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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
1章・異世界に、そして出会い。
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ドワンゴ武具屋ー前編

『私の弟子になる気は無い?』そうオリビア店長に勧誘された菊流は、曖昧な返事をする事であの場を離れる事に成功したが、紹介された鍛冶屋に向かっている最中も思い詰めた顔をしながら歩く彼女に、結局の所弟子入りの件はどうするのか尋ねてみた。


「菊流、弟子入りの件はどうするつもりなんだ?」

「う~ん。 オリビアさんに弟子入りして格闘術を伸ばしたって考えていたんだけど、多分私と彼女の格闘スタイルはちょっと違う気がするんだよね……」


 スタイルの違い? どちらも同じ格闘術スキルだとは思うが、何か違いがあるのか?


「同じ格闘術のスキルなのに、菊流とオリビアさんの違いってどう違うんだ?」

「そうだね……。 分かり易い例えで言うと、オリビアさんは『虎』。 そして、私は『豹』と言った感じかな? ちょっと分かりにくかった?」

「いや、何となく分かるよ。 オリビアさんはパワータイプ。 菊流はスピードとテクニックタイプって言いたいんだろ?」

「うん。 私とオリビアさんの持つスキルは同じ格闘術スキルだけど、このタイプの違いは大きいと思うのよ。 だけど、スキルがどう体に影響するのか知っているオリビアさんに弟子入りすれば、今より確実に強く成れるから悩んでいるのよ……。 それに……もう1つ懸念事項があって……さ……」

「懸念事項とは穏やかじゃ無いな……。 何かあるのか?」

「例えば。 例えばよ? 彼女に弟子入りしてパワータイプの格闘家になった場合、共也はオリビアさんみたいに筋肉ムキムキになった私を喜んで迎え入れる事が出来る?」

「菊流がオリビアさんの様に、筋肉がはち切れんばかりの格闘家になったら……か」


 筋骨隆々になった菊流と一緒に旅をしている場面を想像する俺……。 


「共也~!」


 地響きを起こしながら、手を振って走って来る菊流……。


「共也危ない!」


 危険な状態に陥った俺を庇って、一瞬で敵をなぎ倒す菊流……。 そして、俺はその大きな背中を眺めている……。


「共也、あなたが好きな肉じゃがを作ったわ! 冷めない内に食べて見て! 〖バキ!〗 あらら、本当に器が柔らかくて困っちゃうわ! 待っててね、新しい器を用意するから!」


 絶対に見たく無い未来の光景を想像してしまった俺は……、菊流にその未来を歩ませない事を心の中で誓った……。 


「…………うん。 菊流はオリビアさんの弟子入りせずに、手ほどきだけ受けて今の格闘スタイルを維持する方が良い気がする……」

「やっぱりそうだよね!? えへへ、ありがと共也!」


 頬を染めて嬉しそうに歩く菊流を横目で見ていると、服の端を摘ままれている感触にそちらに視線を向けると、そこには頬を膨らませながらジト目を向けて来るエリアの存在に気付いた。


(先日に続き、菊流さんと仲がよろしい事で!)


 菊流に聞こえない様に小声で非難するエリアに、筋骨隆々になった菊流の姿を想像させる事にした。


(エリアもさ、筋骨隆々になってデカくなった菊流なんて見たくないでしょ!?)

(オリビアさんの様にですか? そんな姿に変貌した菊流さんなんて、確かに見たく無いですが……)


 この様に、照れながら歩く菊流。 小声で雑談しながら歩く俺とエリアと言う構図で、武具屋を目指していたのだが、唐突に辺りに響く獣の様な声に耳を覆った。


『グオオオオオオオォォォォ!!』


「キャ!」

「な、何!? こんな都市のど真ん中で、何かの獣の咆哮!?」


 俺達3人は警戒しながら身を屈めたが、周りの人達はこの猛獣の様な声に慣れているのか、何も起きていないかの様に涼し気な顔で歩いている。


 そして、近所の子供なのだろう。 人懐こそうな茶髪を三つ編みにした女の娘がエリアの存在に気付いた様で、嬉しそうに声を掛けて来た。


「わぁエリア王女様だ! ねぇねぇ、何でお耳を塞いでいるの?」

「あ、あなたは先程聞こえた獣の咆哮が聞こえなかったのですか!?」

「獣の? あ~~、それ違うよ。 あのお店から偶に聞こえて来る音なの。 だからここに住んでる人達は慣れてるから、あの音が聞こえて来ても気にしないんだよ?」

「「「店?」」」

「うん。 あそこに看板があるでしょ?」

「「「・・・・・・」」」


 確かに店舗の前には看板が立てかけられている……。 俺達は猫のデフォルメの絵が書かれた看板の前に立ち、書かれている店舗の名を読み上げた。


「なになに……『エスト魔道具店』か。 ここが魔道具を扱う店だと言うなら、ちょっと入ってどんな魔道具が置いてあるか見て見ましょうよ!」


『魔道具』この言葉にワクワクしないラノベ愛読者がいるだろうか。 いや、いない! だけど……。


「・・・確かに魔道具は気になるけど、さっきの獣の様な咆哮が気になるんだけど?」

「さっきの娘も言ってたじゃない『周りに住む人達も慣れてる』って、きっと何かの魔道具を作ってる音なんでしょ」 

「色々と気になりますが、今は武器や防具を揃える方を優先しませんか?」

「エリアの言う通り、取り合えず3人分の装備を揃えてから、時間に余裕があるな様ならまた来て覗いてみよう」

「ちょっと魔道具ってワードに惹かれるけど、しょうがないか……。 行きましょ?」


 後ろ髪を引かれる想いの中、俺達は装備を整える事を優先して、ギルドに紹介された武具店を目指すのだった。


 ==


「あの店かな?」

「鍛冶屋っぽい看板が掲げられてるから、そうじゃないか?」


 店の入り口に掲げられている看板に近寄ってみると、そこには可愛らしい剣と盾の絵の他に【ドワンゴ武具屋】と明記されていた。


「……なぁエリア、この世界って店の看板に、こんな可愛らしい絵を描くのが常識だったりするのか?」

「い、いいえ。 私が生まれてから今まで、そんな常識など聞いた事が無いですから偶々だと思いますけど……。 可愛いく描けてますよね」

「と、取り合えず目的の武具屋に到着したみたいだから、中に入ろう」


 3人で頷き合いユックリと扉を開くと、そこにはオレンジ色の髪を短髪にして両肩の出ているシャツを着た幼馴染の1人斎藤 鉄志(さいとう てつじ)が、店主と思わしきドワーフと何やら会話をしている所だった。


「お願いします! 俺を弟子にして下さい! 絶対に後悔はさせません!」

「むう……。 そうは言ってもなぁ……」


 どうやら鉄志はこのドワーフの親方に弟子入りを志願しているようだ。 だが、ドワーフの人は乗り気じゃないらしく、困り顔をしていた。


「鉄志!」

「共也、菊流! どうしてここに!?」

「武具屋に来たと言ったら、装備品を揃える以外無いだろ?」

「そりゃそうか!」


 知り合いの俺達が声を掛けた事で、鉄志は嬉しそうに手を上げた。


「でも鉄志は俺達と違って、別の要件でこの武具屋に来たみたいだな」

「聞かれてたか……。 そうだよ、自分はこのドワーフの親方に弟子入りを志願しに来たんだ」

「何で急に……」

「共也、菊流。 お前達には、俺に発現したスキルを見せただろ?」

「確かに見せて貰ったが、俺と違って便利そうなスキルが発現してたじゃないか」

「スキルはな。 だがそれだけで生き残れるほど、この世界は甘く無いと思うんだ。 それに共也、お前は神白抜刀術を京谷さんから習っているじゃないか。 共也、お前戦闘スキルが無くてもある程度戦える自信があるだろ?」

「まだ周辺の敵の強さが分からないが、まぁある程度はな」


 まさか戦闘スキルが無くてもある程度戦える自信が、俺に有ると思わなかったエリアは目を剥いて驚いていた。


「共也さん、それは本当なんですか?」

「まぁ。京谷さんからは免許皆伝に到達するのは無理だと言われたけどな……」 

「そうかもしれないが、ある程度戦えるのはやっぱりデカイと思うぜ? そう思った時、自分の中にある思いが芽生えたんだ」

「想い?」

「あぁ、『お前達が使う武具を自分が作ってやりたい』と言う想いだ」

「鉄志……」

「そんな顔をするなよ共也。 自分の鍛冶スキルを活かそうと思ったら、この王都で一番と名高いこのドワンゴ武具屋に弟子入りして働くのが一番手っ取り早いと思ったからだしな!」


 鼻の下を指で擦る鉄志の笑顔を見て、俺はスキルカードに明記されていた鉄志のスキル構成を思い出した。 


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

【名前】

 :斎藤 鉄志(さいとう てつじ)


【性別】

 :男


【スキル】

 :鍛冶

 :熱操作


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「鉄志、お前は本当に鍛冶の道に進むつもりでいるのか?」

「……あぁ。 いくら自分が戦う事が出来ないからと言って、お前達が魔王を倒すのを待つのは嫌なんだ……。  だから練兵場で訓練している兵士達に装備に関する事を聞いて回っていたら、自然とここに流れ着いたって訳だ。 

 それにな…。 自分が性能の良い武器や防具を作り出して、お前達に渡すことが出来れば多少なりとも生き残れる可能性が上がるだろ?」


 鉄志の決意表明とも言える台詞を聞いて、俺達は何も言う事が出来なかった。


 だが、彼のその台詞は俺達の事を本当に心配しているのだと感じる事が出来て、心の底から嬉しかった。


 そんな鉄志はドワーフの親方に向き直り、俺達が入店した時と同じく再び頭を深く下げると弟子入りを懇願した。


「親方、お願いします。 仕事も早く覚えるように努力します! だから、自分をあなたの弟子にして下さい! この通りです!」

「・・・・・・・弟子入りをどうするか決める前に、一つ質問をして良いか?」

「答えられる事なら」


 鉄志に弟子入りを懇願された志願されたドワーフ店主は、少し考えこんだ後に鉄志に1つ問いかけた。


「お前が先程言った、自分が作った上質な装備で皆を守りたい。 これに嘘偽りが無く、お前の本心から出た言葉なんだな?」

「え……?」

「ちゃんと答えろ、重要な事だ」

「あ、はい! ここに居る2人もそうですが、いずれ魔国との戦闘で前線に向かう幼馴染達の為に、自分の作った上質な装備で生存確率を上げてやりたい。 と、思っていますが……」

「ふむ……、そうか」


 ドワーフの店主は、沢山生えた顎髭を触りながら目を閉じると黙り込んでしまった。


「あ、あの……」

「ドワンゴだ」

「え?」

「儂の名だ。 お前の師匠になる以上、名前を知らないのは不便だろう?」


 ドワンゴと名乗ったドワーフ店主は顎に手を当てながら目を開けると、ニカッ!っと言う表現がピッタリな表情で笑い、彼は鉄志の弟子入りを認めたのだった。


「じゃあ、自分をドワンゴ……さん? に弟子入りさせてもらえるんですか?」

「そう言ってるだろうが……。 だがな鉄志、仲間の命を守る装備を作る事を目標とする以上は、半端な作業をするなよ?」

「分かってます! ドワンゴ親方、これからよろしくお願いします!!」


 鉄志は、再び親方に向かって深々と頭を下げたのだった。


 自分が進むべき道を自分で決めた鉄志を少し羨ましく思いながらも、負けられ無いなと思う俺達だった。 


 弟子入りを決めたドワンゴ親方は目を細めて鉄志の肩に手を置いたが、すぐの俺達に目線を移した。


「お客人、装備品の相談は少し待って貰って良いか? この店で働く事になった以上、鉄志に紹介しておきたい奴らがいるのだ」

「ええ、俺達の事は後回しでも大丈夫なので、あなたの関係者に鉄志を紹介して上げてください」

「すまんなお客人。 サラシナ! リル! 店の方に来てくれ!」

『急に大声出すんじゃ無いよ! 一体何の用だい!?』

「お父さん、何~~?」


 ドワンゴ親方が大声で叫んだ事で、2人の人物が店の奥から顔を出した。 


 1人は親方と同じくらい背格好で同じくらいの年に見えるドワーフの女性。 もう1人は茶色の目と髪を持ち、三つ編みを左右で垂らしている10歳位の人族の女の子だった。


「妻のサラシナと娘のリルだ。 2人共、この鉄志が儂の弟子になる事となったから、仲良くしてやってくれ!」

「斎藤 鉄志です。 なるべく早く仕事を覚えて力になれるように頑張ります。 だから、今後ともよろしくお願いします」

「はい、よろしく。 それにしても滅多に弟子を取らないあんたが珍しいじゃないかい、どういう風の吹き回しなんだい?」

「鉄志のスキル構成が気になったと言うのもあるが。 こいつの『幼馴染達が使う防具を自分が作る』と言う想いに共感してな。 お前も知っているじゃないか、その想いを持った鍛冶師は伸びると」

「へぇ。 その想いを最初から持つ鍛冶希望者なんて確かに貴重だね。 リル、家族が1人増える事になるが仲良くするんだよ?」

「うん、ねぇねぇ私達は家族になるなら鉄志さんの事、お兄ちゃんって呼んで良い?」

「お、お兄……。 あ、ああ! よろしく頼むよリルちゃん!」


 頬を染めながら、鉄志は力強く頷いた。 


「やった! よろしくね鉄志兄ちゃん! 私お兄ちゃんがずっと欲しかったんだ、ニヒヒ!」


 リルちゃんの笑顔を見て鼻の下を伸ばす鉄志に近づくと、俺と菊流は彼の肩に手を置いた。


「良かったじゃないか鉄志。 ドワンゴ親方に弟子入りを許可された上に、念願だった妹が出来て」

「ああ……。 実際、弟子入り出来た事よりそっちの方が嬉しい……って待て! 何でお前は、自分が弟か妹を欲しがってた事を知ってるんだよ!」


 目を剥いて必死に言い訳をする鉄志に、地球にいた時の行動を教えてやった。


「お前……、ダグラス達と公園に遊びに行った時に、仲の良い兄弟を見掛けてはうらやましそうにしてたぞ? なあ菊流?」

「えぇ……。 鉄志、まさかあの行動が無意識だったとはドン引きだわ……。 鉄志、リルちゃんとは適切な距離でお付き合いするのよ? リルちゃんも、鉄志にベタベタとくっついちゃ駄目よ?」

「うぅ……???」

「2人して自分を変態みたいにリルちゃんに吹き込むなよ! 自分は普通だ!」

「そうね、あなたは普通だと自分で思い込んでいるのよね? リルちゃん、このお兄ちゃんはちょっと妄想癖な所が有るから、嫌な時は嫌ってちゃんと言わないと駄目よ?」

「う……、うん?」

「菊流、お前なぁ……。 納得いかねぇ……」


 苦虫を噛み潰したかのような顔で睨んで来る鉄志は一旦放置しておくとして。 親方に装備品に関する相談を受けて貰う事になった。 



幼馴染の1人斎藤 鉄志の登場回でスキルは鍛冶でした今後もこのキャラはちょこちょこ出していくつもりです。

次回も鍛冶屋内の話ー2 です

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