失われていた記憶の最後のピース。
「シュドルム、お前本気で帰って来たばかりのリリスに、この魔国オートリスを任せるつもりなのか?」
ガルボは休憩に入ったシュドルムに近寄ると、リリスに関する事で話しかけたのだった。
「俺に1撃も入れる事が出来なかったら、な?」
「何をそんなに急ぐような真似をする必要がある! 体は大人へと成長したとは言ってもリリスはつい最近まで記憶喪失の影響で、魔力の操作の仕方すら忘れていたんだぞ? それなのにお前に1撃入れるだなんて……」
「ガルボ、お前は俺がリリスに無理な事をやらせている、と言いたいのか?」
「ああ、違うのか?」
「ふぅ……、ガルボ耳を貸せ」
シュドルムに言われて、ガルボは素直に耳をシュドルムに近づけた。
「実はな……、神聖国ヴォーパリアに入り込んでいるスパイから、魔王様と王妃様に似た人物を見た、と言う報告が上がっているんだ……」
「はぁ!? だってあの方は俺達の目の前で!」
「ガルボ!」
「しま! …………ふぅ、誰のも聞かれて無かったみたいだな、シュドルム驚き過ぎて大声が出てしまった、すまん」
「気を付けてくれよガルボ、まだその情報は誰にも言って無いんだからな?」
「悪かったって。 で、その情報は信じられるのか?」
「信頼の置ける部下からの報告だから、信じたいのは山々だが内容が内容なだけに、決断しかねている所なんだ……。 ガルボ、お前はこの報告の内容は真実だと思うか?」
ガルボは休憩しているリリスの顔を見て、シュドルムと同じく険しい顔をして決断しかねていた。
「俺もその報告を信じて良いのか分からん……。 そもそもお前も見てるじゃないか、魔王様と王妃様が何者かに殺されていた、遺体を……」
「ああ、俺とお前で王族専用の墓地に埋……葬………。 まさか!!」
ガルボとシュドルムは弾けたように修練場を後にしようとするが、その姿を見たリリスが慌てて制止しようとする。
「ちょ、ちょっとシュドルム何処に行くのさ! 私と組み手をしてくれる約束はどうすんの!?」
「後で相手をしてやる! 今は急ぎの用事が出来た、そこで休憩でもしていろ!!」
「共也、俺もシュドルムに付いて行くからリリスの事頼んだぞ!」
「お、おい! ガルボ!」
俺とリリスの制止も聞かずに、2人は庭を凄いスピードで出て行くと、すぐに見えなくなってしまった。
「シュドルム、ガルボ、あんた達一体何処に向かって行ったのよ……」
=◇===
【魔王城が一望出来る丘の上】
「ここに来るのも随分と久しぶりだな……。 ガルボ、よそ者の臭いはしないか?」
「ああ、それに墓の周りにある土も掘り返された様子が無いから、何も起きて無いと信じたいが……」
「お前の報告書にあった、ネクロマンサーのスキルが封じられた宝玉。 もし、それを使う事を前提ですでに墓を荒らされていたとしたら、外から見て判断は難しいな……。
やはり真偽を確かめる為にも、お二人の墓を暴くしか無いか……」
「それしか無いだろうな……。 まずは魔王様の方からやるか……」
シュドルムとガルボが墓石を退けて、土を掘り始めると実力者の2人に掛かれば、棺桶を掘り出すのにそこまでの時間は掛からなかった。
そこに、俺達の行動を不審に思っていたリリス達が追いついて来てしまった。
「ガルボ、シュドルム、墓を掘り返すなんて何をやってるの!!」
「来てしまったのか、リリス」
「来てしまったのか、じゃない! 2人が誰の墓を掘り返したのか知らないけど、私にも分かるようにちゃんと説明してよ!」
リリスの怒声に、ガルボとシュドルムの2人は顔を見合わせて、この墓が誰の物か言っていなかった事を思い出した。
「そう言えばお前には言って無かったっけな。 この墓はお前の両親の墓だよ」
「え? お父様……と、お母様の墓? え、それじゃ城の裏庭にある墓は……。 痛っつ……」
「そう、城の裏にある2人の墓標は、もしも、何かあった時の為に俺達が作っておいたダミーだよ。 そして今掘り出したのが、お前の本当の両親が入っているはずの棺桶だ」
「何で? 城の裏にある墓標がダミーなのは分かったけど、何で今更お父様とお母様の墓を暴く真似をするのよ!」
言うべきか悩んでいたシュドルムだったが、ずっと黙っていて良い内容でも無いので、リリスに正直に神聖国ヴォーパリアでリリスの両親が目撃された事を話すと、急にリリスは頭を抱えて痛がり初めた。
「お、おい。 リリス、どうした!?」
「痛い! 痛い! お父様とお母様が神聖国ヴォーパリアで目撃されたって嘘よね? もし本当だとしたら、天界でお父様達と過ごしたあの年月は一体何だったのよ!! まさか、天界に安置されていたグロウの魂を盗んだのも……?」
最後まで思い出せなかった記憶が、シュドルムの言葉を聞いた事が切っ掛けで次々に蘇っているらしく、リリスは前のめりに倒れてずっと頭を押さえて苦しんでいた。
「共也、お願いだから私が暴れ出さない様に抱きしめて。 今にも暴れ出しそうなの!」
「リリス!」
「急いで!!」
「ああ、もう! 後で文句言うなよ!!」
俺が抱きしめた途端に、リリスの理性が限界を迎えたのか、膨大な黒い魔力が溢れ出して今にも弾き飛ばされそうになっていた。
「あああぁぁぁ!! 嘘よ、嘘だと言ってよ! 天界で過ごした思い出も、全てが私の幻想だったの!? こんなのって無いよ……」
“ガイーーーーン!!”
「グペ!!」
リリスの頭に金属の塊であるシュドルムの剣の腹で頭の天辺を叩かれた事で、良い音が辺りに響き、あまりの痛みに目を見開き頭を押さえるリリスの放出していた膨大な魔力は、いつの間にか綺麗さっぱり消失していた。
「おおおおおぉぉぉぉ!!」
「落ち着いたかアホリリス。 はぁ、少しは成長したかと思っていたが、お前は相変わらず人の話を聞かないな……」
「シュドルムいくら私が暴走しかけたからと言って、その剣で殴る事無いじゃない!!」
「何を言ってやがる、お前もう少しで共也を殺しかねなかった事を理解しやがれ」
「う、それは……」
え? 俺ってそこまで危ない状況だったの!?
「落ち着かせてくれた事は感謝してるけど、何で私の両親の墓を暴いてるのか理由を聞いて無いよ!?」
「ああ、この棺桶の中にお前の両親の遺体がちゃんとあるか確認する為だよ。
遺体がこの中にあれば、神聖国ヴォーパリアで目撃された魔王様は偽物、無ければ本物の可能性が出て来る事くらい脳筋のお前でも理解出来るだろう?」
「もう、脳筋じゃないもん! ちゃんと考えて行動出来る様になったよ!」
「もんって……。 いきなり言動が幼くなったが、思い出した記憶に引っ張られてるのか?
まあ良い……、取り合えずこれからこの2つの棺桶を開ける。 リリス、良いな?」
「…………分かった。 でも、本当に遺体が入ってるかもしれないんだから、気を付けてね?」
「それは保証出来無いなっと!」
「おりゃ!!」
“バリバリ! ガランガラン……”
「…………残念だ。 これで俺の部下の情報の信憑性が増してしまったな……」
「あぁ……」
開けられた2つの棺桶の中にはやはり遺体は入っておらず、重さを誤魔化す為なのか砂袋が入れられているのみだった。
「だが何時の間に魔王様達の遺体を……、棺桶には俺達自身が打ち付けた釘も、ちゃんと付いていたぞ?」
「分からん……。 こうして砂袋をわざわざ棺桶に入れて重さを誤魔化していたと言う事は、最初から仕組まれていた可能性が出て来たな……」
「まさか魔王様達の死もか!?」
「その可能性も捨て切れんな。 だが、魔王様が死んだ時点で、まだグロウのスキルがネクロマンサーへと変化していない。
それなのに魔王様の死を計画に組み込むのは、リスクが高すぎる気がするが……」
「そうだよな……。 えぇ~~い! こんな情報量じゃ結論なんて出る訳が無いんだから、一旦戻ろうぜシュドルム」
「そうするしかないか……。 ここに魔王様は眠っていない、それが分かっただけでも少し前進出来たと思う事にするか……」
結論が出た事で訓練場に戻ろうと、リリスに声を掛けようするシュドルムだった。
「リリス、共也に抱き付かれて嬉しいのは分かるが、そろそろ戻……る……ぞ……」
「シュドルム?」
シュドルムは未だに抱き付いている共也の横を見ている。 一体何が……。
え? 何、この黒い穴は?
「ガルボ!!」
「おう! リリス、共也を抱えて前に跳べ!!」
「く!」
私が共也を抱えて前に跳び出すと、黒い穴から青白い肌をして長い爪が生えた右手が飛び出して来て、つい先程まで私達が立っていた場所を通り過ぎて行った。
ガルボの掛け声があったからギリギリ避ける事が出来た事に安堵したが、その右手はムチの様に伸びて私を追いかけて来たが、シュドルムが寸での所で剣で受け止めてくれたお陰で、私と共也の2人は無事に離れる事が出来たのだった。
「無事かリリス、共也!」
「う、うん。 これはガルボ一体……」
「悪い予感ってのは当たっちまうもんだな……、俺とシュドルムはこの技を使う人物を良く知っているんだよ……。 自分の娘にあんまりじゃないですかねぇ、魔王グレイブ様!」
魔王グレイブ、そうガルボが叫ぶと黒い穴が広がり、頭の両端に立派な角が生えていて、青白い肌を持つ1人の魔族が現れた。
「本当にお父様が…………」
「ガルボとシュドルムか……。 リリスを庇うなど余計な事をしてくれたな。 暗黒神様に逆らおうとする愚かな娘を処分する手間が増えてしまったでは無いか」
「グレイブ様、あんた今言った事は本心なんですか? あれだけ可愛がっていたリリスを物を捨てるかのように処分するって……」
「子供の頃は可愛がっていたさ、いずれ暗黒神様の生贄として捧げるつもりでいたからな。 いざその時になって反抗されては面倒だからな、だから俺達に懐く様に優しくしていたのだよ」
「そんな……。 じゃあ天界で一緒に暮らしてた時も、私を暗黒神なんて訳の分からない奴の生贄にする為に優しくしていたって言うの!?」
「あぁ、天界の時で暮らしていた時はちゃんと優しくしていただろう? ディアナに魔王グロウの魂を狙っている事がバレると、追い出されてしまうからな! だからなリリス、お前との生活は良い隠れ蓑だったぞ? アハハハハ!!」
こいつ、リリスの想いを踏みにじりやがって!!
俺だけじゃ無く、菊流や与一も魔王グレイブのリリスの扱いに、怒りで今にも手を出しそうになっていた。
「あんたって奴は……。 魔王グレイス、この名に憧れてこの国に集まった魔族も大勢いたのに……お前には幻滅したよ。
こんな奴に憧れていた昔の俺をぶん殴ってやりたくなる位、今のあんたは下衆になり果ててしまったんだな……」
「全くだ。 魔王グレイブ、あんたがどうしてそこまで下衆に成り下がったのかは聞かんが、兄貴分である俺達がリリスの無念を晴らしてやる。 だから、リリスは共也の側に居ろ!!」
「う、うん……。 シュドルム、ガルボ、気を付けて…………」
怒り心頭の2人は前魔王であるグレイブと対峙した事で、リリスの無念をはらすための雪辱戦が今まさに始まろうとしていた。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
前魔王であるグレイブがいきなり現れた事で、シュドルムとガルボの共同戦線が始まろうとしています。
次回は『目覚め』で書いて行こうと思っています。




