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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
9章・神聖国ヴォーパリア。
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伝えたい事。

 夜空に星々が輝き、海から波が優しく打ち寄せる海岸で、ガルボは俺を待っていた。


「来たか、共也」


 向き直ったガルボさんの姿に、俺は目を疑った。


「ガルボさん……」

「何だ?」

「何でフリルの付いたピンクのレオタードを着て、海岸に佇んでいるんですか……」

「…………恰好良いじゃないか、オリビアからも好評だったんだぞ?」


 ……あまり深く聞くのは危険な予感がしたので、俺は宿屋で言われた事を尋ねる事にした。


「ガルボさん、宿屋で俺の耳元で呟いた事は、一体どう言う意味なんだ?」

「ガルボで良い。 お前に言った通りだよ。 俺は与一が何処にいるのか知っている」

「それは本当の事なのか! 与一は何処にいるのか教えて下さい、みんなが心配しているんです!」


 与一の居場所を教えて貰おうと思いガルボに頭を下げるが、彼は与一の場所を答えるどころか微動だにしない。


「お前は与一の居場所を、本当に教えて欲しいのか?」

「当たり前じゃないですか! 彼女は俺達の幼馴染なんだ、教えて欲しいに決まっているじゃないか!」


 含みのある言い方ばかりするガルボに対して、俺はイラついてしまい、つい強い口調で言い返してしまった。


「お前がそこまで与一の居場所を教えて欲しいと言うなら、教える事に対して抵抗は無い。 だが、その前にお前の強さを俺に見せてくれないか?」

「強さを見せる事と、与一の居場所を教える事に何の関係も無いじゃないか!」

「いや、ある」

「………あんたが何を言いたいのか分からないから、ちゃんと説明してくれ。 でないと、味方かどうかも分からないあんたに、強さを見せる事はしたく無い」


「確かにそれは当然の理由だな。 …………まずお前に聞いておきたい事があるんだが、10年前の戦争の途中に、与一と別れた後から彼女が行方不明となっている。 お前の認識はそれで間違っていないか?」

「あぁ、俺が知っている話しの流れはそれで合ってる」

「そうか……。 与一はな……」


 ガルボは、与一が氷魔将コキュートスと戦いスキルによって氷漬けにされてしまった事。 そして、完全に凍りつく前に、伝言を頼まれた事を話し終わると、格闘術の構えを取った。


 与一の伝言を伝えるだけで、何故腕試しをする必要があるんだよ……。


 そんな俺の考えている事を見透かしたのか、ガルボが厳しい言葉を投げかけて来る。

「共也、俺に実力を見せる事に抵抗があるみたいだがな、与一は最後までお前の勝利を信じていたぞ? その想いを知ってなお、俺に実力を見せる事すら躊躇うなら、元居た場所に帰る事を勧めるよ。 それがお前にはお似合いだ……」

 

 そこまで挑発されたなら、俺もさすがに引く事は出来ない……。


「分かった、でも怪我をしても文句言うなよ……」

「ハッハッハ、元とは言えオートリス4天王の1人であるこのガルボを相手に怪我を心配しろか……お前も俺の事を舐めてんじゃねえぞ!!」

 その言葉と同時にガルボは俺に突っ込んで来て、拳を振り抜いた。


(速い!)


 俺はカリバーンを急いで抜き放つと、樋に腕を添えてガルボの攻撃を受け止めたのだが、あまりの拳打の威力に後ろに後退させられてしまった。


「上手く受け止めたじゃないか、だがその程度じゃまだ認める訳にはいかねえな。 何をしても良いから俺にお前の実力を見せてみろ!! じゃないと命を懸けてお前の為に戦った与一が報われないぞ!!」


 お前が……お前が与一の事を……。


「お前が与一の事を、語るな!! 【水刃】【付与魔法:水】」


 水の刃をガルボに飛ばし、その上でカリバーンに薄く水を纏わせて切りかかる。


「『獣神技・神速打』」

 “パパパパパァン!”


 目に見る事も困難な速度で拳を繰り出し、全ての水刃を叩き落したガルボだったが、技を繰り出した影響なのか、ほんの僅かに動きが鈍った隙を付いて俺が切りかかると、ガルボはお見通しとばかりに水を纏っているカリバーンを白刃取りしてみせた。


「温い温い! 付与魔法で水を纏っているみたいだが、俺には効かんぞ!」

「そりゃ、水魔法を付与してるからと言ってガルボに通用するとは思って無いさ」

「ほい? この先があるって事か見せてみろ共也!!」

「言われなくても見せてやるよ!!【雷遁+雷刃】」

「な! ぐがががががあああああぁぁぁぁぁ!!!」

 カリバーンの白刃を受け止めていたガルボは、纏っていた水を伝い雷撃が容赦なく襲い掛かる。


 雷撃を受けたガルボは痺れによって、剣を受け止めている力が、ほんの僅かだが緩んだのを見逃さずに俺は剣を振り抜いた。


 完璧に切り裂いたと思ったが、ガルボは雷撃によって所々が黒く焦げて煙を立ち昇らせているが、後方に飛び退いたらしく剣による一撃を綺麗に回避されていた。


「はぁ、はぁ、まさか雷による攻撃2連発とはな……。 どうして剣に水を纏わせているのか不思議に思っていたが合点がいったぜ。 だが、さっきの一撃でお前の総合的な強さは何となくだが分かった」

「ならこれで終わりで良いか?」

「いいや、確かにお前は強い。 だが、それは本当にお前自身の力なのか?」


 確かにガルボの言っている事は正しい……。 俺が持っている様々なスキルは、共生魔法で絆を紡いで来た人達に貰った力だ。


「ガルボ、お前は俺自身の力を示せ。 そう言いたいのか?」

「そうだ! そして俺を満足させてみろ!」

「分かった……。 だが、その前に」

 俺は小姫ちゃんから預かっていた収納袋の中から、緑色に輝く中級ポーションを1つ取り出して足元に置いた。


「その色は中級ポーションか、そんな物を取り出して足元に置くとはどう言うつもりだ?」

「これはあんたが死なない様にするためのポーションだよ。  もし死なれでもして、与一の情報を貰えませんでした、だと俺が困るからな」


 俺の言葉を聞いてガルボは、その獅子の顔を凶悪に歪ませとても楽しそうに笑っていた。


「良いね、良いね! オリビアにさえ勝ち切った俺を殺しかねないか、共也、お前自身の力を俺に示してみろ!」

「ああ、死ぬなよガルボ」


 俺はカリバーンを鞘に仕舞むと、用心の為に持って来ていた雷切を手に取ると、居合の構えを取った。


「ほう、見た事が無い変わった構えだな、で、俺はお前が攻撃してくるのを待っていれば良いのか?」

「どっちでも良いが……。 いや、俺から攻撃するよ……行くぞ」

「来いや!!」

「ふぅ~~~。 …………『神白居合術・無拍子』」

 “チン”


 鯉口を切る音をさせた俺は一瞬でガルボの足元まで移動して、雷切を一瞬で振り抜いた。


「は! なんだよ、お前は本気を出せばこんなに強いんじゃないか……。 久々にいい勝負が出来て満足出来たよ……ぐは!!」


 ガルボの胸に横一文字に切れ目が入り、そこから大量の赤い血が溢れ出した彼は仰向けに倒れ込んだ。


「クックック、世界は広いなぁ。 まさかあれだの速度で打ち出す剣術が存在するとは、思いもよらなかったよ……完敗だ」

「何を言ってるんだよ、ガルボあんたはその速度に反応して受け止めようとしてたじゃないか、俺の方こそ、刀を止められるのかと思って肝を冷やしたんだからな?」


 俺は事前に取り出して足元に置いていた中級ポーションを手に取り、仰向けに倒れ込んでいるガルボの胸にかけると僅かな時間で傷が塞がって行った。


「負けは負けだよ。 共也、10年も経ってしまったが、今こそ与一の伝言を伝えよう。 座ってくれ……」


 俺はすっかり怪我が治り、傷跡さえなくなったガルボの横に座り、小波の音が心地よく響く海を眺めながら、彼の言葉を待っていた。


「与一がコキュートスのクソったれのスキルで凍らされた所までは話したな。 その時俺は他の仲間への伝言を聞くと言ったんだがな。

 共也、与一はお前にだけ伝言を残したんだ『ごめんなさい、あなたとの約束を守る事が出来なかったけど、私はあなたをいつ迄も愛しています』……これが彼女の最後の時間でお前に当てた伝言だ……。 お前はこの伝言を聞いて、どうしたい?」


 俺は両手で顔を覆いいつも飄々としている与一の言葉を真剣に受け止めていなかった事に後悔していたが、ガルボの言葉を聞いて会いに行きたいと強く思っている自分に気付いた。


「ガルボ、俺は与一に会いたい。 そして、出来る事なら氷の中から与一を解放してやりたいが……、それが叶わないなら、永遠に氷漬けにされたままの人生を……終わらせてやりたい……」


「そうか……。 そこまでの覚悟を持って会いに行くと言うなら、俺も覚悟を決めようじゃないか。 共也、与一の眠る場所は俺しか知らないし、土魔法で覆い隠して見つからない様にしてあるんだ。 

 だが、案内するのは少し待ってくれないか?」

「ガルボどうしてだ?」

「これは野生の感に頼った、俺の予想でしか無いんだが……。 恐らくヴォーパリアの連中が数日の間にこの街を落としに来る予感がするんだ。 それを俺が防衛線に参加して、この街を守ってやりたいんだ……」


「…………それは確信めいた予感なのか?」

「ああ、確信に近いな……駄目か?」

「いや、そんな話を聞いたなら、俺達もこの街に知り合いがいる訳だから、他人事じゃ無い。 皆に相談してからになるだろうけど、俺達も参加する方向で話を進める事にするよ。 放置してガルボに死なれると、与一の眠る場所が分からなくなるしな」

「すまない……恩に着る」


 俺は収納袋の中から1本の酒瓶を取りだして、ガルボに突きつけた。

「飲めガルボ。 仲間になる以上そう言う湿っぽい事を言うのは止めないか? お前が俺を挑発していたのも、与一の想いを託すのに足る人物かどうか、見極めようとしていたのは分かってるし、お前が全力で戦っていなかった事も知ってるよ」

「なんだ、バレてたのかよ……んぐ、プハァ~~。 お前も飲め共也!」

「当たり前だ、京谷父さんにどれだけしごかれて来たと思ってるんだ……んぐ、ふぅぅぅ~」


「あの優男がお前より遥かに強いってのか?」

「あの人の足元にも及ばないよ……。 あの人を相手にする場合、スキル無しで戦うと数秒も立っていられないんじゃないかな……」

「マジか……。 お前の話を聞いて手合わせをして貰おうと思っていたが、悩む所だな……」

「戦ってみても良いんじゃないか? 多分プライドをズタズタにしてくれるぞ?」

「止めてくれよ。 10年前にリリスを裏切ってしまった事で、当時は相当凹んでたのを、最近やっと持ち直して来たんだからな……」


 そうか、オートリス国の元四天王って事は、リリスの事も知ってるのか。


「なぁ、ガルボお前に言わないといけない事があるんだが、聞いてくれるか?」


 俺は、元シンドリア王都で大きく成長したリリスを保護している事を伝えると、ガルボは星々が輝く空に顔を向け、両手で覆うと大粒の涙を流していた。 


「う、う、う、リリス……生きて………」


 俺はそんな泣き続けるガルボの背中を、夜が更けるまで撫で続けた。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

今回はガルボと共也の話しになりましたが、いかがでしたでしょうか。


次回はヴォーパリアの連中がアーサリーに攻めて来る話しにしようと思うのでお楽しみに?


次回は“無茶な要求”で書いて行こうかと思っています。

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