表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
10章・今の魔国オートリス。
194/285

元シンドリア王国、魔法兵団大隊長。

 与一が自力で氷結の呪縛を打ち破った事で、彼女を封じ込めていた樹氷は小さな破片となって砕け散った。

 だが、脱出出来たのは良いが、意識がまだ朦朧としている彼女は前のめりに倒れかけていたので、俺が慌てて受け止めて抱き締めたのだが、衣服も樹氷と共に砕け散ってしまった与一は、今裸の状態だった。


「共也のエッチ…。 でも、責任を取ってくれるって言ってくれたら、もっと見せて上げるよ?」


 ジッと上目使いで見て来る与一に呆れてしまった俺は、彼女の頭に無言で手刀を落とした、こうして俺を弄って来る所は昔から変わって無いな……。


 手刀を頭に落とした事で、頭を押さえて悶えている与一を俺は優しく抱き締めた。


「おおう、共也から抱き着いて来るとは、珍しい。 まさか私の裸体を見た事で惚れた?」


 与一がまた的外れな事を言い始めたので、エリアが与一に毛布を羽織らせたけど、その額には少し青筋が浮かんでいた。


「はいはい、与一ちゃん、今はこの毛布を羽織っててね。 今から私の予備の服を収納袋から出して渡すから、それを着てね~~」

「ぬ、エリア、久しぶり? 何だか、エリアの私に対する言い方が何だか変わっているような……。 与一ちゃんって言い方は、まるで……」


「あ~、与一取り合えず服を着て来てくれないか。 今のお前の恰好は眼福ではあるが、目のやり場に困っちまう……」

「ガルボ、分かった。 あと、あの時の約束を守って、共也を連れて来てくれた事、感謝してる。 ありがと」

「良いって事さ、ほら、さっさと服を着て来い。 共也が困ってんぞ」

「む? 本当だ、共也の顔が真っ赤だ……………チラ」

「駄目ーーー!!」


 羽織っている毛布を少し捲り裸を俺に見せようとしてくる与一を、収納袋から服を取り出そうとしていたエリアが、寸での所で毛布を抑え込んで見えない様にしてくれた。


「むう、さすがエリア、鉄壁」

「もう! 油断も隙も無いんだから!! はい、私の予備の服が与一ちゃんの体型に合うか分からないけど、多分着れるはずだから一緒に行きましょ? ね?」

「妙な圧力がエリアから溢れ出てる……。『ね?』 はい……」


 エリアと与一が外に出て服を着に行くと、樹氷が在った場所には俺とガルボのみとなっていた。


「はぁ、これで与一との約束を果たす事が出来たし、やっと肩の荷が下りたぜ。 良かったな共也、与一が生きていた上に合流する事が出来てな」

「本当にそう思ってるよ……。 俺達もずっと与一の事を探してはいたんだが、何処にいるのか、生きているのかすら分からない状態だったから、ガルボが居場所を知っててくれて助かったよ」


 俺が感謝をガルボに伝えると、何故か下を向いて悲しそうな顔をしていた。


「…………罪滅ぼしみたいな物さ」

「ガルボ、それはどう言う事なんだ?」

「…………あの日、俺があと1分、1分でも良いから早くここに到着する事が出来ていたなら、与一を助ける事が出来ていたんじゃないか? と、この10年間その事ばかり考えていたんだ。

 夜になり、ベッドで横になって眠っても、与一が涙を流して凍り付く場面を夢にまで見てしまってな……。 だから朝まで熟睡出来た日なんて数える位だったよ……。

 ……そんな日々が10年も続いてしまったが、こうやって共也と友人になり、ここに連れて来る事が出来た事でようやく与一との約束を果たす事が出来た上に、あいつが呪縛を解呪して脱出に成功するおまけ付きだ、これが嬉しく無い訳が無いぜ。

 これで後は神聖国ヴォーパリアのクソったれを叩き潰せば、また俺は気楽な旅に出る事が出来る。

 さっきは罪滅ぼしと言っていたが、結局自分のためでもある訳だ。 幻滅したか?」 


 俺はガルボの言葉に対して首を横に振って、明確に否定した。


「そんな訳無いだろ。 お前はずっと与一を助ける事が出来なかった事を後悔し続けても、約束を守る為に俺を探し続けてくれていたんだろ? 幻滅出来る訳無いじゃないか……、もう俺とガルボは仲間なんだしな」

「あ、ありがとう共也……。 その一言だけで俺は……俺は……ぐ……」


 ガルボは顔を覆い、涙を俺に見られない様に静かに泣いていた。


 ==


 あの後、落ち着きを取り戻したガルボは今後の行動をどうするか、俺と話し合っていると、エリアの予備の服を着た与一とエリアが戻って来たのだが、何と言えば良いのか……。


 長く樹氷の中に閉じ込められていた与一の髪は伸びすぎていたので、後頭部の上部で纏めて垂らしてポニーテールの様にしているが、途中2か所をエリアが持っていた赤いリボンで止めているのは、意外と似合っているから分かる。

 だけど、エリアより胸が大きい与一は微妙に服のサイズが合わず、ヘソが出てしまっていて何だか色気が……。


 そんな俺の思考を読み取ったのか、エリアが思いっきり頬を膨らませて、涙目で俺を睨んでいる。

 そして、与一は与一で俺を揶揄うのを止めない……。


「共也、私のヘソが気になるなら触ってみる?」


 頭を軽く叩こうと手を上げると、エリアの後ろに隠れてしまった。

 そして、俺が手を出して来ない事をいいことに、与一がさらに口を開いて喋り始めた。


()()()()()、共也がいじめる、何とかして?」


 その言葉を聞いた俺は、与一の頭を叩こうとして上げていた手を止めて、驚きの顔で彼女を見た。


 …………今確かに与一はエリアの事を『千世ちゃん』と言った。 

 俺がまさかと思い、千世ちゃんに視線を向けると、首を縦に振り頷くのだった。


「与一ちゃんが私の予備の服を着る手伝いをしてる時に、私の前世が千世だって事を説明したの。 でも今まで黙っていたから、きっと怒られるだろうと思って告白したのに、与一ちゃんにあっさり許して貰えた事には驚いたけど……。 そう言う事だから私が千世の転生だって事は、与一ちゃんには説明済みだよ」


「そうか、与一はエリアが千世ちゃんの転生体だって事を、良くすんなりと受け入れられたな。 普通なら困惑するんじゃないか?」

「別に? むしろ、召喚された当初、共也と会ったばかりなのに、あれだけグイグイと行くエリアを不思議に思ってた位だし。 だから、エリアが千世ちゃんの転生体だと知れて、むしろ逆に納得出来た」

「と言う事らしいです……。 だからこれからも一緒に行動するのは平気みたい」

「与一が平気なら良いか。 与一これからもよろしくな」

「もち、任せて」


 与一が外に出ようとした所で、俺は声を掛ける。


「あ~、えっと与一……」

「ん? 何?」

「お帰り……」


 与一は俺が顔を赤くして『お帰り』と言った事を、与一は目を見開いて驚いていたが、普段見せないような笑顔を俺に返してくれた。


「ただいま、共也♪」


 こうして用の無くなったこの場所を離れて、皆が集まっているリリスの魔王城に向けて馬を走らせるのだった。



 =◇===


【魔王オートリス城、リリスの自室】


 “カチャ、キーーー……”


 扉の鍵を使い、中に入って来たのは部屋の主であるリリスだった。


「ここが私の部屋……。 うん、見覚えのある人形、ベッド、そして……宝石箱?」


 机の上に置いてある、見覚えの無い小さな宝石箱を手に取ったリリスは、慎重に箱の周りを何度も調べたが、特に変わった事は無いようなので蓋を開けると、箱の中には金色に輝くの宝石がはめ込まれている鍵が1本収められていた。

 リリスは、この箱に収められた鍵と同じような物を最近見た記憶があった。


「この鍵って、もしかして……」


 “コンコンコン”


「リリス様、お休みの所申し訳ありませんが、シュドルム様から今後の事で相談したい事があるらしいので来て欲しいとの事です」

「あぁ、分かった今行くよ」


 宝石箱の蓋を閉めたリリスは部屋の鍵を掛けると、シュドルムに会いに向かうのだった。



 =◇◇==


【共也サイド視点】


 リリスの魔王城へ向かっていた俺達だったが、予定を変更して与一の服など必要となりそうな物を一通り買い揃えようと、一度港町まで戻って来ていたのだった。


 与一の必需品を買い揃えた後は、すぐリリスの魔王城へ向かう事になっていたが、様変わりした魔国の港を興味深そうに見学して回っている与一に強く言う事が出来ずに、俺達はしょうがなくもう少し与一が港町を見学する事に、満足するまで付いて回った。


「おお、色んな魚が並んでる。 あれは何の魔道具屋? あれは? あれは?」


 そんな港を興味津々に質問して回っている与一の恰好は、髪色に合わせた緑色の大き目のマントを羽織り、その下には白の服を、下半身はハーフズボンとブーツ、そして防具は動きやすさを重視して皮の胸当てのみを装着していた。


 砕けてしまった親方が作ってくれた弓の代わりを求めて、武器屋にも寄るか提案したのだが、何故かいらないと断られた。 謎だ……。


 戦う事になった時はどうするんだろうな?


「与一、そろそろ魔王城に向かうかぞ。 戻って来ーーーい!!」

「はーい。 共也、魔王城には私の知り合いも沢山いるって本当?」

「あぁ、菊流やジェーンもいるから、楽しみにしててくれ」

「おお、会うのが楽しみ。 だけどみんな歳を取って良い女になってるんだろうね……」


 皆に置いて行かれてしまったと思っている与一は、どうやら孤独感を感じているらしく、いつもの無遠慮な元気が鳴りを潜めてしまい、水色に変わってしまった瞳からは薄っすらと涙が滲み出ていた。


「与一、その事で話があるから魔王城に向かいながら、話そう」

「……うん、私が眠ってた10年で何が起こったのか、詳しく教えてくれると助かるかな」


 俺達は新たに与一が乗る為の馬を購入すると、皆と合流する為に魔王城オートリスに向けて馬を走らせた。


 道中に、この旅で俺達が知り得た情報を出来る限り与一に伝えると、どこか安堵した表情を浮かべたり、怒ったりとコロコロと表情が変わっていた。

 まぁ、そんな所が与一らしいと言えばらしいと思い、ホッとする俺達だった。


 そして俺、エリア、菊流の年が10年前と姿が変わってない事を知った与一は、嬉しそうに笑っていた。


 そして、ガルボの案内でオートリスの王都の城門が見えて来ると、3人の女性が立っている事に俺達が気付くと、向こうも俺達に気付いたのか手を振ってくれていた。


 ガルボが俺達も魔王城に向かうと事前に連絡を入れていたから、迎えに来てくれたのかな?


 どんどんと近づいて来る人影を見ていると1人の女の娘が目に入った俺は、咄嗟に馬から飛び降りると人影の1人を抱き締めた。


「ミーリス! ミーリス、無事で良かった、懸賞金の張り紙がシンドリア王都に貼ってあったから、俺はてっきり……」


 そう、俺が抱きしめているのは、紫色の毛が生えた長毛種の猫の耳と尻尾を持つミーリスだった。

 人影の中の1人がミーリスだとすぐ分かった事がとても嬉しく思っていたが、何故かミーリスの額には大きな青筋が浮かんでいる。


「はぁ~~、共也ーー? 会えて嬉しいのは儂も同じじゃが、なーーんで10年ぶりに会った儂を一目見て分かったのか、分かるように説明してくれんかの?」


 俺はミーリスが何を言ってるのか分からずに、迂闊な事を言ってしまった。


「どうしても何も10年前と姿が全く変わって無い……か……ら……」

『ああん!?』


 あ、俺、ミーリスの地雷を豪快に踏み抜いた?


 そして、俺の余計な一言に盛大に切れてしまったミーリスの体から膨大な魔力が吹き上がり、次々と様々な魔法陣を構築して行く!


「共也、お前の考えはよ~~~く、分かった。 …………そこになおれ!! 儂が女心が分からんお前の根性を叩き直してやる~~~!!」

「ミーリス様! 今、私達はこの国に御厄介になってるんですから、問題を起こしたら駄目ですって~~~!!」

「やかましいアーヤ! お前は美しく立派な女性へと変貌したからそんな事を言えるんじゃ!! 儂はそんなお主が羨ましくてしょうがないんじゃよ!! お主に比べて儂はーーーー!!!」


 こちらに魔法を容赦無く撃ち込もうとしているミーリスを、背後から羽交い絞めにしている赤と青のオッドアイを持つ女性はどうやらアーヤらしく、今も必死にミーリスを止めてくれていた。

 そして黒髪と黒のウサ耳が付いたもう1人の女性が、俺達に頭を下げている。 この女性はもしかして……。


「共也さん、お久しぶりです。 ミーリス様はこの10年の間、必死に体に良いと言われている食物を摂取したりしていたのですが、全て効果が表れず……。 結果、成長に関する事を話題に出すだけで切れ散らかしてしまう始末でして……」

「五月蠅いぞテトラ! 儂だって、儂だって年頃の女性として扱われたい! そして、お前等姉妹みたいにモテたかったんじゃーーー!!」


 大声で喚く元シンドリア王国・魔法部隊大隊長ミーリスを、どうやったら落ち着かせる事が出来るのか、真剣に悩む俺だった……。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

与一との再会からミーリス、テトラ、アーヤとの再会まで書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。


次回は『魔王オートリス城で』を書いて行こうと思っています。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ