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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
9章・神聖国ヴォーパリア。
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防衛戦の終わり。

「何で、何で私の体をあんたが使っているのよ!!」


 菊流は、自身の体が目の前で動いている事に嫌悪していた。


「私の体? 君は……菊流か? 良く見ると共也君、エリア様までいるじゃないか。 懐かしい面々が揃っているな、まるで10年前のあの日に戻ったみたいだな」

「10年前って、お前は誰だ! 名を名乗れ!」


 ジークと鍔迫り合いをしている黒い鎧を着た騎士は一度大きく溜息を吐くと、ジークを弾き飛ばした。


「まだまだ剣が軽いなジーク。 私が託したバルムンクを、ある程度扱う事が出来る様になった様だが、力を完全には引き出せていないようだな……全く、久々にあったのにこの体たらくとは、お前には失望したよ、ジーク」


「何でお前に失望されないと……待て、このバルムンクを託した、だと? この剣を託してくれたお父様は神聖国ヴォーパリアの連中の手に……」


 “カチャ、カチャ”


 黒騎士が兜を取った事でその顔が晒された、そしてその顔は……。


「久しぶりだなジーク。 こうやって会話するのは何年振りだろうな」


 そう、兜の下から現れた顔、それはデリック=オーラム元近衛騎士団長だった。


「ほ、本当にお父様なのですか!? アンデットとしてではなくて!?」

「ああ、ジークずっと会いたかったよ。 先程は厳しい事を言ったが、お前の事を思って言ったのだ、分かってくれるな?」


 何だろう、見た目、声、仕草は確かにデリックさんだ……。 でも、何かが違うと心が警鐘を鳴らしてる……。


「デ、デリックお父様! 会いたかった!!」


 ジークが再会出来た嬉しさで涙を流しながら近づこうとした時だった、デリックさんの口の端が僅かに持ち上がったのを見た瞬間に、俺は全身の毛が総毛立ってしまい気付いた時には、ジークの襟首を掴み後ろへ引き倒していた。


「ぐえ!」


 “ヒュン!”


「いたたたた。 共也さん、一体何をするんですか!?」

「ジーク君、デリックさんを見てみろ……」

「デリック父さんを? と、父さん!?」

「ち、仕留めそこなったか……」


 ジークが見た光景、それは漆黒の剣を持ち、さっきまでジークが立っていた首の位置を横凪に振り抜いている格好のデリックさんだった。


 危なかった……。 ジークを引き倒していなかったら、今頃首を切断されて絶命していたはずだ……。 だけど、デリックさんは何でジークを殺そうとしたんだ?


「デリックさん、何で最愛の息子であるジークを殺そうとしたんですか」

「ふむ、何故か、か……。 共也君、10年前のあの日まで、私がどんな立場に居た人間か分かってるかね?」

「え、どんな……とは。 シンドリア王国の近衛隊長の事……ですよね?」

「そうだ、そしてジーク。 近衛兵の本分は何だ?」

「王族を命を懸けて守る事……ですよね?」

「そうだ! その近衛の本分を忘れて王族に弓を引く愚か者を殺したからと言って、誰が非難出来る? いや出来る訳が無い!」


 王族? エリアはここに居る。 クレアとミリア様もカバレイル領に居る……。 残っているのは……まさか!


「デリックさん、その王族と言うのはもしかしてダリアの事ですか?」

「ふっふっふ、さすがだ共也君、良くぞ少ない情報で正解に辿り着いた! そう、私の今の主は神聖国ヴォーパリアの王妃・ダリア=ヴォーパリア=サーシス様と、その伴侶である王だ!!」


 俺達はその宣言に信じられない思いだった、ダリアが神聖国ヴォーパリアの王妃? 王妃と言う事は王の妻だと言う事、もしやその王と言うのは……。


「デリックさん、ダリアが王妃と言う事は、もしかして王の立場にいるのは光輝ですか?」

「ふふふ、共也君、見なかったこの10年で随分と頭が切れるようになったじゃないか。 そうだ神聖国ヴォーパリア、その支配者は光輝王、その人だ!!」


 神聖国ヴォーパリアの王が光輝で、王妃がダリア、と言う情報がデリックさんから伝えられた事で、ディアナ様との約束を守り、あの国を壊滅させるためには、その2人も倒す必要が出て来てしまった。



 =◇====


【神聖国ヴォーパリア、王族専用区画】


「光輝様ーー、光輝様ーー! 何処にいらっしゃいますか~~? 光輝様~~」

「ダリア五月蠅いぞ、俺の名前を連呼して一体何の用だ」


 扉を開いて出て来た光輝は、豪華なマントを羽織り、各所に宝石を散りばめられた王冠を被ってダリアの前に現れた。


「いえ、肉人形の姿が見えなかったので、何処かに出張させたのかと思いまして」

「肉人形? ああ、【パペック】の事か、あいつなら手に入れたスキルの試験運用をさせている所だ」

「スキルの試験運用ですか? 何故わざわざ役に立たないパペックに、重要な任務を任せたのです?」

「ダイア、お前に移植する為のスキルなのだから、何かがあってからでは遅い。 だからスキルが暴走して、壊れても心が痛まないパペックに任務を与えたんだ」

「まあ、光輝様ったら。 最初の頃はあの肉人形を大切に扱っていらっしゃったのに、あなたも変わってしまうものですね」

「最初はようやく欲しい物が手に入った、と思って大切にしていたのだがな。 手に入れて分かったよ、俺は菊流ちゃんの心が欲しかったのだとな。

 そう思い至った俺は、あの人形に一応パペックと言う名前を与えて、他人に好き勝手されないようにある程度の権力は与えたが、お前みたいに最期まで大切にしようとは結局思えなかったよ」


 光輝は自身の手からすり抜けてしまった、本当に欲しかった物を懐かしんで椅子に深く腰掛けた。


「光輝様……。 今は私が居ます、ずっと、ずっとこの命が果てるまで、あなたの側に……」

「ダリア……」


 2人は強く抱き合うと、扉を閉めるのだった。



 =◇◇===


【港町アーサリー近くの丘の上】


「デリックさん、光輝とダリアが神聖国ヴォーパリアの王族となった事で、あなたが2人を守護する近衛兵になった所までは分かりました。 そんな王の近くに居ないといけないあなたが、何故ここに居るのですか?」


「それはな……」


 デリックさんは一旦言葉を切ると、殴られた事で横たわって居た菊流の体を持つ女性を踏みつけた。


「デ、デリックさん、何をしているのですか!?」

「ん? 私がここに居る理由だがな」


 踏みつけている菊流の体をデリックさんは何度も何度も強く踏みつける。


「この役立たずのパペックが今回の任務に失敗した場合に、こいつが持っている! 宝玉を! 回収! する為に! ここに! 居るのだよ!!」

「ごめんなさい! ごめんなさい! 許して下さい! もう蹴らないで!!」

「デリックさん!!」


 デリックさんに何度も蹴られながらも、頭を抱えて許しを請うパペックを見た菊流が怒声を上げると、

息を荒げながら菊流を見たデリックさんは、いきなり菊流に謝罪をし始めた。 


「そうだったな、こいつの体は菊流君、元は君の体だったな、配慮が足りなかったよ。 済まなかった」

「そんな事を言っている訳じゃ!!」

「だが、今は私と君達は敵対関係にあるのだから、このパペックの扱いに関しては口を出さないでもらおう」

 

 デリックさんは、そう言うと足蹴にしていたパペックの胸元を掴み上げ、非常な命令を下した。


「パペック、命令だ。 ここら一帯に満ちた死の魔力を使い、宝玉の中に封じられたスキルを発動させろ。 そして、呼び出された者を使い港町アーサリーを壊滅させ、魂を回収して来い」

「そんな無茶な! 只でさえドラゴンゾンビを呼び出した事で、この宝玉の力は暫く使う事が出来ないのに! 無理矢理に使ったら暴走して私が食われるわ!」


 パペックの必死の言葉を聞いたデリックさんは、とても不思議そうな顔を向けて衝撃の言葉を口にした。


「それの何処に私達が困る要因があるんだ? それとも何か? お前は光輝王の期待を背負った、今回の任務を完遂出来無かったと言えるのだな? 止めても良いのだぞ? 光輝王の期待に応える事の出来なかったお前が、どのような末路を辿ろうが俺には関係が無いからな。

 さあ、どうするパペックと言う名の肉人形よ!!」

「あ、う、あ…………」


 地面に落ちている宝玉に手を伸ばすパペックだが、すでに怪しげな光を放ち始めている宝玉を手に取る事に二の足を踏んでいる。


「どうするのだ! パペック!!」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 菊流の生前の体を持つパペックと呼ばれた人物は、宝玉を手に取ると魔力を注ぎ込んだ。


 “ゴ、ゴゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!”


 港町アーサリーを含むこの丘の周辺から黒く濁った霧が発生すると、パペックの持つ宝玉に集まり始め、明滅し始めた光景に、危機感を感じた俺達が止めに入ろうとするが、デリックさんが間に割り込んで、これ以上進む事を阻んで来る。


「デリック父様! 邪魔しないで下さい! このままではまた多くの人が死ぬ事になる、あなたは本当にそれを望んでいるのですか!?」


 ジークの必死な叫び声に怯むデリックさんだったが、退くつもりは無いらしい……。


「……あなたの意思は分かりました。 そこまで光輝の命令を遵守すると言うのならば、僕はもうあなたの事を父だと思わない事とします」

「それで良い。 私は軟弱なお前を見た時から息子だと思っていなかったからな。 どうしてもパペックの行動を止めたいなら押し通ってみせろ!!」

「デリックーーーー!! バルムンクよ俺に力を貸せ!! ブレード展開!!」

「ジーーーーク!!」


 今まさに2人が激突しようとしていると、黒く染まっていた霧が徐々に晴れ始めていた。


「死の魔力が消失して行く!? 何で、何で皆が私の邪魔をするの!? 消えないでよ、このまま何も結果が残せなかったらマスターに見捨てられちゃう!!」


 パペックの叫び声が虚しく響く中、街の方から綺麗な歌声が風に乗って聞こえて来た。


 この聞こえて来る歌声は……木茶華ちゃん?


 木茶華ちゃんの歌声によって死の魔力も霧散して行き、大気を震わせていた現象も徐々に収まって行った。


「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」

「お、お父様!?」


 急に苦しみだしたデリックさんに近づこうとしていたジークだが、デリックさんが手の平を前に突き出してそれを止める。


「来るなジーク。 私はもう駄目だ、強化されたダリアの魅了によって普段意識を封じ込められてしまっているのだ。 この聞こえて来る歌のお陰か、今は何とか意識が表に出て来る事が出来たが、次に会った時は躊躇うな、そして私を楽にしてくれ……。 立派に成長したお前の姿を見る事が出来て嬉しかった……愛しているぞジーク……」

「お父様!!」

「くっくっく。 今更貴様に何が出来るのだ、大人しく私がジークを殺す光景を見ておくと良い。 だが、今回は……」


 “ドス!”

「ぐっ!!」


 デリックさんは、パペックの腹を殴り気絶させると宝玉と共に脇に抱え、赤く輝く魔石を叩き割った

、すると昔ダリアに罠として使われた転移魔法陣がデリックさんの足元に現れた。


「今回は私達の負けだが、当初の目的は達成出来た。 次に会う時は君達を必ず殲滅して、暗黒神の贄としてやろう。 ……では、さらばだ」


 そう言い残すと、デリックさんとパペックは跡形もなく消え去った。


 こうして神聖国ヴォーパリアとの本格的な戦闘を、勝利で収める事が出来た俺達だったが、光輝が王だったり、ダリアが王妃だったりと、様々な情報が一度に入って来た為、取り合えず情報整理をする為に休みたい……と言うのが皆の素直な気持ちだった。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

何とか港町アーサリーを巡る戦いも終わりを迎えさせる事が出来ましたが、ジェーン達の話を後日書こうと思っているので、活躍が読みたい方は少々お待ちください。


次回は“防衛戦を終えて”で書いて行こうと思っています。

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