる食堂でグロウを皆に紹介をしよう……と思ったのだが、人見知りが激しいグロウが必死に首を左右に振っているので、どうやら彼はここでの食事を希望しているようだ……。


「…………すまない、ここで食事を取ろうと思う。 手間だろうがこの部屋に持って来てくれるか?」

「分かりました、お客人の分も持ってきますので少々お待ちください。 侍女達、ここに運び入れる事となったから、料理を持って来るまでに、ある程度食べれる状態にしておいてくれ!」

『「お任せを」』


 侍女達が次々にテーブルクロスや花を生けた花瓶などを見栄え良く並べて行くと、あっと言う間に綺麗に整えられたテーブルが姿を現した事に、驚きの声を上げるグロウだった。


「す、凄いですね……。 さすがグレイブさんに仕えている侍女さんですね」

「まあな、さあ、食事をする準備も出来たみたいだから頂こうか」

「はい。 あ、グレイブさん、僕が人見知りが激しい為に、わざわざここで食事をする事に変更してくれてありがとうございます」

「なに、元々、君にお礼をするための食事会なのだからな、嫌だと思う事を強要するなんて事はしないさ、だから気にするな」

「はい!」


 こうして始まった食事会を、私達は最初和気あいあいと食事を楽しんでいたのだが、時々2人がおかしな会話をするようになっていた……。


「グレイブさん、例の計画は何時決行出来そうですかね?」

「そうだな……。 早くても後15年は掛かるんじゃないかな?」


 2人の視線が美味しそうに料理を食べているリリスに向かっている事に、私は嫌な予感が膨れ上がってきていた。

 私がグレイブ達の顔を見ると、そこには昔何度か見かけた悪神を信仰している狂信者が良くしていた、獲物を見る目を2人もしていた。


「グレイブ!?」


「ん? どうしたルシェリア。 いきなりそんな大声を出して」

「きっとグレイブさんが食べてばかりだから、ルシェリアさんが注意したんですよ。 あ、止めて、ナイフを向けるのは危険ですからーー!」

「君がそんな事を言うからだろ!」

「お父ちゃま達おもちろ~~い! きゃはは!」


 リリスの笑い声が響く部屋の中には、先程の2人はすでにいなくなり、私の良く知るグレイブがグロウ君と楽しく食事をしている光景がそこにあった。


 さっきのは私の見間違いだったの? いや、あの時の2人の顔は……。


 私の心臓は激しく動き、ナイフを持つ手が冷たくなって行くのを感じていた。


 その後も何度か言動がおかしくなる2人に注意を払いつつ食事会も終わりを迎え、グロウ君が帰る事になった。


「グレイブさん、今日はありがとうございまし。 また何かあれば遠慮なく呼んで下さいね、破格の値段でお手伝いしますので!」

「君は相変わらずちゃっかりしてるな……。 ほらリリス、グロウ君に別れの挨拶をしなさい」

「あい! に~に、またね~~!」

「きっとまたすぐに会えるさ、またね」


 こうしてグロウは自国へと帰って行った、そして、雨が降り雷の鳴るその日の夜にそれは起きた。


『ザアアアアアアアア……。 ドオオオオォォン!』


 雨や雷の音が鳴り響く暗い部屋の中でもベッドの上ですやすやと眠っているリリスに、グレイブは近づくとユックリと手を伸ばした。

 だが、手に取ろうとしていたリリスは、横から入って来たルシェリアによって抱き抱えられてしまい、私の手が握る事は無かった。


「ルシェリア、何をする。 リリスをこちらに寄こすんだ」

「グレイブ、あなた今リリスに何をしようとしていたの!?」

「育つのを待つつもりだったのだがな……。 だが、我が神に早く降臨して頂くためには力がある魂を捧げる必要があるのだ」

「あなたは何を言ってるの? 港町から帰って来てから言動がおかしいわよ!?」

「おかしくは無いさ、むしろ目覚めたと言った方が正しいな。 リリスの魂を暗黒神様に捧げて、少しでも力を取り戻して貰う糧として貰う事にしたのだ、邪魔をするなルシェリア」


 あまりにも前のグレイブと違いすぎる言動に恐怖を感じるルシェリアだったが、今ここで退いてしまうとリリスが殺されてしまうと言う確信だけは持つ事が出来た。

 それを防ぐには正気か狂っているか分からないが、グレイブと戦うしかない……。


「そう……、グレイブ、あなたはリリスを殺した上で、その訳の分からない神に可愛いこの娘の魂を捧げようとしている……それで間違いは無い?」

「先程から言っているだろう? 分からない女だな、さっさと寄こせ。 でなければ……お前を殺すぞ!」


 グレイブから魔力が吹き上がると、風となってルシェリアの頬を撫でる。


「本気なのね……。 良いわ、私があなたを止めて上げる……」

「お前ごときが私を? は! 冗談はもっと上手く言うんだな!」


 ルシェリアはソファーに寝かせたリリスを一度だけ悲しい目で見ると、グレイブに向き直った。


「止める事が出来ないか、やってみないと分からないじゃない。 グレイブ、かかって来なさい!」

「ルシェリアーーー!!」


 激しい戦闘音が鳴り響くが、豪雨と雷の音に搔き消されてしまい、他の者達が気付く事は無い。

 そんな2人の戦闘も5分を過ぎた辺りで、グレイブもルシェリアと正面から戦闘する事に対して煩わしさを感じて来ていた。


「ちぃ。 面倒な、このまま続けているといずれ誰かに気付かれてしまうのは確実か……」

「グレイブ、リリスを殺すのは諦めて地下牢で頭を冷やしなさい! ようやく私達の元に来てくれたこの娘を殺すなんて正気じゃ無いわ!

 あなただってあれだけ嬉しそうにリリスを抱き上げたりしてたじゃない!!」


「ぐ、あぁぁぁ! ルシェリア、私は……」

「グレイブ!?」

「私は……。 ハハハハハ! 私は暗黒神様の先兵なのだ、油断したなルシェリア!」

「リリス! 駄目ーー!!」


 ルシェリアは普段使用する事が無い身体強化をすると、グレイブとリリスの間に割り込むと彼女に覆い被さった。


「ハハハ、貴様諸共貫いてやるわ!!」


 “ドシュ! パタタ……”


 「かふ……」


 グレイブの放った右手の抜き手が、ルシェリアの背中を貫通したが、リリスに届く事無くギリギリの所で止まっていた。


「ち、殺し損ねたか。 だが、もう一度止める事はお前に出来まい!!」


 “ギシ”


「ぬ? ぬ、抜けない」


 グレイブは貫通した腕をルシェリアから抜こうとしたが、彼女は両手でグレイブの右手を掴んだ上で筋肉を締めつけている為、抜けなくなっていた。


「離せ! こいつ!」


 残った左手を使いルシェリアの背中を何度も切りつけるグレイブだったが、それは長くは続かなかった。


「グ、グレイブ、私はあなたに言って無かった事があってね」

「今更なんだ、命乞いでも言いたいのか!?」

「違う、私はあなたにも言って無かったスキルを持ってるの。 その名は【同調】と言ってね。

 自分が受けた傷を任意の相手に同じ傷を付ける事が出来るのよ、まさに今の状況の為に授けられたスキルと思わない?」

「ま、まさか……、止めろ!」

「一緒に逝きましょう、グレイブ……【同調】……」

「ぐは……。 何だこの痛みは……それに、こ、ここはリリスの部屋か? ル、ルシェリア! そ、その傷は一体……」


 

「良かった……最後の最後で正気に戻ってくれたのねグレイブ。 誰に操られていたのか分からないけど、あなたがリリスを殺そうとしていたのよ……」

「わ、私がリリスを!? ……あぁ、確かに私が君達を襲った記憶が微かに残っているな……。 ルシェリア、君が私を止めてくれたんだね、ありがとう……」

「グレイブ、ごめん、ごめんなさい……。 こんな手段でしかあなたを止める事が出来なくて……」

「謝る事は無い。 俺達の宝であるリリスを守る事が出来たんだ、それを誇りに一緒に逝こうじゃないかルシェリア……」

「はい……。 何処までも……お供いたします。 あな……た」


 私の腕の中で息絶えたルシェリアを強く抱き締めると、ユックリとうつ伏せに寝かせた。

 そして未だに眠り続けているリリスが将来大物になると確信した私は、リリスの額にお別れのキスをした。


「リリス、お前が成長した姿を見る事が出来なくて残念だ……だが、私達はお前の事を心の底から愛している、その事を忘れないでくれ……。 さよならリリス」


 聞こえているのか分からないが、眠るリリスの目から1粒の涙が頬を伝って落ちた。


「はぁ、はぁ、私の命も後僅かか……だが、このまま死ぬ訳にはいかんのだ……」


 そう言うとグレイブは、自身の体を手刀で何度か切り刻み、賊が侵入したと思われる様な偽装工作を部屋中に施した。


「ぐぅ、これで私とルシェリアが争ったと思われる事はないだろう……。 後は頼んだぞ、シュドルム、ガルボ、リリスを守ってやってく……れ……」


 胸の傷が目立つように仰向けに寝たグレイブは、最後に一度ルシェリアとリリスを見ると、目をユックリと閉じるのだった。




ここまでお読み下さりありがとうございます。

今回は何故グレイブ達がすでに亡くなっていたのかの話を書いてみましたがいかがだったでしょうか?

次回はグレイブが亡くなった後の話を書いてみます。


次回は『過去編 リリス視点』で書いて行こうと思っています。

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