魔国オートリスに到着。
トニーさんにマリが、アーサリーとオートリスの間にある小さな島国に奴隷として囚われているかもしれないと言う情報を伝えられた俺だったが確定情報じゃ無い為、皆に報告する訳にもいかず、ずっとモヤモヤした状態で船旅をする事となっていた。
マリ、お前がその島国に今も居るなら、魔国オートリスの件が終わったら必ず迎えに行くよ。 だからもう少しだけ頑張ってくれ……。
俺がベッドで横になりながら天井を見上げていると、菊流が横から不貞腐れたように声を掛けて来た。
「ねぇ共也、あんた今こうやって一緒に添い寝してる私とは違う女の事を考えてたでしょ?」
「ん~。 まぁ、違う女……と言えば女なのかな?」
「何よ、その曖昧な返事は! 私はこうして添い寝してるだけでも恥ずかしいのに、あんたは別の女の事を堂々と考えてますって宣言して! この薄情者!!」
「アハハ、悪い悪い、ちょっと思う事があってな。 別に菊流を蔑ろにしてる訳じゃ無いから安心してくれ。 って枕で叩くなって!」
「もう! もう!」
そう、今俺は港町アーサリーで強引に約束させられた、皆と添い寝をする約束を守る為に今日は菊流を部屋に招き入れて、一緒にベッドの上で横になっている状況だった。
そんな菊流は、普段後ろで纏めて尻尾の様にしている赤い髪を解いて緩く三つ編みにした上に、薄ピンクの寝間着を着ている事が恥ずかしいのか、頬を染めていた。
「ちょっとトニーさんから、無視出来ない話を聞いてな。 それで上の空になってただけなんだ」
「何よその、無視出来ない話しって。 私に言えない事なの?」
「言えなくは無いけど……。 確定情報じゃないから、今はまだ皆に言わない方が良いかなと思ってただけで……」
「でも、その話を聞いた共也は悩んでるんでしょう? なら、ずっとあなたの側に居た私くらいには、話してくれても良いんじゃない?」
「菊流……。 まだ確定情報じゃないから、皆には言わないでくれよ?」
「うん。 それで、何て言われたの?」
俺はトニーさんから聞いた事を菊流に話すとやはり激怒していたが、まだ確定情報じゃないと言うと落ち着きを取り戻してくれた。
「じゃあ共也はこの話をトニーさんから聞いて、どう動くつもりだったの?」
「俺は……。 オートリスでの用事を済ませたら、アーダン船長に頼み込んで、その島国に連れて行ってもらうつもりだよ……」
「……またそうやって一人で黙って行動しようとする……。
共也が私達を危険な事に巻き込みたく無いから、遠ざけようとするのは分かるけど、私達も戦えるんだよ? だからその島国に、私も絶対に付いて行くからね? もし、これだけ言ったのに黙って行ったら……どうなるか分かってるわよね?」
「分かった、分かった。 頼りにさせて貰うよ菊流」
「うん……」
「それじゃ、もう遅いし寝るとしようか」
そして部屋の中にある1つのベッドの上で、俺と菊流は一緒に添い寝する事になったのだが、気恥ずかしさから俺は菊流に背を向けた。
すると菊流は腕を前に回し背後から抱き着いて、その豊満な胸を押し付けて来た。
「く、菊流!?」
「共也、好き。 ずっと昔から大好きだった……。 最初は私が死なせてしまった千世ちゃんの代わりに成れればと思っていたけど、少しづつあなたに惹かれて行って、中学に入る頃にはもうあなたを愛していたの……」
俺は背中から聞こえて来る菊流の告白を、黙って聞き続けていた。
「あなたの側には常に私が居る。 そんな関係が崩れる事が怖くて、高校を卒業してもあなたに告白出来ずに、ずるずると引き延ばしてしまった結果が、光輝に殺される寸前での告白だったわ……。
情けないわよね、今こうして共也と添い寝して告白するくらいなら、地球に居る時に告白していたら、また違ったのかな……」
「もう終わった事だよ菊流。 だからこれからの事を考えて行けば」
「ううん、それじゃ遅かったんだよ共也……。 ごめんね……」
「何を謝ってるんだよ……」
「……私ね、いつかあなたの子供を産んで上げたいと思ってたの……」
「く、菊流!?」
「でもね、それももう出来無くなっちゃった……。 ヒノメにも確認したんだけど、火の精霊となった私と、人間である共也との間に子供が生まれる可能性は、限りなく0に近いんだって……。
ごめん、ごめんね共也……」
俺の背中に顔を押し付けて泣き続ける菊流に対して、何も言う事が出来ないでいたが、体制を変えて菊流に向き合うと、強く抱きしめた。
「あ、共也……?」
「子供が出来ないからと言って菊流である事には変わらないんだ、だからこれから言う事は俺の我が儘だと理解しているけど聞いて欲しい」
「うん……」
「菊流、俺がこれまで歩んで来た時間の中で、君と居る時間が一番長かったのも事実なんだ……。 だから……その……」
「何?」
「これからもエリアと一緒に俺の側に居て欲しい……駄目かな?」
「ふふ、そこで千世ちゃんの名を出さなければ恰好良いのにね、でもそこが共也らしいね。
あ~あ、もう、しょうがないから、ずっとあなたの側に居て上げるよ。
それと、精霊となった私は寿命の概念が無くなったみたいだから、共也が寿命で亡くなったら、あなたの体と一緒に消えて上げる……」
「菊流……」
「そうだ! 共也の子供は産めないけど、行為自体は出来るみたいだからさ……私といつかしてみる?」
その言葉を聞いた俺は、菊流の額を軽く叩いて黙らせた。
「痛ーい! もう、相変わらずシャイなんだから……。 あぁ、そうか最初は千世ちゃんと……、ちょっと共也、そんな怖い顔しないでよ!!」
「お前がそんな事を言うからだろ!」
「でも、神聖国ヴォーパリアの野望を砕いて、平和が訪れたら千世ちゃんと結婚して子供を作るんでしょ?」
「全てが上手く行ったら……だがな」
「きっと上手く行くよ。 だからさ、その時は私も一緒に付いて行くから、黙って消えたら許さないよ?」
「…………分かった」
「…………何で間が開いたのかな?」
「ほ、ほら、もう良い時間なんだから寝るぞ!」
「全くもう……」
呆れたように言った菊流は俺に抱き付くと、そのままの体制でいつの間にか寝息を立てて寝始めていたので、俺は赤い髪を優しく1度だけ撫でた。
ごめんな菊流、地球に居る時にお前の気持ちに気付いては居たんだけど、俺は千世ちゃんの事が最後まで忘れられ無かったから、菊流の好意に答える事は出来なかったんだ……。
だけど、こうして千世ちゃんとも再会出来た上に、皆で一緒になろうとまで言ってくれたんだ、だからヴォーパリアとの闘いが終わったら、今度は俺から言わせて貰うよ……。
この惑星アルトリアで命尽きるまで……一緒に……。
すぅ~~。 すぅ~~。
小さくな寝息が響く暗い部屋を、小さな窓から差し込む月明りが俺と菊流を優しく照らしていた。
=◇===
それから何事も無く数日経ち、俺達は海の上を順調に進んでいた。
菊流と添い寝した次の日の朝になると、菊流は女性陣達に拉致されて部屋に連れて行かれてしまい、その後、妙に顔をツヤツヤさせた女性陣と、グッタリと疲れ切った菊流が印象的だった。
君達、何処まで菊流から根掘り葉掘り聞いたんだよ……。
その後、夜に添い寝してくれと言って来る女性もいなかったので、俺はガルボとオートリスに着いてからの予定を話し合っていた。
「ガルボは、与一がどこで氷漬けにされたのか覚えているのか?」
「あぁ、すぐ近くに小川が流れていたから、地形が変化でもしていない限り、案内出来るはずだ」
ガルボが案内してくれるのは有難いんだが、俺達がそこに向かっている間、皆には何と言って待ってもらえば良いんだろう……。
「共也、取り合えず着いてからの予定を、大まかに決めるけど良いか?」
「あ、あぁ、すまない。 何か必要な物とかあれば言ってくれ」
「用意する物は……綺麗な花束を港で購入すれば良いさ。 だがな共也、ちょくちょく様子を見に行っていた俺が言うのも何だが、覚悟だけはしておいてくれ」
ガルボが真剣な顔で俺に忠告してくれたので、気を引き締めるのだった。
ガルボが忠告してくれるのは当たり前だよな……。 これから俺は与一の死を確認しに行くんだから……。
=◇◇===
さらに数日後、船の周りには海鳥達が飛び回り、陸地が近い事を知らせていた。
『魔国オートリスの港が見えたぞーーーー!!』
『おお~~~!!』
物見に登っていたトニーさんの声が船中に響き渡ると、俄然活気づいた船員達の声が響き渡った。
そして港に接岸して貰うと、船を降りた俺はオートリスの大地に再び足を付けたのだった。
「とうとう着いたな、魔国オートリスに……」
「そうですね……。 色々有った地ですから少々思う所は有りますが、周りの人達は私達を見ても何とも思っていないのですね」
「そう言えばそうね。 むしろ、人と魔族のカップルが多いような気も……」
「ガハハ! そりゃそうだろうよ。 アストラとココアの異種族婚以降、続々とカップルが成立して、子供も沢山生まれたからな。
異種族が知り合う為の入口となったオートリスには、カップルくらい沢山いるさ!」
ガルボの大笑いが港に響いた所で、立派な服を着た2人の魔族がこちらに歩いて来た。
「相変わらずの大声だなガルボよ、久々に帰って来たと思ったら随分と大所帯じゃないか」
「うっせえぞシュドルム! クダラ、いや今はマリアベル(以降ベル)だったか、お前もシュドルムの手綱をしっかり握っておいてくれよ!?」
「勿論です。 この人は私が居ないと、だらしないったらありませんから……。 これで1国の代表を務めているんですから信じられませんよ……」
「アッハッハ!! お前も立派に尻に敷かれてるじゃないか!」
「はいはい、俺はベルに対して頭が上がりませんよ……。 それでガルボ、今回の緊急の帰還は何かあったのか?」
「あぁ、個人的な用事が1つと。 リリス、シュドルムと、前の名前がクダラだったマリアベルだ、どうだ?」
頭を押さえた状態でリリスがシュドルム達の前に歩み出ると、2人は思いっきり目を見開き驚いていた。
「ガルボ! こいつは本当にリリスなのか!? ただ似た人物じゃなくてか!?」
「あぁ、だが記憶が所々抜け落ちているらしくてな、旅をしながら記憶が蘇るのを待っている所なんだ。 港町アーサリーで、俺と再会した時も記憶が刺激されたらしく、少し思い出していたからな。 リリス、少しは思い出せそうか?」
「うん、鬼人のシュドルム……。 魔王だったお父様の代から仕えてくれた忠臣……で合ってる?」
「あぁ……。 合ってる……。 合ってるさ……、リリス、良く生きて帰って来てくれた……、俺はあの時の戦争で、お前が死んで行方不明になってしまったとばかり……!!」
「リリス様、良くぞご無事で……」
シュドルムとベルは、リリスを強く抱き締めると大粒の涙を流して再会を喜んだ。
「うん、うん……。 ただいま、シュドルム、ベル……」
リリスは長い旅の末にようやく自分の国に帰って来れたが、俺達との別れが近づいている事を肌で感じていた。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
魔国オートリスに到着し、鬼神シュドルムとマリアベルに会う事で、リリスとの別れが近づいている話しになって行きます。
次回は『花束を持って会いに』で書いて行こうかと思っています。




