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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
9章・神聖国ヴォーパリア。
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【別視点】各々の戦い②

 私がバラモンと戦っていた場所を離れて、ディーネちゃんとマロウが戦っている場所に近づくと、重い何かがぶつかり合う音が辺りに響いていた。


 ディーネちゃん、まだマロウと言う奴と戦っているんだね。


 未だに音が響いて来る場所で私が見た光景は、マロウが水魔法で生成した大量の水槍をディーネちゃんに撃ち込むのだが、その水槍を笑顔で迎撃している彼女の姿だった。


「この! 貴様、何を笑っている!!」

「あはは、いつの間にか顔に出ていましたか、いえね、あれだけ大口を叩いてた割には大した事無いなと思いまして」

「な! この水刃のマロウが大した事無い……だと!? 1精霊の分際でこの俺を馬鹿にしやがって!!」


「確かに1精霊ではありますが……、ディアナ様によって精霊化された私が、只の水精霊だと思っているのですか? もしそうなら愚かとしか言いようがありませんね」


「ディアナだと、誰だそれ……は……。 待て! お前の言うディアナとは、まさかここ10年で広がり始めた創造神の……」

「あら知っているなら話が早いですね。 そうです、その創造神である女神ディアナ様で間違いありませんよ」

「まさかお前は只の水精霊では無くて……。 水の精霊を束ねる立場の上位精霊か!?」


 マロウは体を震わせながら、ディーネから何とか距離を取ろうと後ずさりをし始めた。


「あら、急に恐怖に濡れた顔をしてどうしたのですか? あなたは言ってたじゃ無いですか。 確か……私を共也さんから奪い取る……でしたか?」

「い、いや。 あれは……ひ、ひぃ!」


 ディーネちゃんは口角を三日月状にしてマロウに笑いかけ、それを見たマロウは絶対に勝つ事の出来ない相手だと理解出来てしまい、低い悲鳴を上げた。


「も、もう2度とお前を手に入れようとはしない! だ、だから今回は見逃してくれないか?」

「随分とあなたに都合の良い提案じゃないですか。 そう思いません? ジェーンさん」

「そうだね。 これだけの人達に迷惑を掛けておいて、自分だけ見逃して貰おうだなんて都合が良すぎだね……」


 私の姿を見たマロウは、驚愕の眼差しを向けて来た。


「お、お前はバラモンと戦っていた……。 まさか彼奴は!」

「今頃転移陣で帰ってる頃じゃないかな。 頭だけどね」

「それって……」

「想像に任せるよ」


 私とディーネちゃんの2人に詰め寄られたマロウは、すでに戦意を喪失してしまい、尻餅を付いたまま後ろに下がって行く。


「た、頼む! 助けてくれ!」

「ふふふ、私達があなたを見逃す理由が有ると思います?」


 マロウはこのままでは自分はこの2人に殺されると理解してしまい、切り札を切る事にした。


「貴重なアイテムだから使いたく無かったが、命には代えられん!」


 腰に捧げた布袋から何かアイテムを取り出そうとまさぐるマロウだったが、それはすでに私が取得済みだから、腰をいくら探しても無駄だよ?


「な、無い!? 私の転移石が無い!」

「へぇ~。 これが転移石なんだ、レイル領にいる小姫ちゃんに送ったら複製してくれるかな?」

「それは私のだ! 返せ女ーーー!!」


 私に掴みかかろうとしていたマロウだったが、ディーネちゃんがそれを許さない。


「もう良いでしょう?【水魔法・水檻】」

「もが!!?」


 水に包まれたマロウを、ディーネは少しづつ上空に持ち上げると追加の魔法を使用した。


「消えて下さい【水魔法・水砲】」

「もがもがもがーーー!!」


 水に包まれたマロウは、山がある方向に凄いスピードで打ち出されて、遥か彼方に消えて行った。


 あれって、地面に着地した時に生きていられるのかな……。 スプラッタな状況を想像しそうだったので、私はこの事で考える事を止めた……。


「ディーネちゃん、強くなったね」

「ジェーンさん、ありがとうございます。 でも、これからはもっと力が必要とする場面が来ると思いますから力を付けないと……」

「そうだね……。 障害も居なくなった事だし共兄と合流しよっか」

「ええ、向かいましょう」


 マロウとバラモン戦を苦戦する事は無かった2人だが、きっと今以上の力が必要となる時が来ると感じて、もっと実力を付ける決意をするのだった。



 =◇====


【宿屋ダラン・木茶華とリリス視点】


「ねぇリリス、外が静かになってしばらく経つけど、もう戦闘は終わったのかな?」


 私木茶華とリリスは、街の中に入り込んだ兵士達と遭遇しないように、未だに宿屋ダランの1室に立て籠もって、戦闘が終わるのを待っていた。


「木茶華、街中にいた連中が排除されただけかもしれないし、その考えは早すぎるんじゃないかな」

「そうかな……いや、そうだよね……。 私は何も出来ないけど、皆には無事に帰って来て欲しいな……」


 木茶華が両手を組んで祈りを捧げていたけど、どうやらその祈りが届く事は無い様だ……。


「リリス? 急に立ってどうしたの?」

「シ! 木茶華黙って……」


「………ぁぁ……ぁぁ……」

「誰かの声が聞こえる……、でも、皆の声じゃない……」


 “ギシ、ギシ……”


 床の軋む音が誰かが廊下を歩いている事を知らせてくれるが、その音が私達が居る部屋の前で止まった事で、私とリリスの緊張感が跳ね上がった。


「……木茶華、必要な物を持って。 ダランさん達の反応が無いからどうなってのか分からなけど、もし異常事態が起きているなら、ここから逃げないと」

「わ、分かった……」


 小声で話して、次の行動をどうするか決めた私達だったが、未だに足音の主は扉の前に居るらしく小さな軋み音が鳴っている。


「行くよ、木茶華」

「う、うん……」


 リリスが扉を勢いよく開けるとそこには先程リリスを攫おうとしていた商人風の男が、血まみれの状態で立っていた。


「ひ!」

「退け!」


 リリスがその男を殴り飛ばすと、木茶華の手を引いて部屋から脱出する事に成功したので、そのまま宿屋の1階に降りると、数人の男が目を虚ろにした状態で食堂の中をウロウロしていた。


「き!」


 悲鳴を上げそうになった木茶華の口をリリスが咄嗟に塞いだ事で、食堂にいる連中に気付かれる事はなかったらしく、そのまま食堂内を彷徨うだけだった。


「木茶華、このまま宿屋の外に出るよ」

「う、うん。 でもダランさんとサーシャさんを見つけなくて良いの?」

「あの2人は強いからあいつ等程度に負ける事は無いから、きっと用事でここを離れてるんだと思う。 だからまずは私達が安全を確保するべきだよ」

「……リリスがそう言うなら、2人は大丈夫そうだね……分かった。 まずは宿屋を出よう」


 宿屋を出ると、周りにはヴォーパリアの兵士に殺された街の人が、宿屋の中に居る連中と同じく目を虚ろにした状態でうろついていた。


「やっぱりこれは……。 木茶華、取り合えず移動しましょう」

「う、うん……」


 顔を真っ青にしている木茶華の手を引き、宿屋を離れようとした所で、路地裏から数匹のアンデットが現れて、進もうとしていた道を塞いでしまった。


「く、こいつら邪魔を」

「リ、リリス、後ろからも!」


 挟撃される形となってしまった私達は、戦って切り抜けるしか助かる道がないと思い、前方を塞ぐ奴らを倒そうと構えを取った。


「うああぁ~~~。 が!?」

「え?」

「リリスちゃん、木茶華ちゃん、無事!?」

「ダランさん、サーシャさん、無事だったんですね!」


 前を塞ぐアンデット達を2人が倒してくれた事で、私達は何とかその場から逃げ出す事が出来たが、何処に行けば良いのか想像出来無いでいた。

 それが顔に出ていたのか、2人は立ち止まるとこれから向かうべき場所を教えてくれた。


「リリスちゃん、木茶華ちゃん、街の中央に立ってる物見塔、そこに向かうわよ。 あそこなら階段を上る事でしか上に来れないから、防衛がしやすいわ」

「はい」


 サーシャさんの提案を受け入れた私達は今、物見塔の最上階に立って辺りを見渡しているが、街の至る所から火の手が上がっているのが見て取れた。


「酷い……。 至る所から火の手が上がってる上に、さっき見たアンデット達も徘徊してる……」


 街の人達がアンデット達から逃げまどっている光景に目を逸らしたくなるが、それ以上に街を覆いかけている黒い霧?の様な物が見える事が私は気になっていた。


「木茶華、あなたもしかして死の魔力が見えてるの?」

「死の魔力? もしかして黒い霧の様な物?」

「やはり見えているのね。 その黒い霧は死を前にした人が抱いていた、後悔、怒り、恐怖、などが魔力となって現れた物よ……」

「でもこの黒い霧って街中を覆っているわ。 ……もしかして、それだけ沢山の人が死んだって……事?」


 リリスは答えない。 それが何よりも全てを物語っていた……。


 そんなのって…………。


 悲しみに暮れる私だったが、有る事に気付いた。

 街中に漂っていた死の魔力である黒い霧が、街の外に向かって移動し始めている事に。


「リリス、黒い霧が街の外に向かってるけどこれって」

「不味いわね……。 誰かがこの付近に漂う死の魔力を使って、何かをしようとしているわ……。 木茶華、宿屋の中で言った事を覚えてる?」

「宿屋って、リリスが私の力が必要になる時が来るって言ってたやつ?」

「そうよ、きっと今、この時があなたの力が必要な時よ」

「そんな、私は歌で皆を強化する事くらいしか出来無いよ!?」 

「なら歌って木茶華、あなたがこの戦いで何を思ったのか歌に乗せて心の向くままに歌いなさい! それが出来るのは、あなただけなのだから」

「リリス……。 分かった、力いっぱい歌うからさ……手を握っててくれる?」

「良いわよ。 心の向くまま歌いなさい、それが皆の為になるのだから」


 リリスはそう言うと左手を握ってくれた。

 私は1度頷くと、大きく息を吸い込み口を開いて歌い始めた。


 その歌声は戦火が燻る街中に響き、そして共也達が戦う丘にまで届き、街中を覆っていた黒い霧が木茶華の歌によって徐々に霧散して行く。


「木茶華やっぱりあなたは凄いね。 あなたが宿屋で吐露していた、役に立たないなんて事は絶対無い。だから自信を持って、これからも共也を支えて行けば良いよ」


 私はリリスからその言葉を聞かされた事で感極まって涙が止まらなかったが、私は歌を止める事無く歌い続けるのだった。


 死の魔力が完全に消え去った事で私は歌う事を止めたのだが、緊張感から足の力が抜けしまいその場に座り込んでしまった。


「良くやったね木茶華。 ほら、皆が帰って来たよ!」

「リリス、本当? ご、ごめん足に力が入らないから見れないや……」

「もう、世話が焼けるわね!」

「きゃ!」


 リリスは木茶華を背負うと、街へ帰還しようとしている共也達を指差した。


「ほら、あそこに共也達がいるでしょ。 みんな無事みたいだから元気に迎えて上げないとね」

「うん、みんな無事で本当に……良かった……」


 こうして神聖国ヴォーパリアと初めての大規模の戦闘は終わりを迎え、大きな被害は出たが港町アーサリーを防衛出来た事に私は嬉しく思うのだった。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

今回で木茶華の歌による能力が覚醒した事で、今後仲間の能力が強化出来るようになる予定です。


次回は“神白刀剣術奥義の伝授”で書いて行こうと思っています。

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