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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
10章・今の魔国オートリス。
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過去編 グレイブ視点①

「おぎゃ~~!! おぎゃ~~!!」


「つ、遂に生まれたのか!? ルシェリアの容体は!?」

「母子共に健康ですよ。 おめでとうございます魔王様、元気な女の子ですよ」

「お、おおおおおぉぉぉぉ!! 良かった、本当に良かった……」


 今私は妻であるルシェリアの出産に立ち会っていたのだが、先程部屋の中から元気な赤ん坊の声が聞こえて来た事で、感動のあまり泣いてしまっていた。


「な、中に入っても良いのか?」

「はい、ですがルシェリア様も体力を相当消耗なされていますから、少しだけですよ?」

「分かった! ルシェリアーーー!!」

「ちょっと魔王様、お静かに!!」


 助産婦の制止も振り切り処置室の中に入った私が見た光景は、愛おしそうに生まれたばかりの我が子を抱くルシェリアの姿だった。


「グレイブ、見て金髪金目を持って生まれた女の子よ、魔力量も多いしきっとこの娘が大きくなったら、この国を代表する立派な人物となってくれるに違いないわ」

「あぁ! この娘には私の技、経験など全てを託す事にしよう!」

「ふふ、あなたったら……。 ねぇそろそろその娘に名前を付けて上げて、可愛い名前を付けてくれると嬉しいわ」

「むむ……。 そうだな、可愛い名前か…………リリス。 ルシェリア、リリスと言う名はどうだろう? 私が言うのも何だが、なかなか良い名前だとは思うのだが……」

「確かにあなたが考えたにしては良い名前だと思うわ。 あなたは今から、リリス=オートリス=スレスよ!」

「ルシェリアさん? 確かに自分で名前を付けるセンスが無いと言った事だけど、あっさり肯定されるとそれはそれで悲しいと言うか……」

「リリス~。 お父さんが何か言ってますよ~~、もうボケが始まったのかしらね~?」

「さっそくリリスを盾にするのは止めて貰えるかな!?」


 アホらしくも仲睦まじく過ごしていたグレイブ夫婦だったが、リリスが3歳になった時に部下から報告を受けた事で、この幸せの生活も終わりを迎える事となった。


「グレイブ様、人族の領域にある港町で少しおかしな現象が起きているらしく、どうするべきか悩んでいまして……」

「人族の港町でか? ふ~~む……良いだろう、報告してくれ。 君からの報告を聞いた後にどうするか判断しようじゃないか」

「ありがとうございます! 実は……」


 その兵士が言うには、隠蔽の術を使い(くだん)の港町に潜入したのだが、不思議と女の姿が一切見えない上に、その事に男連中は全く気にした様子が無いらしい。

 むしろ、それが当たり前の日常だと言わんばかりに過ごしているのだという。


「君の報告聞く限りだと、男だけが過ごす港町と化してしまっているらしいが、男色の気がある連中が集まった街と言う訳では無いのだな?」

「えぇ、情報収集の為にたまに潜入していたのですが、前は女性も大勢いたのでその線は無いかと」

「そうなると確かにおかしな現象が起きているな……。 良いだろう、私がその港町に直接出向いて検分してみよう」

「あなた!?」

「ルシェリア、君が心配する事は分かるが、もし変な病気が蔓延していた場合は迅速に対処しないといけないんだ、分かってくれるね?」

「でも、あなたにもしもの事があったら、この娘は……」


 ソファーに座っているルシェリアの太腿を枕にして幸せそうに眠っているリリスの姿が、グレイブの決断を鈍らせる。


「幸せそうに寝おってからに……。 きっと、きっと大丈夫だ、シュドルム、ガルボ、愛する2人の護衛は任せたぞ」

『「は! この身に変えても!」』

「うむ、ルシェリア、行って来る」

「無事に帰って来られる事を、祈ってお待ちしてます……」


 私はマントを翻し、魔国と人族の大陸を繋ぐ大橋を渡ると、隠蔽術を使い港町に進入する事に成功していた。


「部下の報告道り、街に男しかいないな……。 一体何がこの街に起きているんだ?」


 そこに手伝いを頼んだ1人の魔族の青年が声を掛けて来た。


「グレイブさん、手伝うと言った僕も迂闊でしたけど、明らかにこの街の状況はおかしいですよ。 一度撤退した方が良くありませんか?」

()()()()、特殊な病気だと魔族にも影響が出るかもしれないのだ、もう少しだけでも良いから手伝ってくれないか?」

「はぁ……。 グレイブさんのような英雄に頼まれたら断る事なんて出来ないですって……。 しょうがないですね、でもなるべくこの街に居る人間の体に触る事は避けて下さいよ? どんな細菌が影響しているのか分からないんですからね」

「細……何だって?」

「あぁ、何でも無いです、こちらの独り言ですから気にしないで下さい。 で、何処から調べてみます?」

「そうだな……。 まずは街全体を見てみたいな。 あの中央に聳え立つ物見塔に登ってみようじゃないか」

「分かりました」


 “カッ、カッ、カッ、カッ、カッ”


 2人が物見塔の階段を一番上まで登り辺りを見渡すと、青く輝く海、そして海鳥達が元気に飛んでいる姿は見えたが、やはり女性が1人もいない……。


「部下の報告道り、何処を見ても女性が1人も居ないな……。 グロウ君も良く見てくれ」

「分かってますって。 でもここまで女性が居ないと、本当に男色家の集まった街だと思ってしまいますね……」

「グロウ君、想像してしまうから口に出して言うのは止めてくれ……」

「分かりました……。 僕も自分で言ってて寒気が走りましたからね……」


 2人が目を皿のようにして探していると、グロウが街の入り口に1人の少女が立っている姿を見つけた。


「グレイブさん、街の入り口に金髪の少女が1人で立っていませんか?」

「ん? おお、確かに少女とは言え女性だな、少し安心したよ。 だが彼女はあんな所に立って、何をしているんだ?」

「さあ……。 あ、カップルらしき冒険者達が入り口から入って来ましたよ?」

「何だ、女性がいないのは偶々だったのか、これで俺らも帰還する事が出来るな。 ん? あの少女が冒険者達に近づいて行くな」

「何か話しかけてますね。 え、武器を抜いた? うげ! ゲホ!」


 グロウが見た物見塔から見た光景、それは男の冒険者が相方の女性冒険者に、いきなり切りかかり惨殺する場面を目撃してしまったため、胃の中の物を吐いてしまったのだ。


「お、男がいきなり女性を惨殺するなんて一体何が……」

「何故だ、さっきまであれだけ仲が良かったカップルの冒険者だったのに、あの少女が話し掛けた途端に男の態度が豹変した……。 まるであの少女に何かを吹き込まれて、男の方が信じてしまった様だった……」


 その時だった、血が顔に付いた少女が物見塔に振り返り、俺達と視線が合うと口角を上げて楽しそうに笑ったのだ。 まるで……新しいおもちゃを見つけたかの様に……。 

 私とグロウの2人は、その少女の笑いを見た途端に、全身の毛穴から嫌な汗が噴き出るのが止められなかった。


「グロウ君、逃げるぞ。 何が起きているのか分からんが、この港町に起きている現象はあの少女が原因なのは確定だ、これ以上ここに滞在するのはリスクが高すぎる!」

「それが良さそうですね……。 そうと決まれば早くこの場から離れないと。 さっきの少女の様子から、こちらに来るはずです」

「ああ、行くぞ」

「はい」


 俺達が物見塔を身体強化をして駆け下りて塔の入り口を潜る事が出来たので、後は身を隠すだけ。


「あら、おじ様方、何をそんなに急いでこの場を離れようとしているのですか? もう少しユックリして行って下さいな」


 私とグロウはその声の主を見た、見てしまった。

 その少女は、血まみれの剣を持つ男の冒険者の腕に抱えられた状態で、こちらを青の瞳孔の周りを赤く光らせながら、両方の口角を上げて醜悪な顔で笑っていた。


「ぐ! が!!」

「どうしたグロウ君!」


「ふふふ、おじ様にはどうやら私の能力が効きにくいみたいなので、先にそちらのお兄様を落とさせて頂きました」

「君は一体何を言っている!」


 すると先程まで苦しんでいたグロウは、その少女に近づいて行くと片膝を付いて、頭を下げた。


「ふふ、良い子ね。 あなたの能力を私に教えてくれるかしら?」

「はい、私の能力は……」


 グロウが自身が魔族である事、そして能力をその少女に教えると、彼女は満面の笑みを浮かべていた。


「あらあら、2人は魔族だったのね、 そしてあなたは私にとって、とっても都合の良いスキルを持っているじゃない。

 最初の命令よ、あのおじさまに私のスキルに抵抗する事を止めさせなさい」

「はい、【ダリア様】」


 不味い! 急いでここを離れなくては!


 だが、足が地面に縫い留められているのかと言うくらい動かない。

 このダリアと言われた少女が言った『効きにくい』と言う言葉が本当なら、私も軽くだがそのスキルの影響下にあるのかもしれない。


「逃がさないわよおじ様、あなた達は私が世界を混沌へと叩き落すための先兵として働いてもらうわ。 グロウ、やりなさい」

「はい……。 グレイブ様お覚悟を」

「止めろ! 止めるんだグロウ君!! ぐぁぁぁぁぁぁ!!」


 ルシェリア、リリス……すまない。


「抵抗するのを止めたわね、そこに私の全力の魅了の力を使って、この2人の潜在意識に暗黒神様を信仰するように刷り込めば、これで暗黒神様の先兵が完成したわ。

 後はこの2人の記憶をこの街では何も起きなかったと改変する事で、私は戦争の種が芽吹くのを待つだけ……うふふ。 この港町で起きている事もそろそろグランクお父様達にバレそうだし、その時が来るのを幽閉地で待つ事にしましょうか。 自分の国に帰りなさい、グレイブ、グロウ」

「…………はい」


 処置を施されたグレイブとグロウは、フラフラと街の外に出て行くと意識を取り戻し、自分の国へと帰って行くのだった。


「グロウ君、こんな何も無い調査に突き合わせてしまって悪かったな。 お詫びに今度食事招待するから、私の城に来てくれ」

「うわぁ、良いんですか? 僕はずっと前からリリスちゃんに会いたかったんですよ、勿論その時に会わせてくれますよね!?」

「妙に食いついて来るじゃない……。 リリスはまだ3歳なんだから君の嫁に出す事は出来んぞ!? 将来、君が立派な男になったら考えるが……」

「そんな理由じゃないですって、純粋な好奇心とでも言えば良いんですかね?」

「そう言うものか? まぁ、会うのは構わんが……、絶対に嫁には出さんからな!!」

「はいはい、オートリスの英雄様もここまで親バカっぷりを披露されると、尊敬する事を止めたくなって来ますよ……」

「グロウ君、何だか港町を出てから私の扱いが酷く無いか!?」


 こうして潜在意識に暗黒神への信仰を植え付けられた私達は、自国へと戻って行くのだった。


 そして、ここから世界を巻き込んだ悲劇の幕が開く……。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

魔王グレイブの過去の話を書いてみましたいかがでしたでしょうか?

次回も過去編ですが次で出来れば終わらせたいと思っています。


次回は『過去編、グレイブ視点②』で書いて行こうと思っています。

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