魔国へ。
今俺は宿泊している宿屋ダランの床に正座させられている上に、俺の周りには胸の前で腕を組み、怒りの表情を浮かべながら見下ろす女性達に囲まれていた。
やっぱりこうなったか……。
“カンカン”
「被告人、神白共也、これから神聖国ヴォーパリアとの闘いが本格化しようと言う時に、年頃の女性であるエリアと添い寝だけとはいえ、一緒にベッドで寝た。 これは事実ですか?」
菊流が何処から持って来たのか分からないが、裁判長が使うガベルで雰囲気を演出して俺を責め立てて来る。
「い、いや。 それはエリアが最近親しい者達との別れが多くて、気が滅入っていたからであって」
「添い寝をしたのか、と聞いてるんですが?」
「は、はい、添い寝をしました……」
俺が添い寝をした事を認めると、隣で同じく正座させられているエリアが手を上げて発言する許可を求めると、菊流や他の女性陣達がお互いの顔を見合わせて一度頷くと、発言を許された。
「菊流ちゃん、強引にお願いをしたのは私なんだから、共也ちゃんには情状酌量が適用されるのが妥当だと思います!」
「エリア、あなたも同罪だって事を忘れて無いかしら? 全く、2人してうらやま……ゴホン。 取り合えずエリアだけ添い寝するなんて許されないから、私達も共也と添い寝する権利を要求するわ!」
「私……達?」
「そう、私を含める女性陣全員だね!」
「ジェーンや木茶華ちゃんやリリスも?」
俺が3人を見ると、頬を赤く染めて頷く。
「と言う事らしいね」
「イリスやノインも?」
「え? あ、う~~ん……。 2人はどうしたい?」
「「どちらでも~~」」
2人は添い寝する事にあまり興味が無さそうで助かった……。
「ノインとイリスは後で決めて貰うとして、話しを戻すけど。 で? 今度、私達が共也と添い寝する事を認めてくれるっていう認識で良いのかしら?」
どう答えれば良いのか分からず、エリアを見ると頷いてくれた。
「わ、分かったよ、今度添い寝する事を認めるよ……。 これで良いか?」
俺の台詞に満足した菊流達女性陣は、いつの間にか怒り顔から、笑顔へと変わっていた。
何だか計画された行動に思えなくも無いけど……俺の気のせいだよな? 気のせいだと言ってくれないかなエリアさん、どうして菊流達と握手してるのかな??
「さあ、話も纏まった事だし、そろそろ私達を魔国オートリスへ運んでくれる船が停泊している港に、向かう事にしましょうか」
「なあ、皆さっきまでと違って妙に嬉しそうじゃないか?」
「そそそ、そんな事無いわよ? リズちゃんも待ってるはずだし、急いで港に向かいましょ!!」
「あ、逃げるな菊流!!」
そんなやり取りをしつつも港に向かう為の準備を進めている俺達に、ダランさんとサーシャさんは朝から全員分の弁当を用意してくれいて、出発しようとする俺達に手渡してくれた。
「皆、仲間を集めて無事にこの街へ帰って来るんだよ?」
「その時はまた美味い魚料理を振舞ってやるからな!」
「はい、短い間でしたがお世話になりました。 必ず皆で戻って来ます!」
「ガルボも気を付けて」
「あぁ、ヴォーパリアの連中との決着が付くまで死ぬ訳にはいかないからな。 きっと帰って来るさ」
そして宿屋ダランに別れを告げると、俺達は港へと出発した。
=◇===
大型船が沢山停泊している港に来ると、そこには緊張した面持ちで書類を持って立っているリズちゃんが、アストラとココアさんと一緒に俺達が到着する事を待っていた。
「ほら、リズ。 共也達が来たぞ」
「あ、み、皆さん、今日はよろしくお願いします。 こちらが皆さんを、魔国オートリスまで運んでくれる方です」
「よう共也、久しぶりだな、お前達なら歓迎するぜ!」
「アーダン船長!?」
そう、今回魔国オートリスまで運んでくれる依頼を受けてくれたのは、10年前も一緒にケントニス帝国まで船旅をしたアーダン船長だった。
「お久しぶりですアーダン船長! また一緒に船旅が出来るなんて思ってもみませんでしたよ!」
「ガハハ! それはこっちの台詞だぜ!」
「アーダン船長は、皆さんと面識あったのですか?」
「まぁな。 最初リズちゃんが持って来たとは言え、今回の依頼は断るつもりだったんだが。 依頼主が共也達と聞いたら断る訳にはいかないからな!」
「アーダン船長……」
こうしてアーダン船長との再会を喜び合っていると、ジークや京谷父さん達が俺達を見送りに港に来てくれた。
「共也さん、この街は僕がきっと守り抜いてみせますから、皆さんを連れて無事に帰って来て下さいね」
「ジーク君、必ず無事に帰って来るよ!」
「共也、エリア、皆、見送りに来たよ」
「共也ちゃん、エリアちゃん、気を付けて行ってくるのよ?」
「京ちゃま、砂~ちゃま……。 うん、行ってくる」
「菊流、成長して帰って来るあなたを期待して待ってるわ、頑張って来なさい」
「はい、冷華母さん! 行って来ます」
「あの~、菊流? 冷華? 俺を無視しないで?」
見送りに来てくれた4人に感謝を言い、アーダン船長の船に乗り込むとトニーさんを含む船員達に迎え入れられた。
「共也君、昔俺を含めた船員達の命を助けてくれた事を覚えているかな? そんな君達とまた一緒に旅が出来るなんて嬉しいよ」
「トニーさん、今回の旅もよろしくお願いしますね」
「ああ!」
「野郎共、出航準備だ、急げーー!!」
「おう!!」
船員達が出航準備をする為に、持ち場に向かって行った。
そんな慌ただしく移動を開始する船員達を見送った俺達だったが、何故かトニーさんだけが残ると、俺に真剣な顔をして耳打ちをして来た。
「共也君、君に伝えたい事があるから、夜になったら甲板上まで来てくれ」
「トニーさん、今では駄目なんですか?」
「今はちょっとね……。 その時に話すよ……」
トニーさんはそう言うと持ち場に行ってしまった……。
そうこうしている内に船は陸から離れ始めたので、俺達は甲板に顔を出して京谷父さん達に手を振って別れを告げた。
京谷父さん達も俺達に手を振り返してくれて、別れを惜しんでいる様に見えた。
「父さん、必ず強くなって帰って来ます。 だから待っていてください」
俺が京谷父さんと話した夜の出来事を思い出して感動していると、天弧と空弧がカリバーンから出て来て、衝撃の事実を告げて来た。
「共也、感動してる所悪いんだが……。 お前もしかして、京谷がただ単にお前達の帰りを待ってると、本気で思っていたりするか?」
「え? 天弧、父さんがあの夜の砂浜で俺に言った事が、嘘だって言うのか?」
「嘘では無いんだが……」
言い難そうに言葉を濁す天弧に、空弧が京谷父さん達が居る港の方向を指差した。
空弧が港に居る両親を指差したのでそちらを見ると、そこにはすでに俺達の事が目に入っていないのか、その場でイチャ付く2組のカップルが居た……。
え? まさかそれって……。
「そうだよ共也……。 共也達が帰って来る場所を守ると言うのも本音なんだろうけれども、若返った2人は新婚時代の気持ちを思い出したから残っただけなんだよ……。
私達が帰って来る頃には、もしかしたら妹か弟が生まれてるかもね?」
その言葉に驚いたのは、菊流もそうだった。
「え? もしかして、冷華母さん達も??」
「そうじゃないかな。 だって、もう4人はこっちの事を見て無いしね?」
港に目を移すとジークやアストラ親子は、人目もはばからずイチャ付く4人が隣に居るので居心地が悪そうにしている姿が、甲板上からも見る事が出来た。
それを見た俺、エリア、菊流は港に向かって大きく叫んだ。
『「「感動を返せーーーーー!!!」」』
そんな俺達の叫びも波の音にかき消されてしまい、港まで届く事は無かった。
そして、船は魔国オートリスを目指して進んで行く。
=◇◇===
水平線に太陽が沈んだ海の上は、満月の光りが辺りを照らす事で、夜にも関わらず灯りが必要無い程だった。
そして俺は、港で言われた通りトニーさんに会いに甲板の上に来ていた。
「トニーさん来ましたよ」
「呼び出してすまないな共也君、ちょっと他の人達に聞かれる訳にはいかなかったものでね」
月明かりで明るいと言っても、トニーさんの顔は暗くてハッキリとは見えないが真剣そのものだった。
…………恋愛ゲームみたいに、こんな場所に呼び出して告白。 なんて事は……無いよね?
「実はね共也君」
「は、はい?」
「何で声が裏返っているのか分からないが……。 まぁ良い、君は港町アーサリーと魔国オートリスの間に、小さな島国がある事を知っているかな?」
良かった、BL関係の話しじゃなくて……。
「いいえ、そんな国がある事も初めて聞きました。 その島国がどうしたんです?」
「実はな、その国で両手両足に鎖を嵌められて歩かされている、10歳位の女の娘の奴隷を見かけたんだが……」
「奴隷の女の娘ですか、その国で奴隷は珍しいのですか? それにどうしてその話を俺に?」
「その国では奴隷はそこまで珍しい物では無いらしいんだが、実はその娘の容姿が問題でね……」
「容姿がですか? それは一体……」
「その娘の髪が紫色で、しかも腰辺りまで伸ばしててな。 共也君、その容姿を持つ娘を君は知っているんじゃないか?」
「髪が紫で腰まで伸ばしている娘……。 まさか……」
トニーさんに言われた事で、俺の脳裏には人懐こく笑う1人の子供が思い浮かんだ。
「そう、たまたま訪れたその国で遠目で見ただけだから、確認は取れて無いのだが……。 君の娘となった海龍のマリちゃんの特徴と合致するんだ……。 行方不明になってから、まだ会えていないのだろう?」
スキルカードで、マリが生存はしている事は確認出来ているが、何処にいるのかは分からない……。
そんな行方不明となっていたマリが、その島国に奴隷として囚われている可能性が有る情報に、俺はこのままオートリスに向かって良いのか悩んでしまう。
「共也君、悩むのは分かるが、俺の見間違いかもしれないし、たまたま似通った容姿の娘だったのかもしれないんだ。 まずは予定道り魔国オートリスに向かい、用事が終わった後にその島国に向かう事にすると良いんじゃないか?」
「は、はい。 そうする事にします……。 トニーさん、マリがその島国に囚われているかもしれない情報を教えてくれて、ありがとうございました……。 でも、どうして俺だけにこの情報を?」
「女性陣がマリちゃんを可愛がっていたって、話を聞いていたからな。 確定情報では無いが、その話を女性陣に聞かれていたら、どうなっていたか分かるだろう?」
あ~~……。 魔国オートリス行を中止して、マリを取り返しにその島国に攻め込みかねないな……。
「予想出来てしまいました……。 それで夜の甲板で、って事だったんですね……」
「分かってくれたか! そうなった女性は恐ろしいからな……」
「本当に……」
マリ、もしその島国に囚われているなら、魔国オートリスの用事を済ませたら、すぐに助けに行くからな……。
こうして、魔国オートリスで用事を済ませた後の予定が決まったが、焦る気持ちを持つ俺達を乗せる船は夜の海を進んで行く。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
ガルボを仲間に迎え、再会したアーダン船長の船で魔国オートリスへ目指す事となりました。
そして、トニーからマリの情報を聞かされた共也でした。
次回は“魔国オートリスに到着”で書いて行こうと思っています。




