行方不明者の足取り。
今、俺達はバリスさんと今後の重要な話しをする為に、ギルドマスターが使う執務室へと移動していた。
「ここだ、少し狭いかもしれんが全員入ってくれ。 これから話す事は味方だと確信が持てる相手以外には、絶対に話さないようにしてくれ。 どこにヴォーパルリアの間者が紛れ込んでいるか分からんからな」
「やっぱり世界中に支部がある冒険者ギルドでも、あの国は手に負えないんですね……」
菊流の言葉に、バリスさんは悔しそうに顔を歪め、拳を握り込んでいた。
「そうじゃねえ……。 そうじゃないんだよ菊流……」
「一体何があったんですか?」
「事の始まりは、世界中に点在する支部のギルドマスター達が集って会議をする場で、俺は暗黒神を崇めるあいつ等の危険性を散々説いたんだ……。 だが、ギルドマスター達を纏める立場のジジイ共が、俺達の意見を無視して神聖国ヴォーパリアに支部を置く事を決めやがったんだ……」
ヴォーパリアに支部を置く事に、何故バリスさんはそこまで怒りを表に出してるんだろう?
俺の疑問に思っている事が顔に出ていたのか、ノインちゃんが察してバリスさんに変わり詳しく説明してくれた。
「共也さん、冒険者ギルドが世界規模で展開している事はご存じですよね?」
「ああ、その影響力のお陰でこのギルドカードも世界中で身分証として通用するって登録する時に説明を受けたからね。 それが……あ、いや、待ってくれ。 今、ヴォーパリアに支部を置くって言ったよね、もしかして……」
「そうです。 冒険者ギルドはその影響力を持って、神聖国ヴォーパリアを1つの国として認めた事になるのです……」
「馬鹿な……、あいつ等の根っこは殺人者達の集まりですよ!? そんな奴らの国を認めるって、それがどんな意味を持っているか分からない上層部じゃないでしょうに……。 冒険者ギルドの上層部は何を考えているんですか!」
俺は味方だと思っていた冒険者ギルドの裏切りに似た所業に対して怒りが抑えられなくて、気付いた時にはバリスさんに怒声を浴びせていた。
「共也の怒りも分かる……俺も実際ジジイ共を殴り殺してこの企画を握り潰してやろうと思ったからな……。 だが、他のギルマス達に諭されて、ギリギリの所で踏み留まったんだ……正直情けねぇよ……」
「バリスさん……」
「その会議の有様を見たからだろうな、一緒に参加していたジュリアさんが、後日、辞表を出して冒険者ギルドを去ったのは……。 アポカリプス教団に何人も知り合いを殺された後だったんだ、その行為を肯定される真似を最も信頼していた冒険者ギルドにされたんだ、怒りもするさ」
「それでジュリアさんがこのギルドに居なかったんですね……」
俺が転移して来た時も、優しく微笑んでくれたジュリアさんが、そこまで怒ってギルドを去るなんて余程腹に据えかねたんだろうな……。
「それ以降、ジュリアさんの足取りはパッタリと分からなくなってしまってな……。 故郷であるノグライナ王国にも帰っていないらしいから、何処で何をしているのか……」
「バリスさん、ジュリアさんの事は、俺達が旅をしている途中で見かけたら声を掛けておきますから安心して下さい」
「頼む……」
俺は力無く椅子に座るバリスさんに別の行方不明者の情報を持っているか尋ねると、俺の幼馴染達の名前が出て来たが、ディアナ様に居場所を聞いているのでそれは辞退した。
「そうだな……後はミーリス、アーヤ、テトラの3人は魔国オートリスで復興の手伝いをしながら、ヴォーパリアに対抗する為の兵士を募っていたな」
「オートリスですか……。 あまり良い思い出は無いので敬遠したい所ですが、リリスを連れて行けば記憶が戻るかもしれないですし、行くしか無いですよね……」
ノインちゃんを抱っこして一緒にソファーに座っているリリスを見ながら、次に向かう場所の候補にオートリス国を加える事にしたのだった。
「お前達がオートリスに向かう予定なら、港町アーサリーに力也がいるはずだから、先に奴に会っておくと良い」
「そう言えば力也さんはアーサリーで用心棒をされてましたね、良くヴォーパリアの兵士達に見つからずに生活出来ている事に感心していますけど……まだ生きてますよね?」
「ノインちゃん、多分生きていると思うが……。 菊流、ダランとサーシャも、まだあの街に居るから聞いてみてくれ」
「分かりました、また美味しいお魚料理を食べる事が出来そうなので、楽しみにして向かってみますね。 共也ここから港町アーサリーまで結構距離があるけど、物資を補給しなくて良いの?」
「そうだな、何があるか分からないから、準備はちゃんと終わらせてから向かう事にしようか」
次の目的地を港町アーサリーに決め、向かう準備をする事にした。
「共也、分かってると思うがヴォーパリアの連中と関わる事があったら、すぐに逃げろよ。 すでに何人かの召喚者が殺されてしまって、次の獲物を必死に探しているって話だからな」
「はい、一度シンドリア王都の方で兵士を見たので雰囲気は分かっているので、見かけたら絡まる前にすぐ逃げますよ」
「そうすると良い。 じゃあな、気を付けて行って来い。 無事に帰って来る事を祈ってる」
俺達がバリスさんに挨拶をしてから執務室を出ると、業務に戻る為なのかノインちゃんが一緒に外に出て付いて来た。
その後、冒険者ギルドに併設されているオリビアさんの店で、旅に必要そうな物資を調達しようとするが、ノインちゃんはそのまま俺達に付いて来る……。
「ノインちゃん、俺達はオリビアさんのお店で物資の調達をしようと思うから、見送りはここまでで大丈夫だよ」
「うん?」
「んん?、冒険者ギルドの業務に戻らなくて良いのかい?」
「共也兄さん達の旅について行こうと思っていたのですが、駄目……ですか?」
はい? えっと……この娘はどうして俺達と一緒に旅へ出ようと言う考えになったんだ??
「んーー、ノインちゃん、この事はオリビアさんとバリスさんから了承を貰ってる話しなのかな?」
「まだですよ? 大丈夫ですよ、両親は私にとても甘いですからきっと許可が下りるはずです!」
俺は頭が痛くなるのを感じながら、先程まで居たバリスさんの居る執務室を指挿した。
「俺達はここで買い物をしてるから、バリスさん達の許可を取って来てから、この話をしようね?」
「簡単ですよ♪ 行って来ますから何処にも行かないで下さいね♪」
「ちょっと共兄、そんな安請け合いして大丈夫なんですか?」
「きっと大丈夫じゃないかな。 バリスさんも1児の親なんだ、許すはず無いさ」
「だと良いですけど……」
そんな会話がされているとも知らず、ルンルン気分でバリスさんの部屋へ入って行ったノインちゃんだったが、程なくしてバリスさんの聞いた事無いような怒声がギルド中に響き渡った。
ですよね~~~。
「あらあら、あの娘ったらバリスちゃんを本気で怒らせちゃったのね。 しばらく出て来れないだろうから必要な物資を決めちゃいましょう」
オリビアさんがしょうがない娘ねと小さく呟き、俺達が必要となる物資を集め始めた。
「寝袋、テント、食料、後は生活用品一式と、これで全部かしら?」
「今思い付く範囲だとそうですかね。 あ、そうだ馬車を1台都合付ける事って出来ますかね?」
「そうね、共也ちゃんと一緒に旅をする仲間は何だかんだで大人数ですものね、それはこちらで用意して上げるから、明日また来て頂戴」
「え、悪いですよ。 人数分の収納袋を貰った上に、さらに馬車までなんて」
「良いのよって言ってもあなた達が、施しをされた様で気になっちゃうならこの手紙を街から出たら読んで頂戴、それで何故ここまでの事をするのか分かって貰えるから」
そこまで言われた俺達は、その手紙を受け取って頷くしか無かった。
「そうそう、善意は素直に受け取るものよ。 馬車を明日までに用意しておくから、また冒険者ギルド前に来て頂戴」
俺達が頂いた収納袋を手にして、店を出ようとした時だった。
“ドゴン!”
「お父様の分からず屋~~~!! タコ! ハゲ! お単小茄子!! わぁ~~~~ん………」
「ノインちゃん!? 何度も言うけど扉は開ける物であって、破壊する物じゃないよ!!」
凄まじい音を響かせて、ギルドを飛び出して行ったノインちゃんを呆然と眺めていると、オリビアさんが溜息を吐き、新しい執務室の扉を取り出して手慣れた手付きで取り付け始めた。
「全くあの娘ったら……ふふふ」
楽しそうに笑うオリビアさん別れを告げて、冒険者ギルドを後にした。
その後は寄り道もせずにレイルさん達が待つ屋敷に戻ると、鉄志1人が門の前で待っていた。
「みんなお帰り、早かったな」
「ああ、ただいま鉄志、こんな所で待ってたのは何でだ?」
「…………実はな、俺達一家はこの街に残ろうと思うんだ」
「そうか……」
俺達は鉄志の決断を尊重するために理由を聞かない様にしたのだが、言い出した鉄志の方が目をパチクリして俺達を見ていた。
「誰も……文句を言わないのか? 何で一緒に旅をしないんだとか……俺はてっきり非難されるものとばかり……」
「鉄志兄様、小さいレミリアちゃんや、まだ全快していないドワンゴさん達も居るのですから、その決断を非難する人なんて、私達の中にはいないですよ……」
「そうだぞ鉄志君、君が散々悩んだであろう事は手に取るように分かるが、1番に考えないといけないのは家族が安全なんだ。 だから君は家長として、正しい決断をしんだ、だから私達に遠慮する事は無い、胸を張りなさい」
「木茶華ちゃん、冬矢さん……すいません。 そして、ありがとうございます……」
両手で顔を覆い謝罪しながら泣き続ける鉄志を、俺は肩を抱きながら慰め続けるのだった。
(少し寂しくなるけど、クレアやレイルさん達が統治しているこの街なら、鉄志達も安心して暮らしていく事が出来るだろう。)
落ち着いた鉄志と別れて、明日街を出て港町アーサリーに向かう事をクレア達に告げると、目に涙を浮かべて悲しそうな顔を俺達に向けて来ていた。
「共也、もう行っちゃうの? やっと再会出来たのに、急いで旅に戻らなくて良いじゃない!」
「クレア、私達も本当ならあなたと一緒に暮らして行きたいわ」
「エリア姉さま、それなら!」
「でも駄目なのよ、日に日に勢力を拡大させている神聖国ヴォーパリアを壊滅させるには、急いで仲間を集結させないと駄目なの。 クレア、それはヴォーパルリアに対抗する為のレジスタンスを率いている、あなたの方が強く感じてる事じゃないの?」
「それは……そうですが……」
「今は寂しいかもしれないけれど、世界に平和を取り戻した後は私達も自由になれるわ。 この意味分かるわよね?」
「あ、あう……」
顔を真っ赤にしたクレアは、もうそれ以上言う事は無かった。 その後、彼女達は俺達が再び旅に出る事を大人しく認めてくれたのだった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
鉄志一家はカバレイル辺境伯領に残る事を選択し、別れる事となりました。
次回は少し親方達の会話を書いた後は、アーサリーに向けての話しに移ろうかと思っています。
次回は“港町アーサリーに向けて出発”で書いて行こうかと思っています。




