力也との再会。
港町アーサリーに向けて出発した俺達は、カバレイル領の関所を抜けると、俺はオリビアさんから預かっていた手紙を開いて読み始めた。
だが俺は手紙を読み終わると、手紙を折りたたみ盛大に溜息を吐いた。
「ふぅ~~~……」
「共也さん、オリビアさんからの手紙を読んでいたみたいですが、そんな溜息を吐くなんて何が書かれていたんです?」
俺は先程まで読んでいたオリビアさんからの手紙をエリアに手渡すと、馬車の奥に積まれている樽の1つの前に腕組みをして立つのだった。
手渡した手紙を読み進めていたエリアも、俺の行動に苦笑いをして事の成り行きを見守るのだった。
「ノインちゃん、レイル辺境伯領の関所は超えたよ? そろそろ、その樽から出て来たらどうだい?」
“カタン”
言い当てられた事に驚いたのか、樽が少し動いた音が馬車の中に響いた。
『……に』
「に?」
『ニャ~~~……』
「…………そうかそうか、その樽の中には猫が入っているのか、ってそんな訳あるか! さっさと出て来ないと街まで引き返してバリスさんに引き渡すよ?」
『で、出て行きますから、それだけは許して!』
余程バリスさんの元に送り届けられるのが怖いのか、慌てて樽の上部を開けて出て来たノインちゃんだったが、この状況が相当不満なのか思い切り頬を膨らませていた。
「私の完璧な潜入術を見破るなんてやりますね。 共也さん、そんなあなたを私の兄と認めて上げましょう! 嬉しいですよね?」
…………この娘と会って間もないが、相当変わった娘だってのは分かった……。
「エリア、さっきの手紙を貸して」
「はい、どうぞ」
「ノインちゃん、これはオリビアさんからの手紙だから、君も読んでみると良いよ」
「オリビア母さんからですか? 拝見します」
オリビアさんからの手紙を読み進めるノインちゃんの目から徐々に涙が溢れ出して来ていて、持っている手紙を濡らしていた。
オリビアさんからの手紙を胸に抱き締め、ノインちゃんは俺達に頭を下げて謝罪し始めた。
「皆さんの命を懸けた旅に、黙って付いて来てしまい申し訳ありませんでした。
私がこんな事を言うと図々しいと思われるかもしれませんが、出来ればで構いません。 私をあなた達の旅の仲間として、正式に同行させていただけませんでしょうか……。 もしも、駄目だと言われるなら大人しく街に戻ります。 ですから一考していただけませんか?」
馬車の中に居る皆は、俺がどう判断するのか見守っていたが、俺はオリビアさんの手紙を読み終わった時点で、この娘を預かる事を決めていた。
「楽しい事ばかりじゃないかもしれないけど、それでも良いなら俺達と一緒に行くかい?」
「うん、行く。 各地にあるギルド支部との交渉は慣れている私に任せて!」
「その時が来たら、君に任せると思うから頼りにしているよ」
「うん、共也兄さん、これからよろしくね」
嬉しそうに微笑むノインの胸に、抱かれている手紙にはこう書かれていた。
『共也ちゃん、ノインはバレていないと思っているみたいだけど、馬車の後方にある樽の中に隠れて潜入しているはずよ。
私達に黙ってあなた達に付いて行こうとするなんて、本当に困った娘……。
だけど私に取っては、バリスちゃんとの間に生まれた大切な娘なの。 そんな大切な娘が、自分の意思で、あなたに付いて行こうと決めた事を私は尊重して上げたいと思っているの。
だからね共也ちゃん、もし、ノインが旅に付いて来れないと判断出来たら、近くの街で別れても良いけど、付いて来れると思えるならあの娘に世界を見せて上げて欲しいの。
お願い共也ちゃん、お姉ちゃんになるあの娘の成長の手助けをして上げて。
ノイン、今この手紙を読んでいるんでしょう? あなたが自分で決断した事なのだから最後まで投げ出さずにやり遂げてみなさい。
私達はあなたを、何処にいても愛しているわ。 どれだけ時間が掛かるか分からないけれど、無事に帰って来たら、立派になったお姉ちゃんとして、この子の頭を撫でて上げてね。
オリビアより愛を込めて。』
読み終わった手紙を、ノインは大事そうに収納袋の中に仕舞っていた。
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「イリス姉さん、タケちゃんの背中に一緒に乗ってますけど、迷惑じゃないですかね?」
「ん~~。 タケちゃん、2人分の体重はやっぱり重い? 重いなら私は馬車の方に移動するけど」
(大丈夫だよ~。 むしろ2人は軽すぎるよ。 ノインちゃん、ご飯をちゃんと好き嫌いせずに食べてる?)
「この疲弊しきった世界の人間で、好き嫌いする人なんていないと思うよ。 むしろそんな人いるの?」
(だってさ、イリスちゃん)
「…………野菜って草じゃん……」
「イリス姉さん……。 しょうがないな、時間がある時に美味しい野菜料理を作って上げるから、ちゃんと残さずに食べ切ってね?」
「え? 嫌!」
あまりにもキッパリと断られたノインは、少しの間何を言われたのか分からずに呆然としていた。 だが、徐々にイリスに言われた事を理解し始めた事で、額に青筋が浮かび上がっていた。
「…………ちゃんと食べてくれないと共也兄さんに報告して、あとでディアナ様に言ってもらうよ?」
「それは卑怯じゃない!?…………分かったよ。 でも美味しく無かったら、次から食べないからね……」
イリスがノインの提案に折れてしまい、野菜料理を食べる約束を取り付けたノインは、パッと笑顔となり嬉しそうにしていた。
「私に任せて! 飛び切り美味しい野菜料理を、イリス姉の為に作って上げる!」
(その料理、僕にも食べさせてねノインちゃん)
「良いよ、タケちゃんにも作ったげるね!」
3人のやり取りを見ていた俺達は、ノインが俺達と上手くやって行く事が出来そうだったので、胸を撫で下ろすのだった。
「共也ちゃん、ノインちゃんが私達と仲良くなれそうで良かったね。 最初はどうなるか不安だったけど……」
「やっぱりそう思うよね。 だけど今更1人でレイル領に帰らせるのは、さすがに可哀そうだと思ってたし、本当に安心したよ」
レイル領の関所を抜けてから、俺達はヴォーパリアの奴等との接触を避ける為に、一旦レイル領を南下して海に出ると、そこから港町アーサリーを目指して海岸沿いを西に進んでいたが、すでに2週間近く経っていた。
「菊流、見覚えがある場所ってまだ無いよな?」
「うん。 まだ見覚えがある地形は無いね。 ジェーンちゃんも見覚えがある場所があったら教えてね」
「はい。 少し遠回りしましたけど2週間も移動してるんですから、そろそろ港町アーサリーが見えて来てもおかしく無いと思うんですけどね」
「やっぱりそうだよね、どこかで道を間違えたって事は無いだろうし、まだまだ先なのかな……」
俺達が別の道を進もうか相談していると、重装備を纏った人物が海に足を浸けた状態のまま、青く輝く重そうな斧を素振りしている姿が目に入った。
あんな重そうな斧を良く素振り出来るな……俺には無理だな。
俺の視線の先にいる人物に気付いた皆がそちらを見ると、ジェーンとノインが揃ってその人物の名前を口にした。
「「力也さん、こんな所で何をしてるんですか!?」」
2人の声に気付いた力也さんは、こちらに振り向くと、大きく手を振って答えてくれた。
「ジェーンちゃんと……君はバリスさん達の娘のノインちゃんか、大きくなったな! 俺が知ってるのはこんなに小さかった頃で」
「その話を今しなくて良いですから! まずはこちらの質問に答えて下さい!!」
顔を真っ赤にして、その先を言わさない様にするノインは、力也さんに何故ここに居るのかと言う問いを答えさせようと必死だった。
自分の過去を、他の人に暴露されるのって恥ずかしいもんね。
「お、おう……、実はなヴォーパリアの奴らがアーサリーに来て街の皆に、いい加減にヴォーパリアの支配を受け入れろと言い出してな、街の周囲を大勢の兵士で取り囲んで来たんだ」
「街の皆は無事だったのですか!?」
「ああ、その時は何もせずに暫くすると帰って行ったんだが。 ヴォーパルリアに帰った連中から、後日返事を聞きに来るからどちらに付くのか決めておけ、と伝言があったらしく、街のお偉いさん方が恭順派と徹底抗戦派で街が割れてしまってな……」
「そんな事が……。 力也さんがこんな所で訓練していると言う事は、街の人達は徹底抗戦の方向に舵を切ったと言う事ですか?」
「…………そうだ。 グランク王は亡くなったが、クレア様もカバレイル辺境伯領で頑張っているのを皆知っているからな。 恩あるシンドリア王国の名を捨てる気は無いらしい」
ノインは力也の言葉を聞いて、これから戦場になるであろうアーサリーに向かって良いのか悩んでいるようだったが、俺達の答えは最初から決まっていた。
「ノインちゃん、悩む事は無いよ。 俺達はヴォーパルリアを壊滅させる為に動くと決めたんだ、前哨戦としては丁度良いのかもしれないのだから、行こう港町アーサリーに」
「そうだよノインちゃん、共也の言う通りアーサリーに住んでる人達を助けよう!」
「はい! 行きましょう皆さん!」
皆の意見が一致して港町に向かおうとすると、力也さんから声を掛けられた。
「お前、共也って呼ばれていたけど、あの共也か?」
「えっと、あなたが言う共也がどの共也か分かりませんが、恐らくその共也だと思いますが、何か気になる事でもありました?」
「おお! そうかそうか。 いや、お前の事をガルボがずっと探していたから、名前を聞いた途端に無遠慮に尋ねてしまった、すまん」
ガルボと言う名を聞いた菊流とジェーンが反応する。
「ガルボがアーサリーにいるの?」
「ん? おお、お前はジェーンか、久しぶりに会ったがお前も美人になったじゃないか! あっはっは!」
「あ、あう……力也さん。 そ、それは今はいいでうから、今はガルボさんの話しを……」
(噛んだ……)
(噛んだわね……)
(噛んだ~~)
「うう……」
顔を真っ赤に俯いたジェーンに、力也さんは謝罪してガルボの事を話し始めた。
「10年前の戦争が終わった後、ガルボの奴は各地を旅して巡っていたらしいんだがな、たまたま立ち寄ったアーサリーでヴォーパリア達の横暴を目撃した奴はそのまま残って参戦してくれる事になったんだ。
その時に、酒に誘うとその席で共也をずっと探して旅をしている事を聞いたんだ」
その話を聞いたジェーンと菊流が首を捻る。
「ねぇ、共也、あなたってガルボと面識ってあったの?」
「いや、菊流達から名前は聞いてたから知ってるが、会った事は無いな……」
「なら何でガルボさんは、共兄を探してるのでしょう……。 力也さんは何か聞いてませんか?」
「俺も何度か聞こうとしたんだが、直接話すからって言われて、聞けて無いんだ、すまんな」
「いえ、アーサリーに今も居るなら必ず会えるでしょうし、直接聞いてみますよ」
「そうしてくれ、俺もそろそろ戻る必要があるから一緒に帰ろうぜ」
こうしてまた1人、10年前の戦争を生き残った転移者である力也さんを仲間に向かえ、港町アーサリーに向かうのだった。
ガルボが俺に何の話があるのか気になるが、今は港町をどうやって救うか考えながら馬車の歩みを進めるのだった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
今回ノインと力也が仲間となり、港町アーサリーに行く事になりましたが、そこはすでにヴォーパリアの軍隊によって動乱の気配が漂っています。
どうなるのか乞うご期待していてください。
次回は“ガルボ”で書いて行こうと思っています。




