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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
9章・神聖国ヴォーパリア。
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ガルボの誓い。

 朝まで海岸で酒を飲み交わした俺達は、酒臭い体を洗い流すために朝からやっている銭湯があったので、そに行き汗を洗い流す事にした。


 何故酒臭い体を洗い流す必要があるのか、それはガルボをリリスに会わせるためだ。

 ガルボも彼女に会いたがっていると言うのもあるが、四天王であるガルボに会う事でリリスの記憶が刺激されて、何かを思い出す事を期待しての事だった。


 だが酒臭い体で会いに行っても拒絶されるかもしれない、そうなってしまっては意味が無いと思い、こうして2人して銭湯に来ているのだ。


「ふぅ~~。 朝まで飲み明かした後に、海の見える銭湯で友人と一緒に入る風呂ってのも、風流で良いと思わないか、共也」

「そうだな、こうやって朝日が昇るのを銭湯で眺めるのも悪く無いな」


 俺とガルボが一緒に湯に浸かりながら、徐々に登って行く朝日を眺めていると、ガルボがリリスの事を尋ねて来た。


「なぁ共也、……10年前のリリスは出奔した俺の事を恨んでると思うか?」

「洗脳が解ける前のリリスなら分からないが、俺達と一緒に行動したリリスなら恨まないと思うぞ? 戦争を初めてしまった事も凄く後悔していたからな、きっとお前の事も恨んで無いさ」

「そうだと良いんだが……。 正直に言うと、俺はリリスに会うのが怖い……。 俺の顔を見た事で少しでも記憶を取り戻すならそれでも良いんだ。 でも、もし記憶を取り戻した事で、恨み言を言って来るようなら、俺は自分を許せそうに無いんだ……」

「ガルボ……」


 湯で顔を洗ったガルボは顔を下に向けて、水面に映り込む自分の顔をジッと見続けていた。


「それもあくまで予測でしかないんだ。 ガルボ、勇気を出してリリスに会ってみてくれないか?」

「会う、いや、会わせてくれ……。 今度こそ俺は、どれだけ嫌われようとリリスを見放さない……」

「その意気だよ。 風呂から上がったらダランさんが、きっと美味しい朝食を用意してくれているだろうから、宿屋に戻ろう。 きっとリリスもそこにいるはずだ」

「ああ、夜はお前と酒ばっかり飲んでたから、腹減ってしょうがなかったんだ、宿屋に戻ったら沢山食うぞ!」

「美味しい朝食を求めて宿屋に向かいますか」

「良し! 俺は先に上がっておくぞ、毛を乾かさないといけない時間があるからな!」


 ガルボが湯舟から立ち上がった姿を見た俺はつい指を指して笑ってしまった。 だってガルボの全身の毛が、湯に濡れた事でピッタリとくっ付いてしまい一回り小さくなってしまっていたからだ。


 俺がガルボの事を笑っていると、ガルボも自分が今どんな状態なのか分かっているらしく、苦笑いしながら湯舟から出たのだが、俺は見てしまった。

 湯舟から上がったガルボの股間には、成人男性の腕程の太さの何かが付いているのを……。


 何を見ているのを分かっているのか、ガルボを見ると先程まで苦笑いをしていた顔を変え、口の端を持ち上げてニヤリと俺を見て笑っていた。


 ちくしょうめ!!!


 銭湯から上がった俺とガルボは服を着ると(ガルボは今回だけはピンクのレオタードじゃなく普通の服)、宿屋ダランに向かって歩いていたのだが、朝市からはヴォーパリアの奴らに対する噂話しが、そこら辺に集まっている人達から聞こえて来ていた。


「ヴォーパリアの奴ら、俺達が神聖国の下に付かない場合は、年若い嫁や娘を攫った上で、この都市を廃墟にすると行って来ているらしいぞ……」

「そんな無茶な! 奴らは大人しく支配下に入ったとしても、若い女性を無理やり攫って行くと噂話で聞いた事があるぞ」

「いや、噂話じゃなくて本当の事らしい……。 王都にいる仲間が目撃したんだが、老いた両親を持つ女性がザックに連れて行かれるのを目撃して、それ以降帰って来ていないらしいぞ……」

「可哀想に……。 じゃあ今頃その娘は……クソが!」


 市場から聞こえて来るそんな話を聞いた俺が苦い顔をしていると、ガルボが歩きながら話し始めた。


「共也、お前も聞こえて来ただろう、これがあいつ等の神聖国ヴォーパリアのやり方なんだ……。 もし、今、このタイミングで俺達がこの街を離れた場合、大した抵抗も出来ずに、数の暴力によって蹂躙されて、この港は廃墟とされてしまうだろう……。 俺が何故待ってくれ、と言ったのか分かってくれたか?」

「ああ……。 長くこの街に居るガルボに聞きたいんだが、俺達を除いて、お前の目から見て戦力になりそうな奴はいないのか?」


「そうだな……。 お前達と同郷の力也とアストラって言う門兵、そして、その嫁である魔装兵のココア、宿屋のダランとサーシャ、訓練された兵士を相手に戦う事を考えた場合、戦力になりそうなのはこの5人くらいか……」


 俺は一部聞き捨てならない言葉がガルボの口から出て来た事に気が付いて、聞き直した。


「ガルボ、もう一度。 誰が戦力になるって?」

「力也とアストラ……」

「その次!」


「……アストラの嫁の魔装兵ココアの事か?」

 アストラの嫁である魔装兵ココア……、知り合った頃は全く女っ気が無かった彼奴に一体何があったんだ!?


「アストラの奴、結婚したのかよ!? しかも、門の所で会った時、俺に何も言わなかったぞ!?」

「そりゃ、戦争が終わってから10年経つんだぞ? 今は魔族との関係も良好だしな、異種族婚するやつくらい出て来るさ。 まあアストラとココアは異種族婚第1号だったから、ルナサス主導の元、盛大な結婚式を挙げられてたけどな」

「こんな世界になっても、恋愛脳は健在かよ……」

「アハハ! 俺も誘われて見に行ったんだが、主役の2人よりルナサスの恍惚とした顔は見ものだったぞ!?」

「何となく予想出来てしまうから嫌だな……」


 俺は歩きながらルナサスのネタで笑い合っていると、すぐに宿屋ダランに到着した。

 だが、先程までの笑顔は何処かに行ってしまったガルボは、緊張の面持ちで宿屋の入り口に設置されてあるドアを開いた。


「お、ガルボに共也、お前等2人は外に出てたのか。 そろそろ朝飯が出来るから、食堂の方に移動して席についててくれ」

「ほら、ガルボ」

「あ、ああ…………」

 俺達が食堂に入り辺りを見回すと、目的の人物であるリリスは、すでに椅子に座った状態で足をプラプラさせながら、食事が来るのを待っていた。


「リリス」

「ん?」

 金髪、金目のリリスがこちらを振り向いた事で、俺の後ろに立っているガルボが彼女の視界に入った。


 どうだ?


「共也さん、私に何か用?」

「俺じゃ無くて、後ろに立っている人物がお前に用事が有ってな」

 リリスは不思議そうに、俺の後ろで硬直して立っているガルボを金色の目でジッと眺めていた。


「よ、ようリリス……。 久しぶりだな、俺の事が分かるか?」

「…………申し訳ありません、私は今過去の記憶が全く無い状態でして。 あなたと私は元々知り合いなのでしょうか?」

「ほ、本当に分らないのか? 俺だ、ガルボだ!」


 ガルボと言う名前を聞いたリリスは、小さくその名を呟く。


「ガル……ボ……さんですか。 その名を聞いた時に何故か懐かしいと感じましたが、ハッキリとは思い出せそうに無さそうです……すいません」

「そうか……でも懐かしく感じていると言う事は、俺の名で少しは記憶を刺激する事が出来たのかもしれねえな」

「そうだと嬉しいです。 ガルボさんの名を聞いた時に、頭に過る映像が有ったのですが、あり得ない映像だったのできっと気のせいだと思います」

「リリス、どんな映像だったんだ? お前の記憶を蘇らせる一助になるかもしれないんだ、俺達に教えてくれないか?」


 俺がリリスの肩を掴み、真剣な眼差しを向けていると、不思議そうに頭に過った映像を詳しく教えてくれた。


「あり得ないと思うのですが。 ガルボさんの名前を聞いてまず頭に過ったのは、フリルの付いたピンクのレオタードを、大きな部屋の中で何着も並べて満足そうに笑っているガルボさんの映像でした。 あり得ませんよね、良い大人の男がピンクのレオタードを飾って笑っている映像なんて」


 それは……何と言えば良いのか……。


「ガルボ? リリスがこう言ってるんだが、何か言う事は無いのか?」


 明後日の方角を向いて震えているガルボだったが、大量に冷や汗をかきながら正直に言うべきかどうか、凄く葛藤している様子だった。


 そりゃそうか……リリスの記憶を取り戻す為に、合っていると正直に答えれば、変態認定。

 違うと嘘を付くと、せっかく記憶を取り戻すための糸口を失ってしまうんだ、ガルボ、お前の取れる選択肢は多く無いぞ、どうするんだ?


 プルプルと悩んでいたガルボだが、等々ガックリと項垂れて地面に両手を付いて正直に答える選択肢を選んでしまった。


「ああ、そうだよ! お前の頭に過った映像は趣味で集めていたピンクのレオタードを、シュドルム達の前に飾って自慢している場面だよ! こんちくしょーー!!」


 良く言ったよ、ガルボ。 自分を犠牲にしてでもリリスの記憶を取り戻してやろうとする心意気に俺は感服したよ……。

 だからさリリス。 再開してから一度も見た事が無い、そんな汚物を見る様な目でガルボを見るのは止めて上げて?


 リリスは今自分がどんな顔をしているのか理解すると、慌てて普段俺達が良く見ている顔に戻るのだった。


「こ、この記憶が本当なら、確かに私とこの変態さんは知り合いと言う事になりますね。 甚だ遺憾ですが……」

「ちくしょーーー!!」


 床を叩いて悔しがるガルボが、あまりにも可哀そうになって来たので、リリスにこのガルボはオートリス国の四天王の1人で長年国の手助けをして来たが、戦争を引き起こした事を契機に出奔して行方をくらましていた事を説明すと、リリスは先程の無礼を詫びたのだった。


「ガルボさん、先程の無礼な言葉を詫びさせてください。 それに10年前の私はグロウと言う魔王に洗脳状態にあったらしいので、見限られる事は当たり前の事だと思います。

 そして、その魔王グロウによって、オートリスに住む全ての国民が洗脳されてしまい、全面戦争に突入した事も……。

 そんな中あなただけでも洗脳の脅威から逃れ、最終決戦では反抗勢力として戦ってくれた、この事に感謝こそすれ恨む事は絶対に無いです。

 先程あなたの名前を聞いても私の胸の内から恨む気持ちは一切沸いて来なかった。 だからあなたの事を過去のリリスは恨んではいない、これだけは断言する事が出来ますよ?」


 ガルボはリリスから、その様な言葉を掛けられるとは思いもよらなかったのか、目から大量の涙を流して、椅子に座るリリスの膝に顔を乗せて嗚咽し続けていた。


「リリス、リリス! 今度こそ、今度こそはお前を様々な脅威から、俺が守り切るからな!! だからお前も俺を頼ってくれ!! うあぁぁぁぁ~~~!!!」

「ガルボさん分かりました。 これからはあなたを頼りにさせて頂きますね」

「ああ、ああ!!」


 嗚咽しながら泣きじゃくるガルボの背中を優しく撫で続けるリリスは、知り合いに向ける笑顔を彼に向けて微笑んでいた。


 少しでもリリスの記憶が戻って良かったし、ガルボも長年の懸念も払拭する事が出来て良かった。 これからもリリスの記憶を少しづつでも取り戻せて行けたら良いが……。




ここまでお読み下さりありがとうございます。

今回の事で記憶の戻らない為、戦闘力の無いリリスの護衛としてガルボが付く事になりました。


次回はヴォーパリアの連中が街に戦線副弧をしに来る話となります。


次回は“降伏勧告と戦闘開始”で書いて行こうと思っています。


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