漆黒の宝玉の能力。
今、私の目の前にある城門の向こうでは一体何が起きているのか考えたく無いが、門を破壊してこちらに来ようとする気配も無くなった上に、門の下からは大量の血液が流れてきている。
そして、何かを咀嚼する音がこちら側に響いて来ている状況に置かれていて、何が起きているのか想像出来無い訳が無い……。
「ガルボ、ジェーンちゃん、門の向こうで何が起きてるのか分かる?」
「……想像したくないですけど、門の向こうに居た人達がアンデットに襲われているのかと……」
「それしか無いだろうな……。 だが何で急にアンデットが発生した上に、ヴォーパリアの兵士達を襲い始めたのか、だな」
未だに咀嚼する音が城門の向こう側から響いて来る中ココアさんとアストラが合流し、私達の辺りに居た兵士達から、現状報告を受けると2人は顔を引きつらせた。
「そんな……、でもあいつは滅んだはずじゃ……。 アストラ、この状況あの時に似ていると思わない?」
「それは俺も思っていた所だ。 ココアが言いたいのは10年前、魔王グロウが使用したスキル、ネクロマンサーの事を言ってるんだろ?」
「そうよ……、でもあいつは滅んだはず……。 なら一体誰が……」
「ココア、今は誰がスキルを使ったかどうかの考察は後にしろ! 今はこの状況をなんとかする為に、兵士達に指示を出す方が先じゃないのか!」
ガルボに叱責された事で、周りの兵士達が不安そうな顔で指示を待ってる事に気付いたココアは、自分の両頬を叩くと少し高い場所に昇り、兵士達に指示をするのだった。
「まずは、城門の上からどれだけの数のアンデットが発生してるのか確認してください。 その間に半数の兵士で、死亡した者を安置している場所に向かって異常が無いか確認して来て下さい。 もし10年前のあの時と同じなら、死んだ者がアンデットとなって襲って来るはずです。
その時は知り合いの死体であろうと躊躇わないで、討伐して下さい……。 そのアンデットはあなたの知っている者では無いのですから……」
「はい!!」
死体の安置所に向かった兵士を見送った後に、数名の隊員が外壁の上からどれくらいのアンデットが沸いているのか確認したはずなのだが、報告をしようとしない。
「どうしたの! アンデットの数を確認したのなら、ちゃんと報告をして下さい!!」
「あ、えっと……。 1面です……」
「1面とはどう言う意味です! 報告はしっかりと分かりやすく言うんだ!!」
「港町アーサリーの周辺がアンデットに囲まれてます!! ヴォーパリアの兵士達の死体だけでなく、スケルトンも混ざって、こちらに押し寄せてきています!!」
その報告を聞いた私は嫌な予感が的中した事を悟って、ガルボさんに視線を向けたのだが、彼も同じ事を考えていたのか、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「やはりこの大量のアンデット共が攻めて来ているこの状況は、誰かがネクロマンサーのスキルを使用したと見て良いだろうな……」
「ガルボさん、あの時と違ってルナサス様達もいない今の戦力で、この状況を乗り切れるのでしょうか……」
「乗り切れるかどうかじゃない、乗り切るしか無いんだ。 ココア、覚悟を決めろ!」
「はい……」
ココアはガルボの言葉に覚悟を決めると、隣に立っているアストラに向き直る。
「アストラ、これから何が起きるか分からないから、あなただけでも娘のリズと一緒に街の皆と避難船に乗り込んで、ルナサス様の街へ落ち延びて頂戴……」
「お前何を言って!」
「あの娘はまだ幼い上に、魔族と人間のハーフのあの娘を好奇の眼差しで見て来る人も沢山いるわ。 それなのに、あの娘が私達両親を同時に失ったらこの先どうやって生きて行くの!?」
「お前の言いたい事は分かるが……。 ココア、お前はあの娘の成長を見届けなくて良いのか?」
「私はあの娘の母親なのよ、見届けたいに決まってるじゃない! でもね、私は昔のような1兵士じゃないの。 この港町アーサリーの最高議会の椅子に座ってる1人なのよ、今まさに命を懸けて防衛してくれている、兵士達を置いて逃げるなんて出来ないわ……」
下を向いて別れの涙を流し続けるココアに、俺は初めて出会った頃の事を思い出していた。
俺は……。
ココアの手を取り、俺は自分の想いを彼女にぶつける事にした。
「ココア、お前の考えは分かった」
「アストラ、それなら今からでも」
「でもな、俺はお前を置いて行かないよ」
「どうして!? あの娘を一人にするつもり!?」
「違う、お前も一緒にあの娘の成長を見届けるんだよ! まだ負けると決まった訳じゃ無いんだ、10年前のあの時だって何とかなったんだ、きっと何とかなる! それに、もし俺達があの娘の元に駆けつける事が出来なくなったとしても、俺達の娘なんだきっと立派に成長してくれるさ。 ……だからココア……一緒にこの困難を乗り越えて、あの娘の元に帰ろう……な?」
「ううう……卑怯よ、いつものあなたは娘の前では情けない姿を晒すのに、こんな時にだけ格好良くするなんて……」
「惚れ直しただろ?」
「……………うん」
2人は手を握り合い、今まさに接吻をしようとしていたので、私達は咳ばらいをして止めさせた。
「オホン!! あ~~~、気分が乗っている所悪いんだが、そろそろ城門が破られそうなんだが、どうすれば良いかな?」
“ドォーーーン! ドォーーーーン!!”
2人が自分達の空間を作りだし盛り上がっていた中、大量のアンデットが城門に突撃しているらしく、新しく制作した閂も、すぐに壊れてしまいそうな程の衝撃が城門に響いていた。
「ひゃ、ひゃい!! ええ~っと、え~っと。 そうだ、ガルボ様、土魔法で城門の入り口を完全に封鎖して貰っても良いですか!?」
「それは構わないが、他に出入り口が無くなってしまうが良いのか?」
「はい、どちらにしてもこのまま何もせずいると、城門が奴らにやぶられてしまった後が悲惨な状況になってしまうので、少しでも時間を稼いで対策を練ろうと思います」
その説明を聞いたガルボは口の端を持ち上げて、楽しそうに笑うのだった。
「そう言う事なら! ≪アースウォール≫」
“ゴゴゴゴゴゴゴ……”
城門のこちら側がガルボの土魔法によって完全に封鎖されると、アンデット達はビクともしなくなった城門を破壊する事を諦めたらしく、他に入れそうな場所が無いか探しているのか、外壁の周りをウロウロするだけとなっていた。
「これで少しは対策を練る時間が稼げそうですね。 何かアンデット共の数を少しでも減らせる手段があると良いのですが……」
その時、ココアの声を聞いた菊流が、ある提案する為に手を上げるのだった。
=◇===
【アーサリー外壁近く】
俺達は外壁を未だに守っているであろう、京谷父さん達と合流する為に街中を移動していたのだが、すでに入り込んでいたヴォーパリアの兵士達に、行く手を阻まれていた。
「共也さん、後ろです!」
「こいつ!」
ディーネの警告を聞いた事で、咄嗟に袈裟懸けに振り抜いた剣は、抵抗なく敵兵の体を通り抜けて行き、敵兵はユックリと地面に倒れて行った。
「クソ! こんな所で、この俺が……!!」
倒れ伏した事で動かなくなった兵士に暫く注意を払うが事切れた様で、俺は息を吐いて力を抜いた。
「ふぅ、ディーネ助かったよ」
「いいえ、教えるのが少し遅れてしまいました。 次からはもう少し早く伝えるようにしますね」
「頼りにしてるよ」
京谷父さん達と合流する為に、再び移動を開始しようとすると、誰かが俺の足を掴んで来た。
「な!」
「あああああああぁぁぁ~~~」
俺の足を掴んで来たのは、先程俺が倒したはずの男だった。 しかも、両目が白く濁りまるでゾンビのような声を上げている……。
「共也兄さん危ない!!」
イリスが咄嗟に俺の足を掴む兵士の手を切断してくれたお陰で、今まさに俺の足に噛みつこうとしていた兵士から逃げる事が出来た。
こいつ、死んだはずじゃ……。
「共也ちゃん! 周りを見て!!」
「おおおおおおぉぉぉぉ~~~~」
「ああああぁぁぁぁぁ~~~~」
エリアにの言葉を聞いた俺は、周りの光景を見て絶句した。
俺が見た光景、それはすでに潜入していた兵士達によって殺された街の人達の骸が力無く立ち上がり、俺達に襲い掛かろうとして、こちらにユックリと歩いて来ている姿だった。
「何だよこれ……街の人達の骸がアンデットになって……。 こんなのまるでゾンビゲームじゃないか……」
「共也兄さん、きっと魔王グロウの魂を天界から盗んだ奴の仕業に違いありません! この光景を見ていた、ディアナ様も間違いないと言われています!!」
ディアナ様も、この光景を見ているんだな。 それなら、どうすればこいつ等を止められるか分かるのかな?
「イリス、ディアナ様にどうすれば、この状況を止められるのか聞いてみてくれ!」
「分かりました! むむむ……」
ディアナ様と念話で会話し始めたのか、真剣な顔をしたままの状態でイリスは黙り込んでしまった。
その間も、動く死体と化した街の人達が次々に俺達を襲って来るので、菊流との契約で習得した火魔法で焼き払うしかなかった。
(あなた達の無念は必ず晴らして見せます。 だから安らかに眠って下さい……)
俺が動く死体を焼き払っていると、ディアナ様と通信をしながらイリスが解決策を提示してくれる。
「ディアナ様は、街の近くにある丘から力が発動しているのを感じるみたい。 え~っと、ディアナ様が、外壁上で必死に防衛している京谷さん達や、菊流さん達と合流して欲しいみたいです」
「分かった!! みんな、イリスの言葉を聞いたな、まずは京谷父さん達と合流する為に外壁まで移動しよう」
「はい!」
皆で移動しようとした所、はぐれてしまった者がいないか辺りを見渡すと、動かなくなった街人のアンデットの前で、手を組んで必死に祈りを捧げているエリアの姿がそこにあった。
「エリア、行こう」
「共也ちゃん、もう少し、もう少しだけ祈らせて……。 この人達も生きていたかったはずだから、せめて冥福を祈るだけでも……」
そうしてエリアが街の人達のために祈りを捧げていると、視界内に居る動かなくなっていたアンデット達が白く輝き始めていた。
「エリア、離れるんだ!」
「え? え? 一体何が……」
白く輝き始めたアンデット達から何かがスっと抜け出ると、生前の姿を型取り始めた。
「これは一体……」
何が起きてるのか分からない俺達が呆然としていると、その白く輝く人達はエリアに優しく微笑むと頭を下げた。
しばらくして頭を上げたみんなは、エリアに同じ言葉を一言呟くと満足そうな顔をして消えていった。
⦅エリア様、私達の為に祈ってくれてありがとうございます。 そして、さようなら⦆
白く輝く人達が消えると、死体達は塵となって何処かに飛んで行った。
エリアが俺の袖を握って来たので、そちらを見るとこの現象についての説明をしてくれた。
「共也ちゃん、私の回復魔法が昇華して浄化魔法になったみたい。 今スキルの説明を受けたから間違いと思うわ」
「そうか、土壇場だけどエリアの浄化魔法があるなら、少しはこの状況を打破する可能性が見えてきたかな?」
「うん、敵がアンデットを使って来るなら、私がその全てを浄化してみせるわ。 だからこの力はきっと役に立つはず」
「ああ、エリアのその浄化魔法が、きっとこの戦いを終わらせる一助になってくれるはずさ。 頼りにさせてもらうよ千世ちゃん」
「うん、任せて!!」
こうして俺達が城壁の上で戦っているはずの、京谷父さん達の元に向かおうとしたのだが。
路地の奥から怪我を負っている兵達を引き連れて、京谷父さん達の方からこちらに合流しに来てくれたので驚いていると、父さん達から何故外壁の上から撤退したか説明を受け、納得するのだった。
当初の目的だった京谷父さん達と合流を果たした以上、俺達の次の目標は城壁の上にいるアンデット達を殲滅した後に、菊流達と合流する方向で動く事にするのだった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
話をもう少しテンポ良く書いて行こうと思っていますが中々に難しいですね。
次回はもう少し話を進めようと思っています。




