港町アーサリー防衛戦①
『俺が一番乗りして財宝を手に入れるんだ! 手前ら退けってんだよーー!!』
『何を言ってやがる、街に有る物はお宝は全て俺の物だーーー!!』
『突っ込めーーー!! 立ち塞がる邪魔者は皆殺しだーー!!』
ヴぉ―パリスの兵士達は、次々と外壁に張り付き、防衛隊の弓に撃ち抜かれて命尽きた仲間の骸を、次々と積み上げて外壁を乗り越えようとしていた。
「あいつら狂ってやがる。 死んだ仲間を積み上げて、外壁を乗り越えようとするなんて普通は考え無いぞ!!」
「新人! 口を動かす暇があるなら手を動かせ!! ここを抜かれたら、市民にどれだけの被害が出るか予想出来、ガハ!!」
『先輩!!』
新兵に先輩と呼ばれた兵士は、下から昇って来た蛮族の様に笑うヴォーパリアの兵士によって、背中から剣が飛び出していた。
「ひゃっひゃっひゃ、俺が一番乗りだな! おうおう、ガキが子ウサギの様に震えちゃってまぁ! そんなお前には、今から先輩を貫いた剣で楽にしてやるぜ!」
舌を出しながら新兵に襲い掛かろうとする兵士に対して、新兵は小さく丸くなる事でしか防御態勢を取る術を知らなかった。
「もう駄目だ、殺される!!」
「アヒャヒャヒャ!!……げ、げぶ。 あ? 何で俺は血を吐い……て」
“バシャ!”
新兵を襲おうとしていたその兵士は、自らの血溜まりに倒れ込みそれ以降動く事は無かった。
「た、助かったのか? 一体何が……」
「そこの新兵君、怪我は無いかい?」
僕に声を掛けて来た人物は、変わった形の剣を腰に下げていた鞘に納めると先輩の元に移動し、生きている事を確認していた。
「あ、あなたは?」
「街の防衛をする為に、この戦いに参加した京谷と言う者だ。 詳しく説明を聞きたい所だが、少し待ってくれ、この兵士さんの命が危ないから治療しないと。 砂沙美、この人の治療をお願い出来るかい?」
「ええ、任せて。 ええっと、千世ちゃんの説明だと、まずは青色のポーションを怪我をしている部位にかけて、出血が少し収まったら杖をこうかざして魔力を流せば……。 出来たわ、京谷さん後は私が何とかしてみます」
砂沙美と呼ばれた水色の髪を腰の辺りまで伸ばしている女性は、20台中頃の美しい容姿をしていて、神官の様な服を纏い、先輩の治療を開始していた。
京谷と呼ばれた男性の足元から這い上がって来た、ヴォーパリアの兵士が攻撃しようと剣を振り上げたが、間に割り込んで来た2人によって地面に叩き落とされた。
「京谷、余計なお世話だったかもしれんが、処分しといたぞ」
「京谷さん、何があるのか分からないのですから、対処出来る内にしてしまいましょう!」
「2人共済まん、砂沙美が治療をする姿に見惚れてしまっていたんだ……」
「そう言えばお前等2人はその年の頃って、バカップルだったな……。 ここは戦場なんだから、惚気るのは程々にな?」
「は、はい……」
兵士の治療をしている砂沙美は、冬矢の言葉を聞いて顔を真っ赤にしてしまったが、治療の手を抜く事は無かったお陰か、少しすると先輩兵士は意識を取り戻した。
「こ、ここは外壁の上か?」
「先輩!」
意識を取り戻した先輩兵士は、外壁を登って来るヴォーパリアの連中を次々と叩き落している見知らぬ剣士と格闘家に驚愕していた。
「新人、彼等は一体……」
「急に現れて助けてくれたので分からないんです。 もしかしたらココア議員からの増援では?」
「なるほど、あなた達は議員達が送って来た、防衛の為の増援で合ってるか?」
「確かに防衛の為に来たが、あなた達の指示に従う義理は無いのだから、自由に動かせてもらうよ?」
京谷父さんは、先輩兵士が勘違いする前に、お前の指揮では動かないとしっかりと釘を刺しておくのを忘れないのだった。
「それは分かってる、先程から君達の動きを見させて貰っていたが、私程度の指揮官が扱い切れる人材じゃ無い事位、分かってるつもりだ。 むしろ蹂躙される未来が色濃く見えるこの街の防衛に来てくれた事を感謝しているよ」
「分かって貰えて良かったです。 こんな卑劣な事をしてくる連中に、この街を好き勝手にさせないように頑張りましょう」
「そうだな。 私達が負ける事は街の住人が奴らに良いようにされる事に繋がるのだったな……。 新人、この街の兵士となったからには、街の人達の為に命を捨てる覚悟を決めろ!!」
「は、はい!!」
ここに居る兵士達も、街を防衛する為に命を懸ける覚悟を決めて、未だに昇って来ているヴォーパリアの兵士達を叩き落していた。
だが、さすがに登って来る兵士全てを叩き落とす事は出来る訳も無く、何人かが外壁の上に辿り着き剣を構えて襲って来た。
「クソ! こいつ等、一体どんだけいるんだよ!!」
「それだけこいつ等の上層部も本気って事だ、口を動かす前に手を動かせ、死ぬぞ!!」
剣を弾かれた兵士の1人が、ヴォーパリアの兵士に剣を突き出されて、今まさに刺されそうになっていた。
「やられる!!」
“ヒュン! ゴ!”
「げふ!!」
「あなた達、周りを常に気を張りなさい! これだけの敵に囲まれてしまうと、あっという間に殺されてしまうわよ!」
襲われかけた兵士を助けたのは、鎖付の分銅をスキルで作りだした冷華さんだった。
「た、助かりました!」
「だから、敵兵から目を離すなと!!」
お礼を言う為に一瞬、敵兵から目を離した兵士の目の前には、今まさに剣を付き出そうとしている敵兵が目に入って来たのだった。
殺されると思い恐怖心から目を閉じていた兵士は、何時まで経っても刺される痛みが来ない事を不思議に思い、恐る恐る目を開けると、そこには剣を構えたまま動けなくなっている兵士が居た。
「危なかったな、儂が動きを封じなければお前は殺されていたぞ?」
「もう、天弧、そんなに恩着せがましい事を言っちゃ駄目だよ。 兵士さんが困ってるじゃない」
「お、おう、そうだったか。 済まん儂はこんな言い方しか出来なくてな、気分を害したなら謝罪するよ」
狐の耳と尻尾を生やした少年が、命を助けてくれのに俺に頭を下げようとしていたので、慌ててその行為を制止した。
「お、俺を助けてくれた君が頭を下げるのは止めてくれ、助かったよ。 ありがとう」
「おう! 良いって事よ! それにしても他人を喜んで傷付けるこいつらが生きていても良い事など1つも無いであろうな。 こやつを開放する理由も無いし…………死んどけ」
“パキ、ポキ、ボキキキキ!!”
「や、やめ、ぎ、ぎゃああああぁぁぁぁぁ~~~!!」
天弧が左手で何かを握り潰す動作をすると、動きが止まっていた兵士の体が徐々に潰れて行き、最後には小さな肉塊となってしまい、そのまま外壁の外に投げ捨てられて見えなくなった。
「私も天弧に負けていられないわね、もっと頑張らないと!」
天弧の活躍を見た空弧が負けられないと力を籠めた時に、登って来ていた敵兵が彼女の背後から襲い掛かって来た。
「そこの君、危ないぞ!!」
味方の兵士に声を掛けられて、敵兵に気付いた空弧は慌てた様子を見せずに、空気を少し吸うと敵兵に向かって口を開いた。
『わ!!!!』
“パン!”
小さな天弧の口から放たれた声は大気を揺らし、目の前に居た敵兵は目、鼻、口と至る所から血を流していて、すでに意識があるのかどうかすら分からない状態に見えた。
「もう、いきなり襲って来るんだからビックリしちゃったじゃない。 そんな悪い子はどっか行っちゃえ!」
空弧はお祓い棒をどこからか取り出し手に持つと、目の前にいる瀕死の敵兵を殴りつけた。
“グシャ!”
独特な切り方をされている紙が付いているだけの木の棒で殴ったとは思えない音が辺りに響き、殴られたその敵兵は、その場から消えて無くなった。
「相変わらずの馬鹿力だな空弧、味方を巻き込むなよー?」
「まぁ天弧、女の娘に向かって馬鹿力って言うものじゃないわよ!! あなたも殴って上げましょうか!?」
「……さて、儂は他の場所を見て来るかな。 空弧、ここはお前に任せたぞ~?」
「あ、こら待ちなさい!」
天弧は空弧の表情が本気だと気付き、即座に逃亡する事を選んでどこかへ飛んで行ってしまった。
「もう! いつも逃げ足が速いんだから!!」
こうして外壁の上は京谷父さん達の活躍で、今はまだヴォーパリアの兵士達が街に雪崩れ込む状況は防げているが、それもいつまで保つのか分からない状況が続くのだった。
ー◇ーーー
【港町アーサリー、城門前】
「おい! このままだと破られちまうぞ! そこら辺の家を壊しても構わん、どんどん門が開かない様に積み上げろ!」
「ですが隊長、そんな事をすればこの城門は使えなくなるんじゃ!?」
「馬鹿野郎! 今はそんな事を気にするより、奴らを街に入れない事を優先しろ! 責任は俺が取ってやる、急げ!!」
「は、はい!」
だが、その隊長の的確な指示も人員不足により遅々として作業が進まない中、閉じていた城門が轟音を立てて揺れる。
「な、もしかして奴等、破城槌まで持ち出して来たのか!?」
隊長の驚愕する声を無視して、城門は何度も轟音を響かせる。
“ドォーーーン、ドォーーーーン”
「不味い! 全員で城門を押さえるんだ、破られるぞ!!」
城門を塞ぐための作業をしていた兵士達も、慌てて隊長の指示に従い抑え込むが、徐々に城門の閂にヒビが入り始め、それも長く保たずに真っ二つに折れてしまい、勢いよく城門が開かれてしまった。
「ひゃっはーーー!! 俺達が一番乗りだ! 蹂躙だーーー!!」
「「おおおおーーー!!!」」
城門を抜けて雪崩れ込むヴォーパリアの奴等を見た隊長が吠える。
「全員決死の覚悟で食い止めろーー!! ここを抜かれたら無辜の民が大量に殺されるぞ!!」
『「おう! 来るなら来いや、蛮族共!!」』
今まさに接敵すると言う時に、凛とした声が辺りに響き渡った。
「ルフちゃん、あいつ等を押し戻して。 出来る?」
「あい! 【暴風招来】飛んでっちゃえ!」
そんな言葉が辺りに響くと、城門を超えて来て街中に進入していた大勢の敵兵が暴風によって押し戻されて行き、気付いた時には、かなりの距離を吹き飛ばされてしまい、城門前に居たはずの敵兵は、すっかり居なくなっていた。
その隙に兵士達は破城槌を城門内に引き込み、再び城門を固く閉じる事に成功するのだった。
「吹き飛ばしただけなので時間稼ぎにしかなりませんが、立て直すくらいの時間は稼げるはずです。 予備の閂はありますか?」
「いや、まさか閂を破壊されるとは夢にも思わなかったから予備は無い……どうしたものか」
そう尋ねたジェーンは、隊長が首を振るのを見て、先程兵士達が引き込んでいた破城槌を見た。
「隊長さん、あの破城槌を切断して、新たな閂として使う事は出来ませんか?」
「出来無くは無いが、制作している間に奴らが戻って来るから無理だ……」
「その間は私が時間を稼ぎますから、急いで閂の制作をお願いします」
「君1人でか!? 無茶だ!」
「ふふ、さすがに私1人で抑える訳ではありませんよ。 ほら、私の仲間が到着しました」
ジェーンの指挿す通路の陰から、息を切らせて走って来る菊流とガルボが現れた。
「ジェ、ジェーンちゃん、走るの速すぎるよ……、やっと追いついた。 ……えっと、この不穏な空気が漂ってるって事は、危ない状況だったりする?」
「はい、実は……」
私は菊流姉に城門が破られて閂が破壊された事、そして破城槌を使い新たな閂を作る時間を確保する為、城門の外に出て時間を稼がないといけない事を説明すると、後から追いついて来たガルボさんと一緒に城門の外に出て戦闘する事を決めるのだった。
「閂の制作が完了したら教えて下さい、私達も中に入ります」
「分かった、君達に負担を押し付ける様で申し訳無いが頼む……」
「任せておけ、それじゃあ俺達は城門の外に出るから、後からしっかりと閉めてくれよ」
「ご武運を……」
私達が城門の外に出ると、ユックリと城門が閉まって行くのだった。
さあ、火の精霊となった私の初めての本格的な戦闘だ、悪いけどあんた達には実験台になってもらうからね!!
ここまでお読み下さりありがとうございます。
とうとう港町アーサリーの防衛戦が始まり、これから様々な強敵が現れて来る事でしょう。
次回は“暗躍する者達”で書いて行こうと思っています。




