オリビア雑貨店に到着
「ここが、バリスさんとジュリアさんが言ってた店舗だよな……」
「そうだと思いますが……。 こう言っては何ですが」
「店構えは……普通ね……」
今、俺達は冒険者ギルドのバリスさんとジュリアさんに、紹介された【オリビア雑貨店】の看板が掲げられた店舗の前に立っていたが、あれだけ脅されたのに店構えは普通……いや、むしろ周りにある店より綺麗に手入れされていて、何故あれほど言い淀むのか理解出来無かった。
「まぁ、バリスさんとジュリアさんの、親切、丁寧、だけど個性的って良く分からない評価を聞いて身構えていたけど、結局店長に気を付けろってだけで後は普通の店なのかしら? ねぇ、エリアはこの店に関する情報を聞いた事が無いの?」
オリビア雑貨店の情報を尋ねた菊流だったが、エリアは特に思い当たる情報が無かったらしく首を横に振った。
「いいえ、報告の中にそれらしい情報はありませんでした……。 そこまで個性的な店舗をこの王都で経営しているのなら、少しくらい王家に情報が上がって来ても良いはずですが、噂すら聞いた事が無いですし……」
「ちょっとエリア。 この都市を運営している王家が聞いた事無い店舗って……。 そんな店舗に入って、大丈夫なの?」
「そう言われても、私も不安なんですよ? でも……冒険者ギルドがお勧めするお店なのですから、金銭面などで騙されると言う事は無いと思うのですが……」
「ん~~。 このまま、ああだこうだと話し合っても埒が明かないわ! 取り合えずお店の中にはいりましょ!?」
「そ、そうだな。 それしかないか……」
俺達3人は頷き合うと、店の扉に手を掛けた。
「よし、入るぞ!」
―――チリン、チリン……。
扉を開けると入店ベルが鳴り響くと、奥から店員らしき女の子が出て来ると俺達に頭を下げた。
「オリビア雑貨店へようこそ! 本日はどのような品を、お探しでしょう?」
元気よく挨拶してくれたのは、犬耳と尻尾。 そして、首に鈴の付いた黒のカチューシャをした可愛らしい女の子の店員だった。
『獣人』他の異世界物では酷い扱いを受けている話しが多いが、人族の暮らす場所では人権を保障されている。 だが、やはり不埒者は何処の世界にもいるようで、裏路地では一定数奴隷としての需要があるのだと様々な情報を調べ上げたエリアから教えられていた。
だが、どうやらこの娘はあくまで制服の一部として鈴の付いたカチューシャを装備しているだけのようだ。
むしろ、攫われた場合すぐ気付く為のカチューシャなのか?
「共也さん」
「ん? あ……」
「???」
「えっと……。 俺達は―――」
店員の女の娘は何を求めて来店したのか告げない俺達を不思議そうに眺めている。 その姿を見て、慌てて紹介状を取り出し来店した目的を告げた。
「あれ、お客さんそれは紹介状ですね。 どなたからの紹介でここに?」
「冒険者ギルドのバリスさんだよ。 店長のオリビアさんはいるかい?」
「おぉ、バリス様からのご紹介でしたか。 えっと、オリビア店長ね。 少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか? 店長は今、在庫確認してるはずですので」
「あぁ、頼んでも良いかな」
「はい。 では行ってまいります」
獣人の女の娘が犬の尻尾を振りながら店の奥に走って行く姿に癒されていると、大きな声で在庫確認をしているオリビア店長を呼び出した。
「オリビア店長~! 冒険者ギルドのバリスさんのご紹介で来店された、お客さんが来てますよ~~」
「アニマちゃん了解、すぐ行くわ~~ん」
あの女の娘の名はアニマって言うのか。
そんな事を考えていると、アニマに連れられて来た人物を俺達3人は見上げて固まっていた。
「いらっしゃ~い! バリスちゃんからの紹介でここに来る冒険者なんて久しぶりだわ、いっぱいサービスして上・げ・る・わぁん!」
【オリビア店長】その人物の特徴を記す。
身長は約2m、青色の髪をチリチリのアフロにして、紫のアイシャドウを瞼に塗っている。 それだけでも特徴としては一目見たら忘れ無さそうだが、一番の特徴として上げられるのは、はち切れんばかりの筋肉の上にピンクのレオタードを纏う姿だった。
「カッコいいお兄さん、あなたがリーダー見たいだけど何を求めて来店したの? 優しくして上げるから、お姉さんに言ってみなさい♪」
え? 俺がリーダーと何故そう思った?
体をクネクネ揺る大柄の体躯を持つ濃い女性に恐怖を感じていると、良く見ると横にいる2人が素早く1歩後ろに下がっていた事で、俺が先頭に立ってリーダーをしている様に見えてしまう。
こいつら!!
「で、あなた達は何を求めているのかしら?」
後ろに下がった2人に恨めしそうに視線を向けるが、彼女達はすでに明後日の方向を向いていてこっちを見てすらいない。 諦めた俺は一度溜息を吐き、この女性?に必要としている物、購入したい品物がこの店舗にあるかを伝える事にした。
「あ、え~と。 バリスさんから旅をする為の物資を調達するなら、オリビア雑貨店が良いと紹介されたのですが……、このお店で合ってますよね?」
「そうよぉん。 ここがお探しのオリビア雑貨店よ♪」
野太い声で会っていると言われたので、やっぱりここが目的地の1つである事は間違いないみたいなのだが……。 出来れば間違いであって欲しかった……。
恐らくバリスさんとジュリアさんの『慣れれば』と言うのは、この人の濃い容姿の事を指していたのだろう……。
「そうだ! 私ったらまだ自己紹介して無かったわね。 私の名前は【オリビア=ホーク】。 ここオリビア雑貨店の美しき女店主よ! もしあなた達が必要とする品があるなら、何処でも仕入に行くから気楽に注文してね。 サービスするわよ!(ウインク)」
「おぉ! 流石です店長!」
―――パチパチパチパチ。
オリビアさんの口上を称賛するアニマちゃんの拍手が虚しく店内に響き渡る中、オリビアさんの熱いウィンクを受けた俺達は引きつった笑顔で頷くのだった。
「と……取り合えずオリビア店長が旅をする上で、これは絶対に必要だ。 と思う雑貨品などをお任せで3人分お願いしても良いですか?」
「私が旅で必要だと思う雑貨品3人分ね、良いわよ。 それで、3人分の雑貨品となればそれなりの金額になると思うけど、支払いはどうするのかしら?」
あ、俺達って金持ってないがどうするんだ?
菊流もその事に思い至ったのか慌ててエリアに視線を向けるが、彼女は何事も無いかの様に支払先を提示した。
「王城に請求をお願いします」
「おっけ~~よぉん。 本当なら身分を確認する所だけど、王女様直々に来て貰ってるんだもの、そんな野暮な事はしないわ♪」
オリビアさんは指で〇を作ると、アニマちゃんを引き連れて奥に引っ込んで行った。
どうやら3人分の雑貨品を用意しに行ったらしい。
「エリア。 王城の方で、本当に俺達に必要な金額を支払ってもらって良いのか?」
「えぇ、私達は人類全体を救うと言う理念の元動いていますから、あまり時間を掛ける事が出来ませんから、最低限の物資や装備品を購入する代金くらいは各国が捻出した資金から支払いますよ。 ですので、遠慮無く城の方に請求が行く様にしちゃいましょう」
「各国が捻出した資金があるのか。 それなら、助かるが……」
流石に全額出して貰う事に罪悪感を覚えている俺と菊流だったが、人差し指を俺の鼻に押し付けて来るエリアに目を白黒させていると、彼女は何故各国から資金が集められているのか説明し始めた。
「共也さん、菊流さん、各国が装備品を購入する為の資金を出してくれている事に罪悪感を覚えている様ですが逆ですからね?」
「逆?」
「やはり分かっていませんでしたか。 2人共、まさか時間が無いと言っているのに、冒険者ギルドで薬草採取などの初級クエストを達成しながらお金を貯めて、様々な装備品や物資を集めようとしていたんじゃありませんか?」
「「・・・・・・思ってた」」
「やっぱり……。 そんな悠長に時間を掛けて居たら、物資を集め終わった頃には人類が負けちゃってるかもしれないですよ? だから少しでも時間短縮出来る所はしないと!」
エリアが両腕を腕の前で組み気合を入れると、大量の荷物を持ったオリビアさんとアニマちゃんが店の奥から出て来た。
「はい。 旅に必要な物資は一通り揃えたけど、本当にこれだけの物資を持って移動出来るの?」
「俺と菊流は大丈夫だと思います。 でも問題は……」
「エリア王女よね……。 結構重いけど持ち運べそう?」
「た、多分……」
1人分の物資を前にすると、エリアは持ち上げようとして手を掛けた。
「う~~~!!! はぁ、はぁ、………」
「あら、やっぱり少し重いみたいね……」
「どうしましょう?」
「う~~ん。 あ、そうだわ!」
オリビアさんは「閃いた!」と言う表情をすると、エリアの耳に口を近づけるとゴニョゴニョと何かを囁き始めた。
「……で……を………取り……」
「ほん…………わ……良………」
所々声が漏れ聞こえて来るが、結局何を言ってるのかわから無いので大人しく待っていると、何かの同意を得る事が出来たのか急に2人が握手を交わした。
「共也さん、菊流さん、オリビアさんが私の荷物運搬の事で解決策が有るらしいので、少しお店の奥へ行って来るので少し待っててもらって良いですか?」
「私達は良いけど……。 エリア、妙に嬉しそうじゃない?」
「し、心配するような事は何もありませんよ。 少々貴重な品を貸してくれる事になったので、それを受け取りに行ってくるだけです」
そう告げたエリアは、オリビア店長と2人で店の奥に消えて行ったのだが、すぐに戻って来たがその手には小さな袋を持っていた。
「お待たせしました。 この袋をオリビアさんから貸して頂いたので、2人の物資も一緒に持ち歩けるようになりましたよ!」
「え、それってまさか収納袋か?」
「そうです。 この袋さえあれば、沢山の物資を入れられますよ!」
鼻歌を歌いながら3人分の物資を収納し始めたエリアだが、俺達みたいな駆け出しが収納袋みたいな貴重品を持ち歩いて大丈夫なのか?
「さっき貴重品って言ってたから、かなり高いんじゃないのか?」
「それはそうなんですが、ある依頼を受ける事で無期限で貸して貰える事になったんです!」
「その依頼って何だ? 俺達もその依頼を手伝った方が良いなら手伝うが?」
「だ、大丈夫です! これは私が受けた依頼なので私が1人で必ず解決してみます! ね! オリビアさん!」
同意を求めて、オリビア店長を見つめるエリア。
何だか怪しいな……。
「えぇ、そうよ! せっかく貴重な収納袋を貸して上げるんだから、絶対達成してよエリアちゃん!」
「任せて置いて下さい! 必ず達成してみせますから!」
何時の間にか仲良くなってる2人を眺めていると、オリビア店長は何かに気付いたのかジッと菊流の全身を眺め始めた。
「菊流ちゃんって言ったわよね。 少し触るわよ?」
「え? 何を触るって言うの?」
菊流の動揺を他所に、許可を出る前にオリビア店長は彼女の全身を触り始めた。
「ちょ、ちょっと、何してるんですか止めて!!」
当然嫌がる菊流だったが、オリビア店長は構わず触り続ける。
「止めてって言ってるでしょ!」
全身を触られる事で我慢の限界に来た菊流はオリビアさんに対して鋭い蹴りを放つが、彼女はたった2本の指で蹴りを受け止めてしまった。
「はぁ!? 私の蹴りを指2本で???」
「やっぱり良いセンスをしてるけど、まだまだ荒削りね。 菊流ちゃん、あなたが何時か格闘術を本気で鍛えたくなったら私の所にいらっしゃい。 必ず何段階も上に押し上げて上げる!!」
「そ、その……。 気分が向いたらお願いします……」
2本指で蹴りを止められた事に少なからずショックを受けていた菊流は、曖昧な返答でオリビア店長の勧誘を断った。
そして、旅に必要な品を購入して用事の澄んだ俺達はオリビア店長の見送りに苦笑いしながら、次の店を目指してオリビア雑貨店を後にするのだった。
オリビア雑貨店の一幕でした。
次回は鍛冶屋に向かいます。




