冒険者ギルドでカードを再発行。
ミルルちゃんの手、足、口を縛っている縄をディーネが水魔法を刃の様に変化させて切ると、彼女は恐怖から解放された事でディーネに抱き着いて泣き出した。
「いきなり部屋の中に入って来たあいつ等が、私の手足を縛ってヴォーパリアに連れて行こうとしたの……。 怖かった……、怖かったよディーネちゃん!! うあぁぁぁん!!」
「ミルルちゃん……。 本当に助けられて良かった……」
ミルルちゃんを無事救助出来た事は嬉しいが、彼女を攫おうとしていた奴らの顔を、俺は10年前のシンドリア王都で何度か見た記憶がある……。
「共兄さんは気付いたみたいだね。 そうだよ、ミルルを攫おうとした連中は、私達と一緒に召喚されて成長した幼年組の奴等だよ……」
やっぱりか……。 と思うと同時に、俺はある事に気付いた。
「ジェーン、召喚された当時は結構な数の幼少組が居たはずだが、俺がここに来てから小姫ちゃん達しか会って無い気がするんだが……。 他の幼年組はどうしているんだ?」
「…………小姫ちゃん、風ちゃん、冷ちゃん、そして私の4人だけだよ……。 他の奴等は全員、ヴォーパリアに寝返っちゃった……」
「そんな……。 あれだけいた幼年組がほとんどって……」
沢山いた幼年組がヴォーパリア側に?
この時点で相当な戦力差が付いている計算になる……。
そんな俺の様子を見て、風と冷が頭を下げて来た。
「ごめんね。 共兄さん達が命を懸けて戦争を終わらせてくれたに、残った私達が皆の頑張りに唾を吐く真似をしちゃった……」
「ごめん……なさい……」
悲しそうに話す3人に、俺は首を振ってその言葉を否定する。
「3人が謝る必要は無い。 あいつ等はヴォーパリアから美味しい条件を提示されたから、向こう側に付く決断をしたんだろ? きっと3人にも勧誘が来たんじゃ無いか?」
「うん、来たよ、ぶん殴って追い返したけど」
「そ、そうか……」
絶対に2人を怒らせない様にしよう……。
「そして、あいつ等がここを出て行く前日に、神聖国に行かないかと誘われたから、頬を引っぱたいて思い直せと説得したんだけど」
「けど、私達の説得なんて無かったかのように、次の日の朝にはもうあいつ等の姿は無くなってたんだ……」
「そう言うなら猶更、風と冷が責任を感じるなんておかしな話じゃないか? あ、もしかして部屋で再会した時に、2人が言いかけた内容ってこの事だったのか?」
「そうだよ。 順番が逆になっちゃったけど、もしこの事を伝えずにいたら、人の良い共兄の事だから奴らに遭遇したら疑いもせずに近寄らせちゃうでしょ?」
確かに今後ヴォーパリアを壊滅させようとして動いているなら、暗殺の可能性も考えて動かないといけないのか……。
風と冷が言ってる事が的を得ていて反論出来ないな……。
「もし伝えていなくて皆が不意打ちされたと思うと怖かったから……。 共兄さん、伝えるのが遅くなってごめんね……」
「そう何度も謝らないでくれ。 これからは一緒にヴォーパリアを打倒する仲間なんだからな!」
「共兄さん……。 うん、ありがとう」
そうこうしていると騒ぎを聞きつけたレイルさん達が、こちらに慌てて駆けて来る音が聞こえて来た。
「ミミルーーー。 無事かーー!?」
「レイルお父様、ミミルはここに居ます!」
到着したレイルさんは、ミルルの体を調べて無事を確認すると抱きしめた。
「おお、良かった……。 皆、ミミルを救出してくれた事、本当に感謝する」
「いえ、たまたまこの庭園で話をしていたので、ミルルちゃんを助ける事が出来て良かったです」
「共也君、感謝する。 来ないとは思うが、また襲撃して来られても面倒だから、今日1日だけ大広間に全員で集まって休もうと思っているのだが。 君達はどうするかね?」
確かに1度失敗しているのに、その日にまた襲撃するのかと問われれば俺的にはNoだが、そんな心理を逆手に取る作戦も実際あるのだから、再襲撃の可能性を否定する事も出来ないか……。
ここはレイルさんの提案に乗っておこう。
「ミミルちゃんを重要人物として攫った事を考えると、諦めずに再襲撃して来る可能性を捨てきれませんから、念の為に俺達もレイルさんの提案に乗って、そこで寝る事にしますよ」
「本当かい!? 助かるよ!」
こうしてレイルさんの屋敷の大広間に集まり休む事となった俺達だったが、女性陣がミミルを守ると息巻いて場所取りを始めてしまい、収集がつかなくなってしまっていた。
「ミミルちゃんは10年前から私が知っているんですから、隣で寝るのは私であるべきです!!」
「エ、エリア様?」
「エリア、そう言う手を使って来るのはズルいわよ! 私もこんな可愛い娘の隣で寝たいってずっと思ってたんだから!!」
「木茶華様!?」
「私も一緒に寝たいんだから少しは遠慮してよ!」
「あらあら、皆少し落ち着きましょうねぇ~~? ここには彼女の親御さんもいるんですから……ね?」
「「「砂沙美さん、でも!」」」
「ん? 何か言いたい事があるのかな?」
「「「…………はい」」」
「よろしい」
「はぁ……。 菊流、あんたせっかくここに来たのに、何してんのよ……」
砂沙美母さんに怒られた3人は、大人しくミルルの周りで一緒に寝る事にするのだった。
砂沙美母さんは、ちゃっかりミルルの隣を確保していたが……。
「こうなった女性陣を敵に回すべきじゃない……。 冬矢、共也、俺達は部屋の隅で寝る事にしよう……」
「あ、ああ。 そうだな……」
女性陣がミルルの周りを固めてしまっているので、俺達男性陣はしょうがなく、壁に寄りかかりながら寝る事になるのだった。
(明日はバリスさんの居る冒険者ギルドに行って、カードを再発行して貰わないと………)
==
次の日になり目を覚ました俺は、目に飛び込んで来た光景に絶句した。
(え、エリア? 菊流? ジェーンや木茶華ちゃんまでいる……。 昨日は確かにミルルの周りで寝てた気が……)
そう、昨日ミルルの周りにで寝ていたはずのエリア達が、毛布に包まれた状態で俺の周りで寝息を立てていたのだ。
これって、どんな状況なんだよ……。
この状況に困惑していると皆も目を覚まして行ったのだが、俺が起床の挨拶をしても何事も無かったかの様に毛布を片付けると部屋から出て行った。
何か言ってくれよ……。
意識した俺の方がおかしいのかと思い始めた時に、最後まで寝ていた木茶華ちゃんがモソモソと被っていた毛布から顔を出した。
彼女の頭には沢山の寝癖やアホ毛が跳ねている……。
ちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
「あ、共也君おはよう。 今日は皆で冒険者ギルドって言う所に行く予定なんだよね?」
「木茶華ちゃんおはよう。 そうだよ、そこで俺や皆の冒険者カードを再発行して貰う予定」
「それって私のも?」
「それがお勧めだね。 自分がどの様なスキルを取得しているかカードを見れば一発で分かる謎技術って言うのもあるけど、この世界では身分証にもなるからね。 実際カバレイル領に入るのに苦労したでしょ?」
「あ、なるほど。 ふ~ん。 じゃあ私も作る! いつ向かう予定なの?」
「冒険者ギルドの場所を知っているジェーン達次第かな? あの娘達の手が空いたら向かう予定だよ」
「ふ~~ん。 共也君ってジェーンって娘と仲良いんだね」
「そりゃあ10年前、一緒にパーティーを組んでいた仲だし、悪い訳無いよ」
「そう言う事を言いたいんじゃ無いんだけど……」
「ん?」
「何でも無い!」
何故か木茶華ちゃんに急に切れられた俺は、それ以降話して貰えず暫く無言が続く空間でジェーン達が来るのを待つのだった……。
「お待たせしました共兄……ってどうしたんですか? 険悪な空気が流れてますが……」
ようやく朝の仕事が終わった様で手を振りながらこちらに合流して来たジェーン達だったが、俺と木茶華ちゃんとの間に流れる不穏な空気を感じ取った様で、苦笑いを向けていた。
「いや、俺も分からなくて……」
「ふ~~ん? まあ良いです、冒険者ギルドに行きますよ?」
一刻も早くこの空気から脱したい俺は、ジェーンの提案に飛びついた。
「ジェーン助かる! 京谷父さん達も呼んで来るから、少しだけ待っててくれ」
「はい。 待ってるね!」
皆を呼びに行こうとした所で、ディーネが剣から出て来るとここに残ると言い出した。
「共也さん。 無いとは思いますが、これだけの人数が一度に移動すると、ミルルちゃんの警護が手薄になってしまいます。 私はカードを作る必要は無いですし、このまま警護役として残ろうと思いますが良いですか?」
そうか……。 朝になったとは言ってもまたミルルを狙う可能性を考えていなかったな。
「ディーネの言う通りミルルを再び攫う可能性を考えていなかったよ。 じゃあ、俺達が冒険者ギルドに行っている間、彼女の警護を任せて良いかな?」
「はい。 ですが、昨日の襲撃を邪魔した共也さん達も狙われている可能性もあるのですから、周辺には注意して下さいね」
そう言い残すと、ディーネは一瞬水に包まれると姿を消した。 どうやらミルルちゃんの部屋へと移動した様だ。
「共也君、こちらは全員揃ったからいつでも冒険者ギルドに向かう事が出来るぞ」
そうこうしている間に、冬矢さん達の出発の準備が出来た様だ。
「冬矢さん、分かりました。 ジェーン、風、冷、案内を頼むな」
「「任せて共兄さん!」」
「そこは私が言うべき場所じゃない、何で2人が言っちゃうの!? 」
「え~~、良いじゃん。 ジェーンは昨日共兄さんと夜の庭園でいっぱいイチャ付いてたんだしさ~~」
「ちょ!」
何故夜の庭園でジェーンと話してた事を、この2人が知ってるんだよ……。
「共也さん?」「共也?」「共也君?」
ほら、睨まれる事になったじゃないか……。
「さ、さあ、急いでオリビアさん達の居る冒険者ギルドに向かう事にしようか! 出発!!」
「あ、こら待て!!」
「共也ちゃん、説明を求めます!!」
「共也君、やっぱりその娘と!!」
疚しい気持ちは全く無いが女性陣達の追及が厳しくなる前に、ジェーンの肩を押して街に繰り出す事にするのだった。
==
「着きましたよ共兄、ここがカバレイル領にある冒険者ギルドです!」
「はぁ~~~~……」
目の前の建物が冒険者ギルド? シンドリア王都よりデカくないか?
カバレイル領の冒険者ギルドは、街の中心部にほど近い所に建てられている上に、なかなかに大きな建物だった。
「ここにオリビアさんとバリスさんがいるのか」
「そうそう。 それと、この建物って表向きは冒険者ギルドだけど、オリビアさんの雑貨店も併設されてるから結構人気なんだよ?」
「そうなのか、シンドリア王都の店舗とは大分様変わりしたんだな……」
感慨深く建物を見ていると、菊流が服の袖を引っ張ってそろそろ中に入ろうと促して来た。
「共也、ここに立っててもしょうがないし、中に入ろうよ」
「そうだな。 京谷父さん中に入るよ?」
「分かった。 ジェーンちゃん案内よろしくね?」
「はい! お義父さん!」
「「「ん?」」」
その言い方に引っかかりを覚えた女性陣が振り返るが、俺達は無視してドアを開けて中に入った。
「お~~」
中は王都の頃と変わらず冒険者がクエストボードを眺めて居る姿や、クエスト受注の処理をしている受付嬢など、そこには10年前と変わらない光景が広がっていた。
「いらっしゃいませ皆様。 新規の冒険者登録をしに来られたのでしょうか?」
「ん?」
下から声がしたので視線を下に向けると、そこには青髪をツインテールにしている8歳位の女の娘が俺達の前に立って笑顔を向けて来ていた。
え? この娘ってさっきまで受け付けカウンターの所にに居たはずだよな??
俺の考えを知ってか知らずか、その娘はニッコリと笑うと丁寧なお辞儀を披露してくれた。
「ジェーン様、今日は何か御用でしょうか?」
狼狽している俺の代わりにジェーンが要件を伝えると、女の娘も納得してくれたらしく小さく頷いていた。
「なるほど、新規登録と再発行ですね。 再発行の権限は私には無いので、ギルド長であるバリスを呼んで参りますので、売店の方で少々お待ちいただいて構いませんか?」
「ええ、大丈夫よ【ノインちゃん】、じゃあオリビアさんの雑貨店で待たせて貰うね?」
「はい、では後ほど。 失礼いたします」
そう言うとノインと呼ばれた女の子は建物の奥に消えて行った。
「ジェーン、あの娘の事知ってるの?」
「ええ、菊流さん。 後で詳しく紹介しますけど驚くと思いますよ? ふふふ」
「それは一体……」
菊流が尋ね切る前に、先程女の娘が消えた通路の奥から何かを引きずる音が聞こえて来た……。
「ノ、ノインちゃん。 俺にはまだ書類仕事が残ってるんだって、断っておいてくれよ……」
「駄目です! いつもお世話になっているジェーン様と御友人方が呼んでらっしゃるのですから、諦めて対応して下さい」
……俺の目の錯覚だろうか。
あの小さな女の娘が襟首を掴んで、巨体のバリスさんを引きずってこちらに向かって来ているのは……。 マジで?
この光景にはさすがの京谷父さん達も唖然としていて、到着したノインちゃんはこちらにバリスさんを片手で放り投げた。
どうなってんのこの娘!?
「痛つつつつ…………。 ノインちゃんさすがにこの扱いは酷いんじゃないかな……」
「苦情は後で聞きますから、まずはジェーン様と御友人達の対応をお願いします」
「ジェーンと………って、と、共也か!? それにエリア嬢と菊流まで!? お前等生きていたのか!?」
「バリスさん、お久しぶりです」
戦争時から今に至るまでの道程を説明すると、涙ぐんで歓迎してくれた。
「お前等も苦労したんだな! でもな、再び会えて俺は嬉しいよ!! くぅーーー!!」
「バリスさん……」
バリスさんが落ち着いた所で、俺は今回冒険者ギルドに来た目的を告げた。
「バリスさん、地球から戻って来た俺達はギルドカードを持っていません。 だから作り直す必要があったのでこちらに寄らせて貰ったのですけど、再発行して貰う事って可能ですか?」
「そうか、王都では冒険者ギルド自体が破壊されていたから再発行が出来なかったのか……」
「王都はやっぱり……」
「ええ、酷い有様でした……」
「そうか……」
「ギルマス」
「お、おお。 話の腰を折ってしまったな。 再発行の件は大丈夫だが、お前とエリア嬢と菊流の3人は再発行だから1人銀貨3枚かかるが構わんか?」
「あ、そうか金の問題も俺達にはあるのか……。 バリスさん俺達は今お金が全く無い『バリスさん、3人の再発行に掛かるお金は私が払いますので、これでお願いします』ジェーン……」
金貨1枚をバリスさんに手渡したジェーンは、俺達にニッコリと微笑んだ。
「このお金は必要経費としてクレアちゃんから預かっていた物なので、3人は私にお金を返そうと思わなくても大丈夫ですからね?」
「お金の事をすっかり忘れていたよ……。 後でクレアにお礼を言わないとだな……」
「そうですね、共兄にお礼を言われたらクレアちゃんはきっと喜びますよ♪」
「ふむ、3人以外は新規登録だからまずは冒険者登録の方が先か。 クレアちゃん、登録用紙を」
「すでに持って来ています。 新規登録の皆様方はカードに血を1滴垂らして下さい。 あなたの所持しているスキルなどが表示されます」
「血、血を垂らすのね……ゴクリ」
木茶華ちゃんが指先に針を刺す事を躊躇っている間に、大人4人は躊躇い無く指に針を刺して血を垂らすとカードが光り出した。
残ったのが自分だけとなった事で焦り始めた木茶華ちゃんは、何とか気合を入れて針を刺して1滴血を垂らす事に成功した事でカード登録が無事完了した。
「では、皆さんのカードをお預かりいたします。 お預かりした人数分のカードを更新と再発行の処理をするには少々時間がかかりますので、この建物内でお寛ぎ下さい。 では失礼いたします」
ノインちゃんが綺麗にお辞儀をして、奥へと消えたのを確認すると、俺はバリスさんに話し掛けた。
「バリスさん、あのノインって娘は一体……」
「俺と………の娘だ……」
「え、ごめんなさい。 バリスさんと誰の娘です?」
「だから……………アとのだな……」
「バリスさん、そう言えばオリビアさんと結婚したって……」
「そうだよ! ノインは俺とオリビアとの間に生まれた娘だよ! 悪いかよ!!」
バリスさんとオリビアさんの娘と言うのも驚いたが、バリスさんとオリビアさんに全く似ていない上に、2人の娘であるノインちゃんは美少女と言う事の方が驚きだった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
バリスさんと再会し、その娘であるノインと会う事となりました。
次回は“激変したオリビア”で書いて行きます。




