3日目 冒険者ギルドでの一幕ー後編
「お久しぶりですバリスさん。 今日はこの最上 共也と、花柳 菊流の両名を新しく冒険者ギルドに登録して貰おうと思って来たのですが、よろしいでしょうか?」
「ほう……。 エリア姫直々に連れて来たと言う事は、その2人が例の大規模召喚でこの世界に呼ばれた異世界人達か?」
「え?」
何故この人が、先日行われたばかりの大規模召喚の事を知っているのか。 不思議に思いエリアを見るが、彼女も目を見開き言い当てられた事に驚いていた。
「バリスさん、やはり何時大規模召喚が行われるのか、その情報を得ていたのですね」
「まあな。 あれだけの召喚スキルを持つ者を1か国に集めていたら、そりゃあ世界規模で展開している冒険者ギルドが気付かない訳が無いだろう?」
「さすがギルドマスターのバリスさん。 全国に情報網を構築済みですか……」
「一応シンドリア王都のギルドマスターだからな」
2人が真面目な会話のやり取りをしている横で、俺と菊流は笑いを堪えるのに必死だった。
それは何故かって?
それは、バリスさんの容姿が某国民漫画に出てくる、剥げた野菜星の人にそっくりだったからだ。
「ハハハ! まあ、暗い話しはここまでにしておこうじゃないか。 冒険者ギルドに良く来てくれた、我々は君達を歓迎するぞ!」
椅子から立ち上がり俺達の近くまで来たバリスさんは、筋肉で盛り上がった腕で俺の肩をバシバシと強く叩いて歓迎してくれた様だが、普通に痛い……。
「バリスちゃん叩くのを止めなさい、痛がってるじゃないの」
「おっと、すまんすまん。 ちと挨拶が丁寧になりすぎちまったな! ガハハ!」
ジュリアさんの忠告を受けて俺を叩くのを止めてくれたバリスさんだったが、エリアの凍るような視線が向けられている事に気付くと、誤魔化すように一度咳払いすると俺達をソファーに座るように促した。
「それで、今日来たのは冒険者登録と更新が目的だったな?」
「はい、私はすでに登録してあるので、共也さんと菊流さんの2人分お願いします」
「あぁ、登録しよう。 ジュリアさん、手続きの方はお願い出来るかな?」
「はい、じゃあ2人のカードを預かりますね」
2枚のスキルカードをジュリアさんに手渡すと、登録をするために部屋の外に出て行った。
登録、更新の作業をされている間に、冒険者ギルドのシステムの説明をバリスさんから受ける事になった。
「2人は知っているかもしれんが、冒険者ギルドは全国に存在している。 だから冒険者となる時に登録、そして更新をすると様々な情報がカードに入力されるため、何処の国に行ってもカードさえあれば身分証として扱われるんだ。 ここまでは良いか?」
「はい」
「良し。 あと1つ注意事項として、毎年カードを紛失する奴が一定数いるから、お前達もくれぐれも注意してくれよ? 後はそうだな、ギルドには貢献度によってランク付けされるが、それはクエストを達成した際に付与されるポイントの事を指す」
「達成度……ですか」
「そうだ。 例えば、ギルドボードに張り出してあるクエストを受注して見事達成したり、魔物などを討伐しその素材を納品したりだな。
お前達のランクが上がれば、受けられるサポートの内容も変わって来るが……。 まあ、ランクが上がればその度に説明があるだろうから、その時に担当官から聞いてくれ。 ガハハ!」
大笑いしてギルドランクに関する説明を終えたバリスさんだったが、更新作業の終えたジュリアさんが部屋に戻って来ると、彼はピタリと笑うのを止めた。
ん? ギルマスのバリスさんの方が立場が上……だよな? でも、ジュリアさんを怖がってる?
そんな予想を頭の中で考えていると、ジュリアさんがバリスさんの横に座るとニッコリ微笑む。
「バリスちゃん、そこは重要な事なんだからもっと説明しないとわからないでしょ?」
適当な説明で終わらせようとしていたバリスさんを、威圧するジュリアさん。
「ジュ、ジュリアさん。 分かった、ちゃんと説明するから攻撃的な魔力を俺に向けるのは止めてくれ!! このギルドにはあんたに逆らえる奴なんていない事を分かった上で言ってる!?」
「まぁ失礼しちゃうわ。 まるで私が、このギルドのお局様の様な言い方じゃない!」
「実際…………何でも無いです……」
「そうだろう!」と言いかけたバリスさんだったが、圧を含んだ視線をジュリアさんから受けた事で中断すると、再びギルドに関する説明を詳しく受ける俺達だった。
隣に座るエルフの監視の元、冷や汗を掻きながら説明して行くバリスさんを見ながら、隣に座るエリアに小声で話し掛けた。
(なぁエリア。 ジュリアさんって立場的にはもしかしてギルドマスターより偉いのか?)
(そうですよ。 ここに居る冒険者や職員などは全員何かしらジュリアさんにお世話になった過去がありますから逆らえないんですよ。 だから、共也さんもジュリアさんから反感を買わない様に、気を付けて下さいね!?)
(了解した!)
小声で話しているのを察知したのか、ジュリアさんがスッと視線をこちらに向けて来たので、慌ててバリスさんの説明に集中するのだった。
「っと。 これでギルドに関する説明を終わるが、この王都に関する事で何か聞きたい事はあるか? 俺なら大体の事には答えれるぞ?」
「そうですね……。 ん~。 そうだ、冒険者として活動する為には装備品や物資が必要になると思うのですが、ギルドお勧めのお店ってあります?」
「そうか。 まだ武器や防具、様々な物資も無い状態だよな……。 良いだろう。 何件かギルドがお勧めしている店舗があるから、紹介状を書いてやる」
自分の机に戻ったバリスさんは、ギルドお勧めの店舗への紹介状を何通か書いて手渡してくれた。
「武具はドワーフの親方が経営している鍛冶屋を紹介してやれる。 あとちょっと癖があるが掘り出し物が沢山置いてある魔道具屋と、旅の物資に関しては品揃えが良くて人気がある店を紹介してやれるが……店主がな~。 ねぇ……ジュリアさん」
その言葉を聞いて、苦笑するジュリアさん。
「店主は人柄も良いですし大丈夫だとは思いますが、バリスちゃんの懸念は分かるわ。 かなりインパクトが強いものね……」
「だよな~……。 まあ慣れれば良い店ではある事に間違いは無いんだから、最初の内に慣れさせるのも悪く無いのか?」
「そう言う考えもあるわね」
2人の不穏な会話に、たまらず割り込んで説明を求めた。
「あの~。 紹介しようとしている店舗って、そんなに怖い所なんでしょうか?」
「いや店員も親切、丁寧、そして店舗も綺麗で品揃えもで良い店だぞ?」
「……何処かのキャッチコピーの様な言い方が気になりますが、そこまであなた達にとって高評価なのに、何故紹介する事を躊躇っているんです???」
「う~ん、何て言えば良いのかな……。 言葉で伝わるかどうか分からんから、取り合えず今から紹介する店舗に行ってみろ。 俺が言いたかった事が分かるはずだ!!」
急に説明する事を諦めたバリスさんに、何故かジュリアさんも同意していた。
「そうですね確かに個性的な方ではありますが、悪い人では無いので敵対行動さえとらなければ大丈夫でしょう」
敵対行動って……。
「それに、前から思ってたけど、案外バリスちゃんとお似合いの相手かもしれないわよ?」
「はっ! 冗談でもやめてくれよジュリアさん、俺は綺麗なお姉ちゃんが好みなんだからよ」
この様な会話が出て来る人のお店って、まさか地球で言う所の自由業の人の店舗って意味じゃ無いよな……?
恐る恐るその店舗の名を尋ねる。
「あの、それでその人とお店の名前は……?」
「おお、そうだったな……。 名前は【オリビア=ホーク】、オリビア商店の店主だが、どんな人物かはお前達自身が見て判断してくれ」
「オリビア=ホーク……」
「あと、お前達に渡したその紹介状を出せば、いくらか割り引きをしてくれるはずだ」
「今はお金が無いので、割引してくれるのは助かります。 ではちょっと不安ですが、取り合えずその人のお店に向かってみる事にしますね」
「そうしてくれ。 ジュリアさん、お店までの地図を渡してやってくれ。 さすがに道順が分から無いだろうからな」
「そうね。 じゃあ諸々の準備をしてくるから、3人共メインホールで少し待っててくれる?」
「分かりました」
ジュリアさんは優しく微笑んでそう言い残すと、この部屋を出て行った。
「バリスさん、わざわざすいません」
「いや、俺に出来るのはこれくらいだからな。 また何か分からないことが出て来たら、俺かジュリアさんに聞きに来ると良い」
「ありがとうございます、ではそろそろお暇してジュリアさんから地図を受け取ったら、そのお店に向かってみますね」
「ああ、気を付けて言って来いよ。 それじゃ俺もお前達の説明が終わった事だし、残った書類を片付けるかな……はぁ……」
嫌々机に戻るバリスさんの後ろ姿を見送り部屋を出た俺達は、ジュリアさんに言われた通りメインホールで待っていると、鍛冶屋、魔道具屋、そして例の雑貨屋の位置が記された地図を持ってジュリアさんが来てくれた。
「ジュリアさん、地図お借りしますね」
「その地図は魔法で写生した物だから上げるわ。 だから返さなくて良いわよエリアちゃん。 じゃあ、3人とも気を付けて行って来てね?」
不穏な事を言いながら俺達に地図を手渡してくれた、ジュリアさんに礼を言い冒険者ギルドを後にした。
……あの2人が言い淀む店主って、一体どんな人なんだろう……。
冒険者ギルドの話はこれで終わりになります野菜星の人はどこかで出して見たかったので書いてみました。
次回はオリビア商店の話になります。




