港町アーサリーに向けて。
クレアに報告を終えた俺達は、ドワンゴ親方達の新居となる工房へ引っ越し作業の手伝いに来ていた。
「みんなが引っ越し作業を手伝いに来てくれて、本当に助かったぜ」
「ドワンゴさん、王都からここまで一緒に旅をした仲じゃないですか、水臭い事を言わないで下さいよ」
「そうだな、悪かった……。 共也、引っ越しが終わったら、お前が持っている魔剣の事で話したい事があるから、少し残ってくれないか」
「魔剣カリバーンの事ですか? 分かりました、後で話を伺いますね」
「共也~! この鎧運ぶの手伝って~~!!」
「菊流今行くから、少し待ってくれ!!」
俺達みんなで引っ越しの手伝いをした事で、そこまで時間が掛からずに終わらせる事が出来た。
「クレア様、これ程良い立地の店舗を用意して貰ってよろしかったのですか? 私達としては街の端に建てられた店舗でも構わなかったのですが」
そう、鉄志達がこの街に残ると決めた事を、クレアとレイルさんに報告したのだが。 誰も住まなくなって空き家となっていたこの店舗を紹介され、この店舗を気に入った鉄志一家が引っ越しする事となったのだった。
この流れがわずか半日と言うのだから、どれ程いきなり決まったか分かるだろう。
「優秀な鍛冶師が良い立地に居を構えるのは大歓迎ですし、鉄志さんは共也と同じ召喚者です。 少しでもアポカリプス教団の連中が手出しできない様にしたいのは、こちらの為でもあるのです。 ですので遠慮しないでください」
「…………分かりました。 では遠慮なくここに居を構えさせていただきます」
「ええ、今後の活躍を期待しています」
ニッコリ微笑むクレアに、メイド服を着させてもらったレミリアちゃんが丁寧にお辞儀をして、お礼の言葉を言うのだった。
「クレアお姉ちゃん、私達家族を受け入れてくれてありがとね♪」
「か、可愛い……。 レミリアちゃん、もう一度! もう一度クレアお姉ちゃんって言って!!」
「クレア……お姉ちゃん?」
「そうよ! クレアお姉ちゃんだよ!!」
感激してレミリアちゃんを抱き締めるクレアだったが、レミリアちゃんの着ている服にはどこか見覚えがある。
「あれ、レミリアちゃんのそのメイド服って……」
「ふふふ、菊流姉さん気づかれましたか。 そうです、10年前に私が着ていたメイド服です」
「リルちゃんずっと取っておいたんだ。 良かったねレミリアちゃん、お母さんにソックリだよ」
「本当!? 嬉しい!」
皆が会話に華を咲かせている所で、俺はドワンゴさんと鉄志に誘われて店の奥に行き、魔剣カリバーンの事で話し合いをするのだった。
奥の鍛冶場に来た俺達は扉をしっかりと閉めたのを確認すると、各自置いてある椅子に座った。
「それで鉄志、親方、この魔剣カリバーンの事で話があるって事ですが」
「ああ、共也、ディーネがスライムだった頃に、魔剣同士の融合が可能と言ってた話を覚えているか?」
「そう言えばそんな事を言ってた様な……。 親方それがこの魔剣とどう関係があるのでしょう?」
「あの話を聞いた後に儂と鉄志は、どうすれば魔剣融合が出来るのか、この10年間ずっと研究をしていたんだ。 そして、何本も魔剣を用意していた俺達は、試行錯誤の末に融合させる事の出来る条件を見つける事が出来たのだが……」
「その後の事は俺が言うよ親父」
「任せた鉄志」
そう言うと鉄志は、鍛冶場の端に置かれて布に巻かれていた1本の魔剣を取り出して、俺に見せたのだが。 剣全体に小さなヒビが入っていて、鍛冶に関して全くの素人である俺が見ても分かる位に、その魔剣は死んでいた。
「鉄志、その魔剣は死んでいるのか?」
「ああ、唯一の成功例がこれなんだが、融合が成功した途端にヒビが入ってただの鉄の塊になってしまったんだ。 恐らく同格の魔剣を2本用意して融合させないと、反発してしまって死んでしまうんだと思う……。 その条件を考えると、お前の持つカリバーンを強化するための必要な魔剣が見つかるか疑問でな……」
「同格の魔剣が必要って言われてもな……。 暗黒神が持っていた事を考えると、存在するのかどうか怪しく無いか?」
「俺と親父もその結論に至ったんだよ……。 だけど、もしかしたら世界のどこかに存在するかもしれないから、お前は旅の途中でカリバーンと同格の魔剣を見かける事があったら、出来る限り手に入れてくれ。 融合は俺と親父が必ず成功させてみせる!」
「…………分かった。 もし、そんな強力な魔剣を見かける事があったら何とか手に入れてみるよ」
こうして俺が持つ魔剣強化の条件を聞き終わった後は、綺麗に整頓された店内へ戻る事にしたのだった。
「あなた、お父さん、商品の陳列も終わったから確認して?」
「分かった!」
その後、商品の陳列も終わらせた俺達は、鉄志達とここで別れる事となった。
「みんな、仲間を求めて世界中を旅するのは大変だろうけど、神聖国ヴォーパリアを壊滅させる為に頑張ってくれ。 俺も出来る限りお前達に必要な武具を開発する、だから……、必ずこの旅を成功させて、生きて帰って来いよ……!!」
「任せて、共也は私が守るから!」
鉄志達に別れを告げた俺達は、レイルさんの邸宅に戻り、明日に備えて、大人しく休む事にした。
次の日の朝となり、旅に必要な物資を用意した俺達は、レイル邸宅の前でクレア達に見送りをされている所だった。
「共也、あなたに付いて行きたい所だけど、ヴォーパリアを壊滅させないともっと多くの人達が悲しい思いをしてしまうわ。 だから私はヴォーパルリアが滅びるその日まで、レジスタンスを率いてこれからも戦う。 だからね共也、この戦いが終わったら……」
クレアはその先の言葉を紡ぐ事が出来ないでいると、急に抱き着いて来た。
「今この言葉を言う事が出来ないけど……今度は私に何も言わずに居なくならないで、共也約束よ!?」
「そう言えば、クレアに何も言う事が出来ずに地球に帰ってたんだもんな。 約束するよ、今度はクレアに何も言わずに居なくならないって」
「うん……。 約束だよ……」
クレアが名残惜しそうに離れると、小姫ちゃん、風、冷が俺達の前に立って、1つの収納袋を差し出して来た。
「共也兄さん、これは私達からの餞別。 回復薬など様々な薬品が入ってるから大切に使ってね?」
「3人共ありがとう。 大切に使わせてもらうよ」
俺がお礼を言うと満足そうに微笑んでいる3人の後ろから、ジェーンが俯きながらユックリと俺の前に歩いて来た。
「あ、あの共兄……」
「どうしたんだ?」
「あのね……。 その………」
言って良いのか迷っているのか、ジェーンは口を開いたり閉じたりしていたのだが、後ろで見ていた3人がジェーンの肩を押して俺に押し付けた。
「きゃ、3人共いきなり押さないでよ」
「ジェーン、共兄さんに付いて行きたいでしょ? ずっと憧れていた人に、生きて再会出来たんだから遠慮してどうするの」
「ちょっと、こんな所で! それに私が居なくなったら、この街の戦力が……」
「舐めないで、私達双子もかなり強くなったのはあなたも知ってるじゃない。 ジェーン1人分の戦力なんて私達が埋めてみせるよ。 だからさジェーン、自分の心に正直になりなよ」
「私は……」
ジェーンは3人にそこまで言われても、未だに迷っている様子だった。
「むう……。 ジェーンが行かないなら私達が共兄さん達と一緒に行こうかな? クレア様、ジェーンがいるなら戦力的には大丈夫だよね?」
「え? ああ、そうですね、では3人は共也に付いて行くと言う事で、後で書類に記載しておきますね」
3人にウインクをされて、その意味を理解したクレアが話を合わせると、ジェーンが分かりやすいくらいに慌て始めた。
「え、や、風ちゃん、冷ちゃん、小姫ちゃん……その」
「ジェーン何か言いた事でもあるのかな? これから共兄さん達と旅をする為の準備をしないといけないから早く言って?」
「わ、私が……私が共兄に付いて行くの!! 私が共兄と一緒に旅をするの、これだけは親友の4人と言えど譲れない!!」
俺に抱き着いたまま、涙を流すジェーンの絶叫を聞いた4人はニッコリと微笑み、ジェーンの肩に手を置いた。
「ジェーン、ちゃんと言えるじゃない。 それなら、はい。 もうあなたの私物は全部この収納袋に入れてあるから、遠慮無くいってらっしゃい!」
「クレアちゃん、みんな……。 うん、行ってくる……、きっとまた帰って来るから、その時はまた話そうね?」
「もちろんだよ! 土産話を期待してるからね!!」
こうして俺達の仲間に新しくジェーンが加わり、冒険者ギルドの前で待っているはずのオリビアさんの元に向かうのだった。
“チャッチャッチャッチャッチャ……”
「タケちゃんの背中っておっきいいね~、乗せて貰っておいてなんだけど重くない?」
(イリスは軽いから大丈夫だよ~。 ここまで軽いと心配になるくらい、ちゃんとご飯食べてる?)
「お野菜嫌い………」
(イリスちゃん…………)
タケとイリスと言う珍しい組み合わせを見ながら歩いていると、冒険者ギルドの前に立派な幌馬車が1台止まっていて、その横にはバリスさんとオリビアさんが立っていた。
そして、俺達に気付いた2人が手を振っている。
だが、あれ程俺達に付いて来ようとしていたノインちゃんが2人の側に居ない所を見ると、諦めたのだろう。
「オリビアさん、バリスさん、お待たせしてしまいましたか?」
「私達も、さっきこの幌馬車を持って来た所だから大丈夫よ~~」
「そうでしたか、しかし……。 これだけ立派な幌馬車を貰ってしまって良いのですか?」
「エリアちゃん、これだけの人数で旅をするのよ? 寝る場所や物資を置く事を考えると、これでも小さいくらいよ」
「なるほど……。 では遠慮なく使わせて頂きます。 そう言えば、ノインちゃんは見送りに来てくれなかったんですね」
「まだあの娘は小さいから、旅に出る事を諦めて貰ったら怒って部屋から出て来なくなってしまってな……。 見送りだけでもと思って、部屋の扉を叩いて誘ったんだが一言も返って来なかったんだ……儂悲しい……」
ガックリと項垂れるバリスさんの肩を軽く叩き慰めているオリビアさんは、何処かばつの悪そうな顔をしていた。
んん???
「それじゃバリスさん、オリビアさん、無事に帰って来たらまた色々な話をさせて下さい」
「ええ。 あ、そうだ街を出たら手紙を見るのを忘れないでね、あなた達の旅の無事を祈っているわ」
京谷父さんが御者の場所に座り馬に鞭を入れると少しづつ動き出した。 そして俺達は2人との別れを惜しむ様に手を振り続けた。
「行っちゃったわね……」
「ああ、みんな無事に生きて帰って来てくれると良いが……ノインちゃんも最後くらい見送りに来ればよかったのにな……」
「ねぇ、あなた、報告したい事があるの、少し良いかしら?」
オリビアさんは下腹部を愛しそうに撫でながら、バリスさんに重要な報告をする為にギルドに戻って行くのだった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
共也達が港町アーサリーに向けて出発する事となりましたが、鉄志一家が抜け、ジェーンが新しく加わる事となりました。
次回は“力也達との再会”で書いて行こうと思っています。




