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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
8章・10年の時間が経った惑星アルトリア。
165/285

成長した幼年組との再会。

 すでに神聖国ヴォーパリアの勢力圏となってしまったシンドリア王都を脱出する為に、ローブを纏った俺達は太陽が照らす街道に足を踏み入れた。


「グランク親方、サラシナさん、体の痛みは大丈夫ですか?」


 まだ手術が終わってそれ程時間が経ってないドワンゴ親方達の体には痛々しい包帯が巻かれている為、気遣って声を掛けたが2人はしっかりとした足取りで歩いてみせると頷いてみせた。


「大丈夫だ、まだ所々痛むがエリア嬢の回復魔法で幾分かマシになっとる」

「親父、お袋、痛むなら無理せず言ってくれ、背負うからよ」

「ああ、どうしても無理そうなら、その時は頼むよ鉄志」


 街道沿いに兵士が居ないか確認した俺達は、ドワンゴ親方の工房を後にした。


 そして、一番幼いレミリアちゃんは、タケの背中に乗り申し訳なさそうな顔をしていた。


「タケちゃん、私が背中に乗ってても平気? 重く無い?」

(平気。 むしろ軽い位だから、そのまま乗ってて良いからね?)

「うん。 タケちゃん、ありがとう」


 タケもレミリアちゃんに頼られて嬉しそうだな。


 通路の奥から兵士が来ていない事を確認した俺は、皆に手招きして街道に出る事に成功しのだった。


「では、行きましょう」


 最早少なくなってしまった王都の人達を横目にしながら、俺達は外壁を目指して歩みを進めていた。


 だが、運の悪い事に俺達が進む奥から、同じ鎧を纏った一団がこちらに向かって来るのが見えた。


「まずい……ヴォーパリアの兵達だ」

「共也さん、こちらの路地に身を隠しましょう」

「そうだな。 みんなこっちに」


 全員が路地に入った所で兵士達の様子が見え始めていた。


「おらぁ! 下民共、ヴォーパリアの兵士である俺達の通行を邪魔してんじゃねぇ! さっさと除け!」

「ひ、ひぃ!」


『虎の威を借る狐』と言う言葉がある様に、偉そうに肩で風を切りながら歩く兵達は、すれ違う全ての市民達をいちいち威嚇している姿は、あれだけ治安が良かった昔の王都の面影すら見当たらない。

 どうやら、奴等は反乱分子が居ないか念の為巡回しているようだ。


(このまま何事も無く通り過ぎてくれよ……)


 そう願ったのが不味かったのか、目深にフードを被った1人の女性がフラフラと兵士達の前に歩いて出て行ってしまった為、兵士の1人がわざとその女性を弾き飛ばして地面に倒れさせてしまった。


「あう……」


 わざと女性を弾き飛ばしたヴォーパリアの兵士は、倒れた伏した女性を見下ろして汚らしい暴言を長々と口にしていたが、その巡回している隊の部隊長らしき人物が制止した事で空気が一気に変わるのだった。


「その辺にしておけ。 これから何故グランクが消滅したのか、その調査があるのだぞ? いちいちそんなボロボロの一市民を構うな。 殺すぞ?」

「ひ! わ、分かりました、任務に戻ります。 ち、運が良かったな女! 次見かけた時は覚悟する事だな!!」


―――ドゴ!


「う……」

「あいつ!」


 何とも小物臭のする台詞を吐いた兵士は女性から離れる寸前に腹に蹴りを入れて隊列に戻り、貴族街の方に歩いて行った。


「共也、今あいつらの部隊長らしき人が、グランク様が消滅した理由を調査しに向かうって……」

「あぁ、言ってたな。 無理してでも今日中に脱出しようとして正解だったな……」

「あと1日遅れていたら、閃光の何とかって奴に会った私達が疑われていた可能性もあったし、って共也どうしたの?」

「いや……。 さっき兵士に腹を蹴られた女性がまだ起き上がれていないみたいだから心配で……。 ちょっと様子だけでも見に行ってくる」

「あ、共也、私も行く」

「共也ちゃん、私も行くわ!」


 地面に倒れたままの女性を俺が抱き抱えた時だった。


「「「え!?」」」


 女性を抱き起した際に顔を隠していたフードが取れてしまったのだが、その女性の容姿を見た俺達3人はあまりの驚きで固まってしまった。


 整った顔に金髪と金の瞳……。 そしてどこか見覚えのある顔……。 俺達はこの人の事を知っている。


「まさか君はリ『共也ちゃん駄目!』うぐ!」


 彼女の名前をうっかり口に出しそうになった俺の口をエリアが咄嗟に塞いでくれたお陰で助かった。


 こんな誰が聞いているか分からない場所で、彼女の名を口にした場合どんなトラブルが起きるか……。


「う、うう……」

「気が付いた? 大丈夫?」


 回復魔法を掛けていたエリアや俺の顔を見て、何故自分を助けてくれるのか分かっていない様で、不思議そうに彼女は尋ねて来た。


「あなたは……私の事を知っているのですか? 私は一体何者なのでしょう?」

「え、何者かって……。 まさか記憶を……」

「分かりません……。 何も、何も……自分の名すら分からないのです……」


 自分の名も覚えていない……。


 抱き抱えたまま彼女の顔を見て呆けていた俺の肩を菊流が揺すってくれた事で、何とか現実に引き戻してくれた。


「共也、ここでは人の目が多すぎるわ。 一旦みんなと合流して街の外に脱出しましょう」

「そうだな……。 急な提案ですが、あなたも俺達に付いて来てもらっても良いですか?」

「ご迷惑で無いなら……。 よろしくお願いします」

(昔聞いた事があったけど、金髪と金目を持つ人物は世界広しと言えどリリスだけだと聞いた事がある……。 そう考えると大人になっている以外は、やっぱりどう見てもこの女性は俺達が知ってるリリスだよな……)


 リリスらしき人物の腕を引いて立たせると、路地で待機していた皆と合流する為に移動するのだった。


 先程のように唐突にヴォーパリアの兵士達に遭遇しない様に注意して都市の中を進み、少ししてなんとかシンドリア王都を見下ろせる位置まで脱出したのだが、俺達が連れて来た弱弱しく歩く女性を皆が見て『ちゃんと説明をしろ』と言う無言の圧力の厳しい視線を受けていた。


「おい共也、シンドリア王都から脱出して距離も離れたから、そろそろその女性の事をちゃんと説明してくれ。 何故その女性をわざわざ連れて来た?」


 ドワンゴさんの最もな台詞に、俺は連れて来た女性にフードを取ってもらった。


 皆も長い金髪と独特の金目を持つ美しい女性を見た瞬間、その名がスルリと口から出て来た。


「り、リリス。 リリスちゃんなのかい!?」

「え? 本当にリリス姉ちゃん?」

「……えっと。 あなた達も私の事を知っているのですか?」

「知っているのですかって……。 共也、まさか……」

「親方の想像の通りみたいです。 どうやらリリスは記憶喪失の様で、俺達の事はもちろん自分自身の事も覚えていないみたいなんです……」

「そんな……。 リリスちゃん……」


 カバレイル辺境伯領に向かおうとしている俺達の前に、また悩みの種が1つ現れる事となるのだった。


 ==


 結局あの後、本人の希望もあったので一緒にカバレイル辺境伯領に向かう事にしたが、彼女は魔力の使い方すら覚えていないらしく、本当にリリスなのかも分からない状態のまま旅を続ける事になるのだった。


「イリス。 ちょっと良いか?」

「ん? 何?」


 そして、俺が夜番をしている時にイリスに声を掛けると、ディアナ様との定時連絡の時に何個か質問をして貰う事にした。


「ふむ。 で、どんな質問をすれば良いの?」

「行方不明だったリリスの発見と、グランク様のユニークスキルだった金剛を本当に譲渡されたのか、その2つを聞いてもらえないか?」

「う~ん。 リリス発見の報告は手間もかからないから、定時連絡の時に出来るから良いけど……。 スキルを譲渡された事をディアナ様に報告して確認してくれと言っても、満足の行く答えは帰って来ないと思うよ?」

「そうなのか?」

「うん。 共也兄も知ってると思うけど、スキルは元々ディアナ様の力の一部だった、ここまでは良い?」

「ああ」

「でもね、もう何千年も経って様々なスキルが生まれ、そして消えてを繰り返して来たから、ディアナ様もどんなスキルが存在しているのか完全に把握出来ていないくらい細分化してるの。

 だから兄が持っているユニークスキル共生魔法も謎の部分が多いから、納得のいく答えは帰って来ないと思うけど……、それでも聞く?」


 カバレイル辺境伯領に行けば冒険者ギルドでカードを再発行する事が出来るだろうが、金剛だけじゃなく取得したスキルがどうなってるのかも気になるから、もし分かるなら今の内に聞いておきたい。


「あぁ、俺が今どんなスキルを持っているのかはギルドで再発行するカードで確認する事が出来るが、出来る事なら早めに本当に金剛が譲渡されたのかだけでも知っておきたいんだ。

 だから、分かる範囲で良いからディアナ様に聞いてくれると助かる」

「了解。 じゃあ……。 はい!」


 イリスは、その小さな右手の手の平を俺の前に差し出して来た……。


「え、何?」

「兄の質問をして上げるんだからぁ……。 報酬としてお菓子を頂戴?」

「くっ! ちゃっかりしてるな……。 ほら、クッキー数枚で良いか?」

「毎度有り! じゃあ定期連絡入れるね~~。 もしも~し、キャロル姉、定期連絡だけど今大丈夫かな?」

『イリス? あぁ、丁度良かったわ。 もしリリス一家を地上で見つけたらすぐに私達に連絡を入れて頂戴、魔王グロウの魂が行方不明になった原因に関わってるらしいのよ』

「……………」

『イリス? イリーース!?』

「キャロル姉、多分リリスちゃんと思われる人物は、今私達と一緒に行動してるよ……」

『は? イリスあんた、今リリスちゃんと一緒に行動しているの?』

「うん、しかも天界に居た時の子供の姿じゃなくて、すっごく綺麗な大人の女性になって……だけど」

『またあんたトラブルに首を突っ込む真似をして……』

「知らないよ! 兄のトラブル体質で巻き込まれた私を責めないでよ!」


 トラブル体質……。 何気に酷い事を言われてるな……。


『はぁ……。 状況が良く分からないから、どう言う事か最初から説明しなさい……』

「分かった」


 イリスはキャロルさんにリリスらしき人物を見つけた経緯や、今は記憶を無くしている事を詳しく説明していると、いつの間にかエリアが俺の横で心配そうな顔をして立っていた。


「エリア、リリスの様子はどうだった?」

「王都で会った頃よりは落ち着いていますが、やはり私達を覚えていない事に罪悪感を感じているみたいで、ちょっと居心地が悪いみたい」

「そっか……。 少しづつでも良いから、俺達の事を思い出してくれると良いんだけどな……」


 レミリアちゃんを膝に乗せて優し気に笑うリリスを見ていると、少し今後の事が不安になる。


 そこでキャロルさんとディアナ様との通話を終えたイリスが、俺とエリアの前に膝を抱えて座ると定期連絡で話した内容を教えてくれた。


「兄、姉、やっぱりスキルに関しては、満足の行く答えは得られ無かったの。 そして、私達はあなた達に謝らないといけない事があるの……」


 そこから謝罪の言葉と共にイリスから語られる話に、俺とエリアは静かに耳を傾けていた。


 リリス一家が、魂の状態で天界で暮らしていた事。

 そして、天界で安置されていたグロウの魂の盗難に、どうやらそのリリス一家が関わっている事など信じられ無い話しを聞かされるのだった。


「じゃあ、天界から行方不明になったタイミングを考えても、あそこにいるのはリリス本人で間違い無いって事なのか?」

「多分……。 でもリリスちゃんが大人になってるのも意味不明だけど。 彼女の両親が行方不明の理由が良く分からないから、今後も調査を続行する予定。

 だから、キャロル姉も私達に気にして旅を続けて欲しいって言ってたよ」

「分かった。 気を付けろと言われても、前魔王の顔なんて全く分からないけど、魔力は強力なはずだから周囲を注意してみるよ。 エリアも気を付けて」

「わかりました。 後で菊流ちゃん達にも共有しておきますね」


 イリスの情報によって、あの女性はほぼリリス本人で間違いない事は分かったが、何故大人になっているのか、その結論が俺達に出せる訳もなかった。


 そして数日後に、カバレイル辺境伯領の国境線に到着する事が出来たのだが、10年前は無かった関所が出来ていた事で大きな問題が発生してしまった。


「何? 身分を証明する物が無いだと!? 駄目だ、駄目だ通す訳にはいかん!」

「そんな! 通行税は払うと言っても駄目なのですか!?」

「そうだ! ただでさえ王都側から来たのに、身分を証明する物を持っていないお前達ををおいそれと入国させる事は出来ない事くらい、お前達も分かっているだろう!?

 小さな子供を連れて王都から脱出して来たお前達をカバレイル領に入国させてやりたい気持ちは俺だってあるが、身分証が無い者が多すぎるお前達を入国させる訳にはいかないんだ。 分かったら諦めて引き返してくれ!」

「ヴォーパリアの密偵を警戒しているのは分かりますが、私達はあいつ等とは何の関係も無いんです!!」

「だから、それを証明するための身分証などを、お前達は持っていないじゃないか!! あまり俺達を困らせないでくれよ……」


 そう、俺もそうだが京谷父さん達の身分を証明する物を俺達は一切手元に無い。


 せっかくここまで来たのに、別の場所に行かないといけないのか? でも、手術直後から旅に出て数週間の旅でドワンゴ親方達の限界が近づいている事を、鉄志を含め俺達は感じていた。


「じいちゃん、ばあちゃん……」


 2人の服の袖を掴むレミリアちゃんを見て、胸が締め付けられる。


 クレア達に会うためには、もうこの関所を強行突破する選択肢しか残されて無いのか?


 皆の視線が合い関所破りをする覚悟を決めると、カバレイル辺境伯領側から俺達と同い年位の女性の声が聞こえて来た。


「どうしたのですか、何か揉め事ですか?」

「これはお疲れ様です。 いや、こいつ等は王都側からの難民みたいなのですが、ほとんどの人間が身分を証明する物を持っていないので、通す訳には行かないと何度も言っているのですが引き下がってくれなくて、つい声が大きくなってしまいまして……」


 その女性は関所から出て来ると、フードを目深に被った俺の顔を覗き込むと硬直した。


「…………え? まさか……。 共……兄?」

「まさか……。 ジェーンなのか?」


 そう、そこには10年前の面影を顔に残しながらも、美しく、そして立派に成長したジェーンが涙目で立ち尽くしていた。


「私の名前を知ってるって事は……、やっぱり共兄だ……」


 そして、ジェーンはその綺麗な青い瞳を歪ませてポロポロと大粒の涙を流しながら俺に抱き着いて来た。


「共兄、共兄、共兄だ共兄が生きて帰って来た! エリア姉もいる! 菊流姉も……え? 菊流……姉?」

「あ~、ジェーンちゃんただいま?」

「き、きゃあああああああああああぁぁぁぁーーー!!! お、お化け!!」


 菊流を見たジェーンは『お化け!』と言う悲鳴と同時に、俺を凄い力で締め付けて来た。


「い、痛い、痛い、ジェーン、少し力を緩めてくれぇ!!」

『きゃあああああ~~~!!』


 慌てて肩を叩いて放してくれと言うが、ジェーンの悲鳴にかき消されて俺の声が全く聞こえていてない!


「あぁぁぁぁ……」


「ジェーーーン!!」


 そして、悲鳴を上げ続けていたジェーンだったが、ついに限界が来たのか俺に抱き着いたまま気絶してしまい門番をしている兵士さんと苦笑いするしかなかった。


「どうやらあなた達はジェーン殿のお知り合いみたいだな。 ジェーン殿が目を覚ましたら身元保証の手続きをして貰うから、それまでは関所脇にある休憩所で休んでいてくれ」

「お手数を掛けます……」


 気絶したジェーンちゃんをお姫様抱っこをして休憩室に向かう俺達は、彼女が目を覚ましたらちゃんとディアナ様と交わした約束の内容や、リリスの事を説明しないとだな……。


 休憩所にあった簡易的なベッドにジェーンを寝かせると、皆でお茶などを飲みながら彼女が目を覚ますのを待つ事にするのだった。


「共也さん、この娘も私の事を知っているのですか?」

「あぁ、君の事をリリス姉と言って仲良くしてたよ。 少しは思い出せたりしないか?」

「…………残念ながら。 でも何か胸の中がザワザワしているのは分かります……。 早く記憶を取り戻して皆と笑い合いたいです……」

「焦る事は無いさ。 きっと思い出せるからユックリ行こう」

「はい……」


 リリスは気絶しているジェーンの額に掛かる髪を横に除けながら、優しく微笑んでいた。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

大人になったリリスとジェーンに会う事となりました。 次回はクレア達も出て来る予定なので楽しみにしていて下さい。


次回は“遺言状”で書いて行こうかと思います。


 少しでも気に入ったと思って下さる方がいたなら、モチベーション維持の為にブックマークなどしてくれると幸いです。

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